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整形外科 外科 リハビリテーション科
環指・小指のしびれ

 平成28年8月号の「関節外科」のテーマは「環・小指のしびれを主訴とする疾患の鑑別」となっています。編者の信州大学医学部運動機能学教室 加藤博之教授によると、『肘部管症候群100例近くを術後、フォローした結果、経過中に神経内科の疾患、頚椎症性脊髄症、胸郭出口症候群であることが判明し、愕然とした。』とありました。

 確かにプロ中のプロ(上肢専門)でも間違えるほど、しびれは厄介です。中枢神経から末梢までさまざまな疾患でしびれが出ますので、鑑別するのも一苦労です。もちろん典型的な症状が出ていれば、それほど鑑別が難しくないのですが、それでも疾患が一つとか限らず、2カ所、3カ所の障害により症状が出ていることもあります。(ダブルクラッシュ症候群、トリプルクラッシュ症候群、マルチプルクラッシュ症候群)


 ダブルクラッシュ症候群 Double Crush Syndrome : 末梢神経が二カ所以上で狭窄されるとぞれぞれの症状以上に強く障害が出るという説。三カ所だとトリプル、それ以上だとマルチプルとなります。例えば、頸椎症による神経障害と手根管症候群が合併したものがよく見られます。おのおの単独障害では説明のつかない所見を認めます。手術を考慮する場合は原則として末梢の狭窄部位から行うとされています。

神経内科疾患(ニューロパチー)

 医学生の頃、神経内科が結構面白く感じて、真面目に取り組みましたが、かなり難しい分野です。すればするほど頭の中が混乱した苦い記憶があります。今回(関節外科8月号)は、環指・小指にしびれを起こす神経疾患として、ニューロパチーについて書かれています。ニューロパチーとは「末梢神経の病気の総称であり以前は神経炎と呼ばれていました。(現在、神経炎は炎症細胞の浸潤などを認める疾患にのみ使用)運動、感覚、自律神経の障害を起こします。

 ニューロパチー分類
 単一(モノ)ニューロパチー:単一の神経障害
 多発単(モノ)ニューロパチー:別々の領域にある2つ以上
 多発ニューロパチー:多数の神経を同時に

 単一モノニューロパチーは、特に急性期では外傷による末梢神経障害があります。また持続的な微少外傷の繰り返しでも起こります。(エアハンマー、小さな道具を強く握る)突出部の持続的な圧迫は圧迫性末梢神経障害を生じさせます。(尺骨、橈骨、腓骨神経)解剖学的に細い部分を通る神経が圧迫されると絞扼性神経障害となります。(手根管症候群など)何らかの形で単一の神経を圧迫することで症状が出ます。

 多発モノニューロパチーは、結合組織疾患(結節性多発動脈炎、SLE、Sjogren症候群、RA)、サルコイドーシス、代謝疾患(糖尿病、アミロイドーシス)、感染症(Lyme病、HIV、ハンセン病など)などで起こります。(糖尿病は感覚運動性遠位多発ニューロパチーが生じる)

 多発ニューロパチーは、広汎性の末梢神経障害です。運動神経線維を侵すポリニューロパチー(鉛中毒、グルコスルホンナトリウムの使用、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群)、感覚神経線維を侵すポリニューロパチー(癌による後根神経節炎、ハンセン病、AIDS、豆乳病、慢性ピリドキシン中毒)、更には脳神経も侵される疾患(ギラン・バレー症候群、Lyme病、糖尿病、ジフテリア)もあります。

    臨床症状 




状  
   多発ニューロパチー   多発単ニューロパチー
 運動・感覚神経  代謝性、欠乏性
 薬剤性
 アミロイドーシス
 CIDP
 Guillain-Barre症候群
(脱髄型、一部の軸索型)
 血管炎性
 CIDP
 純粋感覚神経    後根神経節炎
(糖尿病合併、薬剤性など)
 純粋運動神経  Guillain-Barre症候群
(軸索型の大部分)
 多巣性運動ニューロパチー

*CIDP 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy

<多発ニューロパチーの機能障害部位別分類> 

 ミエリン機能障害 莢膜で覆われた細菌(カンピロバクターなど)、ウイルス(腸内ウイルス、インフルエンザ・ウイルス、HIVなど)、ワクチン(インフルエンザワクチンなど)により感染随伴性免疫応答に起因することが多い。末梢神経内の抗原と交叉反応を起こす。

