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整形外科 外科
リハビリテーション科

膝蓋腱炎(靭帯炎) Patella tendinitis

 膝蓋腱炎は膝の皿(膝蓋骨)の下にある腱が痛むスポーツ障害です。別名Jumper's kneeと呼ばれています。膝蓋腱は大腿四頭筋~四頭筋腱~膝蓋骨~膝蓋腱(靱帯)~脛骨粗面に付着する膝伸展機構の一部です。ジャンプを行う競技で発症しやすいですがランナーでもよく起こります。基本はover useですが大腿四頭筋がタイトだと起こりやすいです。四頭筋が収縮した状態で着地して伸展負荷がかかると膝蓋腱が両端から強く引っ張られるので障害が起こります。

 成長期では成長板にストレスがかかるために、Osgood病(脛骨粗面の骨端症)やSinding-Larsen-Johansson病(膝蓋骨遠位端の骨端症)が生じます。成長軟骨の骨化が完成すると膝蓋腱炎、大腿四頭筋腱炎となりやすい。
 
 初期の段階では炎症が主要な問題となりますが、繰り返すうちに炎症よりも変性の方が症状を継続し悪化させていることが分かっています。急性期(炎症)時には膠原線維の増殖や血管新生がみられ、慢性期(変性時)には、靱帯の限局性変性、微少断裂と壊死が主体となって炎症反応はみられなくなります。更に負荷が増大すると部分断裂を起こすことがあります。

 ■診断
 腹臥位で膝屈曲時に尻上がり現象、Squtting test、レントゲン、超音波検査、MRIなどで鑑別診断を行います。
 *Squtting test 立位で患側を前に前後に足を開き、体重をかけながら患肢を屈伸する。toe in,netral,toe outそれぞれの肢位でチェック

 ■病期(Blazina分類)
 stage1:運動後に痛み
 stage2:運動開始時の疼痛、ウォームアップで消失、運動後に再出現
 stage3:運動時と活動後に疼痛、スポーツ活動に支障
 stage4:膝蓋腱の完全断裂

 ■治療
 治療は運動メニューを見直して局所の安静を計りながらストレッチを丹念に行います。ストレッチは体幹も含めて行います。競技日程が立て込んでいる人に多く、それらの調整も必要です。stage3ではスポーツ活動の休止や長時間の安静を行う。stage4は手術を行います。

 多くはタイトネスが強くストレッチの指導で改善します。シューズの変更やインソールの装着なども有効です。可動域の低下やタイトネスにおり膝蓋骨の可動性が落ちている場合は膝蓋骨を前後左右に動かして癒着を取り可動性を向上させます。


大腿四頭筋腱炎 quadriceps tendinitis

大腿四頭筋腱炎は、膝蓋骨上極に付着する大腿四頭筋腱に生じる使い過ぎ(オーバーユース)による炎症性障害です。ジャンプ、ダッシュ、スクワットなどの反復動作により、腱付着部に微細損傷が蓄積し、腱炎(tendinitis)または腱症(tendinosis)へと進行します。

本疾患は、10代後半から40代のアスリート(特にジャンプ系競技)に好発し、大腿四頭筋やハムストリングスの柔軟性低下、股関節・体幹の筋力低下、ジャンプや着地動作のバイオメカニクス異常、トレーニング負荷の急激な増加、さらには膝蓋骨高位(patella alta)などがリスク因子とされています。

主な症状は膝蓋骨上極の圧痛であり、階段昇降、ジャンプ、スクワット時に痛みを感じるほか、朝のこわばりや運動後の違和感を訴えることもあります。画像診断では、超音波で腱の肥厚や低エコー域、血流増加(Power Doppler)を確認でき、MRIでは腱の信号増加や腱内変性、骨髄浮腫が描出されることがあります。慢性例ではX線にて骨棘形成が認められることもあります。

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)、Sinding-Larsen-Johansson病、有痛性分裂膝蓋骨、滑液包炎などとの鑑別も重要です。これらは圧痛部位や画像所見から判断します。

治療の基本は保存療法です。急性期には安静やアイシング、必要に応じたNSAIDsの使用、テーピングやサポーターの導入が効果的です。回復期には、大腿四頭筋・ハムストリングス・腸腰筋のストレッチに加え、スロースクワットなどのエキセントリックトレーニングや股関節外転・外旋筋、体幹筋の強化を行います。また、超音波や低出力レーザー、体外衝撃波(ESWT)といった物理療法も補助的に用いられます。

難治例では、PRP療法(多血小板血漿注射)による腱修復の促進が検討されるほか、慎重な適応のもとでステロイド注射が行われることもあります。極めて稀ではありますが、手術による腱の部分切除・再建が必要となるケースもあります。

予防には、運動前後の動的・静的ストレッチ、ジャンプ・着地フォームの改善、トレーニング量の段階的調整、適切なフットウェアの使用、そして体幹や股関節機能の維持が重要です。

疾患名 好発年齢・背景 圧痛部位 主な症状・特徴 画像所見の特徴
大腿四頭筋腱炎 成熟期アスリート(10代後半~40代) 膝蓋骨上極 階段昇降・スクワット時の膝上前面痛 腱の肥厚、信号増加(MRI)、血流増加(超音波)
膝蓋腱炎(ジャンパー膝) ジャンプ競技選手(10代~30代) 膝蓋骨下極 ジャンプ・ダッシュで増悪、圧痛、運動後の違和感 腱下端部の肥厚、血流増加、骨変化
Sinding-Larsen-Johansson病 成長期(10~14歳) 膝蓋骨下極 膝立ちやジャンプでの痛み、軽度腫脹 骨端不整、骨片形成、腱付着部変化
有痛性分裂膝蓋骨 青年期以降(外傷後に症状顕在化) 膝蓋骨外側上極 膝蓋骨の可動性骨片による痛み、活動後増悪 膝蓋骨外側に分裂骨片(X線、CT)
前膝蓋下滑液包炎 繰り返しの膝立ち動作 膝蓋骨下端前面 腫脹、熱感、屈伸時の摩擦感 滑液包の腫大(超音波、MRI)
  
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)

■内的要因
・タイトネス(四頭筋、ハムストリング、下腿三頭筋など)
・筋力低下(四頭筋、ハムストリング、中殿筋、下腿三頭筋)
・関節可動域低下(股関節屈曲制限、足関節背屈制限など)
・身体的特徴(扁平足、脚長差など)

 タイトネスや筋力低下で膝蓋腱にかかる力が増える。四頭筋よりハムストリングが弱いと負荷が増大する。

■外的要因
・過度のトレーニング
・固いサーフェス(路面、グランド)
・シューズ

■病態
膝蓋腱膝蓋骨付着部に負荷により生じた微小外傷が修復できずにムコイド変性をきたして、慢性化するとされています。

■症状
多くは膝屈曲荷重時に膝蓋骨下極の付着部の痛みが生じます。
通常、可動域制限はきたさない。膝蓋下脂肪体への炎症が波及することがあります。