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整形外科 外科
リハビリテーション科

 最新の痛みのコントロール(おくすり編)

この項目は過去に総合診療のGノート2016年8月号「骨関節の痛みとしびれ」を参考にしてまとめました。医学は日進月歩ですので、新しい知見もキャッチアップしてリニューアルを行い、「最新の痛みのコントロール(おくすり編)」としてお届けします。(2024年11月現在)
痛みを我慢していると前頭葉の痛みを抑制する部分が萎縮してしまい、ちょっとした痛みにも強く感じるようになったり、周辺の通常の信号を痛みと捉えてしまうことが分かっています。従って、あまり痛みを我慢すると治りにくい痛みに変化してしまう可能性があります。

これまで痛み止めと言えばボルタレンやロキソニンといったNSAIDsが中心でしたが、さまざまな薬が開発され、神経障害性疼痛に効果のある薬剤、弱オピオイド、抗うつ剤なども使われるようになっています。これら薬剤の特性をしっかりと理解して使い分けることが大切です。
ただ最近の痛みを止めるお薬は車の運転や高所や危険を伴う作業が禁止されていることが多く、使用が難しいケースが多々あります。
 
<疼痛の分類>
1.器質的疼痛
 侵害受容性疼痛
 神経障害性疼痛

2.非器質的疼痛
 心因性疼痛
 機能性疼痛
 中枢機能性疼痛

*非器質的疼痛には、身体表現性疼痛障害、虚偽性障害、賠償神経症(転換型ヒステリー)が含まれるとし、慢性疼痛に精通した精神科医の診療が必要とされる。
 
<痛みを改善させる薬>

・NSAIDs ボルタレン(運転禁止)、ロキソニン、セレコックス(運転注意)
・プレガバリン(リリカ) 運転禁止
・ミロガバリンベジル酸塩(タリージェ) 運転禁止
・オピオイド系(弱オピオイド) トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープなど いずれも運転禁止
・オピオイド 運転禁止
・アセトアミノフェン(カロナール)
・デュロキセチン(サインバルタ) 運転注意(下欄参照)
・ステロイド プレドニゾロンの内服を記載する専門書もあるが、内服薬の場合、整形外科疾患で保険適応して使用できるものはありません。(リウマチ性多発筋痛症のみ適応あり)

<解説>

NSAIDs(ボルタレン、ロキソニン、セレコックス)
昔からよく使われる痛み止めで、急性期の痛みに効果的です。胃腸障害や腎障害を起こすことがあります。痛みを抑制沈静させる効果は大きいです。高齢者には、NSAIDsよりもアセトアミノフェンを使用するように推奨されています。NSAIDsを使ってもまったく痛みが変わらないケースでは、リリカやサインバルタ、オピオイド系を旨く使い分けると効果的です。

プレガバリン(リリカ)、ミロガバリンベジル酸塩(タリージェ) 運転禁止
神経障害性疼痛によく効きます。神経根障害、絞扼性神経障害など。服用後、めまいを起こすことがあります。リリカの場合、添付文書では75mg眠前で開始となっていますが、この量で開始すると3割にめまいがみられるとされ、当院ではより少量の25mgで開始するようにしています。特に高齢者、低体重者は、少量開始で増量は慎重に行います。著効例以外は、効果が出るまで2週間程度かかることも多く、効果判定を急がないこと。食欲が増進する場合があり、体重増に気をつける必要があります。

腎機能に影響はありませんが、減量は必要です。必要以上に血中濃度が高くならないようにします。
副作用:浮腫(下腿に多い)、肥満(効果のある症例で多く、投与数ヶ月以上で出現)、傾眠(高容量のみで出現、低容量では眠気のみ)、注意力障害(減薬で改善)、味覚異常(減薬で改善)

オピオイド系(トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープ) 運転禁止
NSAIDsの効き目はあるが、もう少し効果を求めるときに使うのが効果的と言われています。オピオイド系は侵害受容性疼痛に効果的。
副作用:嘔気(プリンペラン、1日15mgまで)、眠気(慣れるまで眠前投与、数週間)、便秘(酸化マグネシウム投与)

アセトアミノフェン(カロナール)
1893年より使われている鎮痛剤。中枢性の痛みを抑制。抗炎症作用はほとんどありません。腎臓や胎児の動脈管への影響はない。肝障害が起こることがあります。

最近、見直されて高齢者には消炎鎮痛薬として第1選択薬となっています。
 
NSAIDsと比較して鎮痛作用は弱い。アセトアミノフェン1,000mg=ロキソプロフェン60mgがほぼ同等の効果とされています。オピオイド使用中の突発性疼痛に対しても有用です。通常、600mgもしくは1,000mgを1日3-4回投与。eGFR60以下にはNSAIDsは使用不可なので代わりにアセトアミノフェンを使います。

デュロキセチン(サインバルタ)運転禁止
元々「うつ病・うつ状態」,「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」に使われてきましたが、「慢性腰痛症に伴う疼痛」「変形性関節症」にも適応が広がりました。中枢性に上行する痛刺激を抑制します。

腰痛症に対する投与法は「通常,成人には1 日1 回朝食後,デュロキセチンとして60mg を経口投与する。投与は1 日20mg より開始し,1 週間以上の間隔を空けて1 日用量として20mg ずつ増量する。」となっています。疼痛に対しては、抑うつ効果ではなく、下降性疼痛抑制系を介して鎮痛効果を発揮します。うつがない患者を対象として治験をしているため、うつ患者の慢性腰痛には用いない。


