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整形外科 外科
リハビリテーション科

アキレス腱断裂 Achilles tendon rupture

アキレス腱断裂に対する手術療法と保存療法の選択は、患者の年齢、活動レベル、既往歴、再断裂リスクなどを総合的に評価して決定されます。以下に、両者の比較と選択のポイントを整理しました。

手術療法 vs 保存療法:比較表

項目 手術療法 保存療法
再断裂率 約2〜5%と低い 約8〜20%とやや高い
感染・合併症リスク 傷口感染、神経損傷などのリスクあり ほぼなし
固定期間 約4〜6週間 約6〜8週間
歩行開始時期 約2週〜 約3〜4週〜
スポーツ復帰 約3〜5ヶ月 約4〜6ヶ月
費用 高い(手術・入院費) 安い(通院のみ)
傷跡 残る(ただしMISで最小限に) 残らない
対象 若年・活動性高い人 高齢・活動性低い人

選択のポイント

手術療法が推奨されるケース

スポーツ選手や活動性の高い若年者
早期復帰を希望する場合
再断裂リスクを最小限にしたい場合
断裂部のgapが大きく自然癒合が困難な場合

保存療法が適しているケース

高齢者や基礎疾患(糖尿病、心疾患など)を有する人
手術リスクを避けたい場合
日常生活レベルの回復が目標の場合

最新の知見(2024〜2025)

低侵襲手術(MIS)**の普及により、感染リスクや術後疼痛が軽減され、早期リハビリが可能に

保存療法でも早期荷重・装具療法を併用することで、再断裂率が低下し、機能回復も良好という報告あり

再断裂率の差は縮小傾向にあり、治療選択は「固定期間の管理」と「リハビリの質」が鍵とされる

結論:どちらを選ぶか?

「どちらが優れているか」ではなく、「誰にとって最適か」で選ぶ時代です。
若年・競技復帰を目指すなら 手術療法
高齢・日常生活重視なら 保存療法

いずれも早期リハビリと段階的な負荷管理が予後を左右します

アキレス腱断裂の保存療法ステップ表
フェーズ 時期 主な目標 実施内容 注意点
初期固定期 0〜2週 腱端癒合を促す ・底屈位(20〜30°)でギプスまたは装具固定
・免荷(松葉杖)
・大腿四頭筋などの非患部筋トレ
・断端の接触状態を維持
・過度な背屈動作の回避
部分荷重期 2〜4週 徐々に荷重刺激、癒合の促進 ・ヒールリフト付き装具
・部分荷重(体重の30〜50%)
・背屈を控えたROM訓練開始
・腱が再延伸しないよう注意
・患側荷重の感覚モニタリング
可動域・全荷重期 4〜8週 歩行・関節可動域の回復 ・全荷重歩行(装具付き)
・背屈10〜15°までROM訓練
・エルゴバイク等の有酸素活動
・痛みや腫脹が強ければ進行を調整
筋力強化期 8〜12週 腓腹筋・ヒラメ筋の強化 ・ヒールレイズ(両脚→片脚)
・バランス訓練(BAPSなど)
・歩容・動作パターンの正常化
・左右差に注意しながら段階的に進行
復帰準備期 3〜6ヶ月 高負荷・競技復帰 ・ジャンプ、ダッシュ、アジリティ訓練
・競技特異的な練習
・再断裂予防のための段階的進行必須
・医師のスポーツ復帰許可が前提

保存療法を成功させるためのポイント

固定角度と荷重量の管理が極めて重要
装具選定(ヒールリフト、底屈制限)と早期リハビリの併用で再断裂リスクを軽減
必要に応じて超音波で癒合状態を確認しながら個別調整


MISによるアキレス腱縫合術の概要

主な術式

術式 特徴
経皮的縫合法(Percutaneous repair) 数mmの小切開から特殊な縫合器具を用いて腱を縫合。術野が狭く、神経損傷リスクに注意
Mini-open法 約2〜3cmの小切開で腱断端を直視下に確認し縫合。安全性と低侵襲性のバランスが良い
Endoscopic-assisted repair(一部施設) 関節鏡を併用し、腱端の確認と縫合を行う。技術的に高度で施設限定的

MISのメリット

切開が小さく、瘢痕が目立ちにくい
術後の疼痛が軽減
感染や創部合併症のリスクが低い
早期荷重・早期リハビリが可能
スポーツ復帰が早い傾向(4〜5ヶ月)

デメリット

腓腹神経損傷のリスク(特に経皮的縫合法)
断端の位置確認が困難な場合がある
高度な技術と経験が必要
再断裂率は術者の熟練度に依存

MIS vs 開放手術:比較

項目 MIS 開放手術
切開長 約2〜3cm 約7〜10cm
感染リスク 低い やや高い
神経損傷リスク やや高い(腓腹神経) 低い
再断裂率 同等またはやや高い(術者依存) 安定して低い
美容面 優れる 傷跡が目立つことも

最新の知見(2024〜2025)

MIS+早期荷重リハビリの併用で、再断裂率を抑えつつ機能回復が良好という報告が増加
超音波ガイド下MISにより、腱端の位置確認と神経回避が可能に
バイオアブソーバブルアンカー強化縫合材の使用で縫合強度が向上



