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整形外科 外科
リハビリテーション科

手根骨骨折 carpal bone fracture

手根骨は手の関節を構成する8個の小さな骨。それぞれが靭帯でつながっており手首の運動をスムーズに行っています。外傷でそれぞれ骨折することがあります。手根骨骨折の70%が舟状骨骨折、10%が三角骨骨折、有鉤骨骨折10%、豆状骨骨折5%、大菱形骨骨折3%となっています。

レントゲンで描出されない場合もあるので、臨床症状(痛み、圧痛など)から骨折が考えられる場合はCTを行う。加えてMRI検査も必要に応じて考慮します。

CTやMRIでの精査が有効。

舟状骨骨折

舟状骨骨折はよく見逃される骨折であり、また治りにくい骨折として有名です。多くは何らかの形で転倒した際に手をついて発症します。若者に多く、高齢者の場合は舟状骨骨折よりも橈骨遠位端骨折になりやすいです。

舟状骨はカシューナッツのような形をしており、骨折部位により治りにくさが違います。比較的良好なのは遠位骨折です。ここは血流が保たれていることが多く、ずれが大きくなければ4-6週間の親指から肘までのギブス固定を選択します。(ただ通常の骨折よりはつきにくいと考えてください。)

近位は骨折により血流が遮断されて偽関節になりやすいです。保存的には4-5ヶ月ギブス固定をしますが、つかない(偽関節)ことも多いです。

ハーバートスクリューという特殊なねじで固定する手術が行われます。

最終的につかない場合は偽関節となります。不安定なので痛みが生じます。舟状骨の場合、これを放置するとほかの手根骨にも影響して変形や痛みが生じるようになることがあります。

偽関節の治療は手術療法となります。通常、骨移植をして固定を行います。

高校生以上ではコンプレッションスクリュー(圧迫螺子)をもちいた手術療法が行われますが、子供では骨癒合がよいので保存的に対処します。thumb spica cast を4-6週間行います。(母指まで巻かずにコレスギプスで問題ないとする報告があります。下記参照)

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舟状骨骨折~疲労骨折を含む

舟状骨骨折は若者が転倒して手をつくと起こりやすい骨折です。嗅ぎタバコ窩に圧痛があるのが特徴です。捻挫と自己診断してそのまま放置し偽関節となることがあります。体操競技など手関節に繰り返して負荷をかける運動では舟状骨の疲労骨折を起こすこともあります。

治療は、転位がほとんどない場合、またはMRIやCTでようやく骨折と診断できる場合は、ギプス固定を4-6週間行います。受傷直後より転位のある例、経過中に転位が増大する例では手術を行います。スポーツ選手では早期回復をめざして手術療法を積極的に選択することが推奨されています。舟状骨中央では掌側から、近位部では背側からアプローチします。

<治療方針>

・新鮮安定型骨折

前腕から手までのギプス固定(short arm cast)を4-6週間行う。ほとんど転位の無い例(1mm未満)、骨挫傷が対象。

遷延治癒や偽関節に注意。受傷後4ヶ月程度は慎重に経過観察

近位部や斜骨折は不安定型なので手術を考慮する。(手術をしない場合は、4-5ヶ月ギプス固定、偽関節になることも多い)

*ギプス固定は、母指まで固定するthumb spica castや上腕までのlong arm castではなく、前腕から手までのコレスキャストで十分とする報告があります。


・新鮮不安定型骨折;早期スポーツ復帰をめざす場合や受傷時に転位(1mm以上)がある場合は手術を行うようにします。

・偽関節;遊離骨移植と血管柄付き骨移植があり、骨移植と内固定を行います。
LIPUS(低出力超音波):治癒促進に有効だが治療期間は長め(平均6ヶ月)
 

有鉤骨骨折

体部鈎部骨折があります。体部骨折は第4第5中手骨骨折に合併することが多いです。鈎部はスポーツ外傷、特に野球・テニス・ゴルフ等でグリップエンドが当たって受傷します。体部骨折で転位が無ければ、4-6週間の外固定をします。転位がある場合は手術を行います。

