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整形外科 外科
リハビリテーション科

単純性股関節炎 Transient Synovitis of the hip

単純性股関節炎は、主に2〜12歳の小児に発症する一過性の股関節炎で、特に5〜7歳の男児に多くみられます。原因は明確ではありませんが、上気道感染後の免疫反応、軽微な外傷、アレルギー反応などが関与していると考えられています。

発症前に風邪様症状や激しい運動がみられることがあり、約3分の1は明らかな誘因がありません。症状は片側の股関節痛、大腿部痛、膝痛で、跛行や歩行困難を伴うことがあります。患児は痛みのために歩行を嫌がり、抱かれて来院することもあります。

診断には身体所見に加え、超音波検査での関節内水腫の確認が有用です。レントゲンではtear drop distanceの拡大が教科書的に記載されていますが、実臨床では明瞭でないことが多く、エコーによる評価が推奨されます。必要に応じて血液検査を行い、化膿性股関節炎やペルテス病などの鑑別を行います。

化膿性股関節炎を示唆する所見としては、38.5℃以上の発熱、患肢での荷重不能、白血球数12,000/μL以上、CRP 2.0mg/dL以上、赤沈1時間値40mm以上があり、これらを満たす場合は関節穿刺を行い、細菌感染の有無を確認します。

ペルテス病との鑑別は初期では困難なことがあり、単純性股関節炎と診断された場合でも、1か月後に再度レントゲンを撮影して骨端の変化を確認することが推奨されます。

治療は保存的に行い、運動や長距離歩行を制限します。痛みが強い場合は松葉杖による免荷やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を使用します。多くは1〜2週間で自然軽快しますが、症状が強い場合や安静が困難な場合は入院のうえ牽引療法を行うこともあります。

スポーツ再開は、痛みと跛行が消失し、flexion-adductionテストが陰性化した段階で判断します。


単純性股関節炎の鑑別診断一覧

項目 単純性股関節炎(TS) 化膿性股関節炎(SA) ペルテス病
好発年齢 2〜12歳(5〜7歳に多い) 乳幼児〜学童期 4〜10歳(男児に多い)
発症様式 急性 急性 徐々に進行
発熱 なし〜微熱 高熱(38.5℃以上) 通常なし
荷重 可能(軽度制限) 不可能 初期は可能なこともある
血液検査 正常〜軽度上昇(CRP < 2.0) 著明な炎症反応(CRP > 2.0、WBC > 12,000) 初期は正常
超音波所見 関節水腫あり 関節水腫+滑膜肥厚 初期は異常なし
MRI所見 滑膜炎のみ 滑膜炎+周囲筋炎症 骨端の阻血性変化(遅れて出現)
経過 1〜2週間で自然軽快 早期治療が必要(関節破壊リスク) 数か月〜数年の経過観察が必要
治療 保存的(安静・免荷) 抗菌薬+関節穿刺 装具療法
手術など