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整形外科 外科
リハビリテーション科

 いたみ・しびれ 新しい薬の使い方

総合診療のGノート2016年8月号は「骨関節の痛みとしびれ」が特集されています。これを読み解きながら、痛みとしびれをどのようにして治療していくか、お薬の使いかたを含めて書いていきます。

よく「薬は飲んだ方が良いのか?」という質問があります。いつも答えるのは「必要がなければ、要りません。」
どのような薬も主作用があれば、副作用もあります。出来れば身体の中に入れたくはない。それでも副作用の可能性も十分考慮して、今ある症状を改善させることが期待できるのなら、使用するのも選択のひとつだと考えます。もちろん、絶対嫌だという人もおられますから、生死に関わらない話であれば、その意思を優先することになります。

最近、痛みを我慢していると前頭葉の痛みを抑制する部分が萎縮してしまい、ちょっとした痛みにも強く感じるようになったり、周辺の通常の信号を痛みと捉えてしまうことが分かっています。従って、あまり痛みを我慢するのもよくない。

これまで痛み止めと言えばボルタレンやロキソニンといったNSAIDsが中心でしたが、さまざまな薬が開発され、オピオイド、抗うつ剤なども使われるようになっています。これら薬剤の特性をしっかりと理解して使い分けることが大切です。
ただ最近の痛みを止めるお薬は車の運転や高所や危険を伴う作業が禁止されていることが多く、使用が難しいケースが多々あります。
 
<疼痛の分類>
1.器質的疼痛
 侵害受容性疼痛
 神経障害性疼痛

2.非器質的疼痛
 心因性疼痛
 機能性疼痛
 中枢機能性疼痛

*非器質的疼痛には、身体表現性疼痛障害、虚偽性障害、賠償神経症(転換型ヒステリー)が含まれるとし、慢性疼痛に精通した精神科医の診療が必要とされる。
 
<痛みを改善させる薬>

・NSAIDs(ボルタレン、ロキソニン、セレコックス)
・プレガバリン(リリカ)
・ミロガバリンベジル酸塩(タリージェ)
・オピオイド系(トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープ)
・オピオイド
・アセトアミノフェン(カロナール)
・デュロキセチン(サインバルタ)

<解説>

NSAIDs(ボルタレン、ロキソニン、セレコックス)
昔からよく使われる痛み止めです。胃腸障害や腎障害を起こすことがあります。痛みを抑制沈静させる効果は大きいです。高齢者には、NSAIDsよりもアセトアミノフェンを使用するように推奨されています。NSAIDsを使ってもまったく痛みが変わらないケースでは、リリカやサインバルタ、オピオイド系を旨く使い分けると効果的です。

プレガバリン(リリカ)、ミロガバリンベジル酸塩(タリージェ) 運転禁止
神経傷害性疼痛によく効きます。神経根障害、絞扼性神経障害など。服用後、めまいを起こすことがあります。リリカの場合、添付文書では75mg眠前で開始となっていますが、3割にめまいがみられるとされており、より少量の25mgで開始するようにしています。特に高齢者、低体重者は、少量開始で増量は慎重に行います。

著効例以外は、効果が出るまで2週間程度かかることも多く、効果判定を急がないこと。

腎機能に影響はありませんが、減量は必要です。必要以上に血中濃度が高くならないようにします。
副作用:浮腫(下腿に多い)、肥満(効果のある症例で多く、投与数ヶ月以上で出現)、傾眠(高容量のみで出現、低容量では眠気のみ)、注意力障害(減薬で改善)、味覚異常(減薬で改善)

オピオイド系(トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープ) 運転禁止
NSAIDsの効き目はあるが、もう少し効果を求めるときに使うのが効果的と言われています。オピオイド系は侵害受容性疼痛に効果的。
副作用:嘔気(プリンペラン、1日15mgまで)、眠気(慣れるまで眠前投与、数週間)、便秘(酸化マグネシウム投与)

アセトアミノフェン(カロナール)
1893年より使われている鎮痛剤。中枢性の痛みを抑制。抗炎症作用はほとんどありません。腎臓や胎児の動脈管への影響はない。肝障害が起こることがあります。

最近、見直されて高齢者には消炎鎮痛薬として第1選択薬となっています。
 
NSAIDsと比較して鎮痛作用は弱い。アセトアミノフェン1,000mg=ロキソプロフェン60mgがほぼ同等の効果とされています。オピオイド使用中の突発性疼痛に対しても有用です。通常、600mgもしくは1,000mgを1日3-4回投与。eGFR60以下にはNSAIDsは使用不可なので代わりにアセトアミノフェンを使います。

