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整形外科 外科
リハビリテーション科

 膝蓋骨脱臼 patellar dislocation

膝蓋骨脱臼(patellar dislocation)は、10代の若年女性に多くみられる外傷性疾患です。ダンスやジャンプの着地、方向転換などで膝関節に捻転力が加わることで、膝蓋骨(お皿の骨)が外側に逸脱し脱臼します。自然整復されることもありますが、再脱臼を繰り返す例も少なくありません。

脱臼時には、大腿骨滑車部や膝蓋骨の関節軟骨に骨軟骨損傷を伴うことがあり、正確な評価のためにレントゲンやMRI検査が推奨されます。初回脱臼で骨折を伴わない場合には、シーネなどで短期間固定した後、膝蓋骨安定化用の装具を作成し、保存的に治療を行います。

しかしながら、初回脱臼後の再発率は20〜50%とされており、特に大腿骨滑車の低形成や膝蓋骨高位、外側偏位などの解剖学的素因を有する場合には再発リスクが高まります。

膝蓋骨の安定性に重要な役割を果たす内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)は、初回脱臼時にほぼ全例で断裂するとされており、反復性脱臼の主因となります。初回または反復性脱臼に対しては、まず3か月間の保存療法(装具療法、筋力訓練、可動域訓練など)を行い、不安定感が残存する場合にはMPFL再建術を中心とした手術療法が検討されます。

関節軟骨に新鮮な骨軟骨骨折を認める場合や、再脱臼を繰り返して日常生活やスポーツ活動に支障をきたす場合には、手術療法が適応となります。代表的な術式には、MPFL再建術、脛骨粗面内方移行術(Elmslie-Trillat法など)、内側広筋アドバンスメント術などがあり、病態に応じて組み合わせて行われます。

なお、膝蓋骨脱臼の背景に遺伝性疾患が関与することもあります。爪膝蓋骨症候群(nail-patella syndrome)は、約5万人に1人の頻度でみられる常染色体優性遺伝性疾患で、爪形成不全、膝蓋骨の低形成または無形成、腸骨の角状突起、肘関節の異形成を4主徴とし、腎症を合併することがあります。

初回外傷性膝蓋骨脱臼(acute traumatic patellar dislocation:APD)は、原則として保存療法が第一選択となります。ただし、再発率は40〜70%と高く、特に中高生の競技者では、保存療法後に再発して手術を行うと、競技復帰までに合計10か月以上を要することもあります。そのため、保存療法の限界と再発リスクを十分に理解したうえで、個別に治療方針を検討することが重要です。

判定項目 判断基準・所見 推奨される治療法
初回脱臼 骨軟骨損傷なし 保存療法(シーネ→装具+リハビリ)
骨軟骨骨折や遊離体あり 手術療法(整復・MPFL再建+α)
解剖学的リスク因子の有無 膝蓋骨高位(CD index > 1.2) 手術も検討(再発リスク高)
TT–TG距離 > 20mm 手術検討(脛骨粗面移行など)
大腿骨滑車形成不全 手術検討(滑車形成術など)
保存療法後の状態 不安定感なし・脱臼再発なし 保存継続(競技復帰可能)
再脱臼あり・活動制限あり 手術療法(MPFL再建など)
活動レベル・年齢 スポーツ競技者・再発リスク許容できない場合 初回から積極的手術を検討
非競技者・高齢者 保存的アプローチが原則