骨盤骨折 pelvic fracture
骨盤骨折は交通事故や高所からの落下などの高エネルギー外傷で起こります。また骨粗しょう症などで骨が脆弱な場合は転倒や尻もちなどでも折れることがあります。
高エネルギー損傷の場合、骨盤腔内に大量出血や動脈性の出血が起こり命に関わることがありますのでただちに処置が必要となります。脆弱性骨折は本人も骨折に気づかず、なんとなく痛みが続いていると来院されることもあります。
スポーツなどで骨盤に付着する筋肉に引っ張られて裂離骨折することもあります。受傷日時がはっきりしている場合もあれば、そうではなく徐々に痛くなってくることもあります。後者は疲労骨折であることも多いです。
治療は骨折の状況で異なります。スポーツによる裂離骨折は転位があれば手術を考慮します。脆弱性骨折はもともとそれほど大きなエネルギーがかかっておらず、転位も少なく保存的治療で治ることが多いです。
骨盤の脆弱性骨折
中高年の方が尻もちをついて転けたりするとお尻や太ももの内側、そけい部などに痛みが出ることがあります。転倒直後より痛む場合としばらく日が経ってから徐々に痛むようになることがあります。また受傷時のレントゲン撮影では何の変化もないこともよくあります。痛みが強い場合はCTやMRIをすぐに行いますが、それほどでもない場合は経過を見ながら判断します。大腿骨近位骨折や骨盤骨折が隠れていることが時にありますので注意が必要です。
診察では、通常の骨折を伴わない打撲だけでは説明がつかない痛みが続きます。患者さんは骨折すると歩けないと思っていることが多いのですが、実際には骨折があっても歩けるケースはよくあります。もちろんその逆で歩けないほど痛みがあっても骨折はないこともあります。ただし歩けないほど痛い場合は何らかの痛む原因があるものです。
レントゲンに異常が無くとも受傷から1週間経っても痛みがある程度強ければ、MRIなどの精査を行う方が良いと考えています。多くの脆弱性骨折は転位も少なく保存的治療によく反応します。痛みが強ければ、松葉杖等で免荷するとよいでしょう。
骨盤裂離骨折
骨盤にはさまざまな筋肉が付着しており強い力で収縮すると付着部で骨折を起こします。中高生に多く、ランニング、スタートダッシュ、ジャンプ、キックなどのあとに骨盤やお尻に強い痛みが生じます。
いずれの部位でも初期には安静臥床、冷却を行い、骨折部に牽引力が働かない肢位を取るようにします。松葉杖は歩行時に痛みが強い場合に使用します。外固定や入院は通常不要です。
裂離骨折:筋や腱に引っ張られて剥がれるように骨折すること
上前腸骨棘裂離骨折
下前腸骨棘裂離骨折
坐骨結節裂離骨折
腸骨稜裂離骨折
などがあります。
骨部位と付着筋・関連動作一覧
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骨部位 |
主な付着筋 |
関連動作 |
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上前腸骨棘 |
大腿筋膜張筋、縫工筋 |
スタートダッシュ |
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下前腸骨棘 |
大腿直筋(大腿四頭筋の一部) |
キック |
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坐骨結節 |
大腿二頭筋(長頭)、半腱様筋、半膜様筋、大内転筋、短内転筋(坐骨下枝)、大腿方形筋、下双子筋 |
全力疾走、跳躍 |
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腸骨稜(裂離骨折部位) |
広背筋、大殿筋、大腿筋膜張筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、腰方形筋 |
スイング |