デュロキセチン(サインバルタ)運転禁止
元々「うつ病・うつ状態」,「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」に使われてきましたが、「慢性腰痛症に伴う疼痛」「変形性関節症」にも適応が広がりました。中枢性に上行する痛刺激を抑制します。

腰痛症に対する投与法は「通常,成人には1 日1 回朝食後,デュロキセチンとして60mg を経口投与する。投与は1 日20mg より開始し,1 週間以上の間隔を空けて1 日用量として20mg ずつ増量する。」となっています。疼痛に対しては、抑うつ効果ではなく、下降性疼痛抑制系を介して鎮痛効果を発揮します。うつがない患者を対象として治験をしているため、うつ患者の慢性腰痛には用いない。


*何をどのように投薬するかは医師の裁量ですが、高齢者、低体重、腎機能低下ではアセトアミノフェンが第1選択薬。肝硬変ではアセトアミノフェンを1日量2-3g以内に減量する。身体上問題がなければ、NSAIDsは痛みの強度に応じて使い分ける。NSAIDsの効き目が弱い場合は、オピオイド系に変更するかプレガバリン(リリカ)の併用を考慮。慢性腰痛でNSAIDsの効き目が弱い場合はデュロキセチン(サインバルタ)を考慮。およそこういう流れです。

*消炎鎮痛剤を投与する場合、肝障害例、アルコール多飲者には二か月毎の採血検査、特に問題がない場合は、年二回の採血検査を行います。

*トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン配合剤(トラムセット)は下降性疼痛抑制系を賦活し、侵害受容器性疼痛のみならず、神経障害性疼痛、非器質的疼痛である機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛へに効果が報告されています。
 
<肝硬変患者に対する鎮痛剤投与>

肝硬変患者に対する鎮痛剤使用に関する、エビデンスに基づくガイドラインは存在しない。
一般的には減量し投与頻度を減らすことが推奨されています。

アセトアミノフェンは、長期投与の場合、2−3g/日以下に減量して投与することが推奨されています。
NSAIDsは、プロスタグランジン阻害による急性腎不全の危険があるため避けるべきとしています。
オピオイドは肝性脳症を誘発する危険性があり避けるべきとしています。

参考文献:肝硬変患者における鎮痛剤の投与‐文献とエビデンスに基づく推奨
The Therapeutic Use of Analgesics in Patients with Liver Cirrhosis: A
Literature Review and Evidence‐Based Recommendations
Hepat Mon. 2014; 14: e23539
 
<術後遷延痛>

どのような手術であっても急性の術後痛を経て痛みが改善していきます。, そのうち一部が痛みが継続し、遷延性術後痛に移行することが知られています。四肢切断術後で30−50%、乳腺切除術で20−30%、開胸術で30−40%、鼠径ヘルニアで10%と報告されています。

遷延性術後痛の定義
・外科的操作後に出現
・術後少なくとも2カ月続く
・腫瘍の残存, 慢性感染などほかの原因による痛みを除外
・術前から存在した痛みを精査のうえ除外
 
<マインドフルネス認知行動療法>
カバット・ジンによって始められたマインドフルネスストレス低減法を利用したもので、瞑想により身体や気持ちの状態を気づくためのこころのエクササイズです。これを応用して痛みのコントロールを行います。欧米の研究では、8週間のマインドフルネスを行うことによって、海馬や側頭頭頂接合部、扁桃体に変化があることが報告されています。
 
<痛み・しびれに対する漢方薬の使い方>

漢方薬は長年の歴史のなかで調合され淘汰され効果のあるものが生き残り現在でも使われています。麻黄、附子が鎮痛効果が高いとされています。麻黄の主成分はエフェドリンですが、漢方では鎮痛効果を発揮します。

麻黄を含有する漢方(血圧上昇に注意)

越婢加朮湯28 (麻黄1日量最大の6g)はアセトアミノフェンやNSAIDsで楽にならない整形外科的な痛みに対してよく用いられます。
麻黄附子細辛湯127は帯状疱疹後の痛みに有効です。
葛根湯1(麻黄含有)・・・痛みに有効

附子:トリカブトを熱処理して減毒したもの。痛みに効果。

附子を含む漢方は

牛車腎気丸107
大防風湯97
麻黄附子細辛湯127
桂枝加朮附湯18
真武湯30
八味地黄丸7

どれも鎮痛効果が得られることがあります。

附子の副作用は、発汗、胃もたれ、下痢、動機、舌のしびれ

附子(附子末として)の増量方法は、最初1.5g(1回量0.5g1日3回)、4週間様子を見て、その後、3.0g、4.5g、6.0gと増量します。どこかで不快感が出ればその人の附子を飲める上限量とします。