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整形外科 外科
リハビリテーション科

股関節唇損傷 Acetabular labral tear

概要
股関節唇損傷は、スポーツ活動やクラブ活動などによって繰り返し負荷がかかることで発症しやすく、特に若年層のアスリートに見られます。典型的な症状は股関節の痛みや引っかかり感で、内旋・外旋時に疼痛が増強し、「関節がずれるような感覚」を伴うこともあります。

鑑別診断
臨床症状が類似する他の疾患との鑑別が必要です。以下の疾患が主な鑑別対象となります:

恥骨結合炎
大腿骨頸部疲労骨折
股関節周囲の筋腱付着部炎(腸腰筋腱炎や大腿直筋腱付着部炎など

診断には単純X線撮影に加え、関節唇の状態評価のためMRIが有用です。場合によってはMR関節造影も行われます。

治療方針
初期治療は保存療法(安静、消炎鎮痛薬、理学療法)が基本です。これにより症状の改善が見られない場合、関節鏡視下手術が検討されます。

関節鏡視下手術の内容:

シェーバーによる損傷部の除去
パンチやトリミングによる変性部切除
ラブラムの縫合による修復術

早期診断と適切な治療によって、スポーツ復帰も十分可能です。

■リハビリについて

股関節唇損傷に対する理学療法は、症状の軽減と機能回復を目的に段階的に進められます。最初の急性期には、患部への負担を最小限に抑えることが最も重要であり、疼痛誘発動作を避けながら、アイシングや物理療法を用いて炎症と痛みの軽減を図ります。

必要に応じて松葉杖などで荷重を制限し、患部の安静を保ちつつ、体幹や骨盤底筋群に対する軽度のエクササイズを導入することがあります。

痛みが落ち着いてきた回復期には、股関節周囲の可動性改善と筋力再獲得を目指します。この段階では、股関節の屈曲・外転・外旋に配慮しながら無理のない範囲で可動域訓練を行い、特に中臀筋や腸腰筋、大臀筋といった股関節安定化に関与する筋群の強化が進められます。

また、ストレッチを通じて大腿筋膜張筋、内転筋、腸腰筋などの柔軟性を高め、骨盤アライメントの調整と安定性の向上を図ります。必要に応じて、クローズドキネマティックチェーンエクササイズを組み込み、日常動作やスポーツ動作への応用に備えます。

機能回復期には、動的安定性と固有受容感覚の再教育を中心としたトレーニングが行われます。バランスディスクや片脚スクワットなどを活用しながら、俊敏性や筋出力の向上を図り、ステップ動作やジャンプ着地といった複雑な動作の再学習を進めます。

最終的には、競技特異的な動作に対する反復練習と動作評価を通じて、安全なスポーツ復帰を目指します。


■クローズドキネマティックチェーン(CKC)エクササイズについて

股関節唇損傷に対するクローズドキネマティックチェーン(CKC)エクササイズは、股関節の安定性を高め、関節唇への過剰なストレスを避けながら機能回復を促す目的で用いられます。以下に、臨床でよく用いられる具体的なCKC種目を紹介します。

たとえば、壁スクワットは代表的なCKCエクササイズの一つです。背中を壁につけて行うことで骨盤と体幹のアライメントを保ちやすく、股関節屈曲角度をコントロールしながら中臀筋や大腿四頭筋の協調的な活動を促します。また、ブリッジ運動も有効で、仰臥位で膝を立てた状態から骨盤を持ち上げることで、股関節伸展筋群(特に大臀筋)を活性化しつつ、体幹の安定性も同時に鍛えることができます。

さらに、ステップアップ動作(低い台を用いた昇降運動)は、股関節の荷重下でのコントロールを再学習するのに適しており、片脚支持時の安定性や固有感覚の向上にも寄与します。

ラテラルバンドウォーク(セラバンドを膝や足首に巻いての横歩き)は、中臀筋の選択的強化に効果的で、股関節の外転・外旋筋群の協調性を高める目的で導入されます。

これらの種目は、いずれも股関節の深屈曲や内旋を避けながら行うことが重要であり、動作中に痛みや引っかかり感が出現する場合は中止または修正が必要です。段階的に負荷や可動域を調整しながら、個々の症状や機能レベルに応じてプログラムを構成することが理想的です。