*何をどのように投薬するかは医師の裁量ですが、高齢者、低体重、腎機能低下ではアセトアミノフェンが第1選択薬。肝硬変ではアセトアミノフェンを1日量2-3g以内に減量する。身体上問題がなければ、NSAIDsは痛みの強度に応じて使い分ける。NSAIDsの効き目が弱い場合は、オピオイド系に変更するかプレガバリン(リリカ)の併用を考慮。慢性腰痛でNSAIDsの効き目が弱い場合はデュロキセチン(サインバルタ)を考慮。およそこういう流れです。

*消炎鎮痛剤を投与する場合、肝障害例、アルコール多飲者には二か月毎の採血検査、特に問題がない場合は、年二回の採血検査を行います。

*トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン配合剤(トラムセット)は下降性疼痛抑制系を賦活し、侵害受容器性疼痛のみならず、神経障害性疼痛、非器質的疼痛である機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛へに効果が報告されています。
 
<肝硬変患者に対する鎮痛剤投与>

肝硬変患者に対する鎮痛剤使用に関する、エビデンスに基づくガイドラインは存在しない。
一般的には減量し投与頻度を減らすことが推奨されています。

アセトアミノフェンは、長期投与の場合、2−3g/日以下に減量して投与することが推奨されています。
NSAIDsは、プロスタグランジン阻害による急性腎不全の危険があるため避けるべきとしています。
オピオイドは肝性脳症を誘発する危険性があり避けるべきとしています。

参考文献:肝硬変患者における鎮痛剤の投与‐文献とエビデンスに基づく推奨
The Therapeutic Use of Analgesics in Patients with Liver Cirrhosis: A
Literature Review and Evidence‐Based Recommendations
Hepat Mon. 2014; 14: e23539
 
<術後遷延痛>

どのような手術であっても急性の術後痛を経て痛みが改善していきます。, そのうち一部が痛みが継続し、遷延性術後痛に移行することが知られています。四肢切断術後で30−50%、乳腺切除術で20−30%、開胸術で30−40%、鼠径ヘルニアで10%と報告されています。

遷延性術後痛の定義
・外科的操作後に出現
・術後少なくとも2カ月続く
・腫瘍の残存, 慢性感染などほかの原因による痛みを除外
・術前から存在した痛みを精査のうえ除外
 
<マインドフルネス認知行動療法>
カバット・ジンによって始められたマインドフルネスストレス低減法を利用したもので、瞑想により身体や気持ちの状態を気づくためのこころのエクササイズです。これを応用して痛みのコントロールを行います。欧米の研究では、8週間のマインドフルネスを行うことによって、海馬や側頭頭頂接合部、扁桃体に変化があることが報告されています。
 
<痛み・しびれに対する漢方薬の使い方>

漢方薬は長年の歴史のなかで調合され淘汰され効果のあるものが生き残り現在でも使われています。麻黄、附子が鎮痛効果が高いとされています。麻黄の主成分はエフェドリンですが、漢方では鎮痛効果を発揮します。

麻黄を含有する漢方(血圧上昇に注意)

越婢加朮湯28 (麻黄1日量最大の6g)はアセトアミノフェンやNSAIDsで楽にならない整形外科的な痛みに対してよく用いられます。
麻黄附子細辛湯127は帯状疱疹後の痛みに有効です。
葛根湯1(麻黄含有)・・・痛みに有効

附子:トリカブトを熱処理して減毒したもの。痛みに効果。

附子を含む漢方は

牛車腎気丸107
大防風湯97
麻黄附子細辛湯127
桂枝加朮附湯18
真武湯30
八味地黄丸7

どれも鎮痛効果が得られることがあります。

附子の副作用は、発汗、胃もたれ、下痢、動機、舌のしびれ

附子(附子末として)の増量方法は、最初1.5g(1回量0.5g1日3回)、4週間様子を見て、その後、3.0g、4.5g、6.0gと増量します。どこかで不快感が出ればその人の附子を飲める上限量とします。
 
デュロキセチン(サインバルタ) 運転注意に関して

【医師及び自動車運転等を希望する患者に対する注意事項】

1. 本剤を処方される患者が自動車運転等を希望する際に医師が注意すべき点
@ 患者のうつ病等の精神疾患の状態が安定しているかよく観察する。
A 用法・用量を遵守する。
B 患者に対する本剤の影響には個人差があるので,個々の患者をよく観察する。
C 本剤の投与により,めまい,眠気に代表される自動車運転等に影響を与える可能性のある副作用が発生することがあるので,患者の自覚症状の有無を確認する。
D 投与初期,他剤からの切り替え時,用量変更時には,患者にとって適切な用量で精神疾患の状態が安定しているか,特に患者の状態に注意する必要がある。そのため,自動車運転等の可否を判断する前に一定期間,観察することも検討する。
E 多剤併用処方は避け,必要最小限のシンプルな処方計画を心がける。また,併用薬がある場合は自動車運転等への影響を予測することが困難なため,場合によっては自動車運転等を避けるよう注意することが適切な場合もある。

2. 本剤を処方された患者が自動車運転等を行う際に患者が注意すべき点
@ 本剤の投与により,めまい,眠気に代表される自動車運転等に影響を与える可能性のある副作用が発生することがある。
A 投与初期,他剤からの切り替え時,用量変更時等は上記副作用が発生しやすいため,可能な限り自動車運転等を控え,めまい,眠気や睡眠不足等の体調不良を自覚した場合は,自動車運転等を絶対に行わない。


【使用上の注意】 2. 重要な基本的注意 (7) 眠気,めまい等が起こることがあるので,自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には十分注意 させること。また,患者に,これらの症状を自覚した場合は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に 従事しないよう,指導すること。