表紙に戻る
池田医院へようこそ
信頼とまごころの医療
からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科
リハビリテーション科

仙腸関節炎 ileosacral arthritis

仙腸関節とは骨盤を形成する仙骨と腸骨をつなぐ関節のことです。左右に一つずつ、一対あります。ここが何らかの外力等でずれると殿部痛、腰痛、そけい部痛、股関節痛、ときに膝痛が起こります。坐骨神経痛とよく間違われます。

鑑別は仙腸関節自体の圧痛、股関節や骨盤にストレスをかけて仙腸関節に痛みが誘発されるかをみます。診断を兼ねて仙腸関節ブロックを行って痛みが改善するかみることもあります。治療は消炎鎮痛剤や理学療法などを組み合わせて行います。
 
<仙腸関節障害>

仙腸関節疾患は以下のように分類されます。

1.関節腔内の病変:化膿性関節炎など
2.関節の機能障害:仙腸関節障害

分類

疾患名

特徴・補足

機能障害

仙腸関節機能障害(SIJ dysfunction)

微小な不適合や可動性低下による疼痛。AKA博田法などが有効

炎症性疾患

仙腸関節炎(sacroiliitis)

感染性・非感染性(強直性脊椎炎など)に分類される

感染性疾患

化膿性仙腸関節炎

細菌感染による急性炎症。発熱・CRP上昇・MRIで診断

免疫性疾患

強直性脊椎炎(AS)

HLA-B27陽性例に多く、仙腸関節から脊椎へ進行する

骨関節疾患

変形性仙腸関節症

加齢や荷重ストレスによる関節面の変性

外傷性疾患

骨盤骨折(仙腸関節離開)

高エネルギー外傷で仙腸関節が不安定化する

妊娠・産後関連

妊娠・出産後の靱帯弛緩

ホルモン変化による靱帯の緩みで仙腸関節が不安定に

骨代謝疾患

SAPHO症候群

骨関節炎+皮膚症状。仙腸関節炎を伴うことがある

神経関連

坐骨神経痛(二次的)

仙腸関節周囲の靱帯刺激による放散痛として現れることも



 頻度と年齢:9-90歳以上まで老若男女で発症。
 画像診断:仙腸関節を含んだ関節の機能障害は画像に変化が現れません。
 誘発テスト:SIJ shear test 腹臥位で直接仙腸関節に圧迫を加えるのが感度が高い。
 疼痛:椅子に座ると痛く、正座は楽。仰向け、側臥位、寝返り、立ち上がり、朝方の動作開始時の痛み
 One finger test:最も痛い部位を指一本で示させると上後腸骨棘付近を指す
 疼痛部位:仙腸関節外縁部の殿部痛と鼡径部痛、デルマトームに一致しない下肢症状
 治療:安静や消炎鎮痛剤、骨盤ゴムベルト、AKA-博多法、ブロック治療(仙腸関節や後方の靱帯部へ局所ブロック注射)、仙腸関節固定術など。

*腰椎後方固定後の仙腸関節障害の合併が注目されている。難治例が少なくない。内固定器を抜去して始めて治療に反応する例も少なくないという報告があります。
 

 以下、LLM(大規模言語モデル)を利用し医師による監修を行った上で解説します。

 

仙腸関節炎(Sacroiliitis)の包括的まとめ

仙腸関節炎は、**仙腸関節(Sacroiliac Joint: SIJ)**に生じる炎症性・機械性・感染性の多様な病態の総称です。整形外科、リウマチ科、救急領域で重要な鑑別診断となります。

1. 仙腸関節の機能と病態生理(基礎)