鈎部骨折は早期スポーつ復帰を望む場合は骨片摘出術を行います。受傷一週間以内で転位の無いものはギブス固定を6週間行いますが骨癒合は得られにくく、受傷一ヶ月以内で転位の少ないものは骨接合術の成績がよい。また転位の大きいものは骨片摘出術を選択することが多い。低出力超音波(LIPUS)は低侵襲ですが、治療期間は平均6ヶ月と長くなります。

鈎部骨折は小指屈筋腱損傷、尺骨神経麻痺に注意する。

*中学生以上の有鈎骨鈎骨折は手術することが多い。鈎部摘出で2-3週間後に復帰可能。(2ヶ月程度とする意見もあるので、平均3-6週で復帰可能と考えておく)

■体部骨折の固定(保存治療の原則)

骨折型 保存療法の適応 固定方法 期間 注意点
体部・転位なし 保存可能 前腕手関節背側少し伸展位のギプス(short arm cast)+掌側にパッドで尺側手根屈筋・豆状骨を支持 4–6週 握力負荷・バットスイング・ラケットは中止
軽度転位(≤1–2 mm) ギプス下整復で可 同上 6週前後 X線/CTフォロー必須
転位あり/関節内骨折/手根不安定 →原則手術適応

保存治療のポイント

手関節の尺屈・回内動作で疼痛増悪する例では固定期間を長めにする
CTで骨癒合の確認が必須(X線では読みにくい)
スポーツ復帰:受傷後8–10週目以降(競技強度に応じて)

■有鉤骨鈎部骨折(Hook of hamate fracture)

固定(保存治療の原則)

ただし偽関節率が高く、競技者では手術優先が一般的

骨折型 保存療法の適応 固定方法 期間 備考
転位なし・初回受傷・スポーツ非競技者 検討可能 有鉤骨部を含め手掌を包み込む short arm cast(尺側支柱強め)+MP関節90°固定またはresting position 6–8週 親指と小指の対立動作を極力制限
軽度転位(≤1–2 mm) ギプス固定で試みる例も 同上 8週以上 紫癒しにくい場合は早期に方針転換
転位あり/競技復帰急ぐ/尺骨神経症状あり →手術(鈎部切除 or スクリュー固定) スポーツ復帰最速(4–6週)を狙う場合は切除が主流

● 保存治療の注意点

フォークグリップ・バット・ラケットの衝撃が治癒を大きく遅らせる

偽関節・慢性痛・尺骨神経障害で手術移行が多い

スポーツ復帰:保存の場合は12週前後が多い


三角骨骨折
大きな転位が無ければ、3-6週間のギブス固定。転位のある体部骨折は手術。

三角骨骨折(Triquetral fracture)は手根骨骨折の中で舟状骨に次いで多い外傷で、ほとんどは**背側結節部 avulsion fracture(背側剥離骨折)**です。

骨折型 頻度 保存治療 備考
背側結節部骨折(dorsal chip / avulsion) 最多(約80–95%) ◎ 保存が標準 予後良好
体部骨折(body fracture) △ 条件付き 転位・手根不安定なら手術
掌側部骨折(volar fracture) 非常に稀 ✖ 多くは手術 尺骨神経圧迫や関節内損傷のリスク
三角線維軟骨複合体(TFCC)合併例 しばしば ◎ 保存優先だが長期化あり DRUJ痛の遷延に注意
ほとんどの三角骨骨折は保存で治癒可能。
ただし**“体部骨折の転位”だけは例外で、偽関節化・手根不安定のリスクがあるためCTで初期評価必須。**

豆状骨骨折
新鮮例は3-4週間、固定。転倒などで小指球部を強打すると起こります。

豆状骨骨折(Pisiform fracture)は稀だが見逃されやすい手根骨骨折で、軟部組織牽引(屈筋支帯・小指外転筋)による剝離力転倒で手掌尺側を直接打つ外傷で発生します。
有鉤骨・三角骨・TFCC損傷を併発しやすいため、初診時の鑑別が重要です。

