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整形外科 外科 リハビリテーション科

 脊椎高位診断
大後頭孔の症候 〜大後頭孔症候群

 大後頭孔部に、髄内、髄外の腫瘍などの病変が生じて症状を現します。診断が困難な理由として5つを挙げています。
1.病変の大きさの割に症状が少ない
2.症状が動揺、消長する(病初期の痛みはしばしば経過中消失し、進行とともに再発する。り返すことあり)
3.部位特異性のある症状に乏しい
4.病変レベルと一致しない上肢末梢の症候、偽性局在徴候を示す
5.診療各科と画像診断の境界領域であり、診断のpitfallとなる

・原因:髄外腫瘍(良性、悪性)、髄内腫瘍

 症状:初期は後頭部〜頚部の疼痛(通常は患側の一側性)または上下肢の感覚異常(しびれ、温痛覚・触覚の障害、発生機序が不明な下位頚髄〜上位胸髄の前角細胞障害による)で発症し、進行すると上下肢の麻痺、手の巧緻障害が出てくる。
 

上位頚椎部障害の神経症候

<後枝:後頚神経叢>
 第1頚神経:純粋な運動枝:小後頭直筋、大後頭直筋、横突後頭筋、感覚関与なし
 第2頚神経:上頭斜筋、下頭斜筋、板状筋、最長筋
 第3頚神経:最長筋、半棘筋、腸肋筋

 *第2、第3頚神経は後頭部〜後頸部の感覚を伝達(後頚神経叢)

<前枝:頚神経叢>
 表在枝:感覚:第2,第3頚神経
      小後頭神経:耳後部の後頭
      大耳介神経:耳介付け根
      頚皮神経:前頚部
      鎖骨上神経(第3神経が形成)肩周囲
 深枝:筋支配
      1−2頚神経深枝+舌下神経→おとがい舌骨筋、甲状舌骨筋、胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋

・末梢神経障害
 同じ神経根でも分岐後、別の経路となるので感覚障害と運動障害が常に同時に存在するとは限らない

・神経根障害
 第1〜第3頚神経根障害では、上肢の神経根徴候が見られない。根障害のレベルの同定は困難
 1.感覚障害
  第1頚神経は感覚を伝達していない
  第2、第3頚神経は後頭部〜後頸部(大部分が第2頚神経)、前頚部〜鎖骨付近(第2、第3が神経叢を経ているので同定不能、いずれか一方の神経根障害のみでも前頚部〜鎖骨周辺の広い範囲で感覚障害)

 2.運動障害
 後頸部、前頚部の筋群は複数の上位頚神経根が神経叢を形成しているために単独の神経根障害では運動障害は自覚されない場合が多い。逆に、運動障害が認められても障害神経根レベルを同定するのは困難。運動障害として、開口動作、頭部前後屈、肩挙上。

 開口障害→上位頚神経の障害

 頭前屈障害→胸鎖乳突筋障害→上位頚髄神経OR副神経の障害

 頭後屈→頭半棘筋・板状筋(脊髄神経の多髄節支配)、僧帽筋(副神経+第3・第4頚神経)、頚半棘筋→上位頚神経のみの障害では明らかな運動障害として捉えにくい。

・第1〜第2頚髄障害

 診断:高位診断+横位診断 どのレベルでどの部位が障害されているかを判断。

1.急性損傷
  骨折や脱臼で急性上位頚髄損傷。完全切断、部分切断。いずれも初期には脊髄ショックとなり、多くの場合、完全運動麻痺+感覚神経麻痺(受傷レベル以下の表在感覚、深部感覚ともに完全消失。)多くの場合で、尿閉、便失禁、便秘。感覚障害部で皮膚温上昇、発汗の停止。脊髄ショック期を過ぎると不完全切断の場合は、足趾のわずかな自動運動を観察することが多い。

 第1〜第2頚髄の完全断裂:多くは休息な死。免れたら両上下肢の完全弛緩性麻痺・完全な知覚消失となる。心拍数上昇、血圧低下、横隔神経麻痺による呼吸停止。Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、眼球陥凹)の出現。尿閉、便秘。三叉神経脊髄路が障害され、四肢体幹の感覚障害だけで無く、顔面の感覚障害を生じる。(理由:三叉神経は橋レベルで髄内に入り、上位頚髄まで下降しているため

 不完全断裂:損傷が一側の場合、交代制半側感覚鈍麻が生じる。(同側三叉神経障害による顔面同側の感覚障害+反対側の交叉性の四肢体幹感覚障害)

2.慢性損傷
 慢性的な脊髄圧迫による障害。髄外圧迫と髄内圧迫がある。

 髄外圧迫:髄膜腫、神経鞘腫、悪性リンパ腫の脊柱管内への浸潤などの髄外腫瘍、Chiari奇形による小脳扁桃のヘルニア、環軸椎脱臼、頭蓋底陥入症、椎間板ヘルニア、脊椎カリエスの膿瘍形成。症状の特徴として項部痛と頚部の運動制限が高頻度。加えて上位頚神経支配領域に感覚障害(根症状)。脊髄圧迫で初期には、解離性感覚障害(温痛覚が障害、触覚温存)、進行すると圧迫部以下の全感覚障害となる。第1〜第2頚髄圧迫では三叉神経脊髄路障害による顔面の感覚障害が出ることがある。反射は、四肢で腱反射が亢進。足、膝の間代。病的反射(+)運動障害は四肢の痙性麻痺。呼吸筋麻痺。下位頚髄の静脈潅流障害による手の巧緻障害・手内筋萎縮。膀胱障害は排尿困難・遅延で始まり尿閉。さらに悪化すると自立性の尿失禁。自律神経障害として高度圧迫で四肢体幹の立毛反射消失、発汗消失。大後頭孔より上位が圧迫されると、頭蓋内圧亢進症状や延髄症状(徐脈、体温低下)
 延髄脊髄移行部での圧迫は、四肢麻痺についても上肢に強い症状や一側上肢と対側下肢の麻痺となることがあるので注意。