1-1. 仙腸関節の解剖と機能

仙腸関節は、体軸(体幹)と下肢との間で荷重を伝える重要な関節です。

  • 可動性:極めてわずか(通常数度)ですが、歩行時などの**ショックアブソーバー(衝撃吸収)**としての役割を果たします。

  • 安定性:関節包は前方のみに存在し、後方は強靭な後仙腸靭帯群によって強固に安定化されています。

1-2.原因


病因は多岐にわたり、以下の4つに大別されます。

病態 主要な発生機序 臨床的特徴
炎症性 体軸性脊椎関節炎(axSpA)に伴う自己免疫性炎症 朝のこわばり、運動で改善、HLA-B27陽性
変性・機械性 加齢、アライメント不良、妊娠後のせん断力・回旋ストレス 長時間立位・活動後痛、動作で増悪
感染性 血行性播種(S.aureusなど)による化膿性炎症 急性発症、発熱、強い単側痛、荷重不能
波及 腸腰筋膿瘍、骨盤内腫瘍など隣接病変のSIJへの波及 原疾患の症状に準じる

2. 各病態の詳細

2-1. 炎症性(体軸性脊椎関節炎に伴う Sacroiliitis)

体軸性脊椎関節炎(axSpA)、特に**強直性脊椎炎(AS)や非X線基準体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)**の最も早期に出現しうる病変です。

  • 画像所見:MRIで**骨髄浮腫(BME)**を伴う強い炎症が捉えられます。

  • 病理:滑膜炎、軟骨下骨の炎症、 脂肪化、 骨新生(syndesmophyte)、 関節強直へと進行します。

2-2. 変性・機械性ストレスによる仙腸関節症

加齢や、下肢アライメント不良、股関節疾患などによる荷重バランスの破綻が原因で、仙腸関節へのせん断力・回旋ストレスが増大します。

  • 病態後仙腸靭帯群の微小損傷と関節裂隙の変性変化が主体です。

  • 画像所見:MRIでは骨梁硬化関節裂隙の不整が主体で、BMEは軽微にとどまります。

2-3. 感染性仙腸関節炎(Septic Sacroiliitis)

まれですが、発熱、強い単側臀部痛、明確な荷重不能という古典的三徴を示します。

  • 原因菌Staphylococcus aureusが最多。

  • 誘因:血行性播種(妊娠、薬剤注射歴、尿路/消化管感染など)が主因です。


3. 臨床症状と診断的アプローチ

3-1. 疼痛の局在と誘発試験

  • 疼痛局在殿部深部痛(PSIS近傍)。臀溝~大腿後方に放散することがあり、坐骨神経痛と誤認されやすいです。

  • 誘発試験:仙腸関節性疼痛を強く示唆する所見です。

    • FABER test

    • Gaenslen test

    • Distraction test(離開試験)/ Compression test(圧迫試験)

3-2. 画像所見

1. MRI(早期診断の Gold Standard)

  • 炎症性:STIRでのBME(骨髄浮腫)は炎症性 sacroiliitis の必須所見。慢性化マーカーとして脂肪化、進行例で erosion・ankylosis。

  • 感染性:関節裂隙の widening、造影効果、関節周囲膿瘍

2. CT

骨硬化・関節面の不整・侵食を高精度に評価。感染性・腫瘍性病変の鑑別に有用です。

3. X線

初期変化の検出感度は低いですが、進行した変性や硬化の補助的手段として用います。

3-3. 診断的仙腸関節ブロック(確定診断)

  • 画像(X線透視またはCT)ガイド下で仙腸関節内に局所麻酔薬を正確に注入し、疼痛が著明に(50%超)軽減することが確認できれば、仙腸関節性疼痛の確定診断となります。


4. 鑑別疾患と治療

4-1. 重要な鑑別疾患

  • 腰椎由来の神経根症:SLR、反射、感覚障害で鑑別。

  • 殿筋症候群・梨状筋症候群:筋緊張性誘発痛が主体。

  • 股関節疾患:可動域制限(特に内旋痛)が手掛かり。

  • 腸腰筋膿瘍・骨盤内腫瘍:MRIでのSIJへの波及の評価が必須。

  • 坐骨神経痛(非根性):殿部軟部組織由来の放散痛。

4-2. 治療

病態 第一選択 次善策・その他
炎症性 (axSpA) NSAIDs(国際ガイドライン推奨) 生物学的製剤(TNF/IL-17A阻害薬)、理学療法
変性・機械性 仙腸関節・骨盤帯安定化訓練(体幹/殿筋) 関節内ステロイド注射(診断的兼治療的)、ラジオ波焼灼術(RFA)
感染性 入院の上、抗菌薬静注(菌種同定後に適正化) 膿瘍形成時のドレナージ

