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整形外科 外科
リハビリテーション科

弾発股 snapping hip

弾発股(外側型)は股関節を動かすと大転子外側に「ボコ」と音がしてずれる感じがする現象をいいます。股関節外側にある大腿筋膜張筋(腸脛靱帯)が大腿骨の大転子に引っかかるときに鳴ります。これは股関節周辺の筋肉や腱が硬くなって起こります。

スポーツや股関節をよく曲げる仕事で起こります。治療は運動量の制限やストレッチなどの保存的治療を行います。改善しない場合は手術も考慮します。手術は鏡視下に腸脛靱帯や gluteus sling をリリースします。関節不安定症や臼蓋形成不全を合併していると術後、不安定性が悪化することがあるので注意します。観血的Z-plasty手術を選択されることもあります。若いアスリートに多く見られます。強く引っかかると音だけでなく臀部横がボコンと音とともに大きく動くこともあります。しばしば大転子滑液包炎を併発します。また、股関節屈曲位では腸脛靭帯は大転子の前方に位置しますが、内転し伸展させると腸脛靭帯が大転子を乗り越えて後方に移動するため、これにより坐骨神経が圧迫され坐骨神経痛の症状が出ることがあります。

 腸腰筋スナッピング

 弾発股のうち内側型が腸腰筋スナッピングと呼ばれています。腸腰筋腱が股関節外旋外転するときに股関節前面の骨突出部で弾発します。診断は股関節を屈曲し外転外旋を行い下肢を伸展するときに股部内側にスナッピングが誘発されます。
炎症が強い場合はMRIで画像所見を認めます。治療は原則としてほとんどが保存的に行います。痛み止め、股関節前面のストレッチ、体幹機能の調整などを行います。改善しない場合は鏡視下に腸腰筋腱を切離しますがパフォーマンスが落ちるので熟慮する必要があります。
 
弾発股の分類の新しい考え方

弾発股(スナッピングヒップ)は、弾発音や引っかかり感が生じる部位や原因に基づいて、以下の3つに分類されます。それぞれの病型で原因・症状・治療方針が異なるため、正確な分類が診断と治療の鍵になります。

1. 内側型弾発股(Internal Snapping Hip)
- 原因:腸腰筋腱(特に大腰筋)が、大腿骨小転子や寛骨臼前縁を乗り越える際に弾発音を生じる。
- 特徴:
- 股関節の屈曲→伸展時に「ポキッ」と音が鳴る。
- 仰臥位で股関節を屈曲・外転・外旋→伸展させると再現されやすい。
- 診断:FABERテスト、Hula-Hoopテスト、超音波動態観察が有用。
- 治療:腸腰筋ストレッチ、体幹安定化トレーニング、必要に応じて関節鏡下腱切離術。

2. 外側型弾発股(External Snapping Hip)
- 原因:腸脛靭帯や大殿筋後部線維が、大腿骨大転子を乗り越える際に引っかかる。
- 特徴:
- 立位で股関節の屈伸時に外側で「ゴリッ」「パキッ」と音が鳴る。
- 長距離ランナーやバレエダンサーに多い。
- 診断:Oberテスト、Modified Thomasテスト、Stinchfieldテスト。
- 治療:腸脛靭帯の柔軟性改善、中殿筋・大殿筋の強化、Z形成術などの手術も選択肢。

3. 関節内型弾発股(Intra-articular Snapping Hip)
- 原因:関節唇損傷、遊離体、骨軟骨損傷など股関節内の構造異常。
- 特徴:
- 急性外傷後に発症することが多く、痛みを伴う。
- 弾発音は「カチッ」「コツッ」と硬い音で、動作制限を伴うことも。
- 診断:MRI、関節造影、関節鏡。
- 治療:関節鏡視下手術(関節唇修復、遊離体摘出など)。

補足:術後型(人工股関節置換術後)
- 内側型に分類されるが、腸腰筋腱が人工関節のカップ前縁に接触することで発生。
- **発生率は1〜10%とされ、術前の設置角度や腸腰筋の緊張が関与。
 
各型における保存治療

内側型弾発股(腸腰筋型)
このタイプでは、腸腰筋腱が骨盤や大腿骨の前面に引っかかることで弾発現象が起こります。

保存療法としては、まず腸腰筋のストレッチが基本です。片膝立ちの姿勢で骨盤を後傾させながら前方に体重を移動させることで、腸腰筋を安全に伸ばします。腰椎の過伸展を避けることが重要です。

また、骨盤の前傾が強い場合は、腹横筋や多裂筋を活性化させて骨盤のニュートラルポジションを再学習します。体幹の安定性を高めるために、ドローインやバードドッグ、デッドバグなどの体幹トレーニングも有効です。

リハビリでは、初期には腸腰筋の滑走性を改善するためのストレッチやフォームローラーを用いた筋膜リリースを行います。中期には、クラムシェルやヒップリフトなどで股関節周囲筋の筋力を再教育し、後期にはランジやスプリントドリルなどの動的安定性トレーニングを導入します。


外側型弾発股(腸脛靭帯型)
このタイプでは、腸脛靭帯や大殿筋が大腿骨大転子を乗り越える際に弾発が生じます。

保存療法では、腸脛靭帯のストレッチが中心です。立位で足を交差させて体を側屈させる方法や、側臥位でのITB伸張が効果的です。中殿筋や大殿筋の筋力強化も重要で、チューブを使ったクラムシェルや片脚ヒップリフトが推奨されます。

フォームローラーを使って大転子周囲の筋膜をリリースすることで、摩擦を軽減できます。滑液包炎がある場合は、NSAIDsの使用やステロイド注射が検討されます。

リハビリでは、初期に摩擦を避けながら炎症を抑えることを目的とし、等尺性の外転筋収縮から始めます。中期にはチューブを使った外転運動や片脚スクワットを導入し、後期にはラダードリルやジャンプ動作などのアジリティトレーニングを行います。

関節内型弾発股(関節唇損傷・遊離体など)
このタイプは、股関節内部の構造異常が原因で、痛みを伴うことが多いです。

保存療法は軽症例に限られ、運動制限とNSAIDsによる炎症管理が中心です。理学療法では、深層外旋六筋の強化や骨盤・体幹の協調性を高めるトレーニングが行われます。

リハビリでは、初期に関節の可動域を維持しつつ炎症を抑えることを目的に、非荷重での関節モビライゼーションを行います。中期にはヒップヒンジやブリッジ、内旋筋の強化を進め、後期にはスプリントやジャンプ、競技特異的な動作を段階的に導入します。

どの分類でも共通して重要なのは、痛みのない範囲で進めること、骨盤と体幹の安定性を高めること、そして再発予防のために復帰後も継続的なケアを行うことです。