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整形外科 外科
リハビリテーション科

前十字靱帯損傷、後十字靱帯損傷 anterior cruciate ligament injury、posterior cruciate ligament injury

膝関節には主な靱帯として前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靱帯があります。

このうち前十字靭帯と後十字靭帯は関節内にあります。前十字靭帯は下腿が前に出ないように制動します。後十字靭帯はその逆で下腿が後ろに行かないように制動しています。

前十字靭帯が断裂すると自然修復は難しく安定させるためには手術が必要です。特にスポーツで膝の動揺を強く感じられる場合は運動の継続を前提にすれば手術を選択した方がよいかと思います。

手術は関節鏡を使って自家腱移植を行います。術後、本格的復帰は6-8ヶ月ほどかかります。

後十字靭帯は再建術を行うこともありますが、一般的には運動時の症状もさほど無くそのままスポーツを継続する人が多いです。


前十字靭帯(ACL)断裂 重症度に基づく分類

グレード 損傷の程度 特徴
グレード I 軽度損傷 靭帯が伸びているが断裂はない。膝の不安定性はほとんどない。
グレード II 中等度損傷(部分断裂) 靭帯の一部が断裂。膝の不安定性があり、腫れや痛みを伴うことが多い。
グレード III 重度損傷(完全断裂) 靭帯が完全に断裂。膝の著しい不安定性があり、手術が検討されることが多い。

この分類は、MRIや徒手検査(Lachmanテストなど)を通じて評価され、治療方針(保存療法 vs 再建術)を決定する際の重要な指標となります。

前十字靱帯断裂と損傷

膝関節のなかには膝を前後に制動するための前十字靭帯と後十字靭帯があります。関節の両サイドには内側側副靭帯と外側側副靭帯があります。膝をひねったりして前十字靭帯が完全断裂すると脛骨が前方に不安定となり運動すると亜脱臼を繰り返すことになります。

断裂直後は痛みも強く歩行困難であり、また関節内に出血(油滴なし、骨傷があると油滴あり)しますので腫れてきて曲げにくくなります。単独損傷の場合、2-3週間すると腫れも痛みも引いてきて歩行も出来るようになります。ただしそのまま完全断裂を放置しておくと1年以内に90%の症例で内側半月板の断裂が起こることが分かっています。完全断裂は保存的に経過を見てもくっつくことはなく治りません。

MRIでの画像診断では、前十字靭帯は膨化して走行が異常となります。明らかに断裂して下方に移動していれば完全断裂と言えますが、そうではなく部分的に断裂をしていてある程度繋がっている場合もあります。(部分断裂もしくは不全断裂といいます。)

部分断裂の場合、完全断裂であると出る前方引き出しテスト、Lachman test、pivot shift testは出にくくなりますが、陽性のものもあります。この部分断裂の状態はどうなっていくかというと、伸展制限付きの膝装具を装着しMRIで経過をみると70~90%で半年ぐらいかけて治っていきます。残りは治らず不安定性が悪化し完全断裂に移行していきます。

外傷直後のMRIで前十字靭帯が完全断裂ではなく部分断裂であれば、あまり運動する必要性のない方では伸展制限付き膝装具をつけて運動制限をしながら保存的に経過を診ることも可能です。ただしアスリートの場合は保存治療6ヶ月で治らず、そのあと手術をして更に復帰まで6-8ヶ月かけるのはかなり厳しいと思います。早期回復を望まれる場合は手術を選択することもあります。

部分断裂は意外と多く、完全断裂より実際は多く見かけます。前方引き出しテスト、Lachmanテスト、pivot shift testが陽性で、なおかつ不安定性が高い部分断裂は完全断裂に移行する可能性が高いとされています。最近では手術を行う場合でも断裂せずに残存した前十字靭帯を生かして自家腱移植を追加する方法もあります。

骨端線閉鎖前の小児の場合、ACL実質部の損傷は手術侵襲で成長障害が危惧されるので保存的治療が主に選択されます。 またACL靱帯付着部の裂離骨折を起こしやすいです。ただし半月板の二次損傷を完全には防ぐことは困難です。骨端線閉鎖や合併損傷の有無、成長度を考慮して再建術の時期や手術手技の検討を要します。


「Cross Bracing Protocol(CBP)」という保存療法では、膝を90度屈曲位で固定することでACLの連続性回復がMRIで確認されたという報告もあります。ただし、現時点では症例報告レベルであり、慎重な適応判断が求められます。