 神経栄養血管障害 慢性動脈硬化性虚血、血管炎、凝固機能亢進により栄養血管からのフィーディングが障害される。

 軸索障害 対称性の軸索障害は、中毒、代謝障害で起こることが最も多いとされる。軸索障害は遠位部に生じる傾向がある。糖尿病、慢性腎不全、化学療法剤なども原因となる。栄養欠乏(ビタミンB欠乏が最多)、ビタミンB6またはアルコールの多量摂取でも起こる。代謝性(頻度は低い)では甲状腺機能低下症、ポルフィリン症、サルコイドーシス、アミロイドーシスなどがある。ある種の化学物質、鉛・ヒ素・水銀などの重金属の暴露などでも発症する。

 小細胞肺癌の腫瘍随伴症候群では、脊髄後根神経節およびその感覚神経軸索の喪失により亜急性感覚神経障害を起こすことがある。
 
<ニューロパチーの診断>

 臨床所見のうち、特に発症の速度が重要。

 非対称性→ミエリン鞘または神経栄養血管障害

 遠位の対称性→中毒性、代謝性

 緩徐に進行性し慢性→遺伝性か毒物の長期暴露または代謝性

 急性→自己免疫応答、血管炎、感染後

 非対称性の軸索神経障害で発疹、皮膚潰瘍、レイノー現象→凝固亢進、感染随伴性、自己免疫性の血管炎

 体重減少、発熱、リンパ節症、塊状病変→腫瘍、感染随伴性症候群を示唆。

<ニューロパチーの検査>

 筋電図と神経伝導検査が必要。Guillain-Barre症候群初期では近位軸索が障害されるのみで筋電図は性状のことがある。

 血液検査では、CBC、電解質、腎機能、迅速血漿レアギン試験、空腹時血糖、HBA1c、VB12、葉酸、甲状腺刺激ホルモン、血清タンパク電気泳動

 ■個別疾患ごとの対応

 努力肺活量測定:Guillain-Barre症候群と同様に急性のミエリン機能障害性神経障害
 急性、慢性のミエリン機能障害性神経障害→肝炎、HIVを含む感染性疾患、免疫機能不全の検査、蛋白電気泳動
 運動機能障害が主→抗ミエリン関連糖蛋白質(MAG)抗体
 感覚機能障害が主→抗スルファチド抗体
 腰椎穿刺:自己免疫応答によるミエリン機能障害は、しばしば髄液のアルブミン細胞解離を起こす。CSF中のタンパク質が増加(>45mg%)、WBCは正常。(<5/uL)

 非対称性の軸索性多発ニューロパチー→凝固機能、加えて感染随伴性または自己免疫性の血管炎を調べる→赤沈、血清タンパク電気泳動、リウマトイド因子、抗核抗体、血清CPK(急性の筋梗塞で上昇)

 原因が特定できない場合は筋生検、神経生検(通常は障害のある腓腹神経)生検を行う筋は、中等度以上の筋力低下があり、針EMGを行ったことがない筋で行う。

 24時間蓄尿→重金属
 
 整形外科にはしびれや運動障害を訴えて来院されることが多く、症状経過から整形外科疾患として説明のつく単神経障害なのか、それとも多発性の神経障害なのかが鑑別のポイントと言えます。末梢神経障害と脊髄神経、脳神経障害との鑑別も必要です。

1.血管性ニューロパチー
 罹患血管のサイズで大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎に分けられます。このうち末梢神経障害を起こすのは中型と小型で、疾患としては、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管性肉芽腫症、全身性血管炎性ニューロパチーがあります。

 血管炎性ニューロパチーは多発単ニューロパチーの分布を示すことが特徴。日単位の急速進行をきたす例があります。
 
 <ポイント>
 1.病歴の特徴 例えば小指・環指のしびれ(尺骨神経)で発症しても、典型的には多発単ニューロパチーへと病状が拡大し、病状は日単位〜週単位で比較的急速に進行します。微熱、潰瘍、紫斑などが生じることがあります。

 2.症状の分布 発症初期は症状が限局しており、疼痛も伴うことが多く、急性期の神経根症との鑑別は難しい。末梢性か髄節性かを慎重に判断。

 3.血液、尿検査
  急速な進行の場合は、炎症反応、腎機能の検査、尿検査を行う。
 
2.慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパシー (chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy;
CIDP)

