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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科

過去ログ
2015.4
2015.5 2015.6 2015.7 2015.8 2015.9 2015.10 2015.11 2015.12
2016.1 2016.2 2016.3 2016.4 2016.5 2016.6
 
平成28年7月1日(金) ジャンパー膝(膝蓋腱炎)

■内的要因
・タイトネス(四頭筋、ハムストリング、下腿三頭筋など)
・筋力低下(四頭筋、ハムストリング、中殿筋、下腿三頭筋)
・関節可動域低下(股関節屈曲制限、足関節背屈制限など)
・身体的特徴(扁平足、脚長差など)

 タイトネスや筋力低下で膝蓋腱にかかる力が増える。四頭筋よりハムストリングが弱いと負荷が増大する。

■外的要因
・過度のトレーニング
・固いサーフェス(路面、グランド)
・シューズ

■病態
・膝蓋腱の膝蓋骨付着部に負荷により生じた微小外傷が修復できずにムコイド変性をきたして、慢性化するとされています。

■症状
・多くは膝屈曲荷重時に膝蓋骨下極の付着部の痛みが生じます。 
 
 
平成28年7月2日(土) 肉離れ

 奥脇のMRIによるハムストリング肉離れの重症度分類

 TypeI   :出血型 出血所見のみ。腱・腱膜に損傷無く、筋肉内または筋間(筋膜)の出血 
       保存治療、競技復帰は1-2週間

 TypeII  :筋腱移行部損傷型 筋腱移行部での損傷もしくは途絶像 
       保存治療、競技復帰は4-12週間(平均6週間)

 TypeIII :筋腱付着部損傷型 付着部付近での腱性部断裂、または腱付着部での裂離損傷 手術も考慮
       12週以上

 頻度はI,IIが同程度で、IIIは数%。

 Typeの判別には、受傷直後のストレッチ痛が決め手となります。明らかなストレッチ痛があれば、II以上が疑われます。MRIは確定診断に有効で可及的にMRIを行うようにします。

 保存的治療はTypeI,IIに対して行われますが、スポーツの復帰期間が大きく異なります。TypeIIでも受傷3週間ほどで痛みやストレッチ痛が改善してきますが、損傷した筋腱移行部の再構築は十分ではなく、この時期に運動復帰すると再断裂を起こし易く、TypeIとTypeIIの判別はしっかりと行う必要があります。可能であればMRIを行います。MRIは受傷24時間以内に行う方が、受傷程度、範囲を明確にしやすいとされています。
 
 肉離れはハムストリングが40%と多く、下腿三頭筋が次いで多く見られます。若者はハムストリングの損傷が多く、中高年は下腿三頭筋に多いとされます。

 ハムストリングの損傷は、陸上などの疾走時の損傷は遠位に多く、転倒やバレエ、ダンス、チアリーディング、新体操などの筋肉の生理的な限界を超える張力がかかる場合は坐骨結節近傍で起こりやすい。前者をスプリントタイプ、後者をストレッチタイプといい、ストレッチタイプの方が治療に時間がかかるとされています。

■治療

 受傷直後から48時間(急性期)はRICEを行います。(局所の安静、アイシング、圧迫、患部挙上)
 血腫が液状であれば、穿刺し吸引します。穿刺吸引時に生理食塩水を少量注入して吸引しやすくする方法もあります。液状である期間はとても限られています。多くの場合はすでに凝固して寒天状になっています。出血が塊では無く、びまん性に筋肉内に広がるケースでは、骨化性筋炎を起こし易いと言われています。びまん性出血の場合は、吸引は困難ですので保存的に経過をみます。早期に無理な可動域訓練を行うと骨化を促進しますので愛護的な治療が必要です。

 ・一部の医療機関では凝固して吸引が困難と判断されるものに対して、ウロキナーゼを注入し1−数日後に再度穿刺する血腫溶解穿刺吸引法を行っています。一般的な普及はしていません。(保険外治療)・・・当院では行っていません。

 奥脇の分類でTypeIIIは手術も考慮します。ハイアスリートの場合で、併走筋での代償が効かない場合、筋出力の比重が高い腱性部での断裂、付着部損傷(大胸筋遠位付着部損傷、ハムストリング近位付着部の総腱損傷)などは手術を検討します。(半膜様筋腱のみの近位付着部損傷は保存的でも可。半腱様筋と大腿二頭筋長頭腱の共同腱のIII度損傷は手術が必要となることが多い。両者の鑑別は、前者がSLR(straight-leg-raising test)テストで患肢の方が上がりにくく、後者は健側より抵抗なく上がる)
 
*鼡径部痛症候群の一部が腸腰筋の肉離れで生じていることがあります。発症早期にMRIで診断します。2-3週間経つとMRIで発見できないことも多いようです。

■MRIにおける治癒課程の変化

 TypeI,IIは保存的に治療。

 Phase1:受傷〜血腫の吸収、消退→損傷筋の安静
 Phase2:線維性瘢痕組織形成と腱性組織の再生→自動でのストレッチと無負荷もしくは自重までの求心性収縮
 Phase3:力学的強度の回復:他動のストレッチング〜求心性収縮負荷〜遠心性収縮負荷
 〜治癒

 中嶋によると、上記Phase1,2,3はほぼ等間隔で一週間程度で血腫が消失していれば、Phase2=1週間、Phase3=1週間の計3週間、Phase1が三週間要した場合、計9週間の治療期間を見込むとしています。

■復帰の目安

 Askling -test 臥位で患肢を急速に挙上させるテスト 

 参考:中嶋耕平 肉離れと筋打撲 MB Orthop.28(10):153-161,2015.
 