大菱形骨骨折
体部:第1CM関節脱臼に伴うことが多い。CM関節整復+骨接合術

稜骨折:通常は保存的。症状残存例は摘出。

結節骨折
骨折型 推奨治療・固定期間
結節または稜の骨折/転位なし サムスパイカ固定 3〜4週(疼痛が軽ければ3週、ピンチ痛残存なら4週)
結節・稜骨折+母指CM関節不安定所見あり サムスパイカ固定 約4週、ピンチ動作は当面禁止
転位あり(≧1〜2 mm)または関節面に影響 整復+固定術(スクリュー/Kワイヤ)を検討、術後もサムスパイカ3〜4週
骨片が小さく整復困難・再骨折例 保存強化(4週固定)。疼痛遷延例では骨片切除・鏡視手術を検討
慢性期(受傷から数ヶ月後)でピンチ痛が持続 装具・腱付着部リハを優先。不変なら鏡視評価・CM関節早期変性の確認

有頭骨骨折
通常舟状骨骨折など他の手根骨骨折に合併。CT、MRIによる精査必要。転位が無ければ6週間固定。
体部骨折:180度回転転位することがある。(舟状有頭骨症候群)

※有鉤骨と異なり、有頭骨は血流の乏しさ・回旋不安定・舟状骨との連動のため遷延治癒・手根不安定のリスクが高いことが特徴です。

骨折型 保存治療が可能か 備考
非転位・単独骨折 ◎ 保存可能 最も成績良い
軽度転位(≤1–2 mm) △ 条件付き ギプス下整復+厳格フォロー
回転転位・関節内骨折・周囲骨折合併(舟状骨・月状骨) ✖ 原則手術 手根不安定・虚血壊死リスク


月状骨骨折
裂離骨折:3-4週間の固定
体部骨折:骨接合術も積極的に行われている

月状骨骨折(Lunate fracture)は、手根骨の中でも頻度は少ないが診断・治療が難しく、遷延治癒・壊死・手根不安定に注意が必要な骨折です。

多くは転倒による手掌付着時の過伸展外力、あるいはKienböck病との鑑別で偶発的に発見されるケースがあります。


骨折型 発生頻度 保存治療 備考
単純な非転位骨折 最も多い ◎ 保存が標準 予後良好
軽度転位(≤1–2 mm) 時にあり △ 保存可だが厳格フォロー 遅延癒合に注意
関節面を巻き込む骨折 ✖ 原則手術 手根不安定のリスク
掌側骨折/背側骨折で回旋変位あり ✖ 手術 しばしば固定力不足
Lunotriquetral ligament 断裂併存 ✖ 手術優先 DISI変形の危険

小菱形骨骨折
非常に希。CTによる精査。

小菱形骨骨折(Trapezium fracture)は**手根骨骨折の3–5%**と比較的少ないですが、母指CM(CMC)関節機能に直結するため、適切な固定とフォローが非常に重要です。

特に 掌側隆起(ridge)骨折は見逃されやすく、母指球部痛として扱われて長期疼痛に繋がるケースがあります。

参考図書: orthopedics2005.11 手関節部疼痛疾患
大菱形骨結節骨折

豆状骨骨折

舟状骨骨折

舟状骨骨折(Scaphoid Fracture)の基礎知識

舟状骨骨折は、手首の骨の中でも**「見逃されやすい」一方で「治りにくい」**という特徴を持つ骨折です。

どのような状況で起こりますか?

転倒時に手をついた際に受傷することがほとんどです。

  • 特にスポーツをする若年層に多く見られます。

  • 高齢者の場合、同じく手をついた転倒でも、手首の太い骨(橈骨)の骨折(橈骨遠位端骨折)になることが多いという違いがあります。

なぜ治りにくいのですか?

舟状骨が治りにくい最大の理由は、その独特な血流の仕組みにあります。

  • 舟状骨はカシューナッツのような形をした小さな骨で、血液が**末端側(遠位側)から心臓側(近位側)へ一方向に流れる(逆行性血流)**という解剖学的特徴を持っています。

  • このため、骨折が心臓に近い側(近位側)で起こると、そこから先の血流が遮断されやすくなり、骨がくっつくために必要な栄養が届きにくくなります。

  • 骨折部位の約 80% を軟骨が占めるため、骨膜がなく、骨の修復に関わる細胞の供給が少ないことも治りにくさの一因です。

骨折部位による治りやすさ

骨折部位 治りやすさ 理由
遠位側 比較的治りやすい 血流が保たれやすい
中央(腰部) 中程度 受傷頻度が最も多い部位
近位側 治りにくい 血流が遮断されやすく、偽関節のリスクが高い