5. 注意点

  • 仙腸関節痛は一つの疾患ではなく症候群であるため、病因(炎症性/変性/感染性)を初診時に峻別することが最も重要です。

  • 妊娠後の腰殿部痛はSIJ機械性障害が多いため、炎症性と誤認しないよう注意が必要です。

  • MRI上の軽度BMEはアスリートでも見られることがあり、臨床症状との整合性が必須です。


鑑別診断

仙腸関節痛を引き起こす疾患は多彩で鑑別に苦慮することもよくあります。鑑別診断を兼ねて行う仙腸関節ブロックも周辺の痛みが原因で効くことがあり、少なくとも2回は効果判定を行う必要があるとされています。

また、MRIで仙腸関節に所見が無くとも疾患自体は否定出来ないとされ、このことは更に診断を複雑にしています。

1.仙腸関節そのものの疾患

カテゴリー 代表疾患 痛みの特徴 主な所見
炎症性(体軸性脊椎関節炎) AS/non-radiographic axSpA/乾癬性関節炎 朝のこわばり/夜間痛/活動で軽快 MRI:BME・erosion・脂肪化
変性・機械性 degenerative SIJ disease/妊娠後SIJ 長時間立位・歩行で悪化/体幹回旋で誘発 CT:関節硬化/裂隙不整
感染性 septic sacroiliitis(細菌・結核) 高熱/急激な荷重不能/激痛 MRI:造影増強/関節周囲膿瘍
腫瘍性 転移性・原発性骨腫瘍 安静時痛・夜間痛 MRI/CT:骨破壊・腫瘤
外傷 SIJ亜脱臼・骨盤輪損傷 外傷後の持続痛 X線/CT:骨盤不安定性

2.仙腸関節周囲靭帯・腱・筋膜由来

カテゴリー 代表疾患 痛みの特徴 主な所見
後仙腸靭帯損傷 後仙腸靭帯 enthesopathy/strain PSIS外側の限局痛/体幹回旋・片脚立位で増悪 圧痛・ストレステスト陽性
関節包炎 capsulitis 体位変換で鋭い痛み/立ち上がり動作 MRIで軽度腫脹・造影効果ことあり
殿筋付着部炎 gluteus medius/minimus enthesitis 座位・階段昇降・中殿筋収縮で増悪 エコー:付着部の高エコー・腫脹
殿筋筋膜性疼痛 myofascial pelvic girdle pain トリガーポイント性/運動後痛 画像異常なし、多くは圧痛再現性

3.腰椎由来(放散痛がSIJ部に集中しやすいもの)

カテゴリー 代表疾患 痛みの特徴 主な所見
椎間板ヘルニア L5/S1根症 坐骨神経痛様放散痛/咳・くしゃみで悪化 MRI:神経根圧迫
椎間関節症 facet syndrome 伸展・回旋で増悪/朝は軽く夕方悪化 CT/MRI:facet変性
脊柱管狭窄症 LSS 間欠跛行/前屈で軽快 MRI:狭窄像

4.股関節・骨盤帯由来(SIJ痛を模倣しやすい)

カテゴリー 代表疾患 痛みの特徴 主な所見
変形性股関節症 OA 鼠径部痛+殿部深部痛/歩行で増悪 X線:関節裂隙狭小化
股関節インピンジメント FAI FADIRで誘発/運動時痛 cam/pincer形状
滑液包炎 trochanteric bursitis 外側痛中心だが後部へ波及ことあり エコー:腫脹
恥骨結合炎 osteitis pubis 体幹回旋・起立時痛/スポーツに多い MRI:BME