 CIDPは臨床症状により、典型的CIDPと非典型的CIDPに大別されます。典型的CIDPは対称性の臨床症状を呈し、遠位筋のみならず近位筋にも筋力低下を有すると定義されています。非典型CIDPはそれ以外の臨床症状を呈するもので、非対称型、遠位優位型、神経叢型、純粋運動型、純粋感覚型に分類されています。
 
 症状の伸展は緩徐で数ヶ月単位とされています。神経伝導検査で伝導ブロック、遅延などの脱髄所見がみられます。血管炎と同様に症状のない神経、肢にもみられることがあります。画像診断では、慢性経過の脱髄と再髄鞘化により、高度の神経肥厚が生じることがあります。エコーやMRIで検索します。
 
3.頚椎症性神経根症

 神経根症は脊髄から出た神経根部が何らかの原因(多くは頸椎症、椎間板ヘルニア)により圧迫されて生じる神経障害です。原因は、椎間板ヘルニア、椎間孔前方にあるLuschka関節の骨棘変形、後方にある椎間関節の変形・肥大などがあります。椎間孔は入り口(脊髄側)が一番狭く、また神経根が一番膨らんでいる場所でもありますので、圧迫症状が出やすいところとなっています。

<症状>
 肩から上肢に放散する神経根支配領域の疼痛
 支配神経に一致した知覚障害
 神経支配を受けている筋肉の運動障害
 深部腱反射の異常

 *頚椎から出た神経根はC1〜C8までの8本があり、この神経ごとに固有の部位へ分布しています。従って障害された根のレベルによっておのおの特徴的な神経障害症状がでますので、これらより障害レベルを類推します。

 頚部神経根症の73%に頸部痛が伴います。

<検査>

 徒手検査:ジャクソンテスト、スパーリングテスト、shoulder abduction release sign(上肢外転挙上位で症状緩和)

 <小指・環指のしびれ>

 C7/T1の椎間孔から出るC8神経根症状でも小指・環指のしびれがでます。それより末梢の尺骨神経傷害(肘部管症候群、ギオン管症候群)でもでます。神経障害は障害された部位より末梢に症状が出ますので、肘部管症候群では肘より遠位に、ギオン管症候群では手関節より遠位にのみ症状が出ます。

 C8の神経根症状では肩甲間部、肩甲骨部に放散痛が出ます。(厳密にはC7,またはC8の障害)、C5,C6の根障害では肩甲上部に根症状として放散痛が出ます。
 
<画像診断>

 頚椎単純レントゲン撮影、MRI、CTが有効です。骨棘などの変性所見は、必ずしも臨床症状と一致せず、無症候性のこともあります。画像所見が臨床症状と合致する可動か慎重に判断します。

 ・単純レントゲン撮影:椎間板腔狭小、Luschka関節や椎間関節の変性、骨棘 椎間孔の骨性狭窄は斜位像で描出されやすいですが、斜位像で椎間孔を旨く映し出すのは、なかなか難しく苦労します。(同側、対側と比較します)

 ・CT、MRI CTは骨の描出に優れ、MRIは軟部組織の描出に優れています。椎間孔の狭窄はMRIでの読影は難しいとされています。正確な診断には、いずれも3mm以下のスライスが必要とされています。神経根症状があるにも関わらず明確な所見が認められない場合は、斜位MRIや3D−MRIが有用であるとされています。

 神経根造影・ブロック 障害高位診断と治療に有効

 *第1背側骨間筋の萎縮があれば、C8領域の神経障害(尺骨神経傷害も含めて鑑別する必要あり)
 *頚椎の運動制限やそれによる疼痛がないとき、あるいは夜間の傷みを訴える場合は、内臓疾患、特に心臓、肺からの放散痛を考慮。
 
<治療>

 高度の神経麻痺症状がなければ、原則として保存治療を行います。安静、消炎鎮痛剤、頚椎の牽引、温熱治療。慢性期には、ストレッチ、頚部筋力強化訓練、理学療法。保存治療に抵抗性で症状の再燃を繰り返す場合や、筋力低下、脊髄症状を呈する場合は手術が行われます。後方アプローチから椎間孔拡大術が行われる場合が多い。
 

4.頚部脊髄症

 小指環指のしびれを起こす疾患として、ニューロパチー、頚部脊髄症、頚部神経根症、肘部管症候群、ギオン管症候群のいずれでも起こります。常に脊髄症の合併を考慮する必要があります。肘部にチネルサインがあっても安易に肘部管症候群と決めつけるのはよくありません。

