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整形外科 外科
リハビリテーション科

環軸関節回旋位固定 atlantoaxial rotatory fixation  (AARF)

 子供が急に頚を痛がってまっすぐ向けずに首が斜くようになります(斜頚位)。斜頸を起こす原因には、炎症性と外傷性を考え、それぞれ咽頭部の感染、環軸椎の亜脱臼(環軸関節回旋位固定)の有無を調べます。レントゲンで小児の場合、環軸関節の前後の隙間4ミリ以内、歯突起前方の軟部組織は2-7ミリが正常でそれ以上に開いている場合は何らかの異常が隠れている可能性があります。

 環軸椎回旋位固定は、開口位でレントゲンを撮影します。環軸椎関節で歯突起の位置に左右差がある場合は亜脱臼をしています。亜脱臼の治療は初期は頚椎カラーで経過をみる、もしくは牽引治療を追加する。1週間以内に改善しない場合は入院して持続牽引を行います。治療せずに長く放置すると固定され元に戻らなくなることもありますので、発症したらただちに整形外科を受診してください。
 
 
 本日のコラム357 環軸関節回旋位固定 atlantoaxial rotatory fixation  (AARF)


 環軸関節で回旋位の固定が起こる疾患です。感染症の後や外傷を契機に起こることも多いのですが、微少な外傷やはっきりとした原因が分からないこともあります。主に子供に見られますが、大人の発症もまれながら報告されています。

一側の頚部痛で発症します。痛い方に頸が回旋して固定されます。(cock robin position)典型例では、自動的にも他動的にも痛みで頸を動かせません。診断は、これらの症状に加えて、開口位レントゲンにて歯突起の左右への偏位が見られます。側面像では環椎の回旋に加えて、前方への亜脱臼見られることがあります。CT検査は有効で、回旋度、環軸関節の脱臼・亜脱臼の有無がわかります。前方への亜脱臼が強いと手足の麻痺(四肢麻痺)が出現することがあります。

 CTによるFielding分類TypeIからTypeIVまであります。TypeIは、回旋位固定は認めますが、環軸椎の前方脱臼・亜脱臼が見られないもので、通常、痛みや可動域制限も比較的軽く、積極的治療を行わなくとも、数日で改善することが多いとされています。数日で改善しない場合は、消炎鎮痛剤や頚椎カラーを使用します。

 一週間以上症状の改善が無い場合は、入院してベッド上安静や牽引治療を行うのが望ましいとされており、まれにTypeIから進行してII〜IIIに移行するケースもあるとされています。

 症状が出て1-3ヶ月(亜急性期〜慢性期)は、整復後、ハロー牽引やハローベストによる治療が必要となります。不安定で再発することも多く、再発例、不安定例や3ヶ月以上症状が続くケースでは、環軸椎後方固定術を考慮します。


病期  急性期   陳旧期  
炎症期(安静時疼痛を伴うことが多い) 拘縮期(解熱してある程度回旋運動が可能)
通常発症一週間以内で到達
病態 関節包周囲の炎症 関節包の拘縮 拘縮の残存
関節面の変形
症状 頚部痛
疼痛により回旋不可
斜頚
回旋可動域の左右差
斜頚
回旋可動域の左右差
治療 炎症の改善
局所安静

→原疾患の治療、頚椎カラー
アセトアミノフェン
軟部組織拘縮のリリース(牽引療法、可動域訓練)
→ベッド上の場合、頚部の向きと反対側にテレビやタブレットを置いて見せる
改善しない場合は徒手整復を試みる
徒手整復
*リモデリング療法
(観血的手術)

*リモデリング療法:通常発症2-3ヶ月後に環軸関節の変形が画像上はっきりすることが多いとされ、この時点で骨性の癒合がなければ、全身麻酔下に十分な徒手整復行い整復位を保持するために halo ベストを装着する療法。最も低侵襲。ハローベストの装着期間は2ヶ月から3ヶ月行う。後方固定術は最後の手段で、リモデリング療法でほとんどが改善するとされている。

*Fieiding分類
Type1 前方偏位なし
Type2 前方偏位あり(ADI:3-5mm)
Type3 前方偏位あり(ADI:5mm以上)
Type4 後方脱臼 まれに前方ではなく後方に脱臼するケースがあるので注意
→ADIとは環軸歯突起間距離(atlas-dens interbal)のこと。
 
本日のコラム555 大人の環軸関節回旋位固定 atlantoaxial rotatory fixation 

 子供が朝起きたら首が痛くなって、痛む方と反対側に顔をひねるようにして訴える病気です。はっきりした誘因が無い場合もありますがマット運動などでの外傷が契機となることもあります。ほとんどが子供に起こりますが、まれに大人にも発症することがあります。今回、格闘技で頸椎を捻られてから首に引っかかり感があるとのことで来院されたまれな成人例をご紹介します。(本人の許諾を得ています)

 環軸関節は、第1頚椎であるリング状の環椎と第2頚椎である歯突起という突起を持った軸椎で形成されます。主に首を左右に向く動作を担っています。この環軸関節がずれてしまい、痛みで首が動かせなくなる状態を環軸関節回旋位固定と言います。
 大人の場合は、ほとんどが高エネルギー損傷で起こるとされています。

初診時(受傷後一ヶ月)

左:レントゲン開口位正面像 歯突起が右にずれています。また下顎が左に向いています。

右:MRI 横断像 歯突起が右方向にずれています。歯突起を止めている環椎横靱帯の左側が高信号(T2強調像) 

ソフトカラーを装着して安静をはかりながら、京大病院を受診して頂きました。

*成人例は極めてまれで、論文もわずかしか無い状況でした。一般的に改善しない場合は手術が必要なこともあり、念のため京大病院整形外科脊柱外来にコンサルトしています。

一ヶ月後:頸椎のソフトカラーを装着し、痛みは改善しました。画像上も歯突起はほぼ中央に収まっています。可動域も良好で引っかかり感は消失しています。MRIでは、初診時に腫れていた環椎横靱帯の左側は縮小しています。

 文献では、小児例の報告が多かったです。画像としてはレントゲンやCT像はあっても、MIRI像は見当たりませんでした。子供はじっと出来ないので時間の掛かるMRIには不向きなためと思われます。最近では、CT類似MRIという手法を使って、CT画像に似たMRIを撮影し、評価することがあります。(まだまだ普及していません)

 今回、MRI像の経時的変化をみると、当初、外傷性に環椎横靱帯の片側性損傷が起こり、これにより同靭帯の腫れ(浮腫)が一側に生じた結果、歯突起が中央より偏位したのではないかと思われます。その後、局所安静により腫れが引いて歯突起が中央に戻り、病状が改善することが示唆されます。