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整形外科 外科
リハビリテーション科

鼡径部痛症候群 groin pain syndrome

アスリートに生じる鼡径部痛(ほかに下腹部痛、内転筋根部、睾丸後方、大腿直筋付け根)のことです。頑固な痛みで選手生命に影響することもあります。かつてはスポーツによる鼠径ヘルニアとして手術が行われてきましたが、最近では真のヘルニアとは関係ないとされ鼡径部痛症候群の治療目的として鼠径ヘルニアの手術を行うことは無くなりました。

鼡径部痛症候群(groin pain syndrome)は、特にアスリートに多く見られる複雑な疾患群であり、診断・治療の難しさから近年注目を集めています。

概要と分類
鼡径部痛症候群は、以下のような複数の病態を含む広義の概念です

分類

主な疾患・病態

特徴

筋腱性

腹斜筋腱障害、内転筋腱障害

キック動作や方向転換で疼痛

骨関節性

股関節インピンジメント(FAI)、関節唇損傷

股関節屈曲・内旋で疼痛

神経性

閉鎖神経障害、腸骨鼠径神経障害

放散痛、感覚異常

腹壁性

スポーツヘルニア(腹壁欠損)

咳や腹圧で疼痛増強

その他

精巣疾患、泌尿器疾患

鑑別が重要


さまざまな疾患によって鼡径部痛が生じており、原因を特定して治療します。運動を休止すれば日常生活での痛みは改善します。

診断はまず器質的な疾患の有無を調べます。鑑別診断として、内転筋肉離れ、内転筋付着部炎、大腿直筋および下前腸骨棘周囲の炎症、腹直筋付着部腱炎、恥骨坐骨の疲労骨折、神経のエントラップメント、裂離骨折、疲労骨折、変形性股関節症、ペルテス病などの股関節炎、股関節臼蓋形成不全、関節唇障害、FAIなど周辺で起こりうるものすべてが該当します。

最近の話題・研究動向
スポーツヘルニア(Athletic Pubalgia)再定義
従来の「ヘルニア」とは異なり、腹壁の微細損傷や腱膜の不安定性が中心。MRIによる腹壁の腱膜損傷の可視化が進み、診断精度が向上。

2. FAIとの関連性
鼡径部痛の原因としてFAI(Femoroacetabular Impingement)が関与するケースが増加。関節鏡視下手術による治療成績が報告されており、早期復帰例も。

3. 超音波診断の進化
動的超音波により、腹壁の不安定性や筋腱損傷のリアルタイム評価が可能。神経走行の評価にも有用で、神経性疼痛の鑑別に貢献。


腸腰筋の挫傷が起こっていることもあるので抵抗をかけて股関節を屈曲したときに痛みが誘発される場合はMRIが有効です。腸腰筋損傷では運動の休止後、4-6週間かけて復帰します。

該当するものが見つからない場合に鼡径部痛症候群と診断します。治療は痛みの出る肢位を避ける、運動量を調整、体幹機能の向上、バランスの強化、関節可動域の改善をめざしてストレッチを行います。ストレッチに関しては、あくまでも関節周囲の筋腱の柔軟性を改善させる目的で行う。

発症すると治療に難渋しますので日頃よりコンディションを整えておくこと、また捻挫等の外傷を庇ったまま運動を継続しないように心がけます。
 
ドーハ分類(2014年)

アスリートに発生する鼡径部痛の呼称を「Groin pain in athletes (アスリートの鼡径部痛)」とし、4つの疾患概念およびその他に分類した。

・内転筋関連鼡径部痛
・腸腰筋関連鼡径部痛
・鼡径部関連鼡径部痛
・恥骨関連鼡径部痛

スカルパ三角:鼠径靱帯(上縁)、長内転筋(内縁)、縫工筋(外縁)