5.内臓・感染・腫瘍・神経・その他

カテゴリー 代表疾患 痛みの特徴 主な所見
腸腰筋膿瘍 psoas abscess 発熱/股関節伸展で激痛 CT/MRI:膿瘍
尿路・婦人科疾患 尿管結石/子宮付属器炎 腹部症状+骨盤痛 CT・エコー
骨盤腫瘍 転移・肉腫 進行性・夜間痛 MRI:腫瘤
神経障害性疼痛 閉鎖神経/上殿神経障害 鋭い電撃痛・感覚異常 ブロック反応で判定
線維筋痛症 fibromyalgia 広範囲疼痛/非特異 除外診断

◆「仙腸関節痛は“誤った荷重伝達パターンを正常化する問題である”」とは何を意味するのか

仙腸関節(SIJ)は、**脚から伝わる衝撃(地面反力)を体幹へ、体幹からの力を脚へ、双方向に受け渡す“荷重の中継点”**です。

蝶番のように大きく動く関節ではなく、ごくわずかな動き(数mm未満)で荷重方向を吸収・伝達する仕組みです。

つまり、上半身の重さ・脚からの衝撃・体の回旋など、複数の力が一点に集中する場所

この中継点で“力の受け渡し方=荷重伝達パターン”が破綻すると、SIJ後方組織(靭帯・関節包・殿筋付着部)に 本来不要なストレスがかかり痛みが生じるという考え方です。


◆どんな時に「誤った荷重伝達パターン」が起こるのか?

例①:歩行時に骨盤が沈み込む(Trendelenburgパターン)
→ 中殿筋が主導筋としてタイミング良く働かず、
 荷重の受け渡しが股関節→SIJ後方へ逃げる
靭帯・関節包・殿筋付着部へ過負荷 → SIJ痛

例②:片脚立位・階段で骨盤が回旋してしまう
→ 体幹と骨盤の相対位置がずれる
SIJ後方の剪断ストレス上昇 → 痛み

例③:腰主導のヒップヒンジ/スクワット
→ 大殿筋ではなく脊柱伸展で支えようとする
荷重が脊柱→仙骨→SIJ後方に集中 → 痛み

例④:着地時に膝で衝撃を吸収しているが、股関節を使えていない
→ 荷重が体幹にスムーズに伝わらない
衝撃がSIJに残留 → 痛み再発

ポイント:
「筋力不足」ではなく「力の流れのルートが間違っている(配線ミス)」ことが本質


◆正常な荷重伝達とはどういうことか?

●正常

地面反力 → 足 → 膝 → 股関節 → 骨盤(中殿筋で受け止める) ↓ 体幹 → 上肢

股関節まわりの筋が“最初に”力を受け止め、骨盤は水平/非回旋のまま

●誤った荷重伝達

地面反力 → 足 → 膝 → 股関節で受け止められない ↓ SIJ後方(靭帯・関節包・付着部に逃げる)

力が本来とは異なるルートに逃げ、SIJ後方が代償して炎症・疼痛へ


◆なぜ“筋トレだけ”では改善しないのか?

筋力を上げても「力が流れるルート(運動制御の配線)が変わらなければ再燃する」からです。

例:クラムシェルで中殿筋を強化しても上記の誤ったパターンのままだと…

  • 階段で骨盤が沈む

  • 歩行で骨盤が回旋

  • スクワットで腰が主導

  • 着地で膝主導

症状は変わらない(もしくは一時的改善→再発)

つまり、

SIJ痛の治療目標は “筋力UP” ではなく “荷重伝達の正しい軌道への再学習”


◆荷重伝達パターンが改善したかの判断基準(臨床で見える形に)