 頚部頚髄症の手術症例では3分の2が手のしびれを訴えて受診したとしています。両側の環指小指のしびれは、頚髄症の可能性が高くなるが、本症に特異的なしびれの性質はなく、高位診断の材料にもなりがたいとしています。(三原久範 横浜南共済病院整形外科脊椎脊髄センター)
 
頚部脊髄症(頚椎症性脊髄症)2

運動障害様式からみた新病型分類(三原久範 横浜南共済病院整形外科脊椎脊髄センター)

 病型  推定障害域   特徴的症候   運動障害の左右差 
anterior
前方障害型 
 前角〜前根  ・片側上肢の運動障害・筋萎縮
 上下肢共に知覚障害はほとんどない
 膀胱直腸障害はない 
ほとんどが片側性 
central
中心障害型
 脊髄中心部  ・両上肢主体の運動障害
 知覚障害も両上肢に優位
 下肢症状や膀胱直腸障害は軽い
 両側性
posterior
後方障害型
 後索  ・失調性の歩行障害が主
 深部感覚障害が四肢にみられる
 深部腱反射の亢進はない
 両側性
unilateral
片側障害型
 脊髄片側  ・片側上下肢の運動障害
 典型例では解離性知覚障害
 障害側の腱反射が亢進
 片側性
transverse
横断性障害型
 脊髄横断面全域  ・両側上下肢の運動障害
 四肢・体幹に広範な知覚障害
 膀胱機能障害を伴うことも多い
 両側性

 頚部脊髄症の責任椎間板高位決定の診断基準

 障害レベル  C3-4  C4-5  C5-6
 障害部位  前根付着部C4下部(運動髄節)
 後根付着部C5上部(知覚髄節)
 運動C6上
 知覚C6中央
 運動C7中央
 知覚C8上部 
 腱反射  上腕二頭筋腱反射(C5)↑  上腕二頭筋腱反射↓ 上腕三頭筋腱反射↓ 
 筋力  三角筋↓83%  上腕二頭筋↓71%  上腕三頭筋↓79%
 知覚障害  上腕〜前腕〜手指全体58%  手関節以遠68%  前腕尺側〜2-5指96%

*成長とともに脊髄より骨の方が長く伸びます。その結果、椎体レベルより1分節から1.5分節、脊髄の方が上に位置するようになります。
*しびれはデルマトームに一致しないことが多く、高位診断をしびれだけで行うと誤診の原因となります。
 
5.Pancoast腫瘍

 1932年、パンコースト(Pancoast)が報告した肩・上肢の疼痛、ホーナー症候群、手の萎縮を主症状とする肺尖部腫瘍です。この病気は、肺の最上方、いわゆる肺尖部に出来た肺がんなどが、上方へ浸潤、伸展し、頚部から出てきた腕神経叢におよび神経を圧迫したり刺激することによって症状が出ます。

 解剖学的な位置関係よりC8やT1神経根症状が出ます。上腕内側や前腕尺側、環指・小指にしびれや疼痛を訴えることが多い。保存治療に抵抗し憎悪する場合やホーナー症候群を呈する場合はPancoast腫瘍を念頭に置きます。

 画像診断では頚椎単純撮影正面像で患側肺尖部に異常陰影を認めます。判然としない場合は、MRI,CTなどによる検索を行うようにします。

 *頚椎正面像がしっかり正面を向いていることが大切です。やや左右に振れると肺尖部濃度の左右差が病気がなくともでることがあります。

 
6.胸郭出口症候群

 <分類>

 1.神経原性胸郭出口症候群 姿勢不良で、なで肩の女性に多い。
  ・腕神経叢圧迫型 18%
  ・腕神経叢牽引型 8%
  ・混合型 74%   (片岡ら)

 2.血管原性胸郭出口症候群(静脈性、動脈性)

 血管原性は、虚血と血栓により急激な経過をたどることが多い。

 真の胸郭出口症候群?:Gilloatt症候群:母指球の萎縮を必発とする運動優位性の疾患で、初発症状・主訴も手の巧緻障害や筋萎縮を呈すとする意見がある。

<狭窄部位>

 1.斜角筋三角部
 2.肋鎖間隙
 3.烏口突起および小胸筋間隙

典型例 「電車のつり革につかまっていたら腕が重くなってしびれてきた。」

 *ただし、症状は多彩で症状から頚椎疾患との鑑別は困難。疼痛は胸郭出口部の過敏部を中心に、上肢、手指、僧帽筋、肩甲背部、項頚部、後頭部、側頭部、前胸部などにでます。
 *腕神経叢の過敏性の増強で、肘部管や、手根患部にTinelサインを認めることがあります。ダブルクラッシュとの鑑別を要す。


