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整形外科 外科
リハビリテーション科 |
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2025-11-11 JST
踵骨嚢胞性病変 calcaneus cystic lesion
踵骨の嚢胞性病変は、日常の診療でレントゲン撮影にて偶然見つかることが多いです。
痛みで来院される場合は、菲薄化した骨皮質で病的骨折を併発していることもあります。
X線→MRI/CTにて鑑別
踵骨(calcaneus)の嚢胞性病変には、良性腫瘍性・腫瘍類似病変が多く、代表的な鑑別として以下が挙げられます。
主な疾患
①単純性骨嚢腫(simple bone cyst)
②踵骨内脂肪腫(intraosseous lipoma)
③動脈瘤様骨嚢腫(aneurysmal bone cyst)
④骨線維腫症(fibrous dysplasia)
⑤感染性嚢胞性骨髄炎
治療は病変の大きさ・部位・症状・骨皮質の菲薄化程度により、経過観察〜掻爬骨移植術が選択されます。
鑑別診断(代表疾患)
| 疾患名 |
年齢層・好発部位 |
画像所見(X線/CT/MRI) |
備考 |
| 単純性骨嚢腫(SBC) |
小児〜若年成人 |
明瞭な辺縁・単房性透亮像。皮質菲薄化あり。 |
多くは無症候性で偶発発見。踵骨後外側部に多い。 |
| 踵骨内脂肪腫 |
成人 |
中心部石灰化を伴う低吸収域。MRIで脂肪信号。 |
最も多い良性腫瘍。自然経過で変性・石灰化も。 |
| 動脈瘤様骨嚢腫(ABC) |
若年者 |
多房性、膨隆性。液体液面像。 |
痛み・腫脹を伴うことが多い。 |
| 骨線維腫症(fibrous dysplasia) |
若年〜成人 |
“ground glass”様不透亮像。 |
病的骨折や変形に注意。 |
| 感染性嚢胞性骨髄炎 |
いずれの年齢でも |
不整な透亮像、反応性骨硬化。 |
臨床症状・炎症所見で鑑別。 |
(文献:Radiographics 2008;28:1061–1076, Skeletal Radiol 2019;48:1835–1848)
治療の原則
-
無症候性・小病変(特に脂肪腫・SBC)
→ 経過観察(3〜6か月ごと画像フォロー)。
-
骨皮質菲薄化・拡大傾向・疼痛・病的骨折リスクあり
→ 掻爬+骨移植(自家または人工骨)、必要によりスクリュー固定。
-
動脈瘤様骨嚢腫や再発性病変
→ 掻爬+骨移植に加え、高濃度フェノール焼灼・骨セメント充填など再発予防策を併用。
-
感染性が疑われる場合
→ 抗菌薬治療+掻爬ドレナージ。
(参照:J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158, J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238)
-
MRIで脂肪信号が明瞭な場合は脂肪腫が最も多い。
-
病変の位置が踵骨後外側部で皮質菲薄化を伴う場合、SBCまたは脂肪腫が鑑別上最優先。
-
小児例では、成長とともに自然治癒傾向あり。
-
**悪性腫瘍(骨肉腫・転移性病変)**はまれだが、不整形境界・骨膜反応・軟部腫瘤を伴う場合は生検を検討。
-
生検・手術時には距踵関節や腱付着部への影響に注意。
【出典】
-
Greenspan A. Orthopedic Imaging: A Practical Approach, 7th ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2020.
-
Radiographics. 2008;28(4):1061–1076.
-
Skeletal Radiol. 2019;48(12):1835–1848.
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日本整形外科学会 骨腫瘍診療ガイドライン 2022.
-
J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238.