 髄内圧迫:ALSや多発性硬化症と誤診されることも多い。感覚障害は脊髄空洞症に代表される脊髄中心部の障害の症状(非対称の宙づり型感覚障害、一側性の感覚障害)宙づり型とは、内側の頚髄領域の感覚神経が障害され外側の腰仙髄は正常となること。
第1〜第2頚髄が圧迫されると側頭部〜後頭部の解離性感覚障害が生じる。また広がって三叉神経脊髄路の圧迫で顔面の感覚障害。運動障害は髄外圧迫では早期に痙性麻痺を呈するが、髄内圧迫では痙性麻痺は目立たず、圧迫部の前角細胞障害が目立つ。早期には反射亢進は認めないことも多い。圧迫進行で膀胱障害や自律神経障害。

 *後頸部〜後頭部の感覚障害は、第2頚神経障害に特徴的。
 


C3/4 高位障害の特徴

 頸椎の高位と髄節は1分節ほどずれており、C4/5はC6髄節のほぼ中央、C5/6はC7髄節の中央となり、C3/4はC5髄節のやや頭側寄りにある。

 1.運動障害
 ・筋力低下 C3/4高位で、障害を受けるのはC5髄節のやや頭側。三角筋筋力低下8割。三角筋以下の筋力低下5割程度。手内筋の萎縮や手指のしびれは静脈のうっ滞による変性と考えられている。

 ・巧緻障害
 8割に巧緻運動障害。C2,C3髄節には脊髄固有ニューロンがあり、感覚と運動ニューロンを橋渡ししている。これがC3/4高位で脊髄固有ニューロンの軸索が圧迫されると巧緻障害が出ると考えられている。

 ・歩行障害
 重症度に応じて歩行障害が出る
 2.感覚障害
 手から上腕あるいは肩口まで4割。手から前腕あるいは肘まで5割。手全体に限局1割。全指尖のしびれ感67%。感覚障害は100%
 C6を中心にC5からC8まで広く障害。中下部胸髄レベルの圧迫感、帯状の締め付け感がでることあり。(固有ニューロンの障害)

 3.自律神経症状
 脊髄固有ニューロンは上行枝が小脳へ、下行枝はC6-8運動ニューロンに投射。C3/4脊髄固有ニューロンが障害されるとめまい、ふらつきがでるとされている。(交感神経系刺激によるBarre−Lieou症状とは異なる)

■他覚所見
 1.反射:上腕二頭筋腱反射以下の亢進が高率に起こる。
 2.後索障害:筋固有感覚と識別感覚の乖離が起こることがある
 ・筋固有感覚 親指探し試験、指鼻試験
 ・識別感覚検査 皮膚描画感覚 立体感覚

■徴候

 1.偽性アテトーシス 指を伸展させると位置を保てずゆっくりくねくねと動いてしまう状態

 2.imitation synkinesia  一側の手関節を力強く屈曲伸展させると対側も同様に動く状態。この障害はどのレベルでも起こる


中下位頸椎の症候 神経根症、脊髄症の特徴と高位診断

 <神経根症>
 ほとんどが片側の頚部痛(項部、肩甲上部、肩甲骨上角部、肩甲間部、肩甲骨部)で発症する。頚部痛単独7割、上肢痛あるいは手指のしびれを併発3割、頚部痛が前駆せずに上肢痛あるいは手指のしびれ感で発症した例は無かったとする報告あり。しびれ感は部位が移動せず、日によって異なることがない。移動する場合は、頸椎疾患を除外して良い。しびれはしばしば朝方に改善して午後、夕方に強い。慢性例では頚部痛が無い例もある。初診以降、ほとんどで症状は改善する。手術は悪化例ではなく改善の少ないものとなる。

 *C7神経根症 しばしば狭心症と誤診。鎖骨下方〜胸筋部に痛み。真の狭心症で生じる胸骨部には無い。

 しびれ、筋力低下の神経支配は、より強い部位が主病巣。

 <頚髄症>
 多くが手指のしびれで発症。両手同時よりも一側に始まり、まもなく両手となることが多い。項部痛で発症することはほぼ無い。初発症状:手のしびれ6割、足のしびれ1割。四肢あるいは体幹への電撃性ショック、指のもつれなどは一割以下。指のしびれが主訴で頚部痛が先行もしくは同時に発症しない場合は神経根症は除外してよく、まず脊髄症もしくは絞扼性末梢神経障害を疑う。しびれ感が常にあり、強さもほとんど変動しない。症状は最初に灰白質障害(脊髄前角・後角)によるものがでて、次いで、白質障害(錐体路、脊髄視床路)がでることが多い。

 指のしびれ感は灰白質由来、続いて巧緻障害(手指のもつれ、箸使い、書字、ボタン掛け)がでる。病変が拡大し白質に及ぶと足の引きずり、もつれなどのけい性歩行。足先、下肢、体幹のしびれ、さらに排尿障害がでる。下肢の感覚異常はしびれ感では無く、風呂の温度が熱く感じるなど温度覚異常で自覚されることも少なくない。

 高位診断:しびれがどの部位から発症したかが大切。C3/4、C4/5橈側の指ないしは全指。C5/6母指を除く尺側の2−4指で発症。C6/7小指から(ほとんどない)。軽症側のしびれの初発も高位診断に使える。



*一側のしびれ、巧緻障害+対側の温痛覚障害 

*両手に朝方強いしびれ、時間とともに徐々に改善→手根管症候群

 
上中位胸椎の神経症候

 他の部位に比べて脊髄、神経根が障害されることは少ない。いずれの場合も、脊髄の灰白質障害による髄節徴候よりも白質障害による長経路徴候である下肢末梢の症状で始まることが多い。従って他部位の障害と間違えたり見過ごさないようにする。

 神経根・脊髄を外部から圧迫する病変と非圧迫性の髄内病変に分けられる。

 圧迫性病変:胸椎の変性疾患(後縦靭帯骨化症、黄色靱帯骨化症、椎間板ヘルニア)、硬膜内髄外腫瘍(神経鞘腫、髄膜腫)、硬膜外腫瘍(悪性リンパ腫)、転移性悪性腫瘍(乳がん、前立腺癌、肝がん、多発性骨髄腫)、脊椎炎(結核性脊髄炎)

 非圧迫性病変:髄内腫瘍、脊髄動静脈奇形、特発性脊髄ヘルニア、神経内科疾患(多発性硬化症、ウイルス性脊髄炎、脊髄小脳変性症)

<症状>
 感覚障害:初発症状は、足趾足底のしびれ感。ほかに下肢全体〜体幹のしびれかん、胸部・腹部・腰部の締め付け感。椎間板ヘルニアで突然の胸背部痛で発症することあり。

