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整形外科 外科
リハビリテーション科

高齢者の膝痛

高齢者の膝痛にはさまざまな原因があり、若者と異なることを考慮して診療する必要があります。多くは変形性膝関節症ですが、急速に痛みが発症する場合は、骨壊死、軟骨下脆弱性骨折、半月板損傷を合併していることもあります。このような疾患はレントゲン撮影では描出されにくいのでMRIでの精査が必要です。

<変形性膝関節症>

変形性膝関節症は軟骨が摩耗し膝関節の変形が起こる疾患ですが、変形があっても痛みの程度はさまざまで全くないこともあります。痛みが起こる部位は関節内と関節外に分けられます。関節内の痛覚(侵害受容器)は、軟骨部分には無く、滑膜、半月板の外3分の1、靱帯の起始部と停止部に分布しています。また膝蓋下脂肪体、軟骨下骨、骨髄にも侵害受容体が存在します。

痛みが起こるのは半月板や軟骨の破片が関節内に遊離し滑膜を刺激し滑膜炎を起こすためと言われています。この刺激によって膝関節内に水が溜まるようになります。

MRIで精査すると、荷重のかかる内側を中心に軟骨下骨で骨壊死、骨浮腫、線維化、出血などが起こっていることがあり、所見と痛みはよく相関するとされています。

治療は、保存的には消炎鎮痛剤、外用薬、運動療法、膝の装具、iインソール(アウターウェッジ)、関節内注射などを行います。それでも改善しない場合は、手術を検討します。

 手術には、施設により若干異なりますが、比較的若くアライメントの矯正で症状の緩和が計れると判断した場合は高位脛骨骨切り術(HTO)、大腿骨遠位部骨切り術(FDO)を行い、75歳以上では、アライメントが徒手(用手)矯正可能で内側または外側に限局した可動域が良好なOAには人工膝関節単顆置換術(UKA)、その他の症例は人工膝関節全置換術(TKA)を行います。


 関節外の痛みの原因としては、鵞足、腸脛靱帯、内側側副靭帯に痛みを訴えることが多い。この成因はよく分かっていないが、膝の変形や不安定性、痛みにより膝周辺の靱帯、腱に負荷がかかりすぎたり、また膝関節周りの筋腱や靱帯が関節内部の痛みにより拘縮して起こっているのではないかと考えます。

<特発性膝骨壊死 軟骨下脆弱性骨折>

 特発性骨壊死は高齢女性の大腿骨内顆に多く見られます。時に脛骨内顆(2%)にも発症します。壊死に先行して脆弱性骨折が生じていることは分かっています。加重部分が骨粗しょう症などで脆弱になっている場合に、微小な骨折を繰り返して、徐々に壊死状態となってしまいます。

 症状はある日突然、痛みが出てきます。発症が急なのが特徴です。変形性膝関節症では徐々に痛んでくることが多く、急な痛みで発症するときは特発性膝骨壊死を疑うようにします。レントゲン撮影は病初期には所見が無いのでMRIを撮影するようにします。

 MRIでは病巣部分が信号の変化として出てきます。治療は、早期であれば免荷を行います。骨粗しょう症にも対応します。骨壊死が進み痛みが改善しない場合は、UKA,TKAを行うようにします。

<半月板損傷>

 半月板断裂は、動作時痛、スナッピング、ロッキングといった症状を引き起こします。中高年の半月板損傷は必ずしも症状を起こすわけではないとされています。このため解除できないロッキングや半月板損傷による明らかな可動域制限などが無い限りは手術を行わずに、保存的に対応します。

 最近、中高年の内側半月板後角損傷が注目されています。これは半月板後角付近の(半月板の)横断裂や根部の靱帯部分での引き抜き損傷とされており、中高年、特に女性で急性発症して強い膝痛がある場合はMRIによる精査を行うようにします。断裂部の修復には手術を要しますが、その効果については未だ一定の見解は得られていません。
 
*鏡視下デブリドマン:変性し断裂した半月板や損傷した関節軟骨、増殖した滑膜を切除する方法で、嵌頓した半月板(バケツ柄断裂)などロッキングやキャッチングなどの明らかな半月板障害がみられるときに行います。
 
  変形性膝関節症の運動療法 水中トレーニングは効果なし?

