池田医院へようこそ
信頼とまごころの医療
からだにやさしい医療をめざして
整形外科 外科 リハビリテーション科

頸部痛をきたす他科疾患


 頸部痛をきたす他科疾患

 首の痛みというと頸椎症や寝違えを思い浮かべますが、実際には頭部、胸部、お腹、さらには婦人科や歯科、眼科の病気まで、驚くほど幅広い原因が隠れていることがあります。

 見逃すと命に関わる痛みとしては、まず虚血性心疾患があります。頸椎から来る神経根症とは違い、首の動きで痛みが変わらず、左の首から肩・腕・前胸部へ広がるような痛みは心臓を疑います。右側に放散することもあるので油断はできません。

 後遺症を残しかねない痛みとしては、椎骨動脈や頸動脈の解離が挙げられます。後頭部から後頸部にかけての急な片側性の痛みが続いたり強くなったりする場合は椎骨動脈解離を、前頸部に突然の激痛が起こった場合は頸動脈解離を考えます。いずれも脳梗塞やくも膜下出血につながることがあり、50歳以下の方に多く見られます。頸椎のマッサージがきっかけになることもあるようです。

 発熱を伴う頸部痛では、髄膜炎を念頭に置いています。頭を素早く左右に振ると痛みが強くなる所見は診断の助けになり、髄液検査の前には頭部CTで安全性を確かめることが勧められています。慢性的に進行する首の痛みでは、頸椎症だけでは説明のつかない舌の萎縮や構音障害があればALSを、振戦や動作の乏しさがあればパーキンソン病を考えます。

 発熱を伴う激しい頸部痛のなかには、高齢の女性に多いCrowned dens syndromeという病気があります。歯突起の周りの靱帯にカルシウムの結晶が沈着することで起こり、後頭部から後頸部、回旋時の痛みを訴えられますが、前後に曲げる動きは意外とできることが多いのが特徴です。頸長筋に石灰が沈着して起こる炎症も、似たような発熱と痛みを来します。

 子供では、6〜13歳頃に頸椎の椎間板が石灰化して強い頸部痛を来すことがあります。原因ははっきりしませんが、痛み止めと頸椎カラーで1か月ほどかけて落ち着いていくことが多い病気です。高齢の方では、ちょっとした転倒でも環軸椎の骨折や頸椎の脱臼が起こりうるので、軽微な外傷でも慎重に診るようにしています。

 意外と見落とされやすいのが、甲状腺や感染の病気です。風邪のあとに、前頸部の痛みを伴う腫れが片側から反対側へ移っていくようなら亜急性甲状腺炎を考えます。動悸や体重減少といった甲状腺機能亢進の症状を伴うことも多く、頸椎の動き自体は制限されないのが頸椎症との違いです。発熱に頸部のリンパ節の腫れや圧痛が加わる場合は、リンパ節炎や深頸部の膿瘍も念頭に置き、必要であればCTで確認して切開排膿を行うこともあります。

緊急度疾患・特徴
生命の危機虚血性心疾患(左頸部~肩・上肢・前胸部への放散痛)
後遺障害のおそれ椎骨動脈解離、頸動脈解離(50歳以下に多い)
発熱+神経症状髄膜炎(jolt accentuation陽性)
慢性進行性ALS、パーキンソン病
発熱+激痛Crowned dens syndrome、石灰沈着性頚長筋炎
小児小児頚椎椎間板石灰化症(6〜13歳)
内分泌・感染亜急性甲状腺炎、頸部リンパ節炎・深頸部膿瘍

参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
 

エビデンス:jolt accentuationの診断精度

発熱と頭痛を伴う患者において、頭部を水平方向に回旋させると頭痛が増強するjolt accentuationは、髄液細胞増多に対する感度97.1%、特異度60%と報告されました(原著の対象は54例と小規模)。(Uchihara T, Tsukagoshi H. Headache. 1991)[1]

エビデンス:Crowned dens syndromeの臨床像

日本の8施設で集積されたCrowned dens syndrome72例の症例集積では、後頭部痛・後頸部痛や発熱を伴う臨床像がまとめられています。(Isono H ら. J Gen Fam Med. 2023)[2]

エビデンス出典(全2件)を見る
  1. Uchihara T, Tsukagoshi H. Jolt accentuation of headache: the most sensitive sign of CSF pleocytosis. Headache. 1991;31(3):167-171. PMID: 2071396.
  2. Isono H, Kuno H, Hozumi T, Emoto K, Nishiguchi S, Sakai M, et al. Crowned dens syndrome: A case series of 72 patients at eight teaching hospitals in Japan. J Gen Fam Med. 2023;24(3):171-177. PMID: 37261038.