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整形外科 外科
リハビリテーション科


肘内障(幼児) pulled elbow

要約:いわゆる肘が抜けた(橈骨頭・輪状靱帯の亜脱臼、回内筋の巻き込み)と言われる状態。用手的に整復する必要があります。

肘関節の橈骨頭を固定している輪状靱帯が牽引力等によりずれて亜脱臼するために肘の痛みが生じます。最近では、
輪状靱帯に回外筋の一部が線維結合しており、これが輪状靱帯とともに嵌頓しているという説が有力です。(超音波でJ-sign、整復後に回外筋の腫れ)

多くは5歳までの子供に起こります。(2ヶ月の幼児での報告あり)手を引くと起こることはよく知られていますが、子供同士で遊んでいるうちに転倒などをして手が身体の下敷きになり肘が引っ張られて発症することもあります。保育園等では目撃者がなく、はっきりした受傷機転が不明なこともよくあります。寝返りなどでも起こると報告されています。

抜けた肘は痛いのでまっすぐ下垂したまま、もしくは肘を曲げて回内位を取ったまま動かそうとしません。これを見たら肘内障の疑いが強くなりますが、肘内障ではなく鎖骨骨折、肘周辺の骨折を起こしていることもあるので注意深く診察します。逆に肩が抜けたと連れて来られることもあります。落下等の強めの外傷が生じているケースでは上腕骨骨端軟骨の損傷や、周辺の骨折が生じて痛んでいることもあります。

他の疾患が疑われたり判断に迷うときは、両肘のレントゲン撮影を行い骨折の有無を調べます。また超音波断層撮影で肘内障の特徴であるJカーブや橈骨頭−上腕骨小頭間の開離差(3mm以上)が見られるかチェックします。レントゲンや超音波で関節内の血腫を認める場合は、肘内障ではなく骨折の可能性が高い。

治療は徒手整復を行います。整復はとても簡単なこともあれば、数分かかることもあります。このことは保護者に前もって伝えておくとよいでしょう。

整復方法

1.回内法
 a.回内屈曲法(肘90度屈曲→回内し更に深く屈強)
 b.過回内法(肘90度屈曲→過回内)

2.回外屈曲法

肘内障整復法の比較表

項目

過回内(Hyperpronation)

回内屈曲法(Pronation-Flexion)

回外屈曲法(Supination-Flexion)

操作の主軸

前腕の強い回内(過回内)

前腕の回内+肘の屈曲

前腕の回外+肘の屈曲

整復の瞬間

回内操作中に「クリック感」

回内後、肘を屈曲させた際に整復されることが多い

肘を屈曲させた際に整復されることが多い

成功率

高い(97.5%との報告)

やや低め(86%程度)

同程度またはやや低め(報告により差あり)

操作の簡便性

単純な回旋操作で完了

回旋+屈曲の複合操作が必要

回旋+屈曲の複合操作が必要

患児の痛み

少ない傾向(整復試行回数も少ない)

やや痛みを伴うことがある

やや痛みを伴うことがある

推奨される場面

第一選択として推奨されることが多い

過回内法で整復できない場合に選択されることが多い

回内法・過回内法で整復できない場合の代替法

 
通常の肘内障で想定される痛みより強い場合は、骨折の有無を最初にチェックするようにします。
 
*整復されなかったらどうなるのか? 未治療の場合でも自然整復される例もあります。整復されずに長期経過をたどった報告はほとんどありません。手術の報告も非常にまれで通常行いません。とはいえ、
機能障害を残す可能性もあり、再整復を試みます。

整復されなかった場合の予後

状況

予後の傾向

短期的な整復困難

シーネ固定+翌日に再整復で良好な回復

整復不全(滑膜肥厚など)

疼痛・可動域制限が残る可能性あり

長期放置

自動運動障害など機能障害のリスク

非典型的受傷機転

診断困難だが、整復で改善可能


*2025年8月現在、肘内障の整復困難例がどの程度あるのか、再整復されない割合、その後障害が出る割合などは全く分かっていません。

文献:日本肘関節学会雑誌(2024年)

非典型的な受傷機転による整復困難例
年長児の肘内障で、初診時に整復されず疼痛が持続した症例が報告されています。


エコーによるJサインの確認
整復前後の超音波画像で、**輪状靭帯と回外筋の関節内への引き込み(Jサイン)**が確認され、整復後に消失。


考察
整復されないまま経過すると、疼痛や可動域制限が持続する可能性があるため、画像診断による早期確認と再整復が重要とされています。

日本肘関節学会雑誌 31(2):2024(J-STAGE PDF)