 2012年、米国リウマチ学会ガイドラインでは、水中トレーニングは疼痛の改善や機能回復する効果は不明とされています。一方、下肢の筋力強化訓練は、非荷重運動、加重運動いずれでも、その効果量(effect size;ES)は疼痛緩和に対して0.38、機能改善には0.41と程度~中等度に有効であると報告されています。

 また、2013年の欧州リウマチ学会のガイドラインでは、大腿四頭筋訓練は疼痛改善と機能改善に有効であり、初期に運動指導を行い、長期に渡って日常生活に運動を取り入れるべきとしています。一方、水中運動は有効性や安全性が不明で個々の状態によって判断されるべきとしています。

最近の知見と再評価のポイント

2020年代以降のRCTやメタアナリシスでは、水中運動が膝OA患者の痛みの軽減、筋力維持、QOL向上に寄与する可能性が示唆されており、特に高齢者や肥満患者においては陸上運動よりも継続しやすいという報告もあります。

水中運動の特性(浮力・水圧・温熱)が、関節への負担を軽減しつつ、筋活動を促す点が再評価されています。


項目 水中運動の特徴 陸上運動の特徴
関節への負担 浮力により体重の最大70〜90%が免荷され、関節負担が軽減される 体重負荷が直接かかるため、関節へのストレスが大きい
筋力強化 水の抵抗により全身の筋活動が促進されるが、負荷調整が難しい 重力と自重を利用した明確な負荷設定が可能
疼痛の影響 温熱・水圧効果により疼痛緩和が期待される 疼痛が強い場合は運動継続が困難になることがある
バランス・協調性 水中での不安定性がバランス能力の向上に寄与 地面の安定性によりバランス訓練には工夫が必要
エネルギー消費 同じ運動時間でも水中の方が高い(例:水中ウォーキングは陸上の約2倍の消費量) 運動強度に応じて消費量は変動するが、比較的低め
継続性・心理的負担 疼痛が少なく達成感が得られやすいため、継続しやすい傾向 疼痛や疲労感により中断しやすいことがある
実施環境の制約 プール施設が必要で、移動や費用が障壁になることがある 屋外や自宅でも実施可能で、アクセス性が高い

このように、水中運動は関節保護や疼痛緩和に優れ、陸上運動は筋力強化や負荷調整に優れるという補完的な関係にあります。

自宅で簡単にできるストレッチや四頭筋筋力強化などを行うのが良いでしょう。

変形性膝関節症の運動療法

大腿四頭筋訓練
 急性期の激しい疼痛時:運動療法は不可
 急性期が過ぎて疼痛が少し残っている:膝下にタオルケットを丸めて置き、大腿四頭筋を収縮させてタオルを押す。1回3-5秒、1セット20回、一日5-6回
 膝痛が軽減あるいは安静時痛が無い:仰臥位で10cmほど挙上、5秒静止、1セット20回、左右交互に一日5-6セット、対側の足は腰痛予防のために屈曲しておく。座位で膝を伸ばす運動も効果的。10数えて1セット10回、一日3-5セット。

主要な膝周囲筋トレーニング

運動名 主なターゲット筋 特徴・ポイント
パテラセッティング 大腿四頭筋 膝伸展位での等尺性収縮。関節内圧を上げずに筋活動を促進。
ストレートレッグレイズ(SLR) 大腿四頭筋・腸腰筋 仰臥位で膝伸展位のまま下肢を挙上。股関節屈曲筋も同時に強化。
ブリッジ運動 大臀筋・ハムストリングス 骨盤後傾・大臀筋萎縮の改善に有効。膝の安定性向上にも寄与。
かかと上げ運動 下腿三頭筋 立位での足関節底屈運動。歩行時の推進力と膝安定性に貢献。
側臥位股関節外転運動 中殿筋 膝の外反・内反動揺を抑える。ラテラルスラスト対策にも有効。

痛みの有無を確認:疼痛が強い場合は等尺性運動から開始。
CKC vs OKC:初期は非荷重(OKC)中心、進行に応じて荷重位(CKC)へ移行。

股関節周囲筋の強化も重要:特に中殿筋・大臀筋の機能低下は膝OAの進行因子となるため、併せて評価・介入が推奨されます。

変形性膝関節症

中高年になると変形性膝関節症になっていきます。手術をする以外にも効果的な予防法や治療法はあります。まず大切なのは、膝関節の可動域を失わないこと、改善させること、膝を動かす筋肉をしっかりと鍛えることです。膝のストレッチはとても重要で、膝の変形が起こり出すと痛みなどにより、膝を曲げたり伸ばしたりする能力が徐々に落ちてきます。これは痛みに対する防御反応なのですが、このまま放置すると膝の屈曲伸展が落ちて歩きにくくなります。

これを予防するには、膝をしっかり曲げ伸ばしすることを毎日行うようにします。痛みが強くならない範囲で体重をかけずに行うようにしてください。1日朝夕2回程度行いましょう。ついで、膝の筋肉を鍛えます。これは大腿四頭筋といって太ももの前にある大きな筋肉を鍛えます。加えて外側、内側、後ろ側と4方向の運動を行います。各方向、1セット10回、3セットを朝夕行うようにします。
 