 運動障害:立位・歩行時のふらつき、もつれ、不安定、脱力感、歩行時の足のつっぱり感、突っ張る痛み。走れない、雲の上を歩く感じ。

 排尿困難:膀胱障害

<症状の進行>

 下肢末梢に始まるしびれ感は脊髄症の進行とともに上行。下肢の運動障害も不安定性・脱力感から運動麻痺、けい性歩行となる。症状が進行すると排尿障害も顕在化する。


<所見>
1.痛み
 胸背部痛+の例では、叩打痛のチェック。転移性脊椎腫瘍、化膿性脊髄炎、結核性脊椎炎、椎体圧迫骨折

背部中央から肋間:腫瘍、椎間板ヘルニア、帯状疱疹

2.感覚障害
 体幹では感覚鈍麻、下肢では感覚過敏、異常感覚

3.運動障害
 下肢の運動障害

4.反射
 一般的に下肢腱反射は亢進。(7−8割)急速に進行した例では消失のことあり。バビンスキー徴候60%陽性

5.排尿障害

6.顔面の症状
 T1高位でホーナー症候群(病変側で縮瞳、眼瞼下垂)
 T2-3高位でハーレークイン症候群(病変対側の顔面の紅潮、発汗過多)

*Hofmann徴候+は頸椎疾患であることが多い
*しびれ感が大腿前面にも及んでいる場合は、胸椎疾患を考慮。
*下肢腱反射の減弱が合併→胸腰椎以下の病変の合併を考慮。

 

 
下位胸椎、上位腰椎の神経症候

 胸腰椎移行部(T11〜L1高位)には、脊髄円錐部(脊髄円錐、円錐上部)があります。T11/12高位よりL1/2高位の間にあります

 円錐上部:L4-S2
 脊髄円錐:S3-S5、Co

 この狭い2椎体ほどの間に多数の脊髄があるので、この部位で障害が起こると脊髄障害、神経根障害が混在し多彩な神経症候となる。

 高齢者は加齢による椎間板や椎体の短縮により、円錐部が下方に移動することがある。(下がってもL2椎体上1/3まで)

<症候>
 1.円錐上部症候群
  円錐上部(T12椎体高位:T11/12−T12/L1高位、脊髄レベルL4-S2)
  
 2.脊髄円錐症候群(L1椎体高位)
 S3-5髄節と尾髄(Co)よりなる脊髄円錐の病変による症候群。
 原因:椎間板ヘルニア,脊椎,脊髄腫瘍などの圧迫性病変。

 L1-L5神経根、S1-2前根は移動性が上がるので症状が出にくく、S3-5髄節症候が主症状となる。
 純粋な脊髄円錐の障害では早期から核上性の膀胱直腸障害と肛門性器周囲の対称性の感覚消失が生じる。
 下肢の腱反射の障害や運動障害はみられず、単独で発症することはきわめて稀。
 脊髄円錐上部症候群や馬尾症候群を合併するものが大部分で,下肢の腱反射の低下,消失と下肢の運動障害や感覚障害を伴うことが多い。

 3.馬尾症候群
 L2椎体高位以下では、L2以下の神経根が馬尾を形成している。馬尾症候群は、腰痛、下肢痛、筋萎縮、脱力、しびれを起こす。感覚障害は主に下腿、会陰に強く認める。間欠性跛行。

*間欠性跛行(馬尾性、脊髄性、血管性)
 馬尾性には、馬尾型、神経根型、混合型に分けられる。
 

 
 他部位病変との鑑別診断
1.大脳病変と末梢神経病変
 大脳半球の内側には下肢の運動野があり、この付近の大脳鎌周辺の障害で、下肢筋萎縮や下垂足が生じる。(円錐上部症候群と似る)大脳病変では腱反射個往診やBabinski徴候など錐体路徴候が目立つ。単、多発ニューロパチーで反射弓が障害されなければ下垂足を呈しても腱反射が保たれる。(Babinski徴候は陰性)

2.神経変性疾患
  ALSなどの運動ニューロン障害
 ALSでは、下肢筋力低下がびまん性で腸腰筋(L1-3)まで及ぶ、眼球の運動障害+、感覚障害や褥瘡がない。
 他に、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、脊髄小脳変性症、スモン病などがある。

3.C6/7頚髄症
 C6/7上肢の症状を起こさないので、胸髄病院との鑑別が必要。頚部痛や前胸部痛、肩こりが初発症状として出現する場合がある。頚部の前屈後屈にて腰背部への放散痛。
上腕三頭筋腱反射、Hoffmann 反射反射等がが陽性となることがある。

4.円錐部脊髄腫瘍 神経鞘腫、上衣腫が多い
 上衣腫は粘液乳頭型が多く、馬尾との癒着、周辺への浸潤が強く、手術では神経麻痺に注意。

5.円錐部血管性病変
 脊髄動静脈奇形(AVM)、脊髄出血、脊髄梗塞。脊髄痛を伴う急性脊髄麻痺は円錐部血管性病変の脊髄出血や脊髄梗塞を疑う。

6.円錐部脊髄外傷
 

腰仙椎部(馬尾)の神経徴候

 馬尾:脊髄円錐より尾側にある神経根の集合をいう。L1−S1神経根は下肢の運動と感覚、S2-S4神経根は排尿、排便、性機能、陰部の感覚に関与している。S2神経根以下の障害の場合、膀胱直腸障害のみの症状となるので、脊髄円錐障害とと酷似する。

自覚症状
 1.腰痛
 2.下肢痛
  神経根・馬尾障害に関連した下肢痛は、神経節の圧迫が重要で、神経根や馬尾の機械的圧迫のみだとしびれ感と感覚鈍麻は生じるが、痛みは生じにくい。強い痛みを訴える場合は、後根神経節の圧迫の有無をチェック。

 3.運動障害
 下位運動ニューロン障害。弛緩性麻痺。筋力低下。下肢筋は複数の神経根支配なので一本の神経根障害では著明な運動障害は生じない。下肢筋の神経根分布が障害後再構築されていることがあるので注意。

 4.間欠跛行
 歩行の最中に何らかの下肢症状が出現し、歩行の継続が困難になること。血行性、脊髄性、馬尾性がある。腰部脊柱管狭窄症による間欠性跛行は、前屈位で症状が改善し、また前屈位の運動負荷では症状がでない。ショッピングカートを押しての歩行や自転車では症状が出にくくなる。