平成28年7月3日(日)
 
平成28年7月4日(月) 足関節捻挫〜たかが捻挫と侮るなかれ

 捻挫とは関節を生理的可動域を越えて外力が働き、捻れてしまった病態(状況、状態)をいいます。従って足関節捻挫では、捻ることによりさまざまな損傷が起こりえます。それをしっかり鑑別診断した上で適切な治療を行います。

 多くの足関節捻挫は内反損傷で外側靱帯群(主に前距腓靱帯、踵腓靱帯)が損傷し、場合によっては断裂します。重症例では後距腓靱帯や足根洞内にある距骨下靱帯群(骨間距踵靱帯など)が損傷することもあります。また靱帯付着部の裂離骨折や不顕性骨折などが合併することもあります。関節内軟骨の損傷もかなりの高率で起こっていることが分かっています。

 捻り方によっては外側靱帯群以外に、二分靱帯損傷(+付着部の踵骨前方突起骨折)、第5中足骨基部骨折、腓骨筋腱脱臼、短腓骨筋腱断裂などが起こることがあります。これらの損傷も足関節捻挫として受診される中でみられます。

 そのほか、鑑別すべき疾患として脛腓靱帯損傷、距骨の骨折(頚部、外側突起、後突起など)などがあります。

 これだけ外側靱帯損傷以外にもさまざまな疾患が起こっている可能性があるのですから、たかが捻挫と侮ってはいけません。かりにたまたま外側靱帯損傷であっても、軟骨損傷が隠れていたり、他の損傷が併発していることもあります。さらに厄介なのは、外側靱帯損傷単独でも重傷度によっては、きちんと治さないとあとあと後遺症が出やすくなります。後遺症としては靱帯が緩んでしまい、足関節の不安定性や痛みが残存して、日常生活に支障やスポーツでのパフォーマンスの低下などの障害が発生します。

■重症度分類(前距腓靱帯の損傷程度により)

 I 度 マイクロレベルの前距腓靱帯の損傷がなく明らかな腫脹や出血を伴わない
 II度 靱帯線維束の部分断裂と軽度の腫脹と皮下出血
 III度 靱帯の完全断裂と高度の腫脹と皮下出血
 
 I度は必要に応じてテーピングを中心とした固定を行います。II度の場合は、ギプスシーネにてU字型に固定します。固定期間は1-2週間で、その後、程度に応じて装具療法に切り替えます。極軽症のものは、経過を診るだけの場合もあります。

 腫れや痛みの強いIII度はギプスシーネでU字固定をして、必要に応じて松葉杖等で免荷します。痛みは個人差がありますが、歩行時疼痛を訴える場合は松葉杖等で免荷する方が良いでしょう。ギブスシーネは急性期を除いて入浴時には外して問題ありませんが、夜間外したままだと足関節が底屈して前距腓靱帯が断裂部で解離してしまうので、必ず夜間は装着するようにします。締まりすぎて痛い場合は、緩めるように指導します。

■III度 重症例の治療方針

 前距腓靱帯の完全断裂を伴い高度の腫れと皮下出血を生じたものはIII度と判断して治療に当たります。前距腓靱帯の損傷程度は超音波断層撮影やMRIも補助検査として有効です。レントゲンでストレス撮影を行う場合は急性期では痛みが強くて実施困難ですので、急性期を過ぎた2週間程度経過したときに、必要に応じて行うようにします。

 かつてはIII度の場合、手術を行うことも多かったのですが、現在ではまず保存的治療を優先します。(手術をした方が安定性が良かったとする意見や活動性が高いアスリートほど保存的治療では成績が不安定になるとも指摘されています。)

 初回では無く、もともと不安定性を自覚していた場合は、再発として扱い、急性期が過ぎれば、速やかに復帰できるように考慮します。

 前距腓靱帯損傷のみでは、距腿関節で骨性の安定性が高いため、受傷直後は加重をかけてもあまり痛まない。初期治療をきちんと行えば、荷重時の痛みは出てこないとされており、荷重時の痛みが強く、歩行困難な場合は、距骨下靱帯(足根洞内靱帯)にも損傷が生じている可能性があります。また、距骨骨折や脛腓靱帯損傷などにも注意が必要です。

<病期と治療>
受傷〜1週間 急性炎症期 初期治療 RICE→関節の安静、消炎処置、拘縮予防→U字スプリント固定、初期急性期が過ぎればマイルドに訓練開始。足関節の可動は大きくしない。アイソメトリックも可。

1〜3週間   増殖期   早期運動療法 損傷靱帯の安静をはかりながら可動域訓練と筋力強化訓練を徐々に行う。運動はCKC(Close Kinetic Chain)、中間位で底屈角度は15-20°まで。内がえし運動は絶対にしない。最初は座位かかと上げ体操、座位つま先上げ運動を行う。筋力のあるアスリートは徐々に立位〜片脚で行ってもよい。日中は半硬性ブレースなどを使い、夜間はU字スプリントを使用します。(費用面で、U字スプリントを継続することも。アスリートの場合、運動復帰に必要なのでブレースを使用)

 *当初、2週間程度は特に靱帯の修復ためのコラーゲンの蓄積が行われるので、この段階で過剰な運動を行うと損傷した靱帯は十分に修復されないことになるので注意したい。

3〜6週間   増殖期   運動療法加速期 正常関節可動域と筋力を正常化 この時期、靱帯損傷や骨折の痛みは軽減します。痛みが強い場合は、軟骨損傷などを疑ってCT,MRI。
運動は機能回復訓練、底屈範囲も徐々に拡大し、筋力強化も座位から両脚立位、さらには片脚立位へと負荷量を増大させます。アスリートはバランスボードによる固有知覚トレーニングも行う。

