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整形外科 外科
リハビリテーション科

 
大腿骨頭すべり症 slipped capital femoral epiphysis

大腿骨頭が後方にずれてしまう病気です。10-15歳に多く見られ男に多いです。
症状は股関節の痛みです。急性、亜急性、慢性に分けられます。診断はレントゲン撮影(主に側面撮影ですべりが分かります)で行います。CTも有効です。

歩行が可能であっても診断と同日に入院安静を行います。治療は手術療法(内固定が中心)です。ずれている程度によって対応が若干異なります。40度まではそのまますべり症用のねじで固定します。それ以上にずれている場合は整復操作を行ってから固定します。70度以上ずれている場合は大腿骨頭回転術などが行われます。

術後、大腿骨骨頭壊死や軟骨融解、将来的には変形性股関節症が起こることがあります。
 
 
小児股関節疾患の診断と治療

<大腿骨頭すべり症>

大腿骨近位骨端軟骨板において骨端部が頚部に対して後下方に滑って転位する病気です。小学校3年−中学生2年頃(男児10−14歳、女児9−12歳)に発症します。原因は成長期のホルモン異常+肥満や運動負荷などが示唆されていますがはっきりとは分かっていません。

症状:股関節痛は必ずしも訴えない。むしろ大腿部痛が多く誤診されることもよくあります。(初診診断率40%程度)肉離れ、筋肉痛などと診断される。

診断:Drehmann徴候(罹患股関節を屈曲するにつれて外転・外旋位をとる)、ペルテス病と同様にレントゲン2方向が必須。

重症度:後方傾斜角:軽度30度未満、中等度30−60未満、高度60度以上

病型:急性:発症3週間以内、慢性:3週間以上で慢性経過、慢性期急性:慢性の経過中に急性憎悪(この分類は使われなくなった)
 
stable type :跛行はあるが杖をついて歩行が可能
unstable type:杖をついても歩行が不可能

*診断がつき次第、すぐに入院免荷をさせて自宅には帰さないようにすることが望ましい。自宅待機中に転倒などによりすべりが憎悪しないため。

治療:徒手整復(骨頭壊死を引き起こす否定派とリスクを軽減させる肯定派があり結論は出ていない)

原則手術治療を行います。

安定型:入院の上免荷を行い、待機手術として行う
不安定型:発症24時間以内は緊急手術の対象
  2日目から7日まで入院免荷牽引
  8日目以降手術

*24時間以降から7日までの症例では、大腿骨骨頭壊死が起こりやすいので、手術は8日以降に行うようにする。24時間以内は緊急手術の対象。

健側への予防的ピンニングについては、意見が分かれています。全例を勧める施設では高度肥満例、若年発症、内分泌疾患等合併症を有する症例では特に強く勧めているとしています。

 
 最近の知見

疫学とリスク因子の再評価
- 肥満の増加に伴い、SCFEの発症率も上昇傾向にあります。特に思春期の男子に多く、平均発症年齢は11〜12歳とされています。
- 内分泌異常(甲状腺機能低下症、成長ホルモン異常など)や腎疾患との関連も再確認されており、代謝的要因の重要性が強調されています。

病型分類の明確化
- 安定型と不安定型の分類に加え、急性型・慢性型・急性増悪型(acute on chronic)の臨床的分類がより重視され、治療戦略の選択に活用されています。
- 慢性型が全体の約85%を占め、診断の遅れが機能障害のリスクを高めることが指摘されています。

治療の進歩
- ピン固定術が標準治療ですが、重度のすべりに対しては骨切り術(例えばSouthwick osteotomy)が選択されることもあります。
- 骨頭壊死や軟骨融解といった合併症を防ぐため、早期診断と荷重制限の徹底が重要視されています。

診断技術の向上
- 初期ではレントゲンでの診断が難しいこともあり、MRIやCTによる早期診断の有用性が報告されています。
- 特に膝痛のみで発症するケースでは、股関節疾患としての認識が遅れるため、広範な画像評価が推奨されています。
 
初期CT所見のポイント

骨端の後方すべりの早期検出
側面像で、骨端が骨幹端に対して後方にわずかに偏位している所見が確認されます。これはX線では見逃されやすい初期変化です。

骨端線の不整・拡大
成長軟骨板(骨端線)が不均一に拡大していたり、透過性の亢進が見られることがあります。これは骨端の安定性低下を示唆します。

皮質骨の二重像(double density sign)
骨幹端の皮質が二重に見える所見で、blanch signとも呼ばれ、骨端の後方すべりを反映する早期兆候です。

Southwick角の軽度増加
カエル肢位でのCTにより、**Southwick角(骨端-大腿骨軸角)**の左右差が明確に評価され、軽度のすべりでも定量的に把握できます。

CTの臨床的意義
非典型例(膝痛のみなど)での早期診断
股関節症状が乏しい症例では、CTによる詳細な骨構造評価が診断の決め手となることがあります。

術前計画への応用
骨切り術を検討する際、すべり角の正確な測定や骨形態の立体的把握にCTは不可欠です。