ACL損傷の重症度分類と治療戦略

グレード 損傷の程度 主な治療法 詳細
グレード I 微細損傷(靭帯の伸展) 保存療法 RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)、装具による安定化、CKCエクササイズ中心の理学療法、段階的な競技復帰
グレード II 部分断裂 保存療法または再建術 MRIで断裂範囲を評価し、軽度不安定性なら保存療法、中等度以上や競技者では再建術を検討。関節鏡検査が有用
グレード III 完全断裂 ACL再建術(術式選択) BTB法、STG法、二重束再建などから選択。若年・高活動者では手術が第一選択。合併損傷があれば同時修復。術後は段階的リハビリが必要

ACL再建術後の週単位リハビリプロトコル(BTB法を例に)

時期 目標 主な内容
術後0〜2週 炎症管理・伸展獲得 アイシング、膝伸展訓練、クアドセッティング、ヒールスライド、装具着用・部分荷重
術後2〜4週 可動域拡大・筋再教育 屈曲90〜120度目標、両脚スクワット、カーフレイズ、膝蓋骨モビライゼーション
術後4〜8週 正常歩行・筋力強化 エアロバイク、片脚ブリッジ、レッグカール、ニーエクステンション
術後2〜3ヶ月 動作習得 片脚スクワット、ジャンプ着地訓練、体幹・股関節強化
術後3〜6ヶ月 スポーツ動作導入 ランニング、切り返し、プライオメトリクス、フォーム修正
術後6〜9ヶ月 競技復帰準備 対人プレー、RTSテスト、心理的サポート、再受傷予防トレーニング

■ACL部分断裂に対する保存療法
靭帯の自然治癒が期待しにくい中でも、膝の機能を補うための戦略的アプローチです。

【保存療法の適応】
日常生活レベルの活動が主で、競技復帰を急がない
成長期で骨端線が閉じていない
膝の不安定性が軽度で、giving way(膝崩れ)が少ない
患者本人が手術を希望しない

【保存療法の主な内容】

時期

目標

主な介入

急性期
(〜2週)

炎症・腫脹の抑制

RICE処置、装具着用、アイシング、部分荷重

亜急性期
(2〜6週)

可動域と筋力の回復

関節可動域訓練、大腿四頭筋・ハムストリング強化、膝蓋骨モビライゼーション

回復期
(6週〜3ヶ月)

動的安定性の獲得

CKCエクササイズ、バランストレーニング、体幹・股関節連動訓練

維持期
(3ヶ月以降)

再発予防と機能維持

プライオメトリクス、アジリティ、神経筋制御トレーニングなど段階的に導入

【注意点とリスク】

靭帯自体の治癒は期待できないため、筋力と感覚(プロプリオセプション)による代償的安定性が重要

回旋方向の制動は筋で補えないため、方向転換やジャンプ動作のある競技には不向き

長期的には半月板損傷や変形性膝関節症のリスクがあるため、定期的な評価が必要

■ACL完全断裂の治療プロトコル(標準例)

時期 治療内容 目的・補足
急性期(0〜2週) RICE処置、装具固定、部分荷重 炎症と腫脹の抑制、関節可動域の保護
亜急性期(2〜4週) 関節可動域訓練、筋力維持(クアドセッティング、ヒールスライド) 拘縮予防と筋萎縮の抑制
評価期(4〜6週) MRI再評価、Lachmanテスト、関節鏡検討 保存療法継続か再建術の適応判断
再建術(6週〜3ヶ月以内) BTB法、STG法、QT法などから選択 若年や高活動者では手術が第一選択
術後リハビリ(0〜6ヶ月) 可動域訓練、筋力強化、動的安定性、スポーツ動作 週単位で段階的に進行(Hop TestやACL-RSIで評価)
競技復帰(6〜9ヶ月以降) RTSテスト合格後に段階的復帰 再受傷予防のための神経筋制御トレーニングが重要

ACL完全断裂で保存療法が選択されるケース

日常生活レベルの活動が主で、競技復帰を急がない場合
成長期で骨端線が閉じていない場合→骨端線閉鎖後に手術
膝の不安定性が軽度で、膝崩れが少ない場合
患者本人が手術を希望しない場合
Cross Bracing Protocol(CBP)などの新しい保存療法が適応となる場合


■Cross Bracing Protocol(CBP)の適応基準

CBPの主な適応基準
ACL完全断裂であること(MRIまたは関節鏡で確認)
受傷から10日以内(できれば7日以内)に開始できること
靭帯断端の接近が可能な断裂パターンであること(MRIで確認)
年齢が10〜58歳程度(Filbayらの報告に基づく)
高活動性を求める若年者またはスポーツ選手
患者が手術を希望しない、または手術を回避したいと考えている
膝関節の屈曲90度位での固定が可能であること(拘縮や骨変形がない)