症状と診断の特徴

症状の特徴

舟状骨骨折は、症状が比較的軽いことが多く、「捻挫だろう」と自己判断し、受診が遅れてしまうケースが少なくありません。

  • 手首の親指側(嗅ぎタバコ窩=スナッフボックス)圧痛(押すと痛む)がある。

  • 手首を反らす、またはひねる動作で痛む。

  • 腫れは強くないことが多い。

「痛いけれど使えてしまう」という点が、放置につながり偽関節(骨がつかない状態)を招く原因となるため、注意が必要です。

診断の確定

  • レントゲン検査:骨折線が非常に細かかったり、角度によっては見えなかったりするため、レントゲンだけでは診断できないことがあります。

  • CT / MRI 検査:レントゲンで判断が難しい場合は、CT(骨の連続性を詳細に確認)やMRI(骨の浮腫や靭帯損傷の有無を確認)を追加し、診断を確定します。


治療方針

舟状骨骨折の治療方針は、骨折の状態(ずれの有無や部位)によって大きく異なります。

1. 保存療法(ギプス固定)

転位(ずれ)がほとんどない安定型や遠位側の骨折では、ギプス固定が第一選択です。

  • 固定期間:目安は4〜6週間です。近位側骨折ではさらに長くなることがあります。

  • 注意点:症状が軽くなっても、医師の指示なく早期にギプスを外すのは厳禁です。再骨折や偽関節の原因となります。

  • 治癒の評価:固定期間終了後、CT検査にて骨が確実についているか(骨癒合)を確認することが推奨されます。

  • 近年、親指を固定しない短期間のギプス固定(Short Arm Cast)でも同等の治療成績が得られるという報告があります。

2. 手術療法

以下の場合は、早期に手術が勧められます。

  • 受傷直後から**1mm以上の転位(ずれ)**がある(不安定型)

  • 近位側の骨折

  • スポーツ選手早期の社会復帰を強く希望する方

  • 術式:骨折した骨片同士を寄せ付け、強く圧迫して固定する**ハーバートスクリュー(コンプレッションスクリュー)**を用いた手術が一般的です。

  • アプローチは、骨折部位に応じて手首の掌側(中央部骨折)または背側(近位部骨折)から行います。


偽関節(骨がつかない状態)のリスク

舟状骨骨折を放置したり、不適切な治療を続けた結果、骨が完全にくっつかずに残ってしまう状態を偽関節と言います。

放置した場合の深刻な影響

偽関節の状態が続くと、手首全体の不安定性が引き起こされ、将来的に以下のような深刻な問題につながります。

  • 慢性的な痛み

  • 握力(把握力)の低下

  • 他の手根骨の変形(SNAC wrist など)

  • 最終的には手首の変形性関節症

偽関節の治療

偽関節となってしまった場合の治療は、骨移植(ご自身の骨を移植する)+内固定の手術が原則となります。

  • 血流の状態が極めて悪い場合は、血流のついた骨を移植する血管柄付き骨移植が選択されることもあります。

  • LIPUS(低出力超音波治療)は、手術と併用可能ですが、骨癒合まで平均 6ヶ月程度の長期治療が必要です。

‍‍ 子どもと大人の違い

年齢 特徴 推奨治療
小児〜高校生 骨癒合能力が非常に高い ほとんどが保存療法で治癒
高校生〜成人 偽関節リスクが高まる 骨折型に応じて保存/手術を選択

舟状骨骨折 よくある質問(FAQ)


ギプスはどれぐらいの期間が必要ですか?

骨折した部位ずれ(転位)の有無によって異なりますが、目安は4〜6週間です。

  • 近位側(心臓に近い側)の骨折や、不安定型の骨折では、骨の血流が悪く治りにくいことがあり、8週間以上必要となることもあります。

痛みが軽くなっても、自己判断による早期のギプス解除は厳禁です。再骨折や偽関節(骨がつかない状態)の原因となるため、必ず医師の指示に従ってください。


仕事やスポーツはいつ再開できますか?