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2025-11-11 JST
単純性骨嚢腫(Simple Bone Cyst, SBC/Unicameral Bone Cyst, UBC)
単純性骨嚢腫(Simple Bone Cyst, SBC/Unicameral Bone Cyst, UBC) は、骨内に液体を貯留した良性の嚢胞性病変で、主に小児〜若年成人の長管骨(上腕骨近位端・大腿骨近位端)に好発します。
踵骨(calcaneus)にも発生することがあり、整形外科臨床では比較的よく遭遇する良性・非腫瘍性病変です。
多くは無症候性・偶発的発見ですが、病的骨折や疼痛が出現した場合に治療適応となります。
疫学・発生機序
-
好発年齢:5〜20歳代(若年者)。
-
好発部位:上腕骨(約50%)、大腿骨(約25%)、次いで踵骨(約10〜15%)。
-
発生原因:完全には不明だが、骨内静脈還流障害 → 血漿滲出液貯留 → 骨吸収性嚢胞形成が主要仮説。
-
内容物:漿液性または血性の液体を含み、内壁は薄い線維性被膜。
(出典:Radiographics. 2008;28:1061–1076/J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158)
画像所見
| 検査 |
所見 |
| X線 |
明瞭な透亮像。単房性(単純性)〜時に隔壁状。骨皮質菲薄化あり。病変周囲に反応性硬化。 |
| CT |
均一な低吸収域、皮質菲薄化。 |
| MRI |
T1低信号/T2高信号。液体内容を示す。液面形成は稀(→動脈瘤様骨嚢腫を示唆)。 |
| 特徴的所見 |
“fallen fragment sign”:病的骨折後に骨片が嚢胞内に落ち込む像。踵骨では比較的診断的価値あり。 |
(出典:Skeletal Radiol. 2019;48:1835–1848)
治療方針
基本方針:症状・病変サイズ・骨強度に応じて段階的対応
| 病態 |
治療方針 |
| 無症候性・偶発発見・皮質菲薄化軽度 |
経過観察(6〜12か月毎のX線フォロー) |
| 荷重骨(踵骨)で骨折リスク高い or 疼痛あり |
掻爬+骨移植(自家骨または人工骨) |
| 再発例・難治例 |
掻爬+骨移植+補助療法(フェノール・高速度バーなど) or 経皮的ステロイド注入(Celestone法) |
| 病的骨折合併 |
初期はギプス固定で骨癒合誘導、再発防止目的で骨移植検討 |
(出典:J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238/Foot Ankle Int. 2020;41:1271–1278)
踵骨(calcaneus)での特徴と治療適応
-
踵骨SBCはしばしば**後外側部(Ward’s triangle部)**に発生。
-
多くは無症候性だが、スポーツ活動・長期荷重で疼痛を呈する例あり。
-
病変径が踵骨長径の30〜40%以上・皮質菲薄化あり・疼痛持続のときは手術適応。
-
手術は**掻爬+骨移植(β-TCPやハイドロキシアパタイト)**が標準。
-
術後は6〜8週の免荷・装具歩行を経て荷重再開。
(出典:J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158/Foot Ankle Surg. 2019;25:566–571)
再発・予後
-
小児例では成長線近傍に発生することが多く、成長板損傷防止に注意。
-
動脈瘤様骨嚢腫(ABC)や脂肪腫との鑑別が重要(多房性/液面形成像/脂肪信号の有無など)。
-
感染や外傷後に類似所見を呈することがあるため、MRIで内容確認を行う。
-
ステロイド注入法は再発率が高く、踵骨など荷重骨では掻爬+骨移植の方が安定成績。
【出典】
-
Radiographics. 2008;28(4):1061–1076.
-
J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158.
-
J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238.
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Foot Ankle Int. 2020;41:1271–1278.
-
Skeletal Radiol. 2019;48:1835–1848.
