・下腿慢性コンパートメント症候群(CECS)
概要
下腿は骨や筋膜によって 前方・側方・浅後方・深後方 の4つの区画(コンパートメント)に分けられています。
慢性型コンパートメント症候群は、ランニングやジャンプなどの反復的な運動により、運動時の筋肥大(バンプアップ)や血流増加によって区画内圧が異常に上昇し、痛みや神経症状を引き起こす状態です。
特に前方区画(前脛骨筋など) に好発し、ランナーやサッカー選手に多くみられます。
症状の特徴
運動開始後に 鈍痛・張り感・しびれ・筋力低下 が出現
安静にすると数分〜十数分で改善(進行すると回復が遅延)
各コンパートメント別症状
区画 |
主な筋・神経 |
主症状 |
前方 |
前脛骨筋、長趾伸筋、深腓骨神経 |
足背のしびれ(第1・2趾間)、足関節背屈障害 |
側方 |
長・短腓骨筋、浅腓骨神経 |
下腿外側のしびれ、外反(外がえし)低下 |
浅後方 |
腓腹筋、ヒラメ筋、腓腹神経 |
ふくらはぎの痛み、底屈障害 |
深後方 |
後脛骨筋、長趾屈筋、脛骨神経 |
足底のしびれ、底屈・内反障害 |
鑑別診断
CECSの症状は他疾患と類似するため、以下を除外する必要があります。
疾患 |
鑑別のポイント |
アスリート貧血 |
同様の易疲労感やパフォーマンス低下、血液検査で判明 |
シンスプリント |
脛骨骨膜の広範な圧痛、運動後も痛み持続 |
脛骨・腓骨疲労骨折 |
局所の叩打痛、MRIで骨髄浮腫 |
神経絞扼障害 |
安静時にも症状あり、Tinel徴候陽性 |
血管性跛行 |
ABI低下、運動後の冷感・蒼白 |
※ CECSと疲労骨折が合併する場合もあるため注意。
診断
病歴:運動誘発性で安静により改善する症状
内圧測定(ゴールドスタンダード)
安静時:15 mmHg以上で異常
運動後1分以内:30 mmHg以上で診断的
一部文献では35〜40 mmHg以上で症状誘発とする
補助検査:MRI(筋浮腫)、近赤外線分光法(NIRS)による筋酸素飽和度評価
治療
1.保存療法(軽症・初期)
ストレッチ(前脛骨筋・腓骨筋・腓腹筋など)
ランニングフォームの修正
トレーニング量の調整、活動制限
2.手術療法(保存療法無効例)
筋膜切開術(Fasciotomy):内圧を下げ症状を改善
鏡視下筋膜切開術:低侵襲で瘢痕や美容面の配慮が可能
3.術後リハビリ
段階的な荷重・関節可動域訓練
6〜12週での競技復帰が目安
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