再開の時期は、画像検査で骨癒合(骨が完全にくっついた状態)が確認できてからとなります。

  • 舟状骨はレントゲンだけでは治癒の判断が難しいため、CT検査で骨のつき具合を立体的に確認した上で、復帰時期を決定します。

再開の目安

活動内容 復帰の目安
デスクワーク(軽作業) 2〜6週間で可能なことが多い
片手で重いものを持つ仕事(荷重のかかる作業) 骨癒合確認後
スポーツ 競技により幅があり、骨癒合確認後

特に球技、格闘技、体操、ウエイトトレーニングなどは、手首に大きな負荷がかかるため、慎重に判断します。

いずれも個別性が大きいため、患者さんご自身の生活や目標を考慮し、診察時に相談して決定します。


❓ レントゲンで「治っている」と言われたのにまだ痛いのはなぜ?

舟状骨は、レントゲン(X線写真)だけでは治癒の判定が難しい骨です。

  • レントゲンで骨折の線が薄くなったり、見えなくなったりしても、実は完全に骨がついていない不全骨癒合の状態)場合があります。

検査の種類 診断できること
レントゲン 骨折線の見た目の変化を確認
CT(コンピュータ断層撮影) 骨がどれだけ連続して修復したか(=骨癒合)を確実に判定

痛みが残る場合は、CTでの確認が最も確実で安心です。正確な治癒判定のため、医師からCT検査を勧められることがあります。


子どもでも手術になりますか?

子どもの舟状骨骨折は、大人の骨折と比べて骨の治りが非常に良いため、多くはギプス固定で治癒します。

ただし、以下のケースでは手術を選択することがあります。

  • 骨折部分に大きなずれ(転位)がある場合

  • スポーツの早期復帰を強く希望する場合

一般的には、手術を回避できるケースが大多数です。


⚠️ 手術をしなかった場合のリスクはありますか?

適切な固定期間を経ても骨が治らないまま放置すると、「偽関節(ぎかんせつ)」と呼ばれる状態になります。

偽関節が続くと、以下のような深刻な合併症につながる可能性があります。

  • 手首の不安定性

  • 慢性的な痛み

  • 握力の低下

  • 他の手根骨の変形(SNAC wrist

  • 将来的な手首の関節症

これらの状態になると、治療がより難しくなります。偽関節になってしまった場合は、骨移植(ご自身の骨を移植する手術)+内固定の手術が必要となります。


ひとことアドバイス

舟状骨骨折は、手首の捻挫と症状が似ているため、軽度の症状でも油断すると治癒が遅れる骨折です。

痛みが軽い=治っている」ではありません。

治療完了の判断は、レントゲンとCTを組み合わせて行い、確実に治癒を確認することが大切です。治療中は自己判断せず、医師の指示を守りましょう。

有頭骨骨折(Capitate fracture)
※有鉤骨と異なり、有頭骨は血流の乏しさ・回旋不安定・舟状骨との連動のため遷延治癒・手根不安定のリスクが高いことが特徴です。

■ 骨折分類と保存治療の適応

骨折型 保存治療が可能か 備考
非転位・単独骨折 ◎ 保存可能 最も成績良い
軽度転位(≤1–2 mm) △ 条件付き ギプス下整復+厳格フォロー
回転転位・関節内骨折・周囲骨折合併(舟状骨・月状骨) ✖ 原則手術 手根不安定・虚血壊死リスク

■ 保存期間・固定方法(詳細)

● 基本固定

項目 内容
位置 手関節軽度背屈(10–15°)+軽度橈屈/前腕中間位
デバイス short arm cast(前腕ギプス)or スプリント
追加支持 掌側から大菱形骨〜中手骨基部をしっかり支持(手根中央部のマイクロモーションを制御)
期間 4–6週(非転位)6–8週(軽度転位)

→ 有頭骨は微小な回旋運動で骨癒合が遅れるため、
**“手根中央部の圧迫支持を強める”**ことが重要(標準手関節ギプスだと不十分なことが多い)。


■ 固定中に禁止すべき動作

  • 握り込み動作(グリップ・ダンベル・バット・クラブ・ラケット)

  • 手をついて体重を支える動作

  • 手関節の繰り返し屈伸・尺側偏位

  • 荷物持ち(重い買い物袋も不可)