<胸郭出口症候群における神経過敏性の評価>

 1.腕神経叢の過敏性の評価
  圧迫された神経は過敏性を伴う。
 Morleyテスト:鎖骨上窩の圧迫すると疼痛が生じる。牽引型は斜角筋の上部に、圧迫型では肋鎖間隙に強い傾向がある。
         圧迫による放散痛を指先までなら「3+」、上腕まで「2+」、局所痛「+」とする。
 2.誘発テスト
 Wright test 両肩を90度外旋外転させて、痛みやしびれが出て手指が蒼白となる、手を下ろすと血行が回復して赤身が戻り、痛みやしびれが回復する。*健常者でも10%陽性
 Adson test 座位で橈骨動脈を触知しながら、頭部を患側に回旋し、顎を上げ、深呼吸をして息を止めると、脈拍も止まる
 肩甲帯挙上テストと上肢の下方牽引テスト 腕神経叢の牽引型で牽引負荷をかけると症状が悪化し、挙上保持し腕神経叢を緩めると緩和する
 
<鑑別>

1.Gilliatt-Sumner hand 下記参照
2.頚椎疾患 症状での鑑別は困難。誘発テストの有無が重要。
3.末梢神経圧迫(絞扼性末梢神経障害→肘部管症候群、手根管症候群など) 末梢神経圧迫症状ほど明確な知覚分布に沿っていない。
4.腕神経叢損傷 外傷の有無。ホーナー症候群や左右差のある異常な発汗(腕神経叢損傷)。症状が一定。(腕神経叢損傷)
5.肩腱板疾患 不良姿勢、関節不安定性のある牽引型胸郭出口症候群は、肩関節周囲炎をしばしば合併する
6.その他 線維筋痛症、Pancoast腫瘍、Raynaud病、脊髄空洞症、閉塞性動脈硬化症

 
Gilliatt-Sumner hand (真の胸郭出口症候群?)

定 義:Gilliatt-Sumner handとは,短母指外転筋の顕著な筋萎縮と,背側骨間筋,小指外転筋の筋萎縮を認め,感覚障害は軽微であるが,もし感覚障害がある場合には手・前腕の尺側に限局している.T1神経根(ときにC8神経根も伴う)または腕神経叢の下神経幹が障害されたときに起きる症候。

*頚助や巨大なC7横突起の長大化を伴って腕神経叢の下神経幹が障害されて起こる神経原性胸郭出口症候群。
 
・肘部尺骨神経傷害(肘部管症候群)

 肘部尺骨神経傷害で手術を行う場合は、必ず術前に電気生理学的検査を行って診断を確認すべき。ただし手技を習熟していないと誤診しやすい。

<臨床評価のみで肘部尺側神経障害と誤診しやすい疾患>

 ・C8神経根症
 ・遠位型頚椎症性筋萎縮症(CSA)
 ・真の神経性胸郭出口症候群(TN-TOS)
 ・胸骨正中切開後C8 plexopathy
 ・手関節部尺側神経障害(ギオン管症候群)
 ・筋萎縮性側索硬化症
 ・多巣性運動ニューロパチー

*肘部尺骨神経傷害(肘部管症候群)との鑑別診断を要する疾患

・C8神経根症
 頚椎症性神経根症のC8障害。第8頚椎(C8)神経根が骨棘や椎間板ヘルニアで圧迫されると小指・環指(環指は橈側も含む)から前腕尺側(掌側、背側を含めて)のしびれが生じます。中枢側は前腕で肘より手前まで。また指屈筋が傷害されグーをしにくくなります。

 ちなみにパーと手関節の掌屈はC7神経根、手関節背屈はC6です。指を左右に広げるのはT1。前腕内側の知覚神経はT1(上腕内側はT2支配)です。知覚神経は母指はC6,中指はC7、小指はC8。

 *C8は原則として環指橈側も知覚障害を起こします。(肘部管症候群、ギオン管症候群では環指尺側までで掌側背側しびれ中枢側は手関節を越え肘部を越えない。ギオン管は掌側のみしびれ手関節まで。)また総指伸筋、長・短母指伸筋もC8支配ですので手指の伸展障害が起こります。
 
