アキレス腱障害の総論
障害部位 |
疾患名 |
特徴 |
腱実質部 |
アキレス腱症(Achilles tendinopathy) |
炎症よりも変性が主体。瘢痕化・変性肉芽組織が関与 |
腱周囲 |
アキレス腱周囲炎(Achilles peritendinitis) |
パラテノンの炎症。疼痛部位が移動しない |
付着部 |
アキレス腱付着部症(Insertional tendinopathy) |
踵骨付着部の障害。滑液包炎を伴うことも |
滑液包 |
踵骨後部滑液包炎 |
アキレス腱と踵骨の間の滑液包の炎症 |
病態と原因
主因はOveruse:特にランニングやジャンプ動作
内的要因:加齢、柔軟性低下(下腿三頭筋・ハムストリングス)、過回内足、DM、RA、ステロイド長期使用
外的要因:不適切な靴、トレーニングエラー、ウォームアップ不足
腱障害の連続体モデル(最新知見): 反応性腱症 → 腱変性 → 腱断裂へと進行する連続的病態
鑑別のポイント
疾患 |
疼痛の特徴 |
触診所見 |
アキレス腱症 |
足関節の動きで痛む部位が移動 |
腱実質に圧痛、肥厚あり |
アキレス腱周囲炎 |
疼痛部位は固定 |
パラテノンに圧痛、腫脹あり |
治療戦略(保存療法中心)
急性期(〜72時間) 安静、アイシング、NSAIDs 運動中止と局所負荷の軽減
亜急性〜慢性期
温熱療法・超音波治療
ストレッチ:下腿三頭筋・ハムストリングス
エキセントリック運動(Alfredson protocol) 段差を使った踵上下運動(1日2回、15回×3セット、3ヶ月継続)
インソール・ヒールリフト:踵部を1cm程度高く
運動再開は疼痛消失+可動域回復後に段階的に
注射療法とその他の治療
治療法 |
有効性・注意点 |
ステロイド注射 |
腱断裂リスクあり、原則禁忌 |
ヒアルロン酸注射 |
パラテノン内注射で効果報告あり(保険外) |
動注療法(Transcatheter Arterial Embolization) |
モヤモヤ血管を標的とした新規治療。慢性疼痛に有効 |
PRP療法・体外衝撃波 |
難治例に選択肢(保険外) |
手術療法の適応
保存療法(4〜6ヶ月)で改善しない難治例 術式例: 腱内変性組織の切除 パラテノンの癒着剥離 足底筋腱切離術 長母趾屈筋腱移行術
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アキレス腱症 achilles tendinopathy アキレス腱周囲炎 Achilles peritendinitis
アキレス腱炎は腱内部に変性による痛みが起こり、アキレス腱周囲炎は腱の外側に炎症が起こります。いずれもアキレス腱部に痛みが生じます。原因は使いすぎが多いです。
単純に使いすぎても起こりますが下腿三頭筋やタイトハムといってハムストリングスの柔軟性が落ちている人はアキレス腱の負荷が大きくなり起こりやすいです。
実際、これらの炎症を起こしてくる人の柔軟性を調べるとかなり悪いことが多いです。
治療は原因となった運動負荷の見直しとストレッチが基本です。アイシングは運動直後に効果的ですが、痛みを無理矢理抑える作用もあり注意が必要です。温熱治療や超音波治療が効果的です。ヒールパッドの使用もよいです。
痛みが強い場合はある程度局所の安静をまず確保しないとなかなか治りません。
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アキレス腱~アキレス腱周辺の障害
アキレス腱実質の障害(アキレス腱症、アキレス腱周囲炎)
アキレス腱付着部の障害(アキレス腱付着部症、踵骨後部滑液包炎)
*アキレス腱症=アキレス腱炎、炎症よりも微細な損傷や小断裂によりアキレス腱実質内のの変性と退行性変性(瘢痕化、変性肉芽組織)が中心であり腱症と呼ばれることが多くなっています。
腱周りの炎症は繰り返す運動により微少な損傷が起こり、それを治すために線維化、瘢痕化が起こり変性していきます。急性期には強い炎症反応が起こり疼痛が生じることもあります。急性期には局所の安静とアイシング、消炎鎮痛剤の投与が行われます。72時間以上経って慢性化する場合は温熱治療や超音波治療を追加します。さらに体幹~下肢のタイトネスを改善させる必要があります。それには症状に応じたストレッチやトレーニングをします。