評価シーン 正常 異常(再発パターン)
片脚立位 骨盤が水平 骨盤が沈む・回旋する
階段昇降 股関節で吸収 膝で吸収/骨盤回旋
歩行 仙腸部静か ステップごとに殿部に響く
スクワット 股関節主導 腰主導・骨盤後傾
着地 着地→すぐ安定 着地の衝撃で沈む

◆要点を一文にまとめると

仙腸関節痛は “弱い筋を鍛える問題” ではなく
“誤った力の流れ(荷重伝達)を正常に戻す問題” である。


◆痛みのある患者は「弱い」のではなく“力の受け止め方(荷重のルート)を間違えて学習してしまった” だけ。

だからこそ治療は筋力アップではなく、再学習(運動制御の書き換え)

 

◆仙腸関節痛に対する

《荷重伝達パターン再学習の“即効ドリル”3種》

目的:中殿筋・大殿筋・体幹深部(TrA/多裂)が “正しいタイミング” で同時に働き、脚 → 骨盤 → 体幹 の力の受け渡しラインを正常化すること。

筋トレではなく運動制御の書き換えが主目的。


▶ ドリル① “骨盤レベル保持 片脚スライド”(臥位 → 立位の中間ステップ)

目的中殿筋(骨盤の水平維持)と腹横筋(体幹深部の安定)の協調的な収縮タイミングを再教育します。

●方法

1)両足立位
2)片脚に荷重を乗せる
3)反対側の足を前→後→外側へ床スライド
 ※スライドする脚は“荷重しない”のがポイント

●cue(教示)

  • 「支えている脚の中殿筋の上に体重が乗っている感覚をキープ」

  • 「骨盤は水平のまま・回旋ゼロ

  • 「腰や背中で固めず股関節で吸収

●よくあるエラー

  • 骨盤が沈む → 中殿筋タイミング不良

  • 体幹を固めすぎ → SIJの微小滑りが失われる

  • スライド脚に乗ってしまう → 荷重伝達の書き換えが起きない

指標:前後外側へ各6往復 × 痛みゼロ → ドリル2へ


▶ ドリル② “スプリットスクワット(骨盤固定型)”

目的大殿筋股関節を主導的に使い、垂直方向の荷重を仙腸関節に負担をかけずに伝達するパターンを学習します。

●方法

1)前後開脚
2)骨盤とへそは正面のまま
3)後ろ脚の膝を床方向へ降ろす(前膝は行きすぎない)
4)痛みのない範囲で反復

●cue

  • 前脚の股関節で沈む

  • 「膝ではなく股関節の折れ曲がりが主役

  • 「骨盤を正面のまま上下、回旋させない」

●よくあるエラー

  • 前脚の膝が前に出すぎる → 股関節が働かずSIJ負荷

  • 骨盤が回旋する → 荷重伝達エラー再学習

  • 背中で踏ん張る → 大殿筋が使われない

指標:左右10回×痛みゼロ → ドリル3へ


▶ ドリル③ “片脚着地 → 1秒安定”(スポーツ・日常動作の最終再学習)

目的:**フィードフォワード制御(予測制御)の改善を促します。着地の前に、体幹深部と殿筋が瞬間的に緊張(予期収縮)**し、仙腸関節を安定化させることを学習します。

即効性:★★★★☆(予測制御=フィードフォワード改善)

●方法

1)軽い前方ジャンプ(または低いステップからの降り)
2)片脚着地
3)1秒間、骨盤・体幹・膝を静止
4)左右交互

●cue

  • 「着地した瞬間に骨盤の水平を先に作る

  • 「膝で衝撃を受けず股関節で吸収

  • 「着地の衝撃を上半身へ“流す”イメージ

●よくあるエラー

  • 片脚着地で骨盤が沈む → 再学習が完了していない

  • 上半身が前に倒れる → 脊柱伸展代償

  • 1秒止まれない → 安定化ではなく反射的代償

指標:左右10回連続・骨盤水平保持・痛みゼロ → 再発リスク低


◆なぜこの3種が“即効性が高い”のか(理論的解説)