・遠位型頚椎症性筋萎縮症(CSA)

 頚椎症性筋萎縮症(CSA)は近位型(Keegan型頚椎症)と遠位型(平山病)に分けられます。

 遠位型:平山病(若年性一側上肢筋萎縮症) 

 16歳から20歳代の若い男性に多い病気です。多くは片方の上肢に脱力を感じるようになります。MRIでは患側の脊髄が萎縮しているのがみられます。原因はよく分かっていませんが、成長時の骨と神経の伸びにアンバランスが生じて神経が引っ張られることによって起こるとされています。脊椎を前屈すると脊髄が引っ張られますので症状が悪化します。予後は良好で発症3年ぐらいで症状の進行は止まるとされています。ただ萎縮が強くなると拘縮や巧緻障害が残ります。頚椎カラーを装着することで前屈を制限して症状の悪化を防ぐこともあります。

 遠位型CSA(平山病)は、感覚障害が目立たず、下垂手を呈する例が過半数ですが、尺骨神経支配固有手筋障害が優位な例もあります。

 近位型<Keegan型頚椎症>

 頚部痛〜上肢体の痛みのあとに三角筋、上腕二頭筋、 前腕の回外筋に麻痺が出る病気です。C5前角、前根の障害。保存的治療で約6割が日常生活に支障が無い程度に回復します。50才以下は8割程度、50才以降は5割程度と改善率が低下します。高齢ほど治りが悪い傾向があります。3−6ヶ月の運動療法を含めた保存的治療で改善を目指します。またVB12やビタミンEの投与を行います。
  

・真の神経性胸郭出口症候群(TN-TOS)

 TN-TOSは腕神経叢下神経幹のT1優位の障害をきたす。母指球>尺骨神経支配筋の慢性筋力低下、筋萎縮をきたす。手根管症候群と肘部尺骨神経傷害を合併したと誤診されることがしばしばあるとされています。T1皮節である前腕内側に感覚鈍麻を認めることが多い。前腕屈筋のうち、T1優位である浅指屈筋、示指の深指屈筋、長母指屈筋などにも筋力低下をみます。

・胸骨正中切開後C8 plexopathy
  
  胸骨正中切開開胸術を行った際に、第1肋骨の基部が骨折ないし変形して腕神経叢のC8根部に対し障害を起こします。尺骨神経傷害とそっくりの症状を呈すし、日本ではあまり知られておらず、ほとんどの例で術中の尺骨神経圧迫と誤診されているとしています。

・手関節部尺側神経障害(ギオン管症候群)

 ギオン管症候群はまれで、なかなか出くわすことがありません。尺骨神経が手関節部の豆状骨と有鉤骨鉤の間にある骨線維性トンネルで圧迫されて生じる絞扼性神経障害です。どの枝まで障害されるかによってさまざまな病型に分けられています。

 尺骨神経は、手くび皮線から近位7-8cmで手背の知覚枝をだし背側の小指〜環指尺側に分布します。一方、尺骨管内で知覚枝である浅枝と運動枝である深枝に分かれます。

 浅枝は短掌筋に分岐を出し、小指外転筋の上を走る2本の神経(尺側の枝、橈側の枝)に分かれます。尺側の枝は小指外転筋の橈側を通って小指の尺側の皮膚を支配し、橈側の枝は小指と環指の間に間に向かって走行し皮膚の知覚を支配します。

 深枝は小指外転筋に分枝した後、豆状骨と有鈎骨から起始する短小指屈筋中枢の筋腱性アーチ(M-Tアーチ、musclo-tendirous arch)の下を通過して、手掌の深層を走行します。このアーチを通過し尺骨神経深枝は有鈎骨鈎をまわって急峻に橈側に走行するので、M-Tアーチで絞扼されることが多い。この後、橈側に向かい、小指球への枝を出した後に、最終的には母指内転筋、第1背側骨間筋に向かいます。