術後のリハビリ概要(Mini-open法例)
術後経過 内容
〜1週 ギプス固定、足関節中間位
2週〜 装具装着、部分荷重開始
4週〜 全荷重歩行、可動域訓練開始
8週〜 筋力トレーニング、片脚つま先立ち練習
12週〜 軽いジョギング開始
16〜20週 スポーツ復帰可

アキレス腱断裂
 かつてはアキレス腱断裂が生じると手術が行われてきました。近年、新鮮アキレス腱断裂に対し保存治療を行うようになってきています。現在も手術療法と保存療法の優位性についての議論は続いていますが、手術をしなくても遜色なく治るのであれば、保存治療を選択するのは当たり前だと考えます。

保存療法もさまざまなものが報告されています。原則としては底屈位で固定し、断裂した腱が接するようにします。底屈位には自然下垂位もしくは最大底屈位にて膝関節より下方の固定を行います。荷重をかけるか、かけないかは施設によって異なります。その後徐々に底屈の度合いを弱めていきます。固定材料は、ギブス、ギプスシャーレ、機能的装具などを用います。

<一般的な治療>
 
従来のギプス固定+免荷という治療から、機能的装具を用いた早期運動、早期荷重を行うものまで治療方針には幅があるのが現状です。

固定方法 初期:ギプス、ギプスシーネ、機能的装具、途中から機能的装具に切り替える方法などがあります。

初期固定角度:足関節底屈位:最大底屈位(50-60度)、自然下垂位(30-40度)、もしくは両者の中間。テータ的には底屈度が増すほど再断裂率は低くなる。

平均的な治療としては、ギブスもしくは機能装具を用いて6週間の底屈位固定を行う。荷重は全荷重は6週間後とするものから、機能装具を装着すればただちに全荷重を行うものまで差があります。いずれの方法でも、底屈度は固定期間中に徐々に下げて0度まで戻します。(例:最大底屈位2週間、自然下垂位2週間、背屈位ゼロ度2週間)、装具の装着は受傷後8週から10週程度継続します。

装具脱着は自分で行わずに医療機関でのみ行うようにします。

*再断裂は装具除去後2ヶ月以内でほとんどが発症しています。外固定終了後、足関節を強制背屈させることがないように心がけます。
 
*治療開始までの期間と保存療法の適応
  受傷3日以内、受傷5日以内なら保存治療の適応。断端が寄るのであれば14日以内でも可。(超音波診断が有効)

*手術療法より保存療法の方が下肢のDVT(深部静脈血栓症)を起こし易い。
 



アキレス腱断裂

アキレス腱断裂の三大徴候
 1.下腿後縁下部に空くレス腱断裂部の陥凹(delle)
 2.患側でのつま先立ちが不可能
 3.Tompsonテストが陽性

・保存療法の適応
年齢、性別、スポーツレベルの高低を問わず、受傷後5日以内の新鮮アキレス腱皮下断裂は全例適応となります。(病的断裂、陳旧性断裂は除く)それ以降は、断端が周辺組織と癒着し、足関節を底屈しても断端同士が接触しない。→2週間以内で超音波検査で断端が寄るのであれば保存適応とする意見もあります。

受傷時から6週間の膝下ギプス固定+その後、4週間の短下肢装具とします。

受傷後(杏林大学方式)
 →最大底屈位(約50度以上)で膝下ギブスを2週間(ヒールタッチ)
 →3週間目:30度底屈位(軽度部分荷重)
 →5週間目:軽度底屈位(全荷重、ヒール付きギブズ)
 →7週間目:踵にくさびパットを入れた短下肢装具 4週間装着 全荷重
 →3-4ヶ月でつま先立ち、ジョギングの開始、受傷4ヶ月まではジャンプ、ダッシュなどの過度のストレスは控える
 →6-7ヶ月で片足つま先立ち可。

断端部でのドップラー超音波所見:1ヶ月より新生血管、3ヶ月がピークでそれ以降、血管の描出は減っていきます。6ヶ月で更に減少、12ヶ月でわずかになります。

*保存療法の適応に超音波診断が極めて有効です。底屈位で断端が寄らないケースでは再接着は難しいと考えられます。

*施設により治療のプロトコールは若干異なっています。
  


 
アキレス腱断裂に対する保存療法

米国整形外科学会が推奨する保存療法のコンセンサス:糖尿病、神経障害、免疫不全、65歳以上、喫煙者、活動性が低い、肥満(BMI>30)、末梢血流不全、皮膚疾患など

通常レベルの生活への復帰は、手術と保存療法で差が無いとされる。スポーツへの復帰は手術療法の方が優位。

手術のリスクとしては、感染、創部トラブル、神経損傷がある。
保存療法のリスクとして、再断裂と深部静脈血栓が手術療法より高いとされる。

これらに加えてエコー所見が重要となっている。底屈位でギャップが5mm以下なら保存療法の適応あり。

<保存治療のコツ>

ギブスでの伸展位固定は徐々に廃れている。
ヒールリフトの状態でアキレス腱用装具か専用ブーツを装着する。
最大底屈位から徐々に中間位に変更。
可動域訓練は受傷から1-3週間から開始することが多い。
早すぎると再断裂や癒合部の延長につながるので注意が必要。
加重は、従来の8週間免荷に対して、受傷後すぐに荷重をかける早期加重療法が良好な成績。
だたしいつから動かすのか、荷重をかけるのかは、一定のコンセンサスを得ていない。
最近のプロトコールでは底屈位で全荷重をすぐに許可している施設もあります。