仙腸関節痛の本態は

荷重方向の誤学習(代償パターン)による後方ストレス

筋トレ・ストレッチではなく、以下の順で“力の流れ”を再学習させることで改善が速い:

ドリル 再学習する内容 実生活/競技での相当
①片脚スライド 片脚荷重の“基礎配線” 歩行
②スプリットスクワット 荷重の上下変化での安定 階段・立ち座り
③片脚着地 不安定環境下の予測制御 スポーツ・通勤・走行

荷重 × 骨盤×股関節 × コントロール
低負荷→中負荷→高負荷の順に正しく再学習できる。


◆進め方の目安(プロトコル)

日数 推奨内容
1〜3日 ドリル①(片脚スライド)
4〜10日 ドリル①+②(スプリットスクワット)
11日〜 ドリル①+②+③(着地安定)

※疼痛2/10以下で進行。
※痛み発生時は負荷ではなく運動制御の破綻を疑う。

※ドリル①の「ドローイン(腹横筋の意識)」や「ニー・フォール・アウト」のような深層筋の分離運動すら困難な場合は、まずベッド上での基礎的な体幹深層筋の収縮感覚を確立する段階(前の応答で説明したドローインやバード・ドッグの低負荷版など)を行う。

※股関節自体に強い可動域制限(FAIや変形性股関節症など)がある場合、ドリル②(スプリットスクワット)やドリル③(着地時の股関節吸収)で股関節の代償が起こり、逆に仙腸関節に過剰な負荷がかかる可能性があるため、事前に股関節の評価が必要です。


◆最後に一番重要なポイント

痛みが減る運動ではなく、
痛みが出ない体の使い方を脳に再インストールする運動が治療。

 

仙腸関節が「すべる」「ずれる」ような感覚の解釈について

仙腸関節が動作時に「すべる」「ずれる」という表現は、医学的な専門用語ではありませんが、一般的に以下の2つの意味合いで用いられることが多いです。


1. 正常範囲を超えた過剰な微細な動き(不安定性)

仙腸関節は本来、強靭な靭帯によって補強されており、可動域は数度程度とごくわずかです。この「すべる」という表現は、この正常な微細な動きを超えて、過剰な動きやズレが生じている状態を指している可能性が最も高いです。

病態としての「不安定性」

  1. 靭帯の弛緩:出産や外傷、機械的ストレスの増大などにより、関節を安定させている後仙腸靭帯などが緩む(弛緩する)と、関節の固定性が低下します。

  2. せん断力の増大:体幹の捻りや荷重のかかり方(特に片足立ちや階段昇降時)の変化により、関節面に**せん断力(スライドさせる力)**が強く働き、本来の動き以上のズレが生じます。

  3. 筋肉の機能不全:仙腸関節の安定化に重要な**深層の腹筋群や殿筋群(インナーマッスル)の機能が低下すると、動的な安定性が失われ、動作時に関節がグラつく、または過剰に動く(すべる)**感覚が生じ、これが痛みを引き起こします。

この**「すべり」や「グラつき」**は、関節周囲の靭帯や関節包に過剰なストレスをかけ、機械的な疼痛(仙腸関節症)の主な原因となります。


2. 患者さんが感じる**「ズレる」「外れる」ような感覚**

患者さん自身が感じる主観的な表現として、「すべる」「ズレる」「外れそうになる」と訴える場合があります。これは、必ずしも画像上での大きな変位(脱臼など)を意味するのではなく、上記の不安定性や機能不全によって生じる不快な感覚を指していることもあります。

臨床的な特徴

  • 急な動作時:立ち上がり、寝返り、階段を上る、重いものを持ち上げるなどの動作で、「ギクッ」としたり、「一瞬力が抜ける」ような感覚を伴うことが多いです。

  • 痛み:仙腸関節部に鋭い痛み(せん断痛)や、鈍い不快感として感じられます。


結論として、「仙腸関節がすべる」「ずれる」とは、強靭な靭帯と筋肉によって支えられているはずの仙腸関節が、動作時に過剰に動きすぎたり(不安定性)、不適切な方向に動くことによって、痛みや不快感を伴う状態を指す、臨床的な表現であると言えます。