治療はほとんどが保存的治療で治ります。ただし骨片が15mm以上離れており早期スポーツ復帰を希望する場合は手術を考慮します。(2 cm以上が一つの目安ですが、症状や機能障害の程度によっては1.5 cm程度でも手術が検討されることがあります。)
上前、下前腸骨棘裂離骨折
1-2週間の安静と免荷歩行(股関節軽度屈曲位、松葉杖は跛行が改善するまで通常1-2週間)。経過のよい例では2-3週で軽いジョギングから開始、ダッシュ、ジャンプ、キックなどを伴う激しい運動は4-6週以降とします。
再発リスクを下げる場合は、レントゲンで骨癒合が得られたらランニング開始し8-12週で復帰。原則2cm以上の転位のある場合、上前腸骨棘の裂離骨折で大腿外側皮神経の障害がみられる場合、再発を繰り返す場合などは手術を考慮します。
→上前腸骨棘の裂離骨折は縫工筋の牽引で転位した骨片とともに外側大腿皮神経が牽引されて神経症状が出ることがあります。
坐骨結節裂離骨折
大きな力がかかるために通常4ヶ月を要します。当初4週間の免荷、12-16週で復帰。2cm以上の転位(保存治療では疼痛残存、坐骨神経症状がでることがある)で手術を考慮するが、必ずしも一定の見解はない。
腸骨稜裂離骨折
安静ののち、2-3週間で歩行開始、6-8週間で復帰。
いずれも予防は入念なストレッチ。
・症例1 左恥骨下枝脆弱性骨折 経過と共に仮骨形成
初診時

3ヶ月

6ヶ月
小児期における骨盤周辺 骨端症・裂離骨折
いずれも2cm以上転位があれば、手術を考慮する
骨端症・裂離骨折
好発部位:腸骨稜、上前腸骨棘、下前腸骨棘、小転子、坐骨結節
14-16歳頃に好発。
強い牽引力で裂離骨折、弱い牽引力で骨端症
1.上前腸骨棘裂離骨折(縫工筋、大腿筋膜張筋起始部)
保存療法、転位がある程度あれば手術を考慮。外側大腿皮神経麻痺を伴う場合は保存療法では麻痺が残存することが多いので手術を選択する。
保存療法は、松葉杖歩行と安静→レントゲン所見や疼痛の度合いによって安静度や復帰を勘案。復帰は骨癒合が確認出来てから行う。
手術はスクリューによる内固定。
骨癒合が確認できたら全荷重、スポーツ復帰を徐々に行う。
2.下前腸骨棘裂離骨折
原因;キック動作が多い
転位が軽度の時は保存療法。高度の場合は手術。
保存療法は上前腸骨棘裂離骨折と同じ。手術も同じ
転位が2cmを超える場合や、症状が残存する、インピンジメントが生じる場合は手術を勧める
Schillerらは初期治療には保存療法の5段階でのリハビリテーションを行うことによって3ヶ月で完全復帰できるとしている。
1.受傷から一週間までは安静と免荷
2.2-4週は松葉杖を使用し部分荷重と他動的可動域訓練
3.4-6週で自動運動と筋力強化訓練
4.6-9週で抵抗運動
5.9週以降で運動復帰
3.坐骨結節裂離骨折
原因;ハムストリングの過大な収縮時に下肢が伸展強制される
治療;転位が小さい場合は保存療法。大きい場合は手術。
*Van Neck病
骨端症とも正常骨化過程での「正常範囲内変化(normal variant)」と言われている疾患で、坐骨-恥骨結合部の骨端症です。4-12歳に発症し、漠然として鼡径部痛や殿部痛、また股関節~大腿部痛、跛行などが生じます。
恥骨下枝疲労骨折とまったく同じ部位で起こることから、発生機序も筋腱の緊張などのストレスによると考えられています。治療は(症状に応じた)安静のみで良好な経過をたどることがほとんどです。
長期の経過をたどる場合は、単純性股関節炎、骨腫瘍、骨髄炎などと鑑別を要します。画像所見のみでは Van Neck病との診断にはならない。骨髄炎との鑑別は血算やCRP、赤沈などの炎症反応の有無。
参考:『関節外科』2021年4月号「骨盤骨折治療update 基礎から応用まで」 / 『整形・災害外科2016.4 骨盤骨折の最新治療』 / 『臨床整形外科』2022年9月号「骨盤骨折」 / 『関節外科』2022年10月号「増刊号 疲労骨折」 / 『関節外科』2024年6月号「整形外科の救急外傷」