 5.排尿・排便障害
 神経の圧迫による膀胱直腸障害で生じる。膀胱などの弛緩性麻痺による。膀胱の知覚も低下し尿意が減少する。残尿の自覚が無いことも多い。腸ぜん動の低下、肛門括約筋の弛緩などが起こる。排便障害には便秘と便失禁がある。
 
 6.性機能障害・間欠性勃起

他覚症状
 1.皮膚症状の有無

 2.姿勢異常・歩容異常
  下垂足、鶏歩

 3.筋萎縮
  殿筋の萎縮の有無:末梢神経障害では殿筋は温存。腰部神経障害では下肢と同時に殿筋も萎縮することが多い。萎縮筋の腱反射は通常消失、保たれている場合は上位運動ニューロンの障害の合併。感覚障害を伴わない下肢の著明な筋萎縮は運動ニューロン疾患の初発症状のことがあるので注意する。

神経学的検査
 1.緊張徴候 SLRテスト、FNST、Flipテスト
 2.徒手筋力テスト
 3.感覚障害
 4.排尿障害(神経因性膀胱)一定量たまると交感神経の反射で一気にでる機能は残存している。
 5.反射
  腰仙骨部での神経障害は腱反射は減弱もしくは消失。片側性は根障害。両側性減弱は加齢など。
  →Jendrassick maneuver 両手で指を組んで左右に引く動作。上位神経抑制を一時的に弱めることで高齢による両側性の神経反射減弱では反射が誘発されやすくなるとされている。

 PTRの亢進とATRに消失末梢神経もしくは腰椎部病変に加えて上位運動ニューロンの合併を疑う
 上位運動ニューロン障害があっても反射が亢進しないケースあり→糖尿病性神経障害+頚髄障害

 症状・徴候  障害神経根 
 L4  L5  S1
 緊張徴候 FNST、SLR  SLR  SLR 
 筋力低下  膝伸展  母指背屈
足関節背屈
 母趾底屈
足関節底屈
 感覚障害  下腿内側  下腿外側〜足背  足部外側
 腱反射低下  膝蓋腱反射  得意なものなし  アキレス腱反射
 


パーキンソン病と脊椎脊髄病変との鑑別

 パーキンソン病:無動、筋強剛、安静時振戦、姿勢反射障害を4主徴とする。中脳黒質でのドパミン産生細胞の脱落による基底核での運動調整障害が起こるとされている。

 パーキンソン症候群:パーキンソン病の運動障害と類似の症候を示す疾患群。原因として脳血管障害、薬剤、変性疾患、正常圧水頭症など。無動、筋強剛、安静時振戦、姿勢反射障害を4主徴のうち「無動もしくは筋強剛のいずれかを含む2つ以上の症状」を呈するものと定義されている。粗大筋力は保たれている。錐体路障害、運動失調、末梢神経障害、筋障害は認められず、錐体外路障害とされている。

 ・無動:動作緩慢だが筋力は保たれている、瞬目の減少・表情が乏しい仮面様顔貌。声が小さく単調。

 ・筋強剛:筋緊張度の異常で、亢進が認められる。受動的に関節を動かすとガクガクと歯車様の抵抗、鉛管を曲げるような一様の抵抗。

 ・振戦:四肢や頭部に起こる規則的な「ふるえ」。動作や体動で減弱または消失。4−6Hzの丸薬丸めるような振戦が特徴。頭部の振戦は、本態性振戦d値は横向けが多く、パーキンソンでは縦向けが多い。

 安静立位の姿勢と歩容も、体幹は前傾で軽度屈曲、肘と膝も軽度屈曲。最初の一歩がでにくい。(すくみ足)。歩幅も小さい。(鶏歩)速度が速くなりコントロールが上手く出来ない。(突進歩行)

 *高齢者ではパーキンソンと脊髄症との合併したり、鑑別診断が必要になってくる。


末梢神経疾患と脊椎脊髄疾患との鑑別1

 <肘部管症候群>

 C8神経根障害との鑑別がしばしば難渋する。
 肘部管症候群のしびれは背側も含めた小指と環視尺側のみ(ギオン管症候群は手指背側の症状はでない)で手関節皮線よりを中枢側へ6cm超えることは無いとされている。したがって環視橈側にしびれ感が少しでもある場合は頸椎疾患を考慮する。(破格で尺骨神経が環指橈側に分布することもあるのでさらに複雑になる)肘部管症候群と手根管障害が併発しても環指橈側にしびれをみる。

 このように破格や合併例も含まれるために鑑別が難しくなる。頸椎の神経根症の場合は、多くは頚部痛で発症し、その後手のしびれなどが出てくる。経時的変化が特徴。C8神経根障害では、上腕三頭筋筋力の低下を見ることが多い。(神経支配はC6,7,8)

 Tinel sign 陽性 
 肘屈曲試験:陽性が多い
 神経伝導速度検査 

 <手根管症候群>
 手根管以遠の正中神経障害の症状が出る。手掌側母指〜環指橈側がしびれる。
 C7神経根症との鑑別が必要。
 C6神経根症:母指、示指に加えて手背、前腕にしびれ。肘屈曲障害(上腕二頭筋C5.C6支配、腕橈骨筋C6支配)、手関節背屈障害
 C7神経根症:手背にしびれ、肘伸展障害、手指伸展障害

 *手根管症候群でも上肢にしびれや疼痛を訴える例があるので注意を要する。(頚椎・頚髄障害と鑑別要す)

 手根管症候群の運動麻痺は、母指の対立障害のみ(低位麻痺)
 母指外転筋はほぼ正中神経支配、ただし他の母指球筋は尺骨神経支配や正中神経との二重支配の破格あり。
 →母指外転筋のみ筋萎縮がある場合は、正中神経麻痺と診断できる
 


<足根管症候群>
 原因:ガングリオン、距踵関節癒合など圧迫を起こす疾患
 足関節内側で脛骨神経が圧迫されることによって、足趾、測定にしびれ感がでる。S1神経根症との鑑別が重要。
 