6週間〜3ヶ月 リモデリング期前期 アスレチックリハビリ期 スポーツ動作に即した関節機能訓練と再発予防のために積極的訓練 瘢痕性修復が完成し、リモデリングが開始。大きな負荷以外は靱帯保護は不要。運動時のみ装具をつけます。軽いジョギングを開始。当院では歩行とジョグを組み合わせたインターバルジョギングを推奨。足関節周囲の訓練は継続。→この時期に、明らかな疼痛や不安定性を認める場合は、精査要。

3ヶ月後〜半年〜1年後 リモデリング後期 段階的スポーツ復帰期 再発予防対策を取りながら徐々に活動性を上げていく。リモデリングの成熟には1年ほどかかるので、完全復帰は遅いほどよい。再損傷のリスクは通常より高い。

 *このように重症の靱帯損傷の修復には、半年〜1年ほどかかることになります。病期に応じた治療を適切に行わないと不安定性残ったり痛みが継続することがあります。                                                                                                                                                                                                                                   
 *足根洞内靱帯(距骨下靱帯)損傷では、前距腓靱帯よりやや前下方に痛みが生じます。更に前下方で二分靱帯損傷となります。外果前方で前距腓靱帯、後方やや下方で後距腓靱帯損傷。

参考:栃木祐樹ら 獨協医科大学 MB Orthop.28:163-172, 2015.
 
 
平成28年7月5日(火) 腰部脊柱管狭窄症と上殿神経障害の違いについて

   最近、NHKで腰部脊柱管狭窄症と診断された方が、実は上殿神経障害でありブロック注射をして症状が劇的に改善したという番組が放映されました。その後、当院にも問い合わせがあります。腰部脊柱管狭窄症と上殿神経障害は臀部から下肢に似たような症状を起こしますが、まったく「別の原因」で起こっている「別の病気」です。

 上殿皮神経障害の場合、絞扼部のブロック注射を行うと症状が改善することがありますが、腰部脊柱管狭窄症ではこの注射をしても、当然、治りません。上殿皮神経障害は他の腰痛疾患と合併していることもあり、単独発症、併発の有無等をしっかりと診察する必要があります。正確な診断を行って適正な治療を行うことが大切です。
 
 
平成28年7月6日(水)
 アキレス腱断裂 Achilles tendon rupture

 かつてはアキレス腱断裂が生じると手術が当たり前のようにして行われてきました。近年、新鮮アキレス腱断裂に対し保存治療を行うようになってきています。現在も手術療法と保存療法の優位性についての議論は続いていますが、手術をしなくても遜色なく治るのであれば、保存治療を選択するのは当たり前だと考えます。

 保存療法もさまざまなものが報告されています。原則としては底屈位で固定し、断裂した腱が接するようにします。底屈位には自然下垂位もしくは最大底屈位にて膝関節より下方の固定を行います。荷重をかけるか、かけないかは施設によって異なります。その後徐々に底屈の度合いを弱めていきます。固定材料は、ギブス、ギプスシャーレ、機能的装具などを用います。

 <一般的な治療>
 従来のギプス固定+免荷という治療から、機能的装具を用いた早期運動、早期荷重を行うものまで治療方針には幅があるのが現状です。
 固定方法 初期:ギプス、ギプスシーネ、機能的装具、途中から機能的装具に切り替える方法などがあります。

 初期固定角度:足関節底屈位:最大底屈位(50−60度)、自然下垂位(30−40度)、もしくは両者の中間。テータ的には底屈度が増すほど再断裂率は低くなる。



 平均的な治療としては、ギブスもしくは機能装具を用いて6週間の底屈位固定を行う。荷重は全荷重は6週間後とするものから、機能装具を装着すればただちに全荷重を行うものまで差があります。いずれの方法でも、底屈度は固定期間中に徐々に下げて0度まで戻します。(例:最大底屈位2週間、自然下垂位2週間、背屈位ゼロ度2週間)、装具の装着は受傷後8週から10週程度継続します。

 装具脱着は自分で行わずに医療機関でのみ行うようにします。

 *再断裂は装具除去後2ヶ月以内でほとんどが発症しています。外固定終了後、足関節を強制背屈させることがないように心がけます。
 
 *治療開始までの期間と保存療法の適応
  受傷3日以内、受傷5日以内なら保存治療の適応。断端が寄るのであれば14日以内でも可。(超音波診断が有効)

 *手術療法より保存療法の方が下肢のDVT(深部静脈血栓症)を起こし易い。
 
 
平成28年7月7日(木) 遠位脛腓靱帯損傷 injuay of ITFL

 前下脛腓靱帯(AITFL)と後下脛腓靱帯(PITFL)があります。いずれも果部骨折に合併することが多い。まれにスポーツ外傷では前脛腓靱帯の単独損傷(high ankle sprain)を起こすことがあり、脛腓間の解離が小さい場合は、診断が難しく、外側靱帯損傷などとの鑑別診断が重要です。

 外旋ストレス検査で足関節やや上方の前下脛腓靱帯に痛みが生じれば、陽性。レントゲンでは左右差が重要です。(脛腓間の距離は個人差が大きいので)、はっきりしないものは超音波、CT、MRI。

 典型例は外旋もしくは外転ストレスが原因となります。レントゲンにて骨折が無く、脛腓間の離開がはっきりしない場合は、外旋ストレステストを行い、前脛腓靱帯に一致した部位に疼痛が誘発されるかをみます。

<治療>

 保存治療:脛腓間の開大が軽度、非荷重位で整復されている場合は、保存的治療を行います。脛腓間が拡大しないように、足関節軽度底屈位〜中間位で3-4週間のギブス固定と免荷を行います。その後、足関節装具とし、荷重位レントゲンにて開大しないかを確かめながら、徐々に荷重をかけます。