このようにして痛みが改善して十分な可動域を確保した上で運動を徐々に再開させます。痛みが無い=治ったと勘違いし自己判断で運動を再開し悪化することが多いので注意が必要です。痛みが改善しない場合は手術療法も考慮します。
アキレス腱症とアキレス腱周囲炎との鑑別法:腱症は足関節の屈曲・伸展で痛む箇所が移動するが周囲炎では移動しない。
<アキレス腱症の治療>
アキレス腱症の初期治療は少なくとも6ヶ月間、保存治療を集中的に行う。アスリートの場合は2-3ヶ月の保存治療で軽快しない場合は手術療法を検討します。原因の基本は下腿三頭筋収縮によるover
useが原因となっており、アキレス腱への牽引ストレスを控えるようにします。
アキレス腱への負担を減らすために1cmほど踵部が高くなった足底板、下腿三頭筋の遠心性運動が有効であると言われており、足関節を最大屈曲~伸展を行うようにします。
ステロイドの局所注射は腱の脆弱性を起こすために推奨されない。アキレス腱症、アキレス腱周囲炎にヒアルロン酸の局所注射を行い効果的とする報告があります。(変性したアキレス腱とkager's
fat padの間にヒアルロン酸と局麻剤を注入します。保険外)
<アキレス腱滑液包、アキレス腱付着部炎>
踵骨後部滑液包(踵骨とアキレス腱の間)、アキレス腱皮下滑液包炎
アキレス腱痛症(achillodynia)
アキレス腱の障害を総じてアキレス腱痛症といい、非付着部アキレス腱症とアキレス腱付着部症に分けられます。非アキレス腱付着部症は、アキレス腱症(実質部の変性)とアキレス腱周囲炎(パラテノンの炎症)に分けられます。
いずれもover use 障害ですが、急激な負荷や不適切な靴なども一因となっています。更には加齢や下腿三頭筋の柔軟性の低下、過回内足なども負荷を増大させています。
治療は、4-6週間、保存療法を行って抵抗性のある難治性のものは、手術療法を考慮します。保存治療は、まず2-6週間の安静とスポーツ活動の休止を行い、抗炎症薬、外用薬、局所のアイシングなどを行います。エキセントリックエクササイズが有効で急性期が過ぎれば、ステップの段差を使ってアキレス腱のストレッチ運動を行います。(3ヶ月、1日2回、15回3セット)この運動は、動作に支障が出ない限り痛みが出ても継続します。
注射療法:ステロイドの注射は、腱内への投与は原則禁忌と考えられています。アキレス腱周囲炎に対しパラテノン内にヒアルロン酸を注射することがあるが、有効性についての報告は少ない。
手術療法:保存療法を少なくとも4ヶ月以上行っても有効で無い難治例は手術療法を考慮します。術式は腱内変性組織の除去、腱周囲の癒着の除去、足底筋腱の切離、長母指屈筋腱移行術など。
その他の治療:体外衝撃波療法、自己血血小板血漿注入療法、硬化療法 (いずれも保険適応外 2016年現在)
足部・足関節疾患と外傷に対する保存療法
<アキレス腱障害に対する保存療法> ・アキレス腱障害には、以下の3つに分類されます。 1.アキレス腱症(踵骨付着部の近位2cmより頭側) 2.アキレス腱付着部症(踵骨付着部の2cm近位まで)→狭義のアキレス腱付着部症と踵骨後部滑液包炎の2つの病態がある 3.踵骨後部滑液包炎
*最近では変性が中心となっていることがわかり、この場合、~炎ではなく~症と呼ぶことが多くなっています。
スポーツ障害として多くが発症、ランニングで起こることが多い。アキレス腱症が6-7割、付着部症が2-3割とされる。原因は、内的要因として加齢、肥満、遺伝、DM、関節リウマチ、ステロイド長期投与など。外的要因として、トレーニング内容、未熟な技術、ウォーミングアップやクールダウン不足、不適切シューズなど。
病態:略
治療:保存療法が主で、特に階段の段差、ステップを使った下腿三頭筋の伸張性運動が勧められています。(つま先をステップに掛けて、踵を上下する運動。高齢者は後ろ向けに転倒しないように把持するものを容易。) |