■ フォローの基準

時期 すべき検査
2週 X線+疼痛評価(悪化→CT追加)
4–6週 CTで骨癒合評価が必須(X線のみでは不十分)
8–10週 治癒遅延なら → 手術検討(特にスポーツ選手)

痛みは軽快していても CTで骨癒合が弱いパターンが最も多い。


■ スポーツ復帰の目安

治療 復帰目安
保存 10–12週前後
ORIF(スクリュー固定) 8–10週
部分壊死発症例 競技種目により大きく変動

■ 有頭骨骨折の保存治療が“失敗しやすい症例”

  • 舟状骨/月状骨骨折を同時に疑うケース(CTでセット評価必須)

  • 中手骨基部痛が遷延するスポーツ選手(特にゴルフ・野球)

  • 可動域は良いのに握力だけ戻らないパターン → 要CT再評価


■ まとめ(保存治療のポイント)

成功の鍵 理由
手根中央の微小回旋の抑制 有頭骨は回転ストレスで癒合遅延
CTフォローを必ず入れる X線は治癒過小評価しやすい
スポーツ復帰を急がない 握り込み衝撃で偽関節化しやすい
豆状骨骨折

豆状骨骨折(Pisiform fracture)は稀だが見逃されやすい手根骨骨折で、軟部組織牽引(屈筋支帯・小指外転筋)による剝離力転倒で手掌尺側を直接打つ外傷で発生します。
有鉤骨・三角骨・TFCC損傷を併発しやすいため、初診時の鑑別が重要です。

■ 骨折型と保存治療の適応

骨折型 頻度 保存治療 備考
非転位骨折(最も多い) ◎ 非常に多い 保存が標準 予後良好
軽度転位骨折(≤1–2 mm) 保存可能(厳格固定) 牽引力で痛み遷延しやすい
著明な転位/豆状三角靭帯損傷伴う/関節内骨折/尺骨神経障害あり 原則手術(固定 or 豆状骨切除) スポーツ選手では切除の検討あり

■ 保存治療の固定

● 手関節位置

推奨肢位 理由
軽度掌屈(10–15°)+軽度橈屈 豆状骨〜屈筋支帯の牽引力(FCU・Pisohamate ligament)を最も減弱
前腕中間位 屈筋支帯のストレスを最小化

手関節背屈位は禁忌 → FCU牽引で痛み・遷延治癒。

● 固定方法

方法 ポイント
short arm cast(前腕ギプス) 小指球全体〜豆状骨部を包み込むように支持
掌側スプリント(取り外し式)も可 軽症・腫脹強い初期向け
FCUの牽引を抑える局所パッド 痛みの改善が早く、成績良好

● 固定期間

骨折型 固定期間
非転位 3–4週
軽度転位 4–6週
関節症状併発・スポーツ選手 6週程度(+スプリント延長)

■ 禁止すべき動作(再損傷しやすい)

強い手掌荷重(手を突く/腕立て伏せ/四つ這い姿勢)

小指球で押し付ける力・ゴルフ・テニス・野球バット

小指の対立動作を使った握り込み

重い荷物を把持(袋持ち・バーベル)


■ 固定除去後の経過

時期 管理
〜6週 スプリント併用・荷重動作回避
6〜8週 軽いグリップ・荷物持ちを再開
8〜10週 スポーツ復帰(競技者)

痛みのみ長引くケースあり → 局所圧痛残存でもCT上癒合が得られていれば問題ない


■ 画像フォロー

タイミング 内容
初診時 X線+必要時CT(有鉤骨合併骨折除外)
3–4週 X線再評価(痛み遷延 → CT)

※ **有鉤骨や三角骨骨折の合併が5–10%**あるため
尺側手根部痛が強い場合はCT優先が臨床的に有用。


■ 手術移行の目安

  • 疼痛が3か月以上遷延

  • CTで癒合不良/偽関節

  • 尺骨神経症状の出現

  • スポーツ選手で競技への早期復帰希望(豆状骨切除で早期復帰が可能)


■ まとめ(保存治療のコア)

ポイント 根拠
掌屈+橈屈位で固定 FCU牽引を最大限低下
小指球を包むように局所圧支持 痛み・微小運動抑制
固定期間は短すぎない(3–4週以上) 早期解除で疼痛遷延しやすい
スポーツ復帰は8–10週 握り込み衝撃で再発しやすい
月状骨骨折(Lunate fracture)

