複合性局所疼痛症候群(CRPS:Complex Regional Pain Syndrome)
小さな外傷(捻挫・打撲・骨折など)の後に、外傷の範囲や重症度に不釣り合いな強い疼痛や腫脹、皮膚変化が広範囲に生じる慢性疼痛疾患です。発症時は四肢に限局することが多いですが、放置すれば疼痛範囲が拡大することもあります。
典型的な臨床像
発症初期には、灼熱感を伴う強い自発痛、腫脹、発赤、温度異常、発汗異常などが現れます。軽微な手指のケガでも、前腕や上腕にまで広がった症状が見られることがあります。夜間の疼痛増悪により睡眠障害を訴えることもしばしばあります。
病態仮説
病因は完全には解明されていませんが、末梢および中枢神経系における神経可塑性の異常(感作)、および交感神経反射弓の過剰活動が関与していると考えられています。特に中枢感作と交感神経依存性疼痛の2軸で議論されています。
診断
CRPSは臨床診断であり、明確な画像所見や血液検査所見に乏しいため、診断指標を用いることが重要です。
<診断基準(Budapest Criteria:国際的に推奨)>
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項目 |
内容 |
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感覚異常 |
例:アロディニア(非侵害刺激で痛み)、過敏 |
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血管運動異常 |
例:皮膚温の左右差、発汗異常、色調変化 |
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運動・栄養障害 |
例:筋力低下、関節可動域制限、皮膚・爪の変化 |
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痛みの持続 |
初期外傷に不釣り合いな強い痛みが持続 |
4つのカテゴリーのうち3つ以上の症状が存在し、2つ以上の所見が診察で確認されることが必要。
<日本版CRPS臨床用判定指標(CRPS研究会, 2008)>
【自覚的症状(以下の2項目以上)】
皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化関節可動域の制限
持続性または不釣り合いな痛み・アロディニア・異常感覚(ピンで刺すような痛みなど)
発汗の異常(亢進または低下)
【他覚的所見(以下の2項目以上)】
皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化関節可動域制限
異痛症(軽微な接触や温熱刺激での痛み)またはピンプリック過敏
発汗の異常
浮腫
治療
CRPSの治療は多面的なアプローチが必要です。
理学療法(温冷交代浴、ミラーセラピー、ROM訓練)薬物療法(NSAIDs、プレガバリン、ガバペンチン、トラマドール、ビスフォスフォネートなど)
神経ブロック(星状神経節ブロックなどの交感神経遮断)や脊髄刺激療法の検討
心理的ケアも併用し、痛みに対する恐怖回避行動の改善が鍵になります
治療は慢性的な経過をとることがあるため、患者の不安に寄り添いながら、信頼関係を築くことが極めて重要です。早期介入と継続的評価が予後を左右します。