<要約>
 尺骨神経−手掌7−8cm近位で手背の知覚枝(小指・環指尺側)−尺骨管内浅枝・深枝に分岐

 浅枝(知覚枝)−短掌筋分岐−2本に分かれて尺側、橈側の枝
  尺側−小指背側尺側
  橈側−小指・環指の間

 深枝(運動枝)−小指外転筋−M-Tアーチ−通過後、急峻に橈側に向かい−小指球へ枝−最終的に母指内転筋、第1背側骨間筋

 これらのどの部分で絞扼されるかによって症状が異なります。

     障害部位 傷害枝 
 津下・山河らの分類     I型  尺骨神経管の中枢部  浅枝(知覚枝)
深枝 (運動枝)
 尺骨神経管部  深枝のみ
 II型  尺骨神経管部  浅枝のみ
 III型  小指外転筋筋枝分岐部より中枢  深枝のみ
 IV型  小指外転筋筋枝分岐部より抹消  小指外転筋筋枝を除く筋枝(母指内転筋、第1背側骨間筋)
 
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 ALSは運動ニューロンが障害される病気で、50代に多く発症します。第1背側骨間筋は最初に障害される筋の一つです。小指外転筋は比較的障害されにくいので(解離性小手筋萎縮、split hand)、他疾患との鑑別になります。またALSは知覚神経障害を伴わない。尺骨神経障害(肘部、ギオン管)でも、感覚障害が目立たず、運動障害のみ例も多く、ALSと誤診されるケースもあります。尺骨神経領域にとどまらず広範な筋力低下を起こすこと、筋電図でも広範な障害を呈し、線維束性収縮を認めます。球麻痺。下顎反射亢進。頭後屈反射陽性。MRIでは、前角と側索の萎縮がみられ、脊髄は側索の萎縮のため特に胸髄レベル軸位断(水平断)では“おむすび型”を呈します。

 *筋線維束性収縮  ALSでは顔面筋(とくにオトガイ筋)や四肢筋で約90%の頻度でみられるが、早期に多く、後期には消失することが多い。
   
・多巣性運動ニューロパチー(MMN)
 

 慢性の脱髄性ニューロパチー。運動性末梢神経障害を起こす緩徐進行性の自己免疫性疾患で、多くが上肢遠位に初発します(正中神経、橈骨神経、尺骨神経)。慢性で尺骨神経の運動のみの障害を起こすと肘部管症候群と間違われることがあります。鑑別は電気診断で行います。
 
■肘部管症候群

肘部管症候群(尺骨神経)は、手根管症候群(正中神経)に次いで多い絞扼性神経障害の一つです

<原因>
 変形性肘関節症、関節リウマチ、外傷、外反肘、内反肘、尺骨神経の亜脱臼、腫瘍、糖尿病、透析、若年者のスポーツ関連、特発性(原因不明のもの) 原因としては特発性、変形性がそれぞれ40%近く占め、ついで関節リウマチとなっています。
<絞扼部位>
 osborne靱帯、上腕三頭筋内側頭、Struthes腱弓、、上腕骨内側上顆、不明

 ・変形性肘関節症:中高年の加齢やスポーツoveruse,重労働に多い。レントゲンで肘部管底部に骨棘が出来て、これが下から尺骨神経を押し上げ、Osborne靱帯で神経が圧迫されます。屈曲位で圧迫が強くなり症状が悪化します。

 ・特発性:明らかな原因がないもの。Osborne靱帯による絞扼が主な原因であることが多い。

 ・外反肘:上腕骨外顆偽関節により外反肘となり、尺骨神経が引っ張られます。関節動揺も悪化要因。長期間で遅発性尺骨神経麻痺を起こすことがあります。

 ・内反肘:遅発性尺骨神経麻痺。内反肘では三角筋の張り出しにより内側に押し込まれるように絞扼されます。

 ・尺骨神経亜脱臼:肘関節を屈曲する度に上腕骨内顆を乗り越えます。動きが大きくなると、Osborne靱帯で絞扼されます。

 ・軟部腫瘍:OAに伴ったガングリオンが主で、血管腫のことも。

 ・基礎疾患:糖尿病、関節リウマチ、透析 糖尿病は神経の易損性。関節リウマチは滑膜の結節性増殖。透析は透析アミロイドーシス。

 ・スポーツ:野球、柔道、ウエイトリフティング、バスケット。原因はさまざま。圧迫や絞扼。

<治療>

 ・肘部変形性関節症による肘部管症候群は、ガングリオンの有無にかかわらず、診断後、速やかに手術を行う。その理由として、OAによる変化は解剖学的に変化があるので保存治療は無効としています。(実際は、保存治療を試みて、症状が悪化するものに限られると考えます。)
 皮下前方移動術。