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2025-11-11 JST
踵骨内脂肪腫(Intraosseous Lipoma of the Calcaneus)



踵骨内脂肪腫(Intraosseous Lipoma of the Calcaneus) は、踵骨に発生する最も頻度の高い良性腫瘍性骨病変です。
ほとんどが偶発的に発見され、無症候性・経過観察可能なことが多いですが、まれに疼痛や病的骨折を伴う場合には外科的治療(掻爬+骨移植または骨セメント充填)が行われます。
疫学・発生部位
(出典:Milgram JW. Clin Orthop Relat Res. 1988;231:277–302/Radiographics. 2008;28:1061–1076)
画像所見(典型像)
| モダリティ |
所見 |
| X線 |
明瞭な透亮像(境界明瞭)。内部に細かな石灰化(脂肪壊死・石灰沈着)を伴うことがある。 |
| CT |
均一な低吸収域(脂肪成分:−50〜−100 HU)。部分的に硬化縁や石灰化。 |
| MRI |
T1強調像:高信号(脂肪成分)/T2強調像:高信号/脂肪抑制像で低信号化。内部壊死部は不均一。 |
| 特徴的サイン |
「中心部石灰化+周囲に脂肪信号」のリング状像。 |
⚠️ MRIで脂肪抑制後も高信号を示す場合は脂肪腫以外(脂肪肉腫・線維腫様変化など)を疑う。
(出典:Skeletal Radiol. 2019;48:1835–1848/Eur Radiol. 2018;28:2179–2194)
病理
Milgram分類(病理学的進行度)
| Stage |
所見 |
臨床的特徴 |
| I |
純粋な脂肪腫 |
無症候・偶発発見 |
| II |
壊死や石灰化を伴う脂肪腫 |
軽度疼痛・硬化縁形成 |
| III |
石灰化・骨化が高度 |
陳旧化病変・症状出現することあり |
(出典:Milgram JW. Clin Orthop Relat Res. 1988;231:277–302)
治療アルゴリズム(踵骨例)
| ステップ |
病態 |
推奨治療 |
| 1. 無症候性・偶発発見 |
小病変・皮質菲薄化なし |
経過観察(6〜12か月ごとX線/MRI) |
| 2. 疼痛あり・皮質菲薄化・骨折リスクあり |
Ward’s triangleの拡大病変 |
掻爬+骨移植(β-TCP/人工骨) または 骨セメント充填 |
| 3. 再発/骨破壊進行例 |
稀(<5%) |
再掻爬+骨補強固定(スクリュー)検討 |
| 4. 鑑別困難例 |
MRIで非典型像・脂肪抑制後も信号残存 |
生検(悪性腫瘍除外) |
踵骨は荷重骨であり、皮質菲薄化が強い場合は病的骨折リスクが高いため、手術を積極的に考慮。
術後は6〜8週の免荷後、段階的荷重再開。
(出典:J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238/Foot Ankle Int. 2020;41:1271–1278)
⚖️ 鑑別診断
| 疾患 |
区別点 |
| 単純性骨嚢腫(SBC) |
脂肪信号を欠く(T1低信号)。液体内容でMRI均一高信号。 |
| 動脈瘤様骨嚢腫(ABC) |
多房性/fluid–fluid levelあり/血流豊富。 |
| 骨線維腫症(FD) |
すりガラス様構造。脂肪信号なし。 |
| 脂肪肉腫 |
境界不明瞭・軟部侵潤・脂肪抑制像で信号残存。 |
【注意点・例外】
【出典】
-
Milgram JW. Clin Orthop Relat Res. 1988;231:277–302.
-
Murphey MD et al. “Imaging of intraosseous lipoma.” Radiographics. 2008;28:1061–1076.
-
Sciandra M et al. “Calcaneal intraosseous lipoma: case series and review.” Foot Ankle Int. 2020;41:1271–1278.
-
Jee WH et al. “MRI features of intraosseous lipoma.” Eur Radiol. 2018;28:2179–2194.
-
J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238.