除外または慎重適応となる例
慢性断裂(受傷から4週間以上経過)
多靭帯損傷(MCL、PCL、LCLなどの合併損傷)
骨折や骨端線損傷を伴う症例
深部静脈血栓症(DVT)の既往またはリスクが高い場合
高度な可動域制限や拘縮がすでに存在する場合
高齢者で長期固定によるADL低下が懸念される場合

Cross Bracing Protocol(CBP)における段階的な装具調整スケジュールとMRI評価指標(ACLOASスコア)について、現在報告されている内容を以下に整理しました。

■CBPの装具調整スケジュール(Filbayらの報告に基づく)
膝関節を90度屈曲位で固定し、12週間かけて段階的に可動域を拡大します。

期間 膝屈曲角度 内容
0〜4週 90度固定 装具を常時装着(夜間含む)、荷重は部分荷重から開始
5〜6週 60度まで伸展許可 装具のヒンジを調整し、可動域を拡大
7〜8週 30度まで伸展許可 歩行訓練や筋力トレーニングを段階的に導入
9〜12週 0度(伸展位)まで許可 装具を外し、通常のリハビリへ移行

このスケジュールは、靭帯断端の接近を維持しつつ、拘縮や筋萎縮を防ぐために設計されています。

ACLOASスコア(Anterior Cruciate Ligament OsteoArthritis Score)

ACLのMRI評価に用いられる4段階のスコアで、靭帯の連続性や信号強度、厚みを評価します。

グレード 所見 解釈
0 正常な靭帯構造 完全な治癒が示唆される
1 靭帯は連続しているが肥厚または高信号 機能的には治癒している可能性が高い
2 靭帯は連続しているが菲薄化または延長 構造的には不完全な治癒
3 靭帯の不連続性 治癒していないと判断される

Filbayらの研究では、3か月時点でACLOASグレード1の患者は、グレード2〜3の患者よりもスポーツ復帰率やLysholmスコアが有意に高かったと報告されています。

CBP群の再断裂率は約14%とされ、特にACLOASグレード2〜3の症例で高かったことから、MRIによる早期評価が治療継続判断に有用と考えられています。

*当院ではCross Bracing Protocol(CBP)による治療は行っていません。

■PCL断裂
後十字靱帯(PCL)断裂に対する現在の標準的な治療方針は、損傷の重症度や合併損傷の有無、患者の活動レベルに応じて保存療法と手術療法を適切に選択することが基本です。以下に、現在のスタンダードな治療戦略とプロトコルを整理しました。

PCL断裂の治療方針(単独損傷の場合)

分類 適応 治療方針 補足
部分断裂(グレード I〜II) 軽度の後方不安定性、日常生活に支障なし 保存療法 装具固定(PCLブレース)、大腿四頭筋強化、3〜6か月の理学療法
完全断裂(グレード III) 明らかな後方不安定性、スポーツ復帰希望 手術療法(PCL再建術) 解剖学的再建(AL束・PM束)、関節鏡視下手術が主流
慢性断裂 長期経過後の不安定性、半月板損傷合併 手術療法または保存療法 症状と機能障害の程度に応じて判断

保存療法のプロトコル(部分断裂・軽度不安定性)

初期:PCLブレースで脛骨後方移動を制限、RICE処置
2〜6週:大腿四頭筋強化(特に内側広筋)、CKCエクササイズ
6週以降:バランストレーニング、神経筋制御訓練、スポーツ動作導入
評価指標:後方引き出しテスト、KT-1000/2000、Lysholmスコア

手術療法のプロトコル(完全断裂・高活動者)

術式:解剖学的二重束再建(AL束とPM束)、ハムストリング腱または膝蓋腱を使用

術後固定:PCLブレースで90度屈曲位を4〜6週保持
術後リハビリ:
0〜2週:伸展制限、部分荷重、アイシング
2〜6週:可動域訓練(屈曲制限あり)、筋力維持
6〜12週:筋力強化、バランス訓練
3〜6か月:スポーツ動作導入
6〜9か月:競技復帰(RTSテスト合格後)

補足事項

PCLはACLよりも太く自然治癒しやすいため、保存療法で良好な成績を示すことも多い

ただし、後外側支持機構(PLC)損傷を伴う場合は手術適応が高くなる

保存療法と手術療法の長期成績(Lysholmスコア、IKDCスコア、OA発症率)に大きな差はないとする報告もあるが、不安定性が強い場合は手術が望ましいとされる

Segond骨折

脛骨外側顆の裂離骨折でACL損傷時に合併します。これがあれば逆にACL損傷があるとみなしてよいとされています。