仙腸関節の安定化


この「すべり」が原因であると診断された場合、**仙腸関節周囲の筋肉を強化し、骨盤を安定化させる運動(体幹・殿筋のトレーニング)**が治療の中心となります。仙腸関節の「すべり」や不安定性に対処するためのトレーニングは、主に骨盤帯の安定化(Pelvic Stabilization)深層筋の活性化を目的とします。

ここでは、特に重要とされる体幹の深層筋(インナーユニット)殿筋群をターゲットにした代表的な運動を解説します。


️ 仙腸関節安定化のための主要なトレーニング

1. 体幹深層筋(インナーユニット)の活性化

仙腸関節を動的に安定させるためには、コルセットのように働く腹横筋多裂筋といった深層の筋肉(フォース・クロージャ・システム)を強化することが不可欠です。

1-1. ドローイン(腹横筋の意識)

最も基本的な運動で、腹横筋を単独で収縮させることを学びます。

  1. 仰向けに寝て膝を立てます。

  2. 息を大きく吸い込み、吐き出すときにおへそを背骨に近づけるように意識して、お腹を平らに凹ませます(腹筋運動のように力を入れるのではなく、お腹の深層を締める感覚)。

  3. この締め付けた状態を10秒間キープします。呼吸は止めずに行います。

  4. これを10回繰り返します。

1-2. ニー・フォール・アウト(腹横筋を使いながら)

ドローインを維持した状態で、股関節を動かす練習です。

  1. ドローインで腹横筋を締めた状態を維持します。

  2. 片方の膝を、骨盤が動かないよう注意しながらゆっくりと外側に開きます。

  3. 骨盤が傾いたり、お腹が膨らんだりしないように、腹横筋の緊張を保ちながら行います。

  4. 元の位置に戻し、左右交互に10回ずつ行います。


2. 殿筋群の強化

中殿筋大殿筋は、骨盤を側面や後方から支え、歩行時や片足立ちでの仙腸関節の不安定性を防ぐために非常に重要です。

2-1. ブリッジ(大殿筋・多裂筋)

大殿筋と脊柱の安定筋(多裂筋)を同時に強化します。

  1. 仰向けに寝て膝を立てます(足は肩幅)。

  2. お腹の深層を軽く締め(ドローイン)、お尻の筋肉を意識して、肩から膝までが一直線になるようにゆっくりと腰を持ち上げます。

  3. 腰を反らしすぎないよう注意し、最も高い位置で数秒間キープします。

  4. ゆっくりと元の位置に戻します。10回~15回繰り返します。

2-2. サイド・ライイング・ヒップ・アブダクション(中殿筋)

中殿筋(骨盤を横から支える筋肉)を効果的に強化します。

  1. 横向きに寝て、下側の足を軽く曲げて安定させます。

  2. 上側の足を伸ばし、骨盤が前後に傾かないように注意しながら、ゆっくりと真上に持ち上げます。

  3. 持ち上げる角度は30度程度で十分です。お尻の上部(体幹に近い側)に効いていることを意識します。

  4. 元の位置に戻すときもゆっくり行います。左右それぞれ10回~15回繰り返します。


3. 複合的な安定化運動

3-1. バード・ドッグ(四つ這いでの体幹安定化)

