複合性局所疼痛症候群(CRPS:Complex Regional Pain Syndrome)
小さな外傷(捻挫・打撲・骨折など)の後に、外傷の範囲や重症度に不釣り合いな強い疼痛や腫脹、皮膚変化が広範囲に生じる慢性疼痛疾患です。発症時は四肢に限局することが多いですが、放置すれば疼痛範囲が拡大することもあります。
典型的な臨床像
発症初期には、灼熱感を伴う強い自発痛、腫脹、発赤、温度異常、発汗異常などが現れます。軽微な手指のケガでも、前腕や上腕にまで広がった症状が見られることがあります。夜間の疼痛増悪により睡眠障害を訴えることもしばしばあります。
病態仮説
病因は完全には解明されていませんが、末梢および中枢神経系における神経可塑性の異常(感作)、および交感神経反射弓の過剰活動が関与していると考えられています。特に中枢感作と交感神経依存性疼痛の2軸で議論されています。
エビデンス:病態(末梢・中枢の感作と自律神経異常)
CRPSの病態はまだ完全には解明されていませんが、近年の総説では、末梢および中枢における異常な炎症反応、自律神経(血管運動)機能の変化、そして中枢神経系の不適応な可塑性(中枢感作)が複合的に関与するとまとめられており、この10年間で疫学・病態・診断・治療の理解が大きく進んだとされています(Ferraro MCら. Lancet Neurol. 2024)[1]。
診断
CRPSは臨床診断であり、明確な画像所見や血液検査所見に乏しいため、診断指標を用いることが重要です。
<診断基準(Budapest Criteria:国際的に推奨)>
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項目 |
内容 |
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感覚異常 |
例:アロディニア(非侵害刺激で痛み)、過敏 |
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血管運動異常 |
例:皮膚温の左右差、発汗異常、色調変化 |
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運動・栄養障害 |
例:筋力低下、関節可動域制限、皮膚・爪の変化 |
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痛みの持続 |
初期外傷に不釣り合いな強い痛みが持続 |
4つのカテゴリーのうち3つ以上の症状が存在し、2つ以上の所見が診察で確認されることが必要。
エビデンス:診断(Budapest基準の位置づけ)
CRPSの診断法・スクリーニング法を検討したシステマティックレビューでは、Budapest基準が国際疼痛学会(IASP)に承認された、成人CRPSの臨床診断の標準として位置づけられています(Mesaroli Gら. Pain. 2021)[2]。
<日本版CRPS臨床用判定指標(CRPS研究会, 2008)>
【自覚的症状(以下の2項目以上)】
皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化関節可動域の制限
持続性または不釣り合いな痛み・アロディニア・異常感覚(ピンで刺すような痛みなど)
発汗の異常(亢進または低下)
【他覚的所見(以下の2項目以上)】
皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化関節可動域制限
異痛症(軽微な接触や温熱刺激での痛み)またはピンプリック過敏
発汗の異常
浮腫
治療
CRPSの治療は多面的なアプローチが必要です。
理学療法(温冷交代浴、ミラーセラピー、ROM訓練)
薬物療法(NSAIDs、プレガバリン、ガバペンチン、トラマドール、ビスフォスフォネートなど)
神経ブロック(星状神経節ブロックなどの交感神経遮断)や脊髄刺激療法の検討
心理的ケアも併用し、痛みに対する恐怖回避行動の改善が鍵になります
治療は慢性的な経過をとることがあるため、患者の不安に寄り添いながら、信頼関係を築くことが極めて重要です。早期介入と継続的評価が予後を左右します。
エビデンス:薬物療法の効果
CRPSに対する薬物療法を検討したシステマティックレビュー・メタ解析では、ビスホスホネートやケタミンが比較的長期の除痛効果を示し、有害事象は軽度にとどまったと報告されています。治療は理学療法・薬物療法・神経ブロック・心理的ケアを組み合わせた多面的アプローチが基本です(Zhu Hら. Pharmaceuticals (Basel). 2024)[3]。
エビデンス出典(全3件)を見る
- Ferraro MC, O'Connell NE, Sommer C, Goebel A, Bultitude JH, Cashin AG, Moseley GL, McAuley JH. Complex regional pain syndrome: advances in epidemiology, pathophysiology, diagnosis, and treatment. Lancet Neurol. 2024;23(5):522-533. PMID: 38631768.
- Mesaroli G, Hundert A, Birnie KA, Campbell F, Stinson J. Screening and diagnostic tools for complex regional pain syndrome: a systematic review. Pain. 2021;162(5):1295-1304. PMID: 33230004.
- Zhu H, Wen B, Xu J, Zhang Y, Xu L, Huang Y. Efficacy and safety of pharmacological treatment in patients with complex regional pain syndrome: a systematic review and meta-analysis. Pharmaceuticals (Basel). 2024;17(6):811. PMID: 38931478.
参考:『関節外科』2022年7月号 / 『疼痛医学』 / 『慢性疼痛治療ガイドライン』 / 『慢性疼痛ケースカンファレンス』 / 『関節外科』2022年5月号