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整形外科 外科
リハビリテーション科

 
首下がり症候群 Dropped Head Syndrome

 英語では、 Dropped Head Syndrome と表記されていますが、本来、この病気は120年以上前の1897年に三浦謹之助が発作的な首下がりを認める多くの日本人を調査し、「Uber Kubisagari」(Uはドイツ語のumlaut)としてドイツ語の論文を出したことにちなんで、日本で首下がり症候群と言われています。

 首下がりとは、文字通り頚部が異常に前屈して頭を挙上し続けるのが困難な状態をいいます。座位、立位で下を向いたようになり、前を向くのが困難な状態となります。ひどくなると呼吸や嚥下が難しくなることがあります。

 首下がり症候群には様々な原因疾患があり、以下に示します。

・原因(何らかの疾患で)
 1.頚部伸展筋群の筋力低下
 2.頚部屈筋群の緊張亢進
  1,2の何れかが生じる

 原因疾患により後ろが弱るか、前が強くなってしまうことによって生じます。

 <原因疾患>
 1.筋力低下
  限局性頚部伸展性ミオパチー(INEM) 高齢発症(60歳以上)、1週間〜3ヶ月で首下がりが出た後に進行が停止、高CK血症がみられない、頚部伸筋の筋生検で筋繊維の大小不同、内部構造の乱れ。
急性憎悪期にはステロイドの効果が示唆(プレドニゾロン20mg内服、漸減し中止)
  重症筋無力症
  筋萎縮性側索硬化症
  多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎
  慢性炎症性脱髄性多発神経炎
  カルチニン欠損症
  ビタミンD欠乏症
  顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー
  先天性ミオパチー
  副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症

 2.錐体外路疾患(頚部屈筋群の緊張、disproportionate antecollis)
  パーキンソン病
  多系統萎縮症
  遺伝性脊髄小脳変性症

 3.薬剤性
  ドパミンアンタゴニスト
  DPP4阻害剤
  アマンタジン
  (放射線治療)

 4.脊椎疾患
  頸椎症

 首下がり症候群には様々な原因があり、頸椎症と早合点しないことが重要。

 <診断手順>

 首下がりの急性〜亜急性発症は多発筋炎、皮膚筋炎などの炎症性ミオパチー、限局性頚部伸展筋ミオパチー(INEM)でみられる。
 筋萎縮性側索硬化症などの変性疾患に基づく場合は数ヶ月単位で緩徐に現れることが多い。
 筋ジストロフィーや先天性ミオパチーなど遺伝性疾患に基づく場合は更に年単位で緩徐に現れる傾向がある。

 頚部筋肉の緊張を診る。後部の緊張低下、前部の緊張亢進などの有無をチェック。
仰臥位で首下がりが消失すれば、前部の緊張性の可能性は低くなる。頚部・四肢の筋トーヌスが正常なら錐体外路系疾患は可能性が低くなる。
MMTでの筋力評価。腱反射の評価。感覚障害や自律神経障害の有無。甲状腺機能の評価。

 重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体、低頻度反復刺激試験での減衰。

 針筋電図検査、筋生検

 <治療>

 手術適応;頚椎破壊性病変、高度の頚椎不安定性、脊髄症の進行、頚椎椎間が硬化し不撓性の頚椎後弯例

 保存療法;可撓性のある頚椎後弯は原因疾患を探りながら保存治療(良好な転帰は20%程度と低い。
発症3ヶ月以内の早期治療で60%)を優先→保存治療で改善せず前方注視が困難例、開口制限や嚥下障害による食事摂取困難例は手術を考慮。

 原因疾患の治療に加えて、首下がり症候群(DHS)の基本的な保存治療としては装具療法と理学療法となる。装具はフィラデルフィアカラーなど、全周性のものでなくてもよい。(ハローベストによる強固の矯正時も、保存療法の選択肢として報告あり。)
 胸椎後弯を併発している場合は鎖骨バンドなどの併用、体幹硬性コルセットの装着も考慮する。

 理学療法は姿勢指導、頚部伸筋の筋力強化が中心となる。胸腰椎後弯例では体幹の背筋強化を行う。