月状骨骨折(Lunate fracture)は、手根骨の中でも頻度は少ないが診断・治療が難しく、遷延治癒・壊死・手根不安定に注意が必要な骨折です。

多くは転倒による手掌付着時の過伸展外力、あるいはKienböck病との鑑別で偶発的に発見されるケースがあります。


■ 骨折分類と治療方針

骨折型 発生頻度 保存治療 備考
単純な非転位骨折 最も多い ◎ 保存が標準 予後良好
軽度転位(≤1–2 mm) 時にあり △ 保存可だが厳格フォロー 遅延癒合に注意
関節面を巻き込む骨折 ✖ 原則手術 手根不安定のリスク
掌側骨折/背側骨折で回旋変位あり ✖ 手術 しばしば固定力不足
Lunotriquetral ligament 断裂併存 ✖ 手術優先 DISI変形の危険

月状骨は血行が乏しいため「非転位例のみ保存治療が確実」と覚えるとよい。


■ 保存治療 ― 固定方法(重要ポイント)

● ギプス肢位

推奨位置 根拠
軽度背屈(10°前後)+軽度橈屈 月状骨の掌側背側圧を最も均等化
前腕中間位 月状骨の回旋ストレスを最小化

深い背屈固定は禁忌 → 月状骨の掌側圧が上昇、虚血リスクが論じられる。

● 固定方法

固定具 推奨度 備考
short arm cast(前腕ギプス) ◎ 標準 日常生活の安定
volar splint → cast移行 ○ 初期腫脹が強い時 1週以内にギプスへ
長腕ギプス(elbow immobilization) 条件付き 競技者/重労働者/疼痛強い場合のみ

● 固定期間

骨折型 固定期間
非転位 4–6週
軽度転位 6–8週

■ 固定中に禁止すべき動作

  • 手掌荷重(手をついて体重支持)

  • 握力負荷(ダンベル・バット・ラケット・ゴルフクラブ)

  • 手首の反復過伸展(料理の押し込み・床掃除・腕立て)


■ 画像フォロー(非常に重要)

タイミング 検査 目的
初診時 X線+CT 骨折線判別・転位評価
4–6週 CT X線は偽陰性が多いため
疼痛遷延・可動域悪化 MRI avascular necrosis(AVN)評価

MRIで低信号域・壊死を疑う所見があれば治療方針を見直す。


■ 固定除去後のマネジメント

時期 内容
〜8週 スプリント併用、軽いADL可
8–10週 握力・荷重動作の段階的再開
10–12週 スポーツ完全復帰(競技者)

疼痛が残っていても、CTで癒合確認なら問題ないことが多い。


■ 手術への切り替え基準

  • 骨折転位進行/手根不安定の出現

  • 疼痛遷延(12週以上)+CTで癒合不十分

  • MRIで壊死疑い(Kienböck病相当)

  • スポーツ選手で早期復帰強く希望(ORIFの適応)


■ まとめ(保存治療のキーポイント)

ポイント 意味
非転位例のみ保存 転位例は壊死・不安定のリスク
軽度背屈+橈屈でのギプス 月状骨の応力負荷を最小化
CTフォロー必須 X線だけでは過小評価
スポーツ復帰は10–12週 握力負荷で再発しやすい

小菱形骨骨折(Trapezium fracture)
 
小菱形骨骨折(Trapezium fracture)は**手根骨骨折の3–5%**と比較的少ないですが、母指CM(CMC)関節機能に直結するため、適切な固定とフォローが非常に重要です。

特に 掌側隆起(ridge)骨折は見逃されやすく、母指球部痛として扱われて長期疼痛に繋がるケースがあります。

■ 骨折分類と治療方針

骨折型 頻度 保存治療 備考
掌側隆起骨折(trapezial ridge fracture/avulsion) 最多 ◎ 保存が標準 予後良好
体部骨折(body fracture)・非転位 次に多い ◎ 保存可能 予後比較的良好
体部骨折・関節内骨折・転位あり ✖ 手術 CMC不安定・早期変形性関節症の危険
第1中手基部骨折併存(Bennett・Rolando型) しばしば ✖ 手術 契機はCM関節の脱臼/亜脱臼