 脛腓間の拡大が無く、荷重歩行が可能な軽症例では、足関節装具やテーピング固定のみで、痛みが強くならない範囲で荷重を許可します。

<スポーツ復帰>

 背屈位での踏み込み動作や回旋運動は、遠位脛腓靱帯を開大させる力が働くので、再損傷の危険性があります。スポーツへの復帰は、可動域や痛みなどを総合的に判断して慎重に決めていきます。

<手術>

 スクリューやステイプルを用いて固定します。

 
 
平成28年7月8日(金) 足関節内側靱帯損傷(三角靱帯損傷)

 足関節の外側靱帯損傷については、ネットでも詳細に記載されていますが、内側靱帯(三角靱帯)の損傷はあまり書かれていません。頻度的にも圧倒的に外側が多いです。内側靱帯(三角靱帯)は足関節が外がえしになることによって損傷します。

 三角靱帯は、浅層と深層に分けられます。深層は、内果から起始し距骨に至ります。(前距腓線維と後距腓線維)浅層は内果から起始し舟状骨、踵骨、距骨へと幅広く付着します。(脛舟線維、脛踵線維、脛距線維)

 単独で部分損傷で不安定性が無いものは、保存治療を選択します。中間位で4週間ギプス固定ののち足関節装具を使います。荷重は疼痛の軽減を待って行います。(通常、2週間頃からギプスのまま荷重)

 手術は、深層と浅層をそれぞれ別々に縫合します。とくに深層の損傷をしっかり確認して修復する必要があります。
 
 
平成28年7月9日(土)  手指(末節骨・中節骨・基節骨・中手骨)の骨折

 骨折が疑われるときはレントゲン撮影を行います。レントゲン上、骨折がはっきりしないが骨折が疑われる臨床症状を示すときは、骨折に準じてギプスなどで固定を行います。(臨床症状優先)1-2週間後にレントゲンを再度撮影するか、早期にMRI(場合によりCT)を行う。

 <後遺症の予防>

 避けられる後遺症は出来るだけ起こらないように心がけます。

1.MP関節の伸展位拘縮(MP関節とは指の付け根にある関節)
 MP関節の中手骨骨頭は前方に楕円形の長軸がくるので、前に突出したようになっています。従ってMPが伸展する(楕円の短軸方向)と側副靭帯は緩み、MPが屈曲する(楕円の長軸)と緊張します。外傷や炎症のあるときに、3-4週間、伸展位固定をすると側副靭帯が短縮してMP関節が曲がりにくくなります。MP関節を固定するときは出来るだけ屈曲位で行います。

2.指の回旋変形
 中手骨骨折において骨折部が回旋するとCross finger(交叉指)となることがあります。初診時、手指を握ってクロスしていなかをしっかりとみます。最大屈曲位で指が重ならないようにすることが大切です。

3.腱の癒着

 基節骨周辺は腱の癒着が起こりやすい。およそ4週間で起こるので、早期に自動運動を行うことで予防します。もし癒着が生じてきたら、バネがついて指を伸ばす装具(カプナースプリント)を装着し改善を図ります。

<末節骨骨折>

1.腱の停止部より末梢の骨折
 骨折に対して圧迫するものが無く、骨折部が離開して、骨癒合が得られにくい。骨癒合しない(偽関節)場合もありますが、軟部組織でつながって問題はありません。弾力絆創膏での圧迫固定を追加すると効果的。

2.腱の停止部より中枢での骨折
 伸筋腱と屈曲腱により骨折部に圧迫する力が働くので、骨癒合は停止部の末梢の骨折よりは得やすい。癒合には4-5週間かかります。

<マレットフィンガー(槌指)>

 いわゆる「突き指」ですが、その成因により2つ(骨性、腱性)に分けられます。
1.腱損傷
 小さい裂離骨折伴う場合でも、指の伸展が出来ないものは、腱損傷として扱います。損傷後、1ヶ月前後でも保存治療は可能とされています。6−8週間の長期にわたるスプリント固定を行います。この期間は、勝手に外してはいけません。

2.骨片を伴うもの(関節内骨折)
 指の伸展機構には障害が無いので伸展は可能です。骨片が大きくとも転位が少ない場合は、保存治療が可能。この場合、やや屈曲位で固定。骨癒合は約8週間。期間中にずれる場合は手術。転位のある大きな骨片や掌側へ亜脱臼する場合は手術。

 マレットフィンガーの分類
 a:伸筋腱の断裂(骨片なし)
 b:小さな裂離骨折を伴い、指の伸展が出来ないもの
 c:関節面の3分の1以上の骨片を伴うもの。(骨片と末節骨とは骨膜がつながっているので伸展可能)
 d:大きな骨片を伴い、掌側への亜脱臼を伴うもの
 
平成28年7月10日(日)
 
平成28年7月11日(月)手指(末節骨・中節骨・基節骨・中手骨)の骨折2

<中節骨骨折>
 浅指屈筋腱(FDS)の停止部より、中枢の骨折は背側凸、抹消での掌側凸変形を起こします。
 1.骨幹部骨折 固定性が悪く経皮的ピンニングを要することが多い。骨癒合には長期間。
 2.頚部骨折 イメージ下に整復し、DIP屈曲位でシーネ固定3-4週間。または創外固定4-6週間

<PIP関節損傷>
 拘縮予防が大切で、固定期間が重要。

1.側副靱帯損傷 側屈20°以上の不安定性があれば、手術を考慮。反対側と比較して不安定性が無ければバディーテープにて積極的に可動域訓練を行い、6-8週間固定します。