 しびれの範囲がS1神経根症と異なる

 ・S1神経根障害では足外側の感覚障害が出る(腓腹神経支配なので足根管症候群では足外側に症状は出ない)
 ・足根管症候群は脛骨神経(内側足底神経、外側足底神経、内側踵骨枝に分かれる)、多くは内側足底枝の障害で第4趾に内側と外側で感覚障害が出る。

 ・S1神経根障害では、腓骨神経支配筋である長母趾伸筋、長趾伸筋の障害がでるが、足根管症候群では出ない。

<腓骨神経麻痺>
 膝部で腓骨頭後方内側を走行するので、L5神経根症との鑑別が重要となる。外傷や神経圧迫の既往が無いかチェック。長時間、膝を組んでいても起こることがある。膝の深屈曲位でも発症することがある。しびれ感はL5神経根症と同じで前脛骨部に沿って母趾−3趾足背にでる。足外側(特に第5趾側)は内側腓腹神経と外側腓腹皮神経が合流した腓腹神経支配なので、症状は及ばない。
*下垂足 腓骨神経麻痺でも腰部神経根症でも起こりうる。腰部からの場合、神経の圧迫が高度のことが多く、腰痛や坐骨神経痛などの症状が見られることが多い。足内反力に変化が無い。( 後頚骨筋麻痺を伴う腰部神経根症では内反力の低下が起こる)
 
*腓腹神経麻痺は下腿外側から小趾にかけてしびれが出る。(小趾のみのことも多い)運動障害は出ない。
 

<遺伝性圧脆弱性ニューロパチー hereditary neuropathy whis liability to pressure palsies , HNPP>

 末梢神経の髄鞘蛋白の遺伝子異常により神経麻痺を起こす。軽微な圧迫で麻痺が生じる。既往歴、家族歴が重要。診断は筋電図検査と遺伝子検査。まれに生検が必要。常染色体優性遺伝。症状は末梢神経障害で、腓骨神経麻痺、尺骨神経麻痺、手根管症候群など。気がつかないほど軽微なものから重いものまで幅があり、症状の出現、消退があり、診断が難しいとされている。

 多くは30−40歳代に発症し、緩徐に麻痺や感覚障害が進行します。正座などの圧迫などでも生じることがあり、病歴の聴取が重要となる。
 


 
筋疾患と脊椎脊髄病変との鑑別

 <多発性筋炎・皮膚筋炎などの筋炎>
 急性、慢性に発症し、四肢近位優位型の筋力低下が起こる。階段が上りにくい、腕を挙上しにくいなどの症状に結成CK上昇を伴う。腱反射は減弱または消失し、感覚障害は認めない。高CK血症は数百から数千IU/Lとなる。CKアイソザイムはMM型となる。

 確定診断:筋生検所見、筋電図所見を参考にする

 筋電図では、随意収縮時に低振幅、短持続などのミオパチー所見。針刺入時に高頻度反復放電、線維性収縮(脱神経所見)、陽性鋭波をしばしば認める。脂肪抑制MRIで障害筋が描出が可能。(限局された筋が障害される)

 皮膚筋炎の特徴:ヘリオトロープ疹(片側、両側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑)、Gottron徴候(手指関節背側の角質増加、皮膚萎縮を伴う紫紅色紅斑)、四肢関節伸側の紫紅色紅斑。悪性腫瘍の合併率は20−40%なので十分な検索が必要。筋力低下はあっても軽微。

<封入体筋炎>

 50歳以降に好発。慢性進行性の筋炎。下肢近位筋、特に大腿四頭筋の障害が強い。ステロイドホルモンに反応しない症例が多い。機序は不明。

<感染性筋炎>

 感冒などを契機にウイルス感染で発症。原因ウイルスが特定できることは少ない。症状は多発筋炎と同じだが、急激に発症する。。
 Bornholm病:コクサッキーB群ウイルス。筋力低下、発熱、下肢や上腹部に発作性疼痛。予後は良好。CKが数千に上昇することが多い。

■進行性筋ジストロフィー■

1.Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
 伴性劣性遺伝。男児に発症する。女性で症状が軽く発症も遅いmanifested carrier(症候性保因者)がある。症候性保因者の多くは
DMD罹患男児を出産する。初発症状は処女歩行の遅延。歩行可能となっても転倒しやすく、走れない、飛べないなどの症状がでる。
四肢近位筋、体幹筋の筋力低下、萎縮が進行する。16−17歳以降は心不全、呼吸障害がでるが人工呼吸器装着で延命できるとされている。

2.Becker型筋ジストロフィー
 伴性劣性遺伝。初発年齢は5−25歳で、歩行不能もDMDよりかなり遅い。四肢近位筋の筋力低下と筋萎縮が特徴。腓腹筋の仮性肥大。心機能低下が起こり右心不全の発症。

3.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
 常染色体優性遺伝。10代で発症。閉眼筋が弱く、口笛が吹けない。翼状肩甲。仮性筋肥大なし。CK軽度上昇

4.支帯型筋ジストロフィー
 上記1,2,3以外の筋ジストロフィーを本症と診断することになる。

5.遠位型ミオパチー
 遠位筋優位に障害。遅発性遠位型ミオパチー、遠位型筋ジストロフィー、縁どり空胞型遠位型ミオパチー、眼・咽頭遠位型ミオパチーなどがある。

6.先天性筋ジストロフィー
 脳形成障害または知能障害を伴う群、伴わない群に分けられる。

■筋硬直性ジストロフィー■
 筋硬直(ミオトニア)を起こす一群の疾患。筋硬直性ジストロフィーが一番多い。特徴は筋硬直現象(手を握ると容易に開けない、把持性筋硬直。叩打性筋硬直:母指球、舌圧子の上をハンマーでたたくとクローバー状に舌変形。)、知能障害、早期前頭部禿、白内障、四肢近位筋の萎縮、筋力低下。斧状顔貌。頭蓋骨肥厚。脊柱靱帯骨化症、心伝導障害(房室ブロック、脚ブロック)、針筋電図で強直性放電(刺入時に高頻度反復発射がおこり、スピーカーで聴くと急降下爆撃音)。第19染色体長腕に異常。

■先天性ミオパチー■
 出生時に筋緊張が低下している。哺乳力障害、呼吸困難、歩行開始の遅れ
 



胸痛・腹痛を呈する内臓疾患と脊椎脊髄疾患との鑑別

 <Cervical angina 頚性狭心症>
 頸椎神経根の圧迫で狭心症様の前胸部の痛みが起こることがある。前胸部の痛み、腋窩(わきのした)から左上肢に放散する痛みやしびれ、ほとんどの例で頸椎の運動制限(特に伸展制限)が起こる。

