後脛骨筋腱機能不全 posterior tibial tendon dysfunction
後脛骨筋は下腿から始まり腱となって足関節の内後方を通り足底の舟状骨に付着しています。中年女性の多く、外傷の機転ははっきりしないことが多いです。
この足関節の内側後方に回り込んでいるところで腱が擦れて炎症を起こし、部分断裂や完全断裂を起こし、その結果、足関節が外反し足底の縦アーチがくずれ扁平足になります。
当初は腱の炎症で始まりますから足関節の内側後方に痛みが出ます。患側でかかとを上げることが出来ないようになります。進行すると内側痛は消え、外果に痛みが出てきます。
| 評価項目 | 観察・所見内容 | 臨床的意義・解釈 |
|---|---|---|
| Too many toes sign | 立位後方から観察し、外側に足趾が多く見える | 前足部の外転と踵骨外反を示唆。PTTDの進行を反映 |
| 片脚つま先立ち不能 | 患側で踵を上げられない | 後脛骨筋の機能不全を示す代表的所見 |
| 内果後方の圧痛・腫脹 | 内果後方(後脛骨筋腱走行部)に圧痛と腫脹を認める | 初期(Stage 1〜2)の炎症期に特徴的 |
| 進行で外果痛 | 外果周囲に痛みを訴える | 腓骨筋への代償的負荷増大による二次的疼痛 |
治療は局所の安静をはかります。また原因となった運動の休止、アイシング、消炎鎮痛剤、温熱治療などを行います。痛みが強ければギプス固定や松葉杖で免荷します。痛みが改善してくればアーチサポートを作成し装着します。また急性炎症が消退した後は扁平足体操などの後脛骨筋機能回復訓練やアキレス腱のストレッチを行います。自動運動で内がえしから開始し、疼痛が生じない範囲でつま先立ちを行います。足外側縁での歩行、足趾の屈曲訓練も有効です。
後脛骨筋腱機能不全(PTTD)の治療
| ステージ | 主な治療方針 | 詳細内容 |
|---|---|---|
Stage 1(炎症期) |
保存療法 | - 安静・アイシング・消炎鎮痛薬(NSAIDs) - 足底板(内側アーチサポート) - テーピングやU字シーネ固定 - 松葉杖による免荷 |
Stage 2(可逆性変形) |
保存+手術併用 | - 足底板・装具療法(内側ウェッジ) - 後脛骨筋・腓骨筋の筋力強化 - 骨切り術(踵骨内方移動) - 長母趾屈筋(FDL)腱移行術 |
Stage 3(不可逆性変形) |
手術療法 | - 3関節固定術(距骨下関節・距舟関節・楔舟関節) - 外側支柱延長術 |
Stage 4(足関節外反変形) |
手術療法 | - 距骨・脛骨・踵骨間固定 - 距骨全周囲固定術 |
保存療法の補足(急性期〜慢性期)
急性期(Stage 1):腱の炎症を抑えることが最優先
固定と免荷が基本(ギプスやU字シーネ) 回復期:
足底板(内側ウェッジ)でアーチ支持
筋力強化(後脛骨筋・腓骨筋・中殿筋)
アキレス腱ストレッチや足趾屈曲訓練 慢性期(Stage 2以降):
装具療法で変形進行を抑制
徒手矯正が困難な場合は手術を検討
手術療法の選択肢(進行例)
| 術式 | 適応 | 内容 |
|---|---|---|
| FDL腱移行術 | Stage 2以降 | 長母趾屈筋を後脛骨筋腱の代用として移行 |
| 踵骨骨切術(内方移動) | Stage 2–3 | 踵骨のアライメントを矯正 |
| 外側支柱延長術 | Stage 2b–3 | 前足部外転の矯正 |
| 関節固定術 | Stage 3–4 | 変形が不可逆な場合に適応(3関節固定、距骨全周囲固定など) |
保存治療で改善しない場合や後脛骨筋の断裂がある場合は手術を考慮します。
* too many toes 立位後方から診ると外側に足の指が向いているので、正常に比べて多く指がみえる状態をいいます。
後脛骨筋腱機能不全症とオーバープロネーション
オーバープロネーション