変形性関節症

関節の軟骨がすり減って、関節の変形が起こった状態を変形性関節症といいます。関節の変形は、関節リウマチなどの疾患により起こる場合と年齢を経て徐々に変形が進むものがあります。通常、関節の変形をきたす疾患がないのに変形をした場合に、変形性関節症と呼んでいます。

関節の関節があれば、年月とともに変形性関節症が起こります。この変形は徐々に進行します。膝の変形は中高年以降、目立って多くなります。膝は体重が掛かるので痛みなどの症状が出やすいといえます。体重が掛からない指の第1関節の変形も度々起こります。

第1関節の変形性関節症のことをヘバーデン結節と呼びます。第1関節だけで無く第2関節に起こるのものをブシャール病と言います。いすれも変形性関節症なのですが、変形の初期は痛みが強く、変形が進むと痛みが減弱していきます。痛みがあるのは、そこに炎症が存在することなので、この時期は変形も進みやすいと考えられます。

痛みと変形の進み具合は相関性があり、膝関節の研究では、痛みがあると変形が進みやすいとされています。従って、痛みがある状態を継続すると変形が進みますので、きちんと医療機関で治療を受ける方が良いでしょう。

特に膝や股関節は、歩行障害の原因となり、高齢者では寝たきりの原因となります。これらの関節に痛みが出ると外に出る生活が困難となって来ます。そうなると体重を支える筋も萎縮し、筋力が落ちて、さらに動けなくなり、寝たきりにつながっていきます。

当院では、痛みのコントロールに加えて、筋力強化、可動域の改善をはかるためのリハビリを行っています。これらを継続している方は、寝たきりになることはかなり少ないです。継続して通院されている方が寝たきりになることはほとんど無く、途中で治療から脱落するといつの間にか寝たきりになっているケースが多いです。

痛みが良くなってきたから治ったと考えるのは無く、年齢とともに変形性関節症は少しずつ進行しますので、継続した治療、とりわけリハビリの継続が大切です。


変形性関節症の痛みは侵害受容性疼痛なのか?

変形性関節症はあらゆる関節で起こります。加齢による変化であることが多いのでが、外傷後に関節軟骨の損傷、骨折後の変形などでも発症します。これらの痛みは、当初は、痛みのセンサーである侵害受容器の反応によって神経を経て痛みを感じます。したがって、受傷直後や発症直後は、侵害受容性疼痛であると考えて良いでしょう。

ところが、このような神経を刺激する状態が続くと、末梢神経や中枢神経が感作されて、信号が無いもしくは少ない状況でも強く反応してしまい痛みを感じるようになります。この痛みは、侵害受容性疼痛に加えて神経障害性疼痛が中心となってきます。

こうなると消炎鎮痛薬(アセトアミノフェンやNSAIDs)が効きにくくなり、神経障害性疼痛に使う薬(プレガバリン、SNRI,、ノイロトロピン、オピオイド等)を使用することになります。

これの治療に加えて膝の可動域改善のためにストレッチを、安定のために筋力強化を並行して行います。

ヒアルロン酸はどういった効果があるのか?

ヒアルロン酸の適応は、変形性膝関節症、肩関節周囲炎、関節リウマチにおける膝関節痛*1

*1関節リウマチにおける膝関節痛の適応は以下の基準をすべて満たす場合に限る
a)抗リウマチ薬等による治療で全身の病勢がコントロールできていても膝関節痛がある
b)全身の炎症症状がCRP値として10mg/dL以下
c)膝関節の症状が軽症から中等症
d)膝関節のLarsen X線分類がGradeⅠ~GradeⅢ

よく使われるのは変形性膝関節症です。もともと二足歩行の人間にとって膝関節は体重を支える役目を果たしています。したがって関節荷重面が強く擦れます。ヒアルロン酸はこの滑りをよくする作用があります。また軟骨面を覆って保護する作用があります。ただしすり減った軟骨を修復する作用は弱く、変形性膝関節症が進行するまでに、軟骨保護を目的として使用するのがよいと考えます。

米国のヒアルロン酸の適応は変形がかなり進んだケースが対象となっており、この場合、注射の効果はみられないしています。従って変形が進行する前の早期~中期の段階で早めの投与が進行を遅らせる意味で重要です。

ヒアルロン酸注射の主な効果

効果 説明
潤滑作用 関節内の滑液の粘性を高め、摩擦を軽減します。
衝撃吸収 関節への衝撃を和らげ、軟骨の保護に寄与します。
抗炎症作用 軽度の炎症を抑える効果があり、疼痛緩和に貢献します。
可動域の改善 関節の動きが滑らかになり、日常動作がしやすくなります。

有効性に関する最近の知見

軽度〜中等度のOAに対しては、疼痛緩和や機能改善に一定の効果があるとする報告が多く、特に初期段階での使用が推奨されています。

一方で、進行期OAでは効果が限定的であり、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療が代替手段として注目されています。