2.掌側板裂離骨折 ボールなどで過伸展を強制されて起こります。PIP関節30-40°屈曲位で背側スプリントを一週間程度行い、バディテープ法に切り替えるか、最初からバディテープ法を行います。積極的に可動域訓練を行う。3-4週間固定したままだと拘縮を起こしますので、必ず、可動域訓練をしっかりしましょう。

3.背側脱臼骨折 整復後、安定性を得られるものは保存治療。軽度屈曲で再脱臼するものや軸圧損傷で関節面での陥没骨折が大きく、関節面の適合性を欠くものは手術適応。

4.掌側脱臼骨折 極めてまれ。整復位がとれず、手術になることが多いとされています。
 
 
平成28年7月12日(火) 手指(末節骨・中節骨・基節骨・中手骨)の骨折3

<基節骨骨折>

 掌側の骨間膜付着部で引かれ、伸筋腱中央索が遠位で引っ張るので、骨折は掌側凸変形をきたす。

1.骨幹部、基部骨折 腱損傷の無いものはナックルキャスト。関節にかかる骨折は、経皮的ピンニングののち、ナックルキャストにて固定します。基節骨骨折で、SHIIの骨端線損傷を整復した場合は、バディテープで4週間固定を行いながら可動域訓練を行います。

2.頚部骨折 基節骨もしくは中節骨頚部での骨折は背側転位が多い。完全に転位し騎乗位となったものは、手術になることが多い。
 
 
平成28年7月13日(水)
 手指(末節骨・中節骨・基節骨・中手骨)の骨折4


<中手骨骨折>

 1.頚部骨折 壁を殴ったり強くぶつけることで起こります。頚部は30-50°掌屈転位を生じることが多く、整復します。整復しても40°以上の転位を認める場合は、経皮的ピンニングをし、ナックルキャストを行います。

 2.骨幹部骨折 斜骨折、横骨折が多く、整復が難しい。手術してプレート固定をすることが多いです。ピンニング+ナックルキャストもあり。

 *ナックルキャスト 基節骨骨幹部骨折や基節骨基部骨折、中手骨骨折などでのギプス固定法。MP関節を70-90°屈曲位にしそれ以上は伸展出来ないように手背側はギプスによる覆いを作ります。掌側はMPがフリーに動くように解放し、積極的に可動域訓練を行えるようにします。ギプスの中枢側は骨折部位より1関節越えるようにします。
 
 
平成28年7月14日(木) 鎖骨骨折

 鎖骨骨折の保存治療では偽関節が発生することはまれではありません。一説によると15%で起こるという報告があります。ただし鎖骨骨折では症状の無い偽関節もまれでなく、痛みの原因として肩関節拘縮を合併しており、拘縮を運動療法で改善させると痛みが無くなることがよくあります。偽関節発症の要素として側方転位が重要で、骨幅150%以上の転位は偽関節リスクが高く手術を勧めるとしています。

<鎖骨骨幹部骨折>

 側方転位が150%を超えるものは偽関節リスクが高いと考えて手術を勧めます。保存治療は、かつては「胸を張って鎖骨バンドで整復位を保つ」ようにしましたが、現在では、転位した鎖骨骨片に対して整復位を外固定で保つのは困難であるとされています。また鎖骨バンドと三角巾の治療効果には差がありません。

 従って、手が使いやすいように利き手側の鎖骨骨折は鎖骨バンドで、反対側は三角巾を使うとする意見もあります。保存治療では、シャワー浴は受傷直後より可能で、急性期を過ぎれば、入浴も許可します。外固定の有無で痛みの差が無くなれば、外すようにします。リハビリは疼痛が生じない範囲内で動かすようにします。
 

 受傷後、12週を経てもレントゲンで骨癒合が確認できなくとも、患肢の使用は制限しません。例え偽関節になっても、可動域制限が無く、痛み無く患肢を使用できればよいという考え方に基づいています。遷延治癒例では、愁訴が無ければ半年後または1年後に再撮影を行います。十分期間をかけると骨癒合を得られている場合があるとしています。

参考 鎖骨骨折 小林誠 MB Orthop.28(10):211-216,2015
 
 
平成28年7月15日(金)鎖骨骨折2


<鎖骨遠位端骨折>

鎖骨遠位端骨折(Neer分類)

Type1:烏口鎖骨靭帯が無傷で転位なし。→保存治療
Type2:烏口鎖骨靭帯(円錐靭帯)が内側の骨片より剥がれたもの。→近位骨片上方転位→転位が強ければ手術を考慮
Type3:肩鎖関節が骨折したもの。→肩鎖関節内骨折→保存治療

 Neer分類TypeIIは遠位が重力にて下方に引かれるので、近位端は上方に跳ね上がります。保存治療では高率に偽関節を形成しますが、普通の生活には支障が無いことが多いとされています。「以前はTypeIIの遠位骨折は全例手術が行われていましたが、偽関節となっても機能がよいので、手術適応は若くて活動性の高い人に限られる」となっています。

 小林誠によると、原則保存的治療を行い、固定は三角巾のみとしています。また患者への説明として
・手術をしないと高率に偽関節となるが、偽関節であっても機能的には問題が無い
・ただし、外観上、触診上の変形・左右差は残る
・受傷後3週間程度で痛みは自制内となり、左右差のほとんどない挙上が可能となる
・変形が残るのが嫌なら手術をしなければいけないが、変形が残ってもよいなら手術をしない治療を勧める
としている。

参考 鎖骨骨折 小林誠 MB Orthop.28(10):211-216,2015
 
 
平成28年7月16日(土) 踵骨骨折

 全骨折の約2%を占め、足根骨折の中では最も頻度が高く、その70−75%は距骨下関節を含む関節内骨折とされています。骨癒合は良好だが、疼痛の遺残などが問題となっています。骨折型、解剖学的整復位と予後は必ずしも相関しない。→治療法の選択は意見の一致をみていない。

