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整形外科 外科
リハビリテーション科

正中神経麻痺 median nerve paralysis

 上肢の神経障害には主に正中神経、尺骨神経、橈骨神経に起こります。どの神経のどの部位に起こるかで症状が異なります。

 正中神経は頚椎からでた神経が腕神経叢を形成しそこから分岐します。腋窩から内側を通り肘の前方を通り各筋肉に枝をだし母指〜第4指内側まで分布します。

 知覚の固有支配領域は第2指、第3指の掌側先端部です。

 正中神経が損傷されたレベルで症状が異なります。

 肘より上では、麻痺の程度は様々ですが、手関節の屈曲、前腕の回内、手指の屈曲が出来なくなります。また母指の筋力が低下します。

 前腕から手関節までの障害では、手根管症候群と同様の症状が出ます。(母指〜第4指橈側までの知覚障害、母指球筋の障害)


前骨間神経麻痺 

前骨間神経麻痺とは正中神経から肘のところで分岐する枝で、長母指屈筋、示指中指深指屈筋、方形回内筋を支配しています。この神経が神経炎を起こすことによって麻痺が起こります。(感覚障害はありません)まず、母指と中指の遠位関節が曲げられなくなります。

 検査として親指と示指で丸を作れるかをみます。前骨間神経麻痺があるとへしゃげて丸くならず、涙型に崩れます。

 親指は曲げられるが示指のみ(DIP関節が)曲げられないというケースもありますので注意が必要です。

 原則として保存的治療を行います。

手根管症候群

 手根管症候群は手首のところで正中神経が締め付けられることによって起こります。40-60歳代によくみられ女性にやや多い。症状は母指〜第4指橈側までの知覚障害、母指球筋の障害が出ます。(point:中高年女性、夜間痛、しびれたら手を振ると治る)

 原因不明な特発性が一番多いのですが、使いすぎ、腱鞘炎、ガングリオン、橈骨骨折や手根骨骨折後の変形、アミロイドーシス、関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能低下症、末端肥大症などさまざまな疾患が原因となることもあります。妊娠も原因の一つとされています。10年以上透析を受けた人は高率に発症します。

 診断は上述の神経障害の症状に加えて、誘発テストを行います。また神経伝導速度を測定します。

 治療は、局所の安静をはかり神経が元気になるビタミンB12の服用、装具療法、ステロイドの注射などを行います。こういった保存的治療にて改善しない場合は、手術を考慮します。保存的治療を2-7週間行って効果がない場合は別の保存療法への変更もしくは手術療法をおこなう。重症の患者や長期間罹患している場合は保存治療を長く続けるべきでは無く、保存治療で改善しない場合や母指球萎縮がある場合は、圧迫の原因となっている横手根靱帯を切離する手根管開放術が推奨されます。


 *母指対立障害のないものは保存療法は4ヶ月程度行うことによって改善を期待できます。母指の対立障害を認める場合で、病状が進行する例、再発例では手術を検討します。

  <手根管症候群の非典型例 中枢感作>

 手根管症候群の35%程度で、正中神経領域外の知覚障害も訴えていたとする報告(中枢感作)があります。また尺骨神経領域の症状を訴えることもあると言われています。従って正中神経領域以外の症状があるからといって手根管症候群を含めて正中神経障害を鑑別診断から除外しないように心がけます。

 *中枢(神経)感作
 「中枢感作」とは、末梢での組織損傷や炎症の程度が激しくまた長期間続くとそれらが伝達される中枢に機能的な変化が生じ、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになること。要するに痛み刺激を受け続けると、他の正常な信号も痛みと認識してしまうことを言います。

 <手根管症候群の成因>

 内科疾患:糖尿病、甲状腺機能低下症、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、長期間の透析

仕事関連の手根管症候群と診断された297例中、5.7%が糖尿病、6.1%が甲状腺機能低下症、11.1%が関節炎、11.7%が変形性関節症を持っていたとしています。全体の36.7%に内科疾患を併発。 Atcheson SG,et al : Concurrent medical disease in work-related capal tunnrl syndrome

 *手関節の反復する動作で手根管症候群を起こすのはまれとされています。食肉解体業などの寒い環境で反復した労作を伴う場合は発生することもあると報告されています。Falkiner S,et al : When exactly can carpal tunnel syndrome be considered work-related? ANZ J Surg 72(3):204-209,2002

<手根管症候群が女性に多い理由>

 ・解剖学的に手根管が狭い
 ・閉経後に多い・・・女性ホルモンとの関連、アロマターゼ阻害剤との関連
 ・妊娠時:ホルモン変動、体液貯留

 などが示唆されています。