表紙に戻る
池田医院へようこそ
信頼とまごころの医療
からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科
リハビリテーション科

2025-11-15 JST

SAPHO症候群

【結論】リウマチ・膠原病科への紹介となります

SAPHO症候群は、**骨・関節の慢性無菌性炎症(特に胸鎖関節・前胸壁)**と 皮膚疾患(痤瘡・掌蹠膿疱症)の組み合わせを特徴とする疾患群であり、画像診断では前胸壁の骨硬化・過形成・骨膜反応が典型像として認められる。鑑別には化膿性胸鎖関節炎・胸壁腫瘍・体軸性脊椎関節炎を含めた慎重な評価が必要である。

【根拠】

1. 疫学・発生部位

PubMed のレビュー(一次情報)では、SAPHO は稀な疾患で、胸鎖関節・胸肋関節・前胸壁(anterior chest wall)骨病変が最も典型的である。成人発症が多い。

2. 病態・組織学

SAPHO は**無菌性骨炎(chronic nonbacterial osteitis)**を基礎病態とし、骨硬化と骨髄浮腫が混在する慢性炎症である。
明確な原因は不明だが、一次情報では

  • 免疫学的異常

  • Propionibacterium acnes の検出例(ただし感染ではない)
    が示唆されている(感染症ではない点に注意)。

3. 典型症状

  • 胸鎖関節部痛、圧痛

  • 前胸壁の腫脹

  • 可動域制限

  • 反復性の疼痛の増悪と寛解

  • 皮膚症状:掌蹠膿疱症・重症痤瘡など(全例ではない)

4. 身体所見

  • 胸鎖関節の限局腫脹

  • 熱感は軽度~中等度

  • 発赤は強くないことが多く、化膿性胸鎖関節炎との鑑別点となる。

  • 皮膚疾患の合併は診断の強い手がかり。

5. 画像所見(modalityごと)

■ X線

  • 胸鎖関節の硬化像(osteosclerosis)

  • 骨過形成

  • 関節裂隙の不整・狭小化

  • 骨膜反応がみられることがある

■ CT

  • 皮質骨の肥厚(cortical thickening)

  • 強い硬化像

  • 間欠的に骨破壊を伴うが、腫瘍性と異なり周囲の軟部腫瘤は乏しい

  • 典型的には前胸壁“bullhead sign”(胸骨柄・鎖骨近位の対称性硬化)

■ MRI

  • T1:炎症部で低信号

  • T2/STIR:骨髄浮腫で高信号

  • 関節周囲軟部組織の軽度炎症

  • 造影MRIで骨髄・周囲組織に増強

腫瘍や感染との鑑別のため MRI は必須とされる(一次情報レビューより)。

6. 治療

SAPHO症候群の治療は一次情報でも確立したガイドラインが存在せず、主に症状緩和・炎症コントロールが中心である。

  • NSAIDs(エビデンスは症例系列)

  • ビスフォスフォネートの有効例が PubMed 症例で報告(骨痛改善)→健康保険適応外

  • 皮膚病変に対しては皮膚科的治療が併行される

  • 生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-17阻害薬など)は難治例での報告が存在(無作為化比較試験はなし)

外科治療は通常不要で、骨破壊が強く症状が難治の例に限り検討されるとされる。

7. 鑑別との比較表(胸鎖関節部)

疾患 発熱 発赤 画像(CT) MRI 特徴
SAPHO症候群 軽度 軽度 硬化・肥厚・骨膜反応 骨髄浮腫 皮膚疾患合併、無菌性
化膿性胸鎖関節炎 高い 著明 骨破壊+軟部膿瘍 膿瘍形成 発熱・炎症反応高値
体軸性脊椎関節炎 軽度 少ない 関節周囲硬化 骨髄浮腫 仙腸関節炎を合併
腫瘍性病変 なし なし 皮質破壊+軟部腫瘤 腫瘤像 組織診が必要

【注意点・例外】

  • SAPHOは診断基準が統一されておらず、除外診断が基本である。

  • 高齢者・糖尿病・免疫抑制患者では化膿性胸鎖関節炎が重要な鑑別であり、発熱・CRP・血液培養は不可欠。

  • 画像所見単独では確定診断できないため、皮膚症状・血液検査・経過を総合して判断する必要がある。

  • 生物学的製剤の使用は症例報告レベルのエビデンスであり、「専門家による判断が推奨」される。