 頸椎運動で放散痛は出現しても胸痛発作の再現は少ない。C5/6、C6/7椎間に責任病変を認めることが多い。投薬はあまり効果が無く、頚椎カラーや頚椎牽引が有効とされる。運動麻痺の合併が無い限り、保存治療が第1選択となる。発生機序は十分には解明されていない。狭心症との鑑別が重要。心臓の器質的疾患を除外する。

<体幹部帯状絞扼感>
 体幹部で帯状に締め付け感が出る。もっと多いのは多発性硬化症で、頚髄レベルの圧迫性ミエロパチー(OPLL、椎間板ヘルニア)、両側の神経根症、糖尿病性体幹ニューロパチーなどで起こる。この帯状絞扼感は偽性局在徴候であることが多く、病変レベルと一致することが少ない。長経路徴候(Long tract sign)とされている。→胸椎レベルだけで無く頸椎レベルの検索が必要。
 


 
頚椎変性疾患

 <頚部脊髄症>
 何らかの原因(圧迫性、血管性、炎症性、外傷性、放射線性)により、頚髄に障害が生じて脊髄麻痺を来したもの。ほとんどが圧迫性。応力は脊髄中心部から始まり圧迫の増大に伴って側索後方に広がる。


  服部の分類  
 I型  脊髄中心部( 脊髄灰白質の障害) 上肢筋萎縮、上肢運動障害、上肢反射(↓)、下肢反射(N)、上肢知覚障害や下肢症状は無い
 II型  I型+後側索部(錐体路)  I型+後側索部:I型の症状に加えて、下肢反射(↑)、軽度の歩行障害。
下肢・体幹の温痛覚障害(−)
 III型  II型+前側索部(脊髄視床路)  II型の症状に加えて、下肢・体幹の温痛覚障害(+)
  *I型の更に初期に、脊髄後角の楔状束が障害されて、C3/4レベルでも手のしびれから発症することが殆どで初発症状となる。
 
*服部の分類は病理学的障害の進行度に応じて分類されている。


 頚髄症の症状は髄節徴候(Segmental sign)、長経路徴候(long tract sign)に分けられる。

 髄節徴候:脊髄中心部の灰白質障害による。上肢のしびれ感、感覚障害、進行すると前角細胞まで障害されると筋力低下や筋萎縮が出現。しびれ感は障害の責任高位によって異なる。



 長経路徴候:下行性運動路(錐体路など)および上向性感覚路障害(脊髄視床路や後索など)により歩行障害、下肢・体幹の感覚障害、反射亢進、膀胱直腸障害が生じる。手の巧緻障害は、手固有筋の痙性麻痺が原因とされ、筋萎縮が無い初期にも見られる。筋電図で神経原性変化を認める。

 *索路障害 層状構造のため、下肢から上行性に麻痺が広がるのが特徴。

 頚髄症の初発症状:手指のしびれ感が約50%、下肢・体幹のしびれを含めて64%。しびれ感は障害された脊髄高位に発症する特徴がある。

 C3/4:全指
 C4/5:母指〜中指
 C5/6:中指〜小指

 手術に至る経過:片側手指のしびれ感で発症し、次第に対側手指、下肢へとしびれ感が拡大し、歩行障害もきたして手術を受けることが一般的とされる。

 灰白質→後側索→前側索と障害が進行する 3人に1人は巧緻障害を認める。頚肩腕痛で始まる例は10%以下。馬尾障害である下肢の冷汗や灼熱感で発症した例が7%に見られたという報告がある。

 他覚所見:しびれ感以外の上下肢表在感覚障害(8割)、深部感覚障害(下肢で55%)、上下肢の筋力低下(上肢6割、下肢8割)、筋萎縮(3割)、上下肢の反射亢進(上肢6割、下肢8割)、Babinski反射+4割。

<頚部神経根症>

 根症の特徴は、頚部から上肢の放散痛。頚部脊髄症では頚部痛〜上肢痛は伴わない。(脊髄症ではまれに頚部痛あり)
 放散痛の分布:C6上肢外側、C7上肢後方、C8上肢内側

 *頚性狭心症:C7神経根痛であることが多い

 しびれ感:脊髄症では手のしびれ感に責任高位によりパターンがあるが、根症ではパターンが明らかで無いことが多い。C5しびれ感なし、C6母指、C7示・中指、C8小指にしびれ。頚髄症に比し単指に強くしびれがでる。

 筋力低下:C5三角筋、C6上腕二頭筋、C7上腕三頭筋、C8手内筋、実際には重複支配が多く、2つ以上の筋で低下が出るのは重度の神経支配障害と考える。

 *Keegan型頸椎症(解離性運動麻痺)  頚椎症性筋萎縮症(CSA)は近位型(Keegan型頚椎症)と遠位型(平山病)がある 

 Keegan型頸椎症では、肩関節の挙上障害を特徴とする。感覚障害をほとんど伴わず、三角筋C5、上腕二頭筋C5,C6の筋力低下を認める。改善は上腕二頭筋から見られる。C6支配の手内筋は筋力低下を見ない。

 神経根症では、脊髄症のような明らかな感覚障害を起こすより、しびれ感の強い指に異常感覚を訴えることが多いとされている。

<脊髄神経根症>

 脊髄症+神経根症となったもの

 高位診断の注意:根症レベルより脊髄は運動で1髄節、感覚で2髄節上方にずれている。従ってC5/6の障害で、C6神経根、運動はC7髄節、感覚はC8髄節の障害となる。
 

<腰部脊柱管狭窄症>
 腰痛が伴わない例は10%程度で、下肢症状に加えて軽度の腰痛を訴えることが多い。立位の継続や歩行で下肢の痛みやしびれが悪化し、歩行を継続すると症状の程度、範囲が広がる。症状は前屈位で緩和もしくは消失する。自転車で前傾姿勢をとると症状は誘発されない。馬尾性間歇性跛行。