<踵骨関節外骨折>
 保存治療:転位のない前方突起骨折、踵骨体部や載距突起を含む踵骨中央部骨折→転位が2mm以下、6週間外固定・免荷
        転位が2mm以下の後足部の突起および結節骨折 2-3週間外固定ののち、部分荷重開始

 手術治療:転位した前方突起骨折、アキレス腱の付着する隆起部骨折

<踵骨関節内骨折>

1.早期運動療法と装具療法
 転位のないもの〜3mm程度までの転位は保存治療。関節面の転位が大きいものは整復。受傷直後は、安静、患肢挙上、アイシング、短期間のギプス固定、弾力包帯固定。その後、疼痛に応じて一週間以内に早期可動域訓練を開始。足関節の底屈、背屈だけではなく、内がえし、外がえしの距骨下運動を行うことが重要。足部の腫脹が軽減すれば、アーチサポートを装着し、受傷5-6週間で部分荷重を開始。

 骨萎縮や関節拘縮予防のため、ギプス固定や免荷期間は長期間にならないようにします。

2.徒手整復 腰麻下に受傷3日以内に行うようにします。整復後原則的にはギプス固定は不要。足関節尖足位で前足部荷重装具。早期運動療法。1ヶ月でプール歩行、2ヶ月でアーチサポート+杖で歩行開始。3ヶ月ですべて除去して歩行。

*転位のある踵骨関節内骨折の治療に関して、保存治療より手術治療が優れているとするはっきりとしたエビデンスは無い。

<保存治療の合併症と後遺障害>

 長期免荷による骨萎縮、関節拘縮や疼痛、距骨下関節症、外側壁の突出による腓骨筋腱や腓腹神経の障害、扁平足、後足部の内反変形、踵部の拡大など→治療:鎮痛剤、靴の修正、関節内ブロック、活動制限などが行われるが、治療に難渋することも多い。→骨切術、関節固定術を行うことも。

*保存治療を選択できない手術療法を要する踵骨骨折は正確な整復位を得るのが困難で合併症も多いとされています。
 
平成28年7月17日(日)
平成28年7月18日(月) 海の日
 
平成28年7月19日(火) 低出力超音波パルス療法(LIPUS)は本当に効果があるのか?

Bone Joint nerve 7.2015の記事に表題の記事があったので興味深く読みました。LIPUSとは弱い超音波を骨折部に当てると治癒を促進する作用があり、難治性の骨折(偽関節など)に保険適応があります。毎日、20分間照射すると骨癒合を促進できます。

 新鮮骨折において、レントゲンで骨癒合を得るまでの期間は、脛骨骨幹部骨折(保存治療)でコントロール群が154日に対しLIPUS群は96日と35%短縮されています。髄内釘手術を行った例では、1999年のEmamiによる報告では効果なし、その後、2004年にでたLeungの報告(創外固定もしくは髄内釘)では、コントロール群が140日、LIPUS群が81日と42%短縮しています。

  そのほか、新鮮骨折の保存療法では、橈骨遠位端77日→51日34%短縮、舟状骨骨折62日→43日31%短縮、鎖骨骨折49日→52日効果なしというデータでした。

 そこで渡辺らは、国内の18歳以上の新鮮脛骨骨折(粉砕骨折、開放骨折)343例を調査した結果、受傷あるいは手術から21日以内に照射を開始することが重要としています。髄内釘固定例では骨癒合促進効果は短縮されなかった。プレート固定例は30%の短縮がみられた。これにより、新鮮例においても、保存療法、手術療法ともにLIPUSは骨癒合を促進する可能性が高いとしています。

 LIPUSの重大な副作用は報告されておらず、開放骨折、粉砕骨折、喫煙者、栄養不良などの骨融合不全になりやすい患者には、補助療法としてLIPUSを試みる価値が高いとしています。

<遷延治癒・偽関節>

 遷延治癒・偽関節に対してLIPUSは有効と報告されています。遷延治癒・偽関節に対し追加手術なしに骨癒合を得られたのは、遷延治癒の90%、偽関節の84%としています。(脛骨偽関節の自然治癒率は5−30%)明らかにLIPUSは効果があると考えられます。

 *LIPUS照射を行っても1年以内に治癒しない例を検討した結果、成績不良因子としては以下の通り
1.骨折部の不安定性、固定破綻
2.骨折部の最大間隙8−9mm以上
3.萎縮性偽関節
4.髄内釘固定

 このような因子を複数含む場合は、LIPUS単独での骨癒合はあまり期待できず、手術療法を優先すべきとしています。
 *手術療法 再内固定術(髄内釘等)、骨移植(血管柄付き骨移植も含む)、骨皮質剥離手術
 
 
平成28年7月20日(水)
  難治性偽関節の分類

<難治性偽関節の分類>

 肥厚性偽関節 骨折端の血行が豊富で仮骨(修復された新しい骨)は形成されているが骨癒合が得られていない
 萎縮性偽関節 骨折端の血行に乏しく線維組織があり仮骨はほとんど認められない
 骨欠損型    一部の骨片が摘出され,骨折部に隙が存在する

 感染性偽関節 
  非排膿型 3ヶ月以上膿(うみ)の排出がなく鎮静した状態にある「静止感染型」と、3ヶ月以上膿(うみ)の排出はないが症状が認められる「活動型」がある
  排膿型  骨折端の血行に乏しく線維組織があり仮骨はほとんど認められない
 
 
平成28年7月21日(木) エジプト型の足はエジプト人に多い?

