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整形外科 外科
リハビリテーション科

頚椎歯突起骨折 odontoid fracture

→高齢者の転倒後の頚部痛は歯突起骨折を疑ってCTを!

歯突起とは、第2頚椎(軸椎)にある突起のことで、第1頚椎(環椎)の環状構造の中で突起部分が回旋を支えるような役目を担っている。通常は、交通外傷などの高エネルギー損傷で起こることが多い。ただし高齢者は通常の転倒でも起こりうるので注意が必要です。

歯突起骨折(Odontoid Fracture)まとめ表

項目

内容

定義

第2頚椎(軸椎)の歯突起が骨折する状態。第1頚椎(環椎)との回旋運動を支える構造

好発

高エネルギー外傷(交通事故など)/高齢者では軽微な転倒でも発症

症状

頚部痛、神経症状(痺れ、麻痺、膀胱直腸障害など)

診断

CTが必須。高齢者の転倒後の頚部痛では歯突起骨折を疑う


Andersonの分類(TypeI、TypeII、TypeIII)が用いられ、北米のガイドラインでは、転位のないTypeI,II、IIIは外固定による保存療法が選択され、5mm以上転位を伴う、もしくは整復位が保てないケースは手術が推奨されています。

・TypeI 歯突起先端部分の裂離骨折(歯突起先端の付着する翼状靱帯による裂離骨折)

・TypeII 歯突起基部(軸椎椎体と歯突起の結合部)骨折。高齢者に多い。回旋応力に起因。保存治療では10-70%で偽関節形成。

・TypeIII 歯突起基部よりさらに環軸関節面に掛かるもの。TypeIIより海綿骨部が多く外固定で比較的良好な骨癒合が得られると報告されている

Anderson分類と治療方針

分類

骨折部位

特徴

治療方針

Type I

歯突起先端

翼状靱帯による裂離骨折

外固定(カラー)

Type II

歯突起基部

高齢者に多く偽関節形成率高

転位<5mm:保存療法
転位≥5mm:手術(前方or後方固定)

Type III

軸椎椎体まで

海綿骨多く骨癒合良好

外固定で良好な骨癒合



TypeIIのGrauser分類(SubclassA,B,C)

Subclass

骨折形態

治療方針

A

転位<1mm、粉砕なし

外固定(カラーorハローベスト)

B

転位≥1mm、斜骨折(前上→後下)

骨質良好:前方スクリュー固定
骨質不良:後方固定術

C

斜骨折(前下→後上)、粉砕あり

後方固定術推奨


SubclassA:1mm未満の転位で粉砕のない横骨折→外固定による保存療法

SubclassB:1mm以上の転位を有する横骨折、歯突起前上方から後下方への斜骨折、十分な骨質があれば歯突起前方スクリュー固定法(中西法)。高齢者は骨粗しょう症にともない固定力が得られず、後方環軸椎固定術が選択される。

SubclassC:逆に歯突起前下方から後上方にかけての斜骨折 多くの場合、粉砕骨折を伴うために前方スクリュー法では固定を得にくく、後方固定が推奨されている。
 
*Type I および転位が5mm未満のType III は6-8週間の外固定。

*外固定はハローベストかフィラデルフィア型の頚椎カラー 追加手術を要した割合は、どちらも有意差なく、ハローベストは誤嚥性肺炎などの合併症が多かったとされる。

固定と手術の比較

方法

特徴・注意点

ハローベスト

強固な固定可能だが、誤嚥性肺炎など合併症多い

フィラデルフィアカラー

転位が少ない場合に使用

前方スクリュー固定

環軸椎の回旋温存。骨癒合率高いが高齢者では嚥下障害リスクあり

後方固定術

骨質不良例や整復困難例に有効。回旋制限あり


*80歳以上の保存療法、手術療法ともに合併症率や死亡率が高い。80歳以上の手術適応は慎重に検討。

*偽関節 脊髄障害、疼痛残存、機能障害、また遅発性脊髄障害が起こることあり


高齢者における最新知見(2023–2024年)

内容

詳細

死亡リスク

群馬大学の研究によると、治療法の違いでは死亡リスクに差はない。男性・併存疾患がリスク因子

骨癒合率

高齢者のType II骨折では保存療法で偽関節率50%、手術群では9%

手術適応

80歳以上では慎重な判断が必要。ADL・骨質・合併症を総合的に評価

Orientation angle

骨折面の角度により前方スクリュー固定の適応可否が変わる。急峻でない前斜位骨折は固定可能な例もあり