 SLRは8割が正常。知覚障害は75%程度にでる。歩行負荷テストで症状が出る。多根性の馬尾障害の場合、髄節に一致せず下肢全体に知覚障害をみることがある。安静時の知覚障害は不可逆性変化を意味する。筋力低下、下垂足。膀胱機能障害。アキレス腱反射の減弱・消失。下肢腱反射が亢進している場合は、中枢側での障害を考え上肢の腱反射や病的反射、胸椎レベルの障害も考慮する。

 *足背動脈は正常でも10%が触知できないが、後脛骨動脈は0.1−0.2%と報告されている。
 



 多発性硬化症(MS)

 多発性硬化症とは、中枢神経の脱髄疾患で、時間的、空間的に多発する。日本では15,000人程度の患者登録がある。女性に多く、平均発症年齢は30歳前後だが、小児〜50歳以降でもみられる。

 急性あるいは慢性進行性に起こり、発症部位により症状はさまざまとなる。大脳(認知機能障害、てんかん)、視力低下、視野障害、複視、難聴、構音障害、顔面麻痺、三叉神経痛、脱力、ふらつき、感覚障害、排尿・排便障害など多岐にわたる。

 急性増悪は数日〜2週間程度で症状のピークとなる。慢性進行性では半年〜一年以上にわたって徐々に憎悪す
 初回発作のものをCIS(clinically isolated syndrome)と呼び、多くの例では急性増悪(再発)と寛解を繰り返す。→寛解再発型MS

 ある時点から症状が徐々に憎悪していく二次進行型MSに移行することが多いとされている。

 *一部症例では、最初から徐々に進行する一時進行型MSとなる。

 症状
 視神経炎:通常、片側性に生じ、急速に主に視野の中心部がぼやける(霧視)、視線を動かすと眼痛。初回のMSによる視神経炎は視力回復は比較的良好。再発を繰り返して障害は重くなる。

 脊髄炎
 MSの脊髄炎は白質(側索や後索)に起こることが多い。障害される部位によって症状は異なるが、感覚障害(表在、深部感覚の鈍磨、びりびり感などの異常感覚)、歩行障害(片側や一肢に多いが、両側で痙性不全対麻痺)、排尿障害、便秘が生じる。

 脳幹・小脳障害:眼球運動障害、顔面神経麻痺、三叉神経痛、回転性めまい、構音障害。
 大脳障害:認知障害(認知機能低下、無気力、抑うつ)
 温度感受性:体温が上がると一時的に症状が憎悪することがある。

 

 
脊髄疾患

<視神経脊髄炎(NMO)>

 視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は、重症の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする。
 特有の自己抗体アクアポリン4(aquaporin4,AQP4)陽性と陰性がある。
 急速で重篤な視力低下をきたす。
 脊髄炎は、急速でしばしば横断性、重度の運動感覚所外、膀胱腸腸障害を起こす。
 難治性吃逆や嘔吐などの脳幹・小脳障害。意識障害などの大脳症状。

<筋萎縮性側索硬化症 ALS>

 上位・下位ニューロンが選択的に侵される原因不明の慢性進行性神経変性疾患。症状は運動ニューロン障害のみ。典型例では、感覚障害、膀胱直腸障害、小脳症状、錐体外路症状、自律神経症状はでない。
 大多数が孤発性である。分類としては個発性、家族性、グアム型に分けられる。

(孤発性筋萎縮性側索硬化症)
 初発症状は、上肢型50%、下肢型25%、球麻痺型25%に分けられる。通常一側性に始まり、次いで両側性となる。
 脊髄前角症状として、筋萎縮、筋力低下、反射減弱、線維束収縮。筋萎縮・筋力低下は上肢では一側の手から始まり上行する。やがて対側もにも及ぶ。母指球、小指球、骨間筋が侵されやすい。猿手、鷲手を呈する。非典型例では肩甲部〜上肢近位から始まる例もある。下肢の場合も前脛骨筋や腓骨筋などの伸筋群が侵されやすい。下垂足。一側下肢遠位から発症し近位に及びやがて対側にも進行する。(多発神経炎に類似。偽多発神経炎型という。)初発部位がどこであれ、最終的には眼筋と外肛門括約筋以外の全筋に及ぶ。
 錐体路症候として、病的反射陽性、腱反射亢進がある。上肢の病的腱反射(Hoffman反射、トレマー反射)は高頻度に陽性。下肢の病的反射(Babinski、Chaddock反射)は頻度が少ない。皮質球路の障害による下顎反射の亢進、口尖らし反射の亢進がみられる。腱反射亢進、痙性麻痺は上肢よりも下肢に多く見られる。足クローヌス、膝クローヌス。末期には偽性球麻痺強制笑い、強制泣きなどもみられる。

 球症状として舌の萎縮、線維束性収縮、構音障害、嚥下障害(延髄の舌下神経核、偽核、副神経核の変性による)
 本症では、他覚的感覚障害は認めないが、初期には鈍痛、しびれ感、倦怠感などの自覚的知覚障害がしばしば生じる。
 進行すると皮膚をつまんで戻るのに時間が掛かるようになる。(皮膚のつまみ現象)

 陰性徴候:末期まで出現しない症状として
  1.他覚的感覚障害がない
  2.眼筋麻痺が無い
  3.膀胱直腸障害がない
  4.褥瘡が起こらない
  5.錐体路症状がない
  6.小脳症状が無い

(家族性筋萎縮性側索硬化症)
 常染色体優性遺伝。

(グアム型)
 紀伊半島、グアム島、ミクロネシア島にALS多発地帯がある。ALSの所見に加えてパーキンソン病認知症複合の合併例が多い。家族性発生も頻度が高い。
 


 
代謝性脊髄症

内分泌全身疾患に合併して起こる脊髄疾患として主なものと以下の通り

 ・亜急性連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏による)
 ・銅欠乏性脊髄症:亜急性連合性脊髄症と同じような症状が出る
 ・肝性脊髄症:対象英の痙性対麻痺。肝不全など。
 ・栄養障害による脊髄症:栄養失調で起こる

 <亜急性連合性脊髄変性症>
四肢遠位のぴりぴり感からから始まりやがて手にも及ぶ。深部感覚障害(振動、位置、ロンバーグ徴候)、運動障害(下肢の突っ張り、痙縮、Babinski徴候)。→失調性もしくは失調性+痙性の歩行障害。膀胱直腸障害。認知障害、球後視神経炎、視神経萎縮症。大球性貧血。MRIでT2強調像で障害脊髄に後索に強い楔状束(ハの字型)あり。治療は、ビタミンB12を1mg筋注。1週間。その後、週一回一ヶ月、続いて毎月一回を生涯続ける。
 


