表紙に戻る
池田医院へようこそ
信頼とまごころの医療
からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科
リハビリテーション科

膝窩筋腱炎 popliteus tendinitis

膝の裏にある小さな筋肉です。スポーツによる使いすぎや変形性膝関節症などで膝をかばうと炎症を起こして痛みが出ます。意外と多いです。

治療はスポーツ障害でしたら過負荷を避けるようにトレーニングメニューを変更します。膝周辺のストレッチも有効です。変形性膝関節症(膝OA)に合併する場合は両方の治療を並行して行います。

治療が効果的であれば、数週間で症状は落ち着いてきます。治療の原則は痛み動作を控えることです。それに加えてストレッチを行うようにします。もちろん内服や注射は有効です。ケースバイケースで使用します。

ランニング(特にトレイルラン・下り坂)
リスク要因:膝屈曲位での荷重着地、下り坂での脛骨前方滑りに対する膝窩筋の過剰収縮
対応・対策:
下り坂走行時のフォーム改善(膝の過伸展を避ける)
股関節・体幹の安定性向上トレーニング
ストライド調整と着地衝撃の分散(ミッドフット着地の習得)
下腿三頭筋やハムストリングスの柔軟性維持

サッカー・ラグビー
リスク要因:切り返しや方向転換による膝の内旋・外旋ストレス、接触による膝外反
対応・対策:
スクリューホームメカニズムの再教育(伸展終末域での脛骨外旋制御)
中殿筋・外旋筋群の強化による膝外反制御
アジリティトレーニングでの膝アライメント意識づけ
プレイ後の膝窩筋リリースやアイシング

バスケットボール・バレーボール
リスク要因:ジャンプ着地時の膝外反・下腿外旋、繰り返される屈伸動作
対応・対策:
着地動作の再教育(股関節主導の吸収戦略)
大腿四頭筋とハムストリングスの協調性強化
膝窩筋の動的安定性トレーニング(例:内旋誘導スクワット)
着地後の膝窩部ストレッチと筋膜リリース

登山・ハイキング
リスク要因:下山時の持続的な膝屈曲荷重、荷物による負荷増大
対応・対策:
下山前のウォームアップと膝周囲筋の活性化
トレッキングポールの使用による荷重分散
下山後の膝窩筋ストレッチとアイシング
靴のクッション性と足底アライメントの見直し

スキー・スノーボード
リスク要因:深屈曲位での滑走、ターン時の膝内旋ストレス
対応・対策:
股関節外旋筋と体幹の安定性強化
ターン動作時の膝アライメント指導
滑走後の膝窩筋リリースと温熱療法
ブーツのフィッティング調整による下腿回旋の最小化

野球(捕手)
リスク要因:深屈曲位の長時間保持による膝窩筋の拘縮と腱への慢性負荷
対応・対策:
捕手姿勢の合間に膝伸展運動を挿入
試合後の膝窩筋ストレッチと筋膜リリース
股関節屈筋群・腸腰筋の柔軟性維持
スクワット姿勢のフォーム再教育(骨盤前傾と脛骨内旋の制御)


対応

1. 下腿内旋トレーニング(膝窩筋の活性化)

椅子に座り、膝を90度に曲げた状態で足を床につけます。つま先を軽く浮かせ、足首を軸にして下腿を内側にゆっくり回旋させます。5秒保持し、ゆっくり戻します。10回×2セット。
→ 膝窩筋の選択的収縮を促し、内旋制御を強化します。

2. スクリューホームメカニズム再教育
仰臥位で膝を伸ばしきる直前に、脛骨を外旋させる意識で膝伸展を行います。タオルを膝下に入れて、終末伸展域での脛骨外旋を誘導します。
→ 膝伸展終末域での膝窩筋の協調的制御を改善します。

3. 股関節外旋筋・中殿筋の強化
側臥位でのクラムシェル運動や、チューブを使ったヒップアブダクションを行います。
→ 膝外反や下腿外旋の代償動作を抑制し、膝窩筋への負荷を軽減します。

4. 腓腹筋外側頭・大腿筋膜張筋のストレッチ
立位でのふくらはぎストレッチや、側臥位でのTFLストレッチを行い、下腿外旋傾向を是正します。
→ 下腿外旋症候群の改善に寄与し、膝窩筋の過緊張を予防します。

5. 動的安定性トレーニング(片脚スクワット・ランジ)
膝が内側に入らないように注意しながら、片脚スクワットや前方ランジを実施します。
→ 膝関節のアライメント制御と膝窩筋の協調的活動を促進します。

 
腓腹筋腱障害

大腿骨内顆後面に付着する腓腹筋内側頭付着部に起こる腱炎があります。オーバーユースが原因です。治療は局所の安静とストレッチ、筋力強化が有効です。痛み始めはまず局所の安静をはかり、痛みが改善してくれば、徐々に痛みが強くならない範囲でストレッチを行います。筋力強化はストレッチで痛みが無くなってくれば、徐々に負荷を増やしていきます。じっくり取り組む必要があります。


腓腹筋腱炎(gastrocnemius tendinopathy)は、内側頭の筋腱移行部(medial gastrocnemius myotendinous junction)に好発することが多いとされています。特に「テニスレッグ」として知られる肉離れ様の損傷は、腓腹筋内側頭とヒラメ筋の間の筋膜断裂や内側腱部の損傷が典型的です。

【内側が多い理由】

解剖学的構造:内側頭は外側頭よりも大きく、筋腱移行部が長いためストレスが集中しやすい
動作特性:スポーツ動作(ジャンプ・ダッシュ・急停止)で内側に荷重がかかりやすい
血流供給:筋腱移行部は血流が乏しく、特に内側は修復遅延のリスクが高い

【臨床的観察】

超音波やMRIでは、内側頭の腱部に変性や微細断裂が多く報告されている
圧痛や腫脹も内側に集中するケースが多く、臨床的にも内側優位の傾向がある

ただし、外側頭や両側性の障害も存在し、特に反復的な外旋動作や足部アライメント異常がある場合は外側にも負荷がかかるため、個別評価が重要となります。

【保存療法の基本】

安静:過負荷動作の制限。特にジャンプやダッシュなどの伸張性収縮を避ける
冷却:急性炎症期にはアイシングを1日数回、15〜20分程度
消炎鎮痛薬:必要に応じて内服または湿布(例:ロキソニンテープ)
物理療法:超音波、近赤外線、ハイボルテージなどで血流促進と鎮痛
テーピング・サポーター:腱部の負荷軽減と再発予防

【運動療法】

ストレッチ:腓腹筋・ヒラメ筋の柔軟性改善(痛みのない範囲で)
筋力強化:エキセントリックカーフレイズ、足部・股関節の協調運動
バランストレーニング:神経筋制御の再構築

【再生医療・補助療法】

PRP療法:腱の変性部位への注入による修復促進
APS療法:抗炎症性サイトカインによる慢性炎症の抑制
体外衝撃波(ESWT):腱付着部の血流改善と鎮痛効果

【セルフケアと日常管理】

インソール:足部アライメントの補正と腱への負荷軽減
靴の見直し:ヒールドロップのある靴やクッション性の高い靴の選択
日常動作の修正:つま先立ちや階段昇降のフォーム改善

【手術療法】

保存療法で改善しない場合、腱の部分切除や滑膜切除などが検討されることもありますが、非常に稀です。

腓腹筋腱炎は、単なる炎症性疾患というよりも、腱の変性(tendinosis)や神経筋制御の破綻を含む複合的な障害です。