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動脈瘤様骨嚢腫(Aneurysmal Bone Cyst:ABC)
動脈瘤様骨嚢腫(Aneurysmal Bone Cyst:ABC) は、骨内に血液を含む嚢胞状腔を形成する良性だが局所的に破壊性の強い骨腫瘍様病変です。
主に10〜20歳代に発生し、踵骨を含む足根骨では稀ですが、発見時には疼痛や腫脹を伴うことが多いです。
治療は、掻爬・骨移植術を基本とし、**再発防止目的の補助療法(フェノール・高速度バー・骨セメントなど)**を併用します。
疫学・病態
(出典:J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158、Cancer 2014;120:3991–4002)
画像所見
| モダリティ |
特徴的所見 |
| X線 |
膨隆性、境界明瞭、薄い反応性骨皮質を伴う多房性透亮像。 |
| CT |
隔壁構造が明瞭、皮質菲薄化。骨破壊傾向を確認可能。 |
| MRI |
特徴的な**fluid–fluid level(液面形成像)**が多房性にみられる(出血層分離像)。T1で低〜中信号、T2で高信号。 |
| 造影MRI |
隔壁(中隔)の造影効果があり、血流豊富な壁構造を反映。 |
(出典:Radiographics. 2008;28:1061–1076, Skeletal Radiol. 2019;48:1835–1848)
治療
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基本方針:掻爬+骨移植(自家または人工骨)
・骨皮質菲薄化部を開窓し内部を徹底掻爬。
・再発防止のため、フェノール焼灼・アルゴンプラズマ凝固・骨セメント充填などを併用。(施設により異なることがある)
注:動脈瘤様骨嚢腫(ABC)に対して、掻爬+高速度バー(high-speed burr)を併用した手術が現在も主流の治療法であり、高濃度フェノール焼灼を必ず併用すべき「スタンダード治療」とまでは明確に支持されていません。
つまり、フェノール焼灼は“補助的オプション”として用いられることはあるものの、エビデンス上「必須」と位置づけられているわけではありません。
-
再発率:単純掻爬で10〜30%。補助処理を加えると再発率5〜10%以下に減少。(差が無いとするレビューもあり))
-
**難治例/手術困難例(脊椎・骨盤)**では、塞栓術やドキソルビシン注入、デノスマブ治療の報告もある。
-
踵骨のような荷重骨では、術後の強度確保のために人工骨ブロック+スクリュー固定を行う場合もある。
(出典:J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238, J Orthop Sci. 2020;25:1219–1226)
病理所見
(出典:WHO Classification of Soft Tissue and Bone Tumours, 5th ed., 2020)
-
画像上fluid–fluid levelを示す病変は、ABC以外にも「骨巨細胞腫」「テロイド骨肉腫」「血管腫」などがあるため、生検で確定診断が必要。
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踵骨発生例では、皮質が菲薄なため病的骨折リスクが高い。荷重制限と固定を併用。
-
小児例では再発率が高く、閉鎖線が未完成の場合は特に慎重なフォローが必要。
-
術後フォロー:X線で3〜6か月毎に確認し、再膨隆・液面像出現を早期に察知。
【出典】
-
J Bone Joint Surg Am. 2007;89:152–158
-
Cancer. 2014;120:3991–4002
-
Radiographics. 2008;28(4):1061–1076
-
Skeletal Radiol. 2019;48(12):1835–1848
-
WHO Classification of Soft Tissue and Bone Tumours (5th Ed., 2020)
-
J Foot Ankle Surg. 2015;54:1232–1238
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骨線維腫症(特に踵骨・足根骨発症例)
踵骨・足根骨に発生した骨線維腫症(FD)は非常に稀ですが、荷重骨であるため 疼痛・変形・骨折リスクが比較的高く、通常は保存的フォローが第一選択ですが、 疼痛持続・骨変形進行・骨破壊所見ありの場合には 掻爬+骨移植(または補強固定) を検討するべきです。