 
 脊髄血管障害

 脊髄血管障害には、出血性(髄内、くも膜下、硬膜下、硬膜外血腫)、血液循環不全(静脈うっ血、静脈血栓、盗血現象)、圧迫性(拡張した血管による圧排)があり、原因疾患としては脊髄動静脈奇形が代表的。

 ・脊髄動静脈奇形には以下の疾患がある
  ・髄内動静脈奇形
 先天性、前・後脊髄動脈がnidusを介して脊髄動脈に導出。若年発症、約半数で出血。初発症例の年間出血率は4%、再出血は10%。出血時は激烈な頚部痛、背部痛。髄内出血では高度な脊髄横断症状。

  ・脊髄辺縁部動静脈瘻
 
  ・脊髄硬膜動静脈瘻
  ・傍脊椎動静脈瘻・奇形、硬膜外動静脈瘻・奇形
  ・その他(遺伝性出血性末梢血管拡張症;Osler病)

 ・脊髄梗塞
 ・脊髄硬膜外血腫
 


 
特発性脊髄ヘルニア

 胸椎中位に多い。自然整復の報告もあるが、硬膜欠損孔に嵌頓した脊髄の整復は手術を行う。愛護的に嵌頓を整復し、再嵌頓を防止するために、硬膜欠損孔を、拡大、縫合、人工硬膜などでパッチによる閉鎖などを行う。術後、筋力の回復は良好であるが、感覚障害や痙性は改善が劣るとされている。感覚障害は残存しやすい。
 


 
脊髄空洞症

 脊髄空洞症は種々の原因により脊髄に空洞を形成する慢性進行性の疾患。空洞症に対する手術は改善よりも悪化させないことが目的となる。小児の空洞症は自然消失することもあるので、余裕を持って経過を見ることが出来るように大後頭孔拡大術を行うことが多い。軽微な症状を捉えて早期診断が重要。

 脊髄空洞症の基礎疾患として、Chiari奇形(I、II型)が50%、脊髄損傷、脊髄腫瘍に伴うものがそれぞれ10%脊髄くも膜炎が6%とされる。男女比はほぼ同数、平均発症年齢28歳。Chiari奇形では女性が多く、小児期発症と30-40歳代で発症する例と二分化している。小児は側湾症で発症することが多く、初診時の神経症候は軽微。成人例では、上肢のしびれ、痛み、運動麻痺などがみられる。

・Chiari I型奇形に伴う脊髄空洞症
 初発症状は上肢のしびれ、痛み、重苦しさなどの不快感。筋力低下。筋萎縮は筋力低下後数年を経て起こることが多い。症状停止・改善例もあるが、Chiari I型奇形などの基礎疾患が取り除かれないかぎり、緩徐に進行する。

 神経徴候として

 脳神経症状:顔面感覚障害、胸鎖乳突筋萎縮、眼振、瞳孔不同、舌の線維束収縮、嚥下困難、嗄声。大後頭孔の異常では、下向眼振が特徴、めまいより動揺視。

 感覚障害:古典的には両側の宙づり型感覚障害が特徴とされてきたが、実初期には一側性のことが多く、経過中に対側の髄節障害や索性障害がでてくる。触覚を除いた表在感覚障害(感覚解離)、咳や怒責、いきみで自発痛が誘発される。(空洞症に特徴的)
痛みの頻度は高く、空洞症が縮小しても痛みが持続し、長期にわたることがある。

 運動症候:上肢の遠位筋優位の脱力・筋萎縮が特徴。上肢は運動障害側優位に筋緊張が低下、下肢に運動症候があれば側索障害のための痙性をていする。
 その他の症候:Charcot関節、自律神経障害(Horner徴候、発汗障害、起立性低血圧)

・脊椎側彎症:脊椎空洞症の20−85%に側湾が合併。小児では9割超。大人は15%程度。逆に側湾症の空洞症合併は4%程度。腹壁反射の消失が側湾の凸側、非定型カーブが45%。

・二分脊椎:空洞症の合併は3−45%。脊髄髄膜瘤(Chiari II型奇形)での頻度は3割程度。水頭症が高率に合併。

・脊髄外傷後脊椎空洞症
 比較的まれと考えられていたが、MRIの普及により比較的多く見られることが分かっている。発症率は12−22%に合併。交通事故、転落事故、落馬、ダイビングなどによる脊髄損傷患者が受傷後6週から数年を経て、進行性の感覚解離、感覚脱失レベルの上昇、上下肢・体幹の痛みやしびれが徐々に進行する。空洞は外傷後3-33年で形成される。外傷部より頭側は空洞は左右どちらかに偏在することが多く、上肢の症状にも左右差を認めることが多いとされる。

・脳底部および脊髄くも膜炎に伴う脊髄空洞症
 出生時の外傷・出血・細菌感染などで起こるとされている。全例に感覚障害、8割に運動障害、7割に筋萎縮、5割に痛み、3割に脊椎変形がみられる。治療は、大後頭孔減圧術+脊髄短絡術。

・後天性ChiariT型奇形(小脳扁桃下垂)に伴う脊髄空洞症
 腰部くも膜下腔腹腔シャント(L-p shunt)術後70%に小脳扁桃下垂が認められ、そのうち4%で脊髄空洞症に対する治療が必要であったとの報告がある。L-Pshunt除去により、また頭蓋内病変では腫瘍摘出、穿頭術で原因疾患を治療後にChiari奇形が消失し、園に伴い空洞も消失するとされている。

・延髄空洞症
 後頭蓋窩の発達異常により延髄に空洞形成するものと、脊髄空洞症が延髄方向に進展したものに分けられる。Chiari奇形は大後頭孔で上方伸展が障害されるので、外傷後脊髄空洞症に多く見られる。。症状は頭痛、回転性めまい、構音障害、三叉神経痛、嚥下障害、複視。そのほか、舌萎縮、顔面の温痛覚障害、軟口蓋麻痺・声帯麻痺に伴う構音障害・嚥下障害、眼振など。延髄空洞症は呼吸障害や嚥下障害を合併しらすく突然死の原因になるいるが、後頭下減圧術で症状の改善をみることが多いとされる。