 足趾の長さでエジプト型(母趾が一番長い)、ギリシア型(第2趾が一番長い)、ローマ型(1,2,3趾がスクエア)などがあります。日本人で多いのは、エジプト型です。エジプト型やギリシア型は、絵画や彫刻でそのように描かれているので名付けられています。成長期にしっかり歩くと母趾が発達して長くなりエジプト型に、歩かないとギリシア型になるそうです。最近の若者はあまり歩かずに成長していることが多く、ギリシア型が増えていると言われています。

 歩く動作では体重を母趾に乗せるlことにより前に移動しますので、理にかなった話だと思います。
 
 
平成28年7月22日(金) 人差し指と薬指の関係

 男性は人差し指が薬指より短く、女性は長い傾向があります。これは胎児の頃に男性ホルモンの量によって規定されるようです。このことを使った占いもありますが、当たるのかどうかはエビデンスが無い話ですので、あまり信用しない方が良いかと思います。
 
 
平成28年7月23日(土)   筋膜性疼痛症候群(MPS) myofacial pain syndrome 〜エコーガイド下筋膜リリース

 痛みの強いところに局所麻酔薬を使ってブロック注射をおこなうことをトリガーポイント注射といいます。筋肉の表面は筋膜で覆われており、痛みを感じる侵害受容器が多数分布しています。

 筋膜に炎症が起こったり、癒着が生じると侵害受容器が刺激されて痛みを感じるようになります。この痛みはなかなか厄介で、痛み止めなどの投薬治療に抵抗して頑固に継続することがあります。これらの痛みに対して局所麻酔薬を筋膜に沿って注入すると、劇的に改善することがあります。麻酔作用時間以上に効果が持続するのはよく経験します。

 また筋膜に局所麻酔薬よりも生理食塩水を注入したほうが鎮痛効果が得られるとする論文も1980年代にLancetに掲載されています。

 近年、この頑固な痛みを引き起こしている筋膜炎を筋膜性疼痛症候群と呼び、超音波ガイド下に局所麻酔薬もしくは生理食塩水を用いて筋膜リリースを行い、症状を劇的に改善させる手技が徐々に広まってきています。

 当院においても肩、腰などの筋膜性疼痛に対して、エコーガイド下で筋膜リリースを行っています。エコーはコニカミノルタのHS-1(Simple Needle Visualization機能オプション搭載)を使ってより安全に穿刺が出来るようにしています。


 Simple Needle Visualization 機能:独自の画像解析処理技術により穿刺針と推定される変化を認識しBモード画像上に穿刺針強調表示を行う機能です。(コニカミノルタ社 HPより)

 明らかに筋膜性以外の痛みの場合、残念ながら筋膜リリースは効果がありません。従いまして筋膜リリースをするか否か適応があるかどうかは、きちんと診察を行った上で医師である院長が判断します。このため筋膜リリースを希望されても、病状によってはご希望に添えないこともございます。
 
平成28年7月24日(日)
 
平成28年7月25日(月)
 エコーガイド下筋膜リリース


 本日は午前診で、超音波ガイド下に生理食塩水による筋膜リリースを2件行いました。お一人は今まで寝ていて立つときに10分ほど疼痛が起こっていたものが、『注射後、すっと立てたのが不思議な感覚です。』とおっしゃいました。このように劇的に効果がみられることもあります。やはり筋膜性か否かの診断が大変重要だなと思った次第です。

 
 
平成28年7月26日(火) 環指・小指のしびれ


 8月号の「関節外科」のテーマは「環・小指のしびれを主訴とする疾患の鑑別」となっています。編者の信州大学医学部運動機能学教室 加藤博之教授によると、『肘部管症候群100例近くを術後、フォローした結果、経過中に神経内科の疾患、頚椎症性脊髄症、胸郭出口症候群であることが判明し、愕然とした。』とありました。確かにプロ中のプロ(上肢専門)でも間違えるほど、しびれは厄介です。中枢神経から末梢までさまざまな疾患でしびれが出ますので、鑑別するのも一苦労です。もちろん典型的な症状が出ていれば、それほど鑑別が難しくないのですが、それでも疾患が一つとか限らず、2カ所、3カ所の障害により症状が出ていることもあります。(ダブルクラッシュ症候群、トリプルクラッシュ症候群、マルチプルクラッシュ症候群)

 もう一度、知識を整理するにはタイムリーな発刊と思います。更なる高みを目指して勉強してみましょう。


 ダブルクラッシュ症候群 Double Crush Syndrome : 末梢神経が二カ所以上で狭窄されるとぞれぞれの症状以上に強く障害が出るという説。三カ所だとトリプル、それ以上だとマルチプルとなります。例えば、頸椎症による神経障害と手根管症候群が合併したものがよく見られます。おのおの単独障害では説明のつかない所見を認めます。手術を考慮する場合は原則として末梢の狭窄部位から行うとされています。
 
 
平成28年7月27日(水) 環指・小指のしびれ 神経内科疾患(ニューロパチー)

 医学生の頃、神経内科が結構面白く感じて、真面目に取り組みましたが、かなり難しい分野です。すればするほど頭の中が混乱した苦い記憶があります。今回(関節外科8月号)は、環指・小指にしびれを起こす神経疾患として、ニューロパチーについて書かれています。ニューロパチーとは「末梢神経の病気の総称であり以前は神経炎と呼ばれていました。(現在、神経炎は炎症細胞の浸潤などを認める疾患にのみ使用)運動、感覚、自律神経の障害を起こします。

 ニューロパチー分類
 単一(モノ)ニューロパチー:単一の神経障害
 多発単(モノ)ニューロパチー:別々の領域にある2つ以上
 多発ニューロパチー:多数の神経を同時に