以下に典型的画像特徴と治療アルゴリズムを整理します。
【典型的画像所見】
ポイント:踵骨・足根骨という“荷重かつ構造的役割の大きい部位”に発生するため、長管骨や頭蓋骨に比べて「症状出現・変化進行」を認めやすい可能性があります(推測ですが)。
【治療アルゴリズム】
以下は、踵骨・足根骨に発生したFDを想定した 実践的アルゴリズム(整形外科視点) です。各ステップにて個別症例条件を必ず検討してください。
| ステップ |
判定項目 |
治療方針 |
| 1. 初期評価 |
・症状の有無(疼痛・腫脹・荷重時痛)・画像所見:病変サイズ/骨皮質菲薄化/骨変形/骨折既往・部位:踵骨・足根骨の荷重・支持機能への影響 |
無症状かつ骨変形・皮質侵襲の少ない場合 → 経過観察 |
| 2. 保存的管理 |
上記で軽症・構造的リスク低の場合 |
・荷重制限・保護的装具(インソール・ヒールカップ)・定期画像(6〜12か月)と臨床フォロー・疼痛あればビスホスホネート検討(疼痛緩和目的) |
| 3. 手術適応検討 |
以下いずれかを満たす場合:・持続的/増悪性疼痛・皮質菲薄化・骨破壊進行+変形予備群・病的骨折既往または骨折リスク高・荷重支持機能に対する影響(踵骨の場合) |
掻爬+骨移植(自家骨 or 人工骨)+必要に応じて内固定・骨補強(スクリュー・プレート) |
| 4. 手術後フォロー・補強処置 |
手術後:骨融解状況・骨移植部の癒合・変形再発チェック |
・定期X線(3〜6か月毎)フォロー・荷重解除期間設定(踵骨では6〜8週間キャストまたは装具)・ビスホスホネートの併用検討(疼痛・骨代謝改善目的)・再変形・再発徴候あれば骨腫瘍専門医・骨代謝専門医と連携 |
| 5. 例外・高リスク対応 |
・多発型/合併症あり(例: マッキューン‐オルブライト症候群)・悪性変化疑い(急速増大・軟部侵襲) |
専門施設紹介・生検検討・多職種(内分泌・腫瘍)連携 |
-
踵骨・足根骨例は非常に稀であり、文献数が少ないため一般長管骨例のエビデンスをそのまま当てはめるのは慎重である。
-
手術部位が荷重支持部位のため、術後の固定・荷重解除・装具指示がより慎重に設定すべき。
-
手術を行ったからといって“完全な病変消失“が保証されるわけではなく、再発・残存病変あり得るため長期フォローが必要。
-
ビスホスホネート等薬物療法は疼痛や骨代謝マーカー改善の報告あるが、骨折予防・構造改善のRCTは限定的。
-
変形・骨折リスクが高い場合には、早期に内固定併用も視野に入れるべき(推測ですが、踵骨支持力低下例では報告があります) 。
【出典】
-
Bartley J. et al. “Fibrous Dysplasia in the Calcaneus.” Foot Ankle Spec. 2017;10(1):72–74. PMID 27325625.
-
Ko JH, Park GJ, Lee KB. “Multiple calcaneal fibrous dysplasia: A case report.” Medicine (Baltimore). 2019;98(51):e18389. (
-
Javaid MK et al. “Best practice management guidelines for fibrous dysplasia/McCune-Albright syndrome.” Orphanet J Rare Dis. 2019;14(1):69.
-
Orthobullets – “Fibrous dysplasia” (review).
-
van Geloven TPG et al. “Surgical treatment of monostotic fibrous dysplasia
of the …” (2025).
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感染性嚢胞性骨髄炎(Infectious cystic osteomyelitis)
感染性嚢胞性骨髄炎(Infectious cystic osteomyelitis) は、細菌感染により骨髄内に慢性の膿瘍状・嚢胞様病変が形成された状態で、
一般的な「慢性骨髄炎(chronic osteomyelitis)」の一形態です。
踵骨や足根骨などの荷重骨では、血行性あるいは術後感染・穿通性外傷後に発生し、嚢胞状透亮像や皮質破壊像を呈することがあります。
治療の基本は、感染巣掻爬+抗菌薬治療であり、骨欠損が大きい場合は骨移植・骨セメント(抗菌薬含有PMMA)充填を併用します。
病態・発生機序
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起因菌:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が最多。
他にコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、緑膿菌、グラム陰性桿菌(特に糖尿病足感染例)など。
-
発生要因:
① 血行性感染(小児に多い)
② 外傷・手術後感染(成人に多い)
③ 足潰瘍・糖尿病足病変からの波及(踵骨例で多い)
-
病理像:骨髄内に慢性膿瘍腔(cystic cavity)を形成し、内面は線維性肉芽組織に覆われる。
周囲に硬化縁を伴うことが多く、これがX線上「嚢胞性病変」に見える。
(出典:Lew DP, Waldvogel FA. N Engl J Med. 1997;336:999–1007/J Bone Joint Surg Am. 2009;91:686–700)
画像所見(踵骨を中心に)
| 検査 |
特徴的所見 |
| X線 |
不整形の透亮像+反応性骨硬化縁。内部に小石灰化・隔壁。周囲骨膜反応を伴う。 |
| CT |
皮質破壊や小空洞の多発を描出。 |
| MRI |
T1低信号・T2高信号の嚢胞状領域。周囲に造影効果を伴う炎症性変化。 |
| 特にT1強調で骨髄脂肪が途絶+造影増強が感染を示唆。 |
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| 骨シンチ/FDG-PET |
集積増強(活動性炎症)。糖尿病足例で有用。 |
(出典:Radiographics. 2016;36:1403–1421/Eur Radiol. 2018;28:2406–2417)
診断
-
臨床所見:疼痛・発赤・腫脹・瘻孔排膿・歩行痛。
-
血液検査:CRP・白血球増多・赤沈亢進。
-
画像:X線・MRIで嚢胞様病変+炎症反応性骨硬化。
-
確定診断:掻爬時の骨組織培養/生検で起因菌を同定。
⚠️ MRIでfluid–fluid levelや明瞭な隔壁構造を示す場合は、動脈瘤様骨嚢腫やSBCとの鑑別が必要。
治療アルゴリズム(踵骨例を含む)
| ステップ |
方針 |
内容 |
| 1. 急性期感染コントロール |
静注抗菌薬 |
感受性に基づく(例:MSSA→セファゾリン/MRSA→バンコマイシン)2〜6週静注+経口移行。 |
| 2. 感染巣除去 |
掻爬術・デブリードマン |
壊死骨・膿瘍腔を完全掻爬し、洗浄。 |
| 3. 骨欠損処理 |
骨移植または抗菌薬含有PMMAセメント充填 |
骨強度保持と局所抗菌。 |
| 4. 再建(必要時) |
二期的自家骨移植またはフラップ |
大欠損・皮膚欠損を伴う場合。 |
| 5. 慢性期フォロー |
再感染徴候チェック |
画像フォロー3〜6か月毎。 |
(出典:Cierny G, Mader JT. Clin Orthop Relat Res. 2003;414:7–24/J Orthop Surg Res. 2020;15:36)
鑑別診断(踵骨・足根骨)
| 疾患 |
鑑別点 |
| 単純性骨嚢腫(SBC) |
無症候・境界滑らか・反応性硬化少。 |
| 骨線維腫症(FD) |
すりガラス様構造・炎症所見なし。 |
| 動脈瘤様骨嚢腫(ABC) |
多房性fluid–fluid像。炎症マーカー陰性。 |
| Brodie膿瘍(subacute OM) |
本疾患の代表型。硬化縁+透亮中心像。 |
※実際には「Brodie’s abscess(ブローディ膿瘍)」が感染性嚢胞性骨髄炎の典型像とみなされる。
踵骨例に特有の注意点
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足底軟部組織が薄く、瘻孔形成・難治性感染に進展しやすい。
-
糖尿病・末梢動脈疾患合併例では、血流障害による治癒遅延・再発が多い。
-
掻爬後は荷重制限(6〜8週)+免荷装具が必要。
-
局所陰圧閉鎖療法(VAC)を併用すると治癒促進例も報告あり。
(出典:J Foot Ankle Surg. 2017;56:1045–1051)
【出典】
-
Lew DP, Waldvogel FA. N Engl J Med. 1997;336:999–1007.
-
Cierny G, Mader JT. Clin Orthop Relat Res. 2003;414:7–24.
-
Waldvogel FA, et al. J Bone Joint Surg Am. 2009;91:686–700.
-
Radiographics. 2016;36:1403–1421.
-
J Orthop Surg Res. 2020;15:36.
-
J Foot Ankle Surg. 2017;56:1045–1051.