■ 保存治療 ― 固定の重要ポイント

● 推奨固定肢位

肢位 理由
手関節軽度背屈(10°前後) trapezium負荷を低減
母指外転・軽度対立位(functional position) CM関節の安定化
前腕中間位 母指CMの回旋ストレス軽減

● 固定具(重要)

固定具 推奨度 備考
母指スパイカキャスト(thumb spica cast) ◎ 標準治療 最も安定性が高い
母指スパイカスプリント(取り外し式) ○ 初期腫脹が強い場合 1週以内にキャストへ移行
short arm castのみ △ 不可ではないが非推奨 母指CMが動いてしまう

必ず母指を固定に含める(CM関節を動かさない)が鉄則。

● 固定期間

骨折型 期間
掌側隆起骨折 3–4週
体部・非転位 4–6週
軽度転位 6週前後

■ 固定中に禁止すべき動作

  • ピンチ動作(つまみ動作)

  • 握力負荷(ダンベル・荷物持ち・瓶の蓋開け)

  • 手掌荷重(四つ這い・腕立て・転倒時に突く)

  • 親指の対立動作・つまみ動作を伴う家事(布絞り・ハサミ・ペットボトル開封)


■ 固定除去後のマネジメント

時期 内容
〜6週 スパイカスプリント併用、軽ADL可
6–8週 ピンチ・握力動作の段階的再開
8–10週 スポーツ復帰(ラケット・ボール競技)

痛みがやや残っていても、CTで癒合が確認できれば通常問題なし。


■ 画像フォロー

タイミング 検査 理由
初診時 X線+CT推奨 掌側隆起骨折はX線で見逃しやすい
4–6週 X線(症状遷延ならCT) 骨癒合評価

■ 手術移行の目安

  • 関節内骨折・転位あり

  • CM関節不安定/サブラックス

  • 12週以上の疼痛遷延+CTで癒合不良

  • スポーツ選手で早期復帰希望(ORIFで早期復帰可能)


■ まとめ — 保存治療のキーポイント

ポイント 根拠
母指CM関節を必ず固定(スパイカ) 小菱形骨へのストレスを遮断
掌側隆起骨折は見逃しやすいためCT推奨 初期見逃しで疼痛遷延例多数
固定期間は3–6週が最適 短すぎると疼痛遷延・長すぎると拘縮
スポーツ復帰は8–10週 ピンチ力・握力の衝撃負荷が最も危険

7骨比較表

骨名 骨折の特徴 保存治療の成否 推奨固定 推奨肢位 固定期間 手術へ切り替え基準
舟状骨 最も多い/治癒遅延/壊死リスク △ 非転位のみ成功 母指スパイカ固定 軽度背屈 6–10週 転位/近位極/癒合遅延
月状骨 稀/壊死・不安定注意 △ 非転位のみ ショートアームギプス 軽度背屈+軽度橈屈 4–6週(軽転位6–8週) 転位/疼痛遷延/壊死疑い
有鉤骨 鈎部が偽関節多い・スポーツ多い ◯ 体部/鈎部は△ ショートアームギプス(尺側支持) わずか背屈 体部4–6週/鈎部6–8週 鈎部転位/疼痛遷延/スポーツ選手
有頭骨 稀/遅延癒合・回旋不安定 △ 非転位のみ ショートアームギプス(手根中央圧支持) 軽度背屈+軽度橈屈 4–6週(転位6–8週) 遷延癒合/スポーツ復帰困難
三角骨 背側剝離が多い/TFCC併発 ◎ 多く成功 ショートアームギプス 軽度背屈+軽度尺屈 3–4週(転位4–6週) 体部転位/疼痛遷延
豆状骨 稀/見逃されやすい ◎ 多く成功 ショートアームギプス(小指球包み込み) 軽度掌屈+軽度橈屈 3–4週(転位4–6週) 転位/尺骨神経症状/疼痛遷延
小菱形骨 掌側隆起骨折が最多/母指CM機能に直結 ◎ 非転位ほぼ成功 母指スパイカギプス 軽度背屈+母指軽度外転対立 3–6週 関節内転位/CM不安定