体幹の深層筋を使いながら、四肢を動かし、体幹の回旋を制御する能力(抗回旋能力)を高めます。

  1. 四つ這いになります(手は肩の下、膝は股関節の下)。

  2. ドローインで体幹を安定させます。

  3. 背中が動かないように注意しながら、片手と対角の片足をゆっくりと持ち上げ、床と平行になるまで伸ばします。

  4. 数秒間キープした後、ゆっくりと元に戻します。

  5. 左右交互に10回ずつ行います。

⚠️ トレーニングの注意点

  • 痛みのない範囲で行うこと:運動中に仙腸関節部に強い痛みを感じる場合は、直ちに中止してください。

  • 「量より質」:回数をこなすことよりも、仙腸関節が動かないよう体幹を固定し、目的の筋肉を正しく使うことを最優先にしてください。

  • 医療専門家への相談:不安定性の度合いや痛みの原因は人によって異なるため、理学療法士や医師の指導のもとで、個別の状態に合わせた運動プログラムを作成してもらうことが最も安全で効果的です。

 

「仙腸関節は動作時に“すべる(slip)”」という表現は、専門的には**「仙腸関節の動的不安定性(Dynamic Instability)」「過剰な微細可動性(Hypermobility)」**を指します。

これは、関節自体が大きくズレる(脱臼する)という意味ではなく、荷重伝達の役割を果たすために許容されているごくわずかな正常な動きが、制御不能な過剰な動きになってしまう状態を指します。

以下に、この「すべり」のメカニズムを具体的かつ視覚的に説明します。


1. 正常な仙腸関節の動き(Load Transfer)

仙腸関節は、仙骨腸骨の間の関節で、体幹からの荷重を下肢へ、または下肢からの衝撃を体幹へ伝える「荷重伝達」の要です。

  • 構造的特徴:前方(関節面)は凹凸の噛み合わせが複雑で、後方は**強靭な靭帯(特に後仙腸靭帯)**が関節を強固に締結しています。

  • 正常な動き:非常に小さく、最大で2〜4 mm程度、数度未満の滑り(並進運動)および回旋運動しか許容されません。

    • この微細な動きは、歩行や走行時の**衝撃を吸収(Shock Absorption)**し、関節周囲のストレスを分散させるために必須です。


2. 「すべり(Slip)」が起きるメカニズム(動的不安定性)

仙腸関節の「すべり」とは、この正常な許容範囲を超えた過剰な微細可動性が生じ、関節の安定性が破綻している状態です。

制御が失われた「ズレ(Shear Force)」の発生

「すべり」が生じる具体的なメカニズムは、主にスタビライザー(安定化機構)の破綻によるものです。

A. 構造的な安定性の低下(フォーム・クロージャ)

  • 靭帯の弛緩:妊娠・出産、外傷、または慢性的なストレスにより、関節を締結する後仙腸靭帯群が損傷・弛緩します。

  • 結果:関節面同士を強く引きつける力が弱まり、**関節の遊び(ルーズさ)**が増大します。

B. 筋による動的安定性の低下(フォース・クロージャ)

仙腸関節は、以下の**深層の筋肉(フォース・クロージャ・システム)**が収縮することで、関節を締め付け、動的に安定化させています。

  • 内腹斜筋・腹横筋(コア)

  • 多裂筋

  • 大殿筋・中殿筋

  • 広背筋

  • 結果:これらの筋肉の機能が低下すると、荷重や急な動作(立ち上がり、寝返り、片足立ちなど)の際に、関節を締め付ける力が瞬間的に失われ、微細な「ズレ」(せん断力によるスライド)が制御不能な形で過剰に発生します。

視覚的なイメージ

  1. 通常:仙骨と腸骨が強靭なベルト(靭帯・筋肉)でしっかり締められ、わずかに滑りながら荷重を受け流す。

  2. 「すべり」時:ベルトが緩んだ状態で荷重がかかり、本来の許容範囲を超えて**「ガクッと」または「ヌルッと」**関節面が不適切な方向に滑り、周囲の靭帯や関節包が引き伸ばされ、鋭い痛みが発生する。

この**「ガクッ」という制御を失ったズレ**こそが、患者さんが訴える「すべる」「外れそうになる」という感覚の正体であり、機械性仙腸関節症の主要な病態生理となります。