 単一モノニューロパチーは、特に急性期では外傷による末梢神経障害があります。また持続的な微少外傷の繰り返しでも起こります。(エアハンマー、小さな道具を強く握る)突出部の持続的な圧迫は圧迫性末梢神経障害を生じさせます。(尺骨、橈骨、腓骨神経)解剖学的に細い部分を通る神経が圧迫されると絞扼性神経障害となります。(手根管症候群など)何らかの形で単一の神経を圧迫することで症状が出ます。

 多発モノニューロパチーは、結合組織疾患(結節性多発動脈炎、SLE、Sjogren症候群、RA)、サルコイドーシス、代謝疾患(糖尿病、アミロイドーシス)、感染症(Lyme病、HIV、ハンセン病など)などで起こります。(糖尿病は感覚運動性遠位多発ニューロパチーが生じる)

 多発ニューロパチーは、広汎性の末梢神経障害です。運動神経線維を侵すポリニューロパチー(鉛中毒、グルコスルホンナトリウムの使用、ダニ、ポルフィリン症、ギラン・バレー症候群)、感覚神経線維を侵すポリニューロパチー(癌による後根神経節炎、ハンセン病、AIDS、豆乳病、慢性ピリドキシン中毒)、更には脳神経も侵される疾患(ギラン・バレー症候群、Lyme病、糖尿病、ジフテリア)もあります。

    臨床症状 




状  
   多発ニューロパチー   多発単ニューロパチー
 運動・感覚神経  代謝性、欠乏性
 薬剤性
 アミロイドーシス
 CIDP
 Guillain-Barre症候群
(脱髄型、一部の軸索型)
 血管炎性
 CIDP
 純粋感覚神経    後根神経節炎
(糖尿病合併、薬剤性など)
 純粋運動神経  Guillain-Barre症候群
(軸索型の大部分)
 多巣性運動ニューロパチー

*CIDP 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy

 
平成28年7月28日(木) 環指・小指のしびれ 神経内科疾患(ニューロパチー)2

<多発ニューロパチーの機能障害部位別分類> 

 ミエリン機能障害 莢膜で覆われた細菌(カンピロバクターなど)、ウイルス(腸内ウイルス、インフルエンザ・ウイルス、HIVなど)、ワクチン(インフルエンザワクチンなど)により感染随伴性免疫応答に起因することが多い。末梢神経内の抗原と交叉反応を起こす。

 神経栄養血管障害 慢性動脈硬化性虚血、血管炎、凝固機能亢進により栄養血管からのフィーディングが障害される。

 軸索障害 対称性の軸索障害は、中毒、代謝障害で起こることが最も多いとされる。軸索障害は遠位部に生じる傾向がある。糖尿病、慢性腎不全、化学療法剤なども原因となる。栄養欠乏(ビタミンB欠乏が最多)、ビタミンB6またはアルコールの多量摂取でも起こる。代謝性(頻度は低い)では甲状腺機能低下症、ポルフィリン症、サルコイドーシス、アミロイドーシスなどがある。ある種の化学物質、鉛・ヒ素・水銀などの重金属の暴露などでも発症する。

 小細胞肺癌の腫瘍随伴症候群では、脊髄後根神経節およびその感覚神経軸索の喪失により亜急性感覚神経障害を起こすことがある。
 
 
平成28年7月29日(金) 環指・小指のしびれ 神経内科疾患(ニューロパチー)3

 <ニューロパチーの診断>

 臨床所見のうち、特に発症の速度が重要。

 非対称性→ミエリン鞘または神経栄養血管障害

 遠位の対称性→中毒性、代謝性

 緩徐に進行性し慢性→遺伝性か毒物の長期暴露または代謝性

 急性→自己免疫応答、血管炎、感染後

 非対称性の軸索神経障害で発疹、皮膚潰瘍、レイノー現象→凝固亢進、感染随伴性、自己免疫性の血管炎

 体重減少、発熱、リンパ節症、塊状病変→腫瘍、感染随伴性症候群を示唆。

 
 
平成28年7月30日(土)
  環指・小指のしびれ 神経内科疾患(ニューロパチー)4

<ニューロパチーの検査>

 筋電図と神経伝導検査が必要。Guillain-Barre症候群初期では近位軸索が障害されるのみで筋電図は性状のことがある。

 血液検査では、CBC、電解質、腎機能、迅速血漿レアギン試験、空腹時血糖、HBA1c、VB12、葉酸、甲状腺刺激ホルモン、血清タンパク電気泳動

 ■個別疾患ごとの対応

 努力肺活量測定:Guillain-Barre症候群と同様に急性のミエリン機能障害性神経障害
 急性、慢性のミエリン機能障害性神経障害→肝炎、HIVを含む感染性疾患、免疫機能不全の検査、蛋白電気泳動
 運動機能障害が主→抗ミエリン関連糖蛋白質(MAG)抗体
 感覚機能障害が主→抗スルファチド抗体
 腰椎穿刺:自己免疫応答によるミエリン機能障害は、しばしば髄液のアルブミン細胞解離を起こす。CSF中のタンパク質が増加(>45mg%)、WBCは正常。(<5/uL)

 非対称性の軸索性多発ニューロパチー→凝固機能、加えて感染随伴性または自己免疫性の血管炎を調べる→赤沈、血清タンパク電気泳動、リウマトイド因子、抗核抗体、血清CPK(急性の筋梗塞で上昇)

 原因が特定できない場合は筋生検、神経生検(通常は障害のある腓腹神経)生検を行う筋は、中等度以上の筋力低下があり、針EMGを行ったことがない筋で行う。

 24時間蓄尿→重金属
 
平成28年7月31日(日)