オーバープロネーションはランニング障害の一つです。ランニング時に足関節が過剰に内側に回る(回内)ことにより、足関節が着地すると過剰に内側へ倒れ込むようになり、それが原因となって扁平足、鵞足炎、開帳足、シンスプリント、外反母趾、足底筋膜炎などを引き起こします。
多少内側に倒れ込むのは正常です。あくまでも過剰に倒れ込むことが足部のアライメント異常や障害の原因となることがあります。
ランニング中にオーバープロネーションを防ぐために内側を補強した専用シューズがあります。また後脛骨筋、中殿筋を中心とした強化トレーニングが有効です。
オーバープロネーションの概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 足部が着地時に過剰に内側へ倒れ込む(過回内) |
| 正常なプロネーション | 着地時に軽度の内側倒れ込みが起こり、衝撃を吸収 |
| ⚠️ オーバープロネーション | 倒れ込みが過剰になり、足部・膝・股関節に負担が集中 |
| よく見られる人 | 扁平足、足部アーチの低下、筋力低下のある人 |
| 靴の特徴 | シューズの内側(親指側)ソールが極端にすり減る |
オーバープロネーションによる主な障害
足底筋膜炎アキレス腱炎
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
鵞足炎
外反母趾
膝関節痛
股関節痛
対策と予防法
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| インソール使用 | 内側アーチを支える矯正用インソールで倒れ込みを抑制 |
| 安定性シューズ | モーションコントロール機能付きのランニングシューズ |
| 筋力強化 | 後脛骨筋・中殿筋・足内在筋のトレーニング |
| フォーム修正 | 動画撮影や専門家の評価による歩行・走行フォームの改善 |
| ストレッチ | アキレス腱・足底筋膜の柔軟性維持 |
自己チェック方法
靴底の減り方:内側が極端にすり減っていれば要注意ウェットテスト:足跡の土踏まずが消えていればアーチ低下の可能性
動画観察:後方からの歩行・走行動画で足首の倒れ込みを確認
後脛骨筋腱機能不全症
オーバープロネーションの原因のひとつに後脛骨筋腱機能不全症があります。これは足関節を内反、底屈する筋肉ですが、この機能が低下すると足関節を正しく保持できずに着地時に内反してしまいます。
後脛骨筋腱機能不全症には踵が内側ウェッジになったアーチサポートを装着します。 また後脛骨筋自体を強化する運動を行います。更に悪化する場合は手術を考慮します。
| 後脛骨筋腱機能不全症(PTTD) Myerson 分類 | |||
|---|---|---|---|
| stage | 症状 | レントゲン所見 | 治療 |
| stage1 | 後脛骨筋腱の圧痛、腫脹 | 正常 | Nsaids、腱鞘切開 |
| stage2 | a 踵骨外転 後脛骨筋腱の圧痛 可逆的扁平足 b 踵骨外転 前足部外転 c b+内側支柱の不安定性 足根洞痛 |
a 踵骨外転 距骨の沈下 b a+ 距舟関節不適合 前足部外転 c bと同様 |
a 装具、踵骨骨切内方移動、FDL(長母趾屈筋腱)移行 b 踵骨骨切、FDL移行、外側支柱延長 c 踵骨骨切、FDL移行、内側支柱固定 |
| stage3 | 不可逆性外反扁平足 足根洞部痛 |
2b+距骨下関節腔の狭小化 | 3関節固定±外側支柱延長 |
| stage4 | 足関節外反変形 | 2b+足関節外反 | 脛骨・距骨・踵骨間固定 距骨全周囲固定 |
*stage1、2は保存的治療を優先します。扁平足変形がないstage1でも足底板を使って扁平足変形を予防することが重要。
参考:『足の画像診断_小橋由紋子』 / 『臨床整形外科』2021年8月号「外来で役立つ 足部・足関節の超音波診療」 / 『足の変性疾患・後天性変形の診かた』 / 『足の臨床 図説第4版』 / 『スポーツ整形外科学3 下肢のスポーツ外傷・障害』