 ・尺骨神経脱臼は、健常者でもよくみられます。タオル等による伸展位保持。ビタミンB12など。筋萎縮が著明な場合は、回復不良となるため、早期の手術が必要。重症例は、上腕三頭筋内側頭の張り出しによりtendinous archで圧迫されていることが多い。

 ・スポーツによる尺骨神経障害:野球、テニスや卓球などラケットスポーツ、柔道、やり投げ。原因は、圧迫、牽引、摩擦。圧迫要因として、Osborne靱帯、筋間中隔、上腕三頭筋肥大、滑車上肘筋(破格)、尺側手根屈筋深腱膜、骨棘・遊離体、変形性肘関節症、近位ではStruthes腱弓があります。牽引は、投球動作、肘内側側副靭帯の損傷、陳旧性尺側側副靱帯起始部裂離骨折など内側不安定性。摩擦は尺骨神経の亜脱臼(摩擦性神経炎)。

 スポーツ選手における症状は、運動時の肘内側痛が主訴で、手尺側のしびれは運動中もしくは運動後にみられる程度。所見として、尺骨神経直上に圧痛、手内在筋力低下や知覚神経低下は軽微。肘屈曲テスト、Tinel signは陽性。神経伝導速度は異常を示すのはまれ。鑑別疾患として肘MCL損傷。(合併も多い)、胸郭出口症候群。治療は投球禁止など局所の安静を保つ。肩甲上腕関節、上腕三頭筋、前腕屈筋回内筋群の柔軟性を改善。sleeperストレッチ。症状が改善し、全身の柔軟性を確保できたら投球再開。投球は全力の50%、塁間3分の1から開始。

 野球復帰は平均2.5ヶ月。保存での復帰は3分の2。保存治療に抵抗する場合は手術。しびれ(+)例、尺骨神経亜脱臼例、肘MCL損傷合併例では保存治療に抵抗。二か月以上の保存治療で改善しない場合は手術を考慮。尺骨神経前方移所術のスポーツ復帰率は83-95%。尺骨神経亜脱臼がない場合は、単純除圧術、亜脱臼例は皮下前方移所術。

 *sleeperストレッチ 患側を下に側臥位となり、肩関節を外転90度、屈曲90度として肩甲骨が動かないように自身の頭で押さえ、健側の手で他動的に患側の肩関節を内旋し床に手がつくようにします。

■遅発性尺骨神経麻痺

 肘部管症候群のうち、幼小児期に上腕骨遠位部骨折を既往があり、十数年〜数十年後に尺骨神経麻痺を起こしてくるものを遅発性尺骨神経麻痺といいます。不適切な治療による上腕骨外顆骨折後の偽関節になったもの、その他上腕骨内顆骨折後の内旋・内反変形による内反肘変形でも起こることがあります。症状は、小指・環指尺側のしびれ、知覚障害(手背も含む)、小指球筋・背側骨間筋の筋萎縮、環指小指の鉤爪変形。典型例では、前腕尺側までしびれることはない。

 治療:肘の変形を伴う遅発性尺骨神経麻痺では、進行性なので可及的早期に手術を行うのがよい。尺骨神経前方移行術に加え、場合により上腕骨の矯正骨切り術(内反変形)の併用。偽関節の処置は必要としない。鉤爪変形では、PIPが伸展可能かをチェック。進行期では伸展が出来ない。→機能再建術も併用。機能再建術は成書参照のこと。

■尺骨神経の破格

 *神経には破格があり、支配も異なることがあります。

 神経の走行や分岐  ・小指外転筋枝が尺骨管を出てから分岐
・深枝が有鉤骨鉤の中枢で分岐、ループ形成
・尺骨神経破格終末枝が小指尺側感覚枝と吻合
 感覚神経の支配領域   掌側  ・小指のみ支配。小指と環指の支配、小指から中指尺側まで支配。小指から中指橈側まで支配。
 背側  ・中指基節尺側と環指基節橈側を橈骨神経と重複支配。示指基節橈側まで支配。背側の支配がない。
 運動神経の支配領域  ・母指対立筋、短母指屈筋浅頭、長母指外転筋まで重複支配。(正常は小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋、短母指屈筋、母指内転筋、第1背側骨間筋)
・中指の深指屈筋を単独支配あるいは正中神経と重複支配
・尺側手根屈筋や第1背側骨間筋を正中神経が支配
・全正中神経手
(参考:関節外科2016.8)

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