日本整形外科学会のガイドラインでも、ヒアルロン酸注射は「有用な場合がある」とされ、推奨度は87%と比較的高い評価を受けています。

⚠ 注意点と限界

効果には個人差があり、漫然と継続することは推奨されません

注射部位の腫れや熱感、まれに感染のリスクもあるため、定期的な評価と併用療法(運動療法・体重管理など)が重要です。

ヒアルロン酸注射・PRP療法・幹細胞治療の比較

変形性膝関節症(OA)に対する再生医療・保存療法の選択肢として整理しました:

項目 ヒアルロン酸注射 PRP療法(多血小板血漿) 幹細胞治療(間葉系幹細胞など)
作用機序 潤滑・衝撃吸収・軽度の抗炎症 成長因子による組織修復の促進 幹細胞による組織再生・抗炎症・免疫調整
使用する成分 合成または動物由来のヒアルロン酸 自己血液から抽出した血小板濃縮液 自己脂肪や骨髄由来の幹細胞(培養または抽出)
効果の持続期間 数週間〜数ヶ月 数ヶ月(個人差あり) 半年〜1年以上(報告による)
適応 軽度〜中等度のOA 軽度〜中等度のOA、スポーツ障害 中等度〜重度のOA、他治療無効例
治療の侵襲性 低(外来で注射) 低〜中(採血+注射) 中〜高(脂肪採取・培養・注射)
副作用・リスク 注射部位の腫脹・感染(まれ) 一時的な腫脹・熱感・内出血 感染・腫脹・高額な費用・倫理的配慮
費用(目安) 保険適用あり(数千円〜) 自由診療:10〜50万円程度 自由診療:数十万〜1000万円超も
科学的エビデンス 多くのRCT・ガイドラインで支持 効果に関する報告は増加中(エビデンスの質にばらつきあり) 長期的効果に関する研究は進行中(症例報告・小規模試験が中心)

要点まとめ:

ヒアルロン酸注射は初期治療として有効で、侵襲性が低く安全性が高い。

PRP療法は自然治癒力を活かした中間的な選択肢で、軽度〜中等度OAに適応。

幹細胞治療は再生能力が高く、重症例や他治療無効例に期待されるが、費用や倫理面の課題も。

ヒアルロン酸関節注射の効果

 ・関節の痛みを抑える
 ・関節の炎症を抑える
 ・関節の動きを良くする
 ・軟骨の摩耗を抑える
 
 関節内にはヒアルロン酸が分泌されて、氷の10倍以上滑りやすく関節をスムーズに動かすことができます。このヒアルロン酸が減ってくると軟骨は擦れて摩耗し易くなり、関節は変形していきます。変形が進まないうちに、痛みが出始めた頃からヒアルロン酸を関節内に注射することにより、変形を予防する効果があります。

米国の報告では、進行した変形性膝関節症には効果が乏しいとしています。従って早期~中期のうちに使うのがよいと考えられます。

人工膝関節置換術(TKA)のタイミング

保存治療を行っているにも関わらず膝OAが進行し、歩行の不自由を感じており、痛みのために外出などの頻度が減ってきている場合は、手術を推奨するタイミングとされています。実際には、日常生活において困る程度は個人差があり、患者サイドに立って判断します。

まず保存療法(消炎鎮痛剤、ダイエット、運動療法、足底板、ヒアルロン酸関注など)を行います。

手術には、人工膝関節置換術(TKA)、人工膝関節単顆置換術(UKA)、高位脛骨骨切り術(HTO)があります。60歳以上ではTKAもしくはUKAを、60歳以下では、高位脛骨骨切り術を選択する傾向があります。逆に50歳代と超高齢者には負担の少ないUKAを行うとする意見もあります。

UKAの適応は、膝内側に限局した変形性膝関節炎、骨壊死症、関節可動域は屈曲拘縮≦15度、屈曲角度110度以上、全膝関節靱帯が温存されている、アライメントとしてストレス撮影でFTA180度まで矯正されることとしています。「Bone on bone contact」の状態、すなわち内顆において上下の骨がぶつかり、関節裂隙が消失している(外顆は保たれている)ものは、UKAのよい適応とされています。
 

高位脛骨骨切り術の適応と手術のタイミング

FTA(膝外側角)185度以下で屈曲拘縮15度以下:open wedge 高位脛骨骨切り術(全十字靱帯機能が正常であること)

FTA(膝外側角)185度以上で屈曲拘縮15度以上:closed wedge 高位脛骨骨切り術

手術適応:膝痛があり、保存療法でも十分改善せず、日常生活では階段の昇降で痛みが強い、スポーツ時に強い痛みが出るなど支障の程度を勘案して適応を考慮します。