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踵骨骨肉腫(Osteosarcoma of the Calcaneus)
踵骨骨肉腫(Osteosarcoma of the Calcaneus) は、全骨肉腫のうち 1%未満と非常に稀な発生部位です。
診断時には多くが局所進行または疼痛性腫脹を呈し、早期診断が難しい荷重骨原発悪性腫瘍です。
治療は、術前化学療法+広範切除(時に離断) が原則であり、予後は他部位よりやや不良とされています。
疫学・発生部位
-
骨肉腫(osteosarcoma)は原発性悪性骨腫瘍の約20〜25%を占めるが、踵骨発生は全体の0.8〜1.6%程度と極めて稀。
-
好発年齢:典型的には10〜25歳の若年者(長管骨型)、ただし踵骨型は30〜50歳代の報告も多い。
-
性差:男性にやや多い(約1.5:1)。
-
好発部位:踵骨の後方〜外側部、時に距踵関節・腱付着部を巻き込む。
(出典:Widhe B, Widhe T. Foot Ankle Int. 2000;21(11):980–986/Huth JF et al. J Foot Ankle Surg. 2019;58:1062–1070)
画像所見(典型像)
| モダリティ |
所見 |
| X線 |
不整な骨硬化像と透亮像が混在(“sunburst pattern”や“moth-eaten appearance”)。皮質破壊・骨膜反応を伴う。 |
| CT |
皮質浸潤・骨外への腫瘤突出、石灰化の分布を確認。 |
| MRI |
T1低信号・T2高信号の腫瘤。造影で強い不均一増強。軟部組織進展が明瞭。 |
| 骨シンチ・PET |
強い集積を示し、遠隔転移検索に有用(肺・脊椎・骨盤など)。 |
(出典:Radiographics. 2008;28:1061–1076/Eur Radiol. 2021;31:2212–2224)
⚠️ 踵骨は解剖学的に軟部組織が薄いため、腫脹・疼痛で初発することが多いが、外反足やアキレス腱炎と誤診されやすい。
病理学的分類
踵骨に発生する骨肉腫の組織型は、
(出典:WHO Classification of Bone and Soft Tissue Tumours, 5th ed., 2020)
治療アルゴリズム(踵骨型)
| ステップ |
治療方針 |
内容 |
| 1. 診断確定 |
画像+針生検 |
MRIガイド下またはオープン生検で病理確定。感染・良性嚢胞との鑑別。 |
| 2. 術前化学療法(Neoadjuvant) |
MAP療法(メトトレキサート・ドキソルビシン・シスプラチン) |
2〜3コース実施。効果により術式を決定。 |
| 3. 外科的治療 |
広範切除(wide excision) |
局所制御重視。腫瘍が足根部全体に及ぶ場合はSyme離断または下腿切断が選択されることも。 |
| 4. 術後化学療法 |
同レジメンを追加 |
病理学的壊死率に基づき調整。 |
| 5. フォローアップ |
3か月ごとの胸部CT・局所MRI |
2年間は再発・肺転移チェックを厳重に行う。 |
(出典:NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Bone Cancer v2.2025/J Clin Oncol. 2020;38:259–268)
予後
(出典:Foot Ankle Int. 2000;21:980–986/J Foot Ankle Surg. 2019;58:1062–1070)
鑑別診断
| 疾患 |
鑑別点 |
| 感染性骨髄炎 |
臨床経過緩慢・造影パターン異なる・膿瘍形成/硬化境界あり。 |
| 動脈瘤様骨嚢腫(ABC) |
多房性fluid–fluid像・炎症マーカー陰性。 |
| Ewing肉腫 |
若年発症・層状骨膜反応(onion-skin)・CD99陽性。 |
| 脂肪腫/SBC |
均一透亮像・骨破壊なし・MRI脂肪信号。 |
【注意点・例外】
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踵骨・足根骨は腫瘍切除後の荷重再建が困難であり、術式選択(切断 vs 機能温存)は多職種カンファレンスで決定。
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疼痛+骨硬化像+皮質破壊+軟部腫瘤があれば、感染や良性腫瘍に惑わされず生検を行う。
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放射線治療は骨肉腫では基本的に無効(放射線抵抗性)。
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再建法として、腓骨移植+内固定・3Dプリント人工骨再建の報告もあるが、機能的予後は限定的。
【出典】
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Widhe B, Widhe T. Osteosarcoma of the foot: a population-based study of 52 cases.Foot Ankle
Int. 2000;21(11):980–986.
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Huth JF et al. Calcaneal Osteosarcoma: Case Series and Review.J Foot Ankle Surg. 2019;58(6):1062–1070.
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NCCN Guidelines: Bone Cancer v2.2025.
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WHO Classification of Tumours: Bone and Soft Tissue Tumours (5th Ed., 2020).
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J Clin Oncol. 2020;38:259–268.
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Radiographics. 2008;28(4):1061–1076.
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