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 整形外科 外科
リハビリテーション科

足関節周辺の靱帯

前距腓靱帯 ATFL anterior talofibular ligament
踵腓靱帯 CFL calcaneofibular ligament

前下脛腓靱帯 AITFL anterior inferior tibiofibular ligament
後下脛腓靱帯 PITFL posterior inferior tibiofibular ligament

三角靱帯 deltoid ligament

足関節捻挫 sprain of ankle 足関節靭帯損傷 ligament injury of ankle

足関節捻挫の85%で前距腓靱帯の損傷を認めます。

関節を捻ることによる損傷を捻挫と言います。
従って筋肉のケガは捻挫ではなく、筋挫傷や肉離れと呼びます。
捻挫をすると関節包や周辺軟部組織、靱帯、関節軟骨、骨の損傷がさまざまな形態で起こります。

内側に捻る(内反)と外側にある外側靱帯(前距腓靱帯、踵腓靱帯、後距腓靱帯)が損傷します。
逆に外側に捻ると内側の靱帯(三角靱帯)が損傷します。外旋が強制されると脛骨と腓骨をつなぐ脛腓靱帯を損傷します。

靱帯の損傷は少し伸ばされた程度、少し断裂したもの、完全に断裂したものに分けられます。
外側靭帯損傷は主に前距腓靱帯損傷が起こることが多く、それに加えて踵腓靱帯の損傷も起こることがあります。

完全断裂以外は保存的治療(テーピング、ギブス、装具)を行います。
完全断裂のケースは以前は手術が薦められていましたが、現在では保存的治療も増えており、意見が分かれています。

捻挫に伴ってかなりの確率で足関節内の軟骨損傷が起こるとされています。痛みが長引く場合はMRIでの精査が必要です。



レントゲン:ATFL view (前距腓靱帯像)

足関節の外側靱帯は前距腓靱帯、踵腓靱帯、後距腓靱帯で構成されています。
内がえし損傷となると多くの場合、まず前距腓靱帯が強く引っ張られて損傷し、場合によっては付着部の腓骨遠位端の裂離骨折を起こします。

この裂離骨折は通常の正面側面2方向のレントゲンでは描出されにくく、ATFL view という特殊な撮影を行います。
足関節を45°底屈し、膝を曲げて足底をカセットにつけ、足背を15°内反します。(体育座りを上からとるイメージ)
これにより前距腓靱帯の付着部に対し接線方向に撮影できますので、裂離骨折が描出されやすくなります。



距骨骨軟骨損傷

足関節捻挫して4週間までの亜急性期では、約20%に骨軟骨損傷がみられます。
足関節底屈・内がえしでは内側後方に、背屈・内がえしでは外側前方に損傷が起こりやすいです。
後方病変の確認は底屈位正面像を追加します。

治療方針はBerndtらの分類により決めます。

<Berndtらの分類+軟骨下骨のう腫>

 stage1 軟骨下骨層の圧挫
 stage2 骨軟骨片不完全分離
 stage3 転位のない骨軟骨片完全分離
 stage4 転位のある骨軟骨片完全裂離
 stage5 軟骨下骨嚢胞を有するもの

 治療方針

 stage1,2と3の内側病変は約6週間のギブス固定
 stage3の外側病変、stage4は手術療法の適応

 手術療法の種類
 marrow stimulation technique
 骨軟骨片固定術
 自家骨軟骨移植術(OAT)
 自家培養軟骨移植術(ACI)

*小児に対しては可能な範囲で鏡視下手術を行う。
内側病変に対する逆行性ドリリングは軟骨が温存され、かつ骨端線も温存されるので有効な治療となっています。



足関節捻挫~たかが捻挫と侮るなかれ

捻挫とは関節を生理的可動域を越えて外力が働き、捻れてしまった病態(状況、状態)をいいます。
従って足関節捻挫では、捻ることによりさまざまな損傷が起こりえます。
それをしっかり鑑別診断した上で適切な治療を行います。

多くの足関節捻挫は内反損傷で外側靱帯群(主に前距腓靱帯、踵腓靱帯)が損傷し、場合によっては断裂します。
重症例では後距腓靱帯や足根洞内にある距骨下靱帯群(骨間距踵靱帯など)が損傷することもあります。
また靱帯付着部の裂離骨折や不顕性骨折などが合併することもあります。
関節内軟骨の損傷もかなりの高率で起こっていることが分かっています。

捻り方によっては外側靱帯群以外に、二分靱帯損傷(+付着部の踵骨前方突起骨折)、第5中足骨基部骨折、腓骨筋腱脱臼、短腓骨筋腱断裂などが起こることがあります。
これらの損傷も足関節捻挫として受診される中でみられます。

そのほか、鑑別すべき疾患として脛腓靱帯損傷、距骨の骨折(頚部、外側突起、後突起など)などがあります。

外側靱帯損傷以外にもさまざまな疾患が起こっている可能性があるのですから、たかが捻挫と侮ってはいけません。
外側靱帯損傷であっても、軟骨損傷が隠れていたり、他の損傷が併発していることもあります。
さらに厄介なのは、外側靱帯損傷単独でも重傷度によっては、きちんと治さないとあとあと後遺症が出やすくなります。
後遺症としては靱帯が緩んでしまい、足関節の不安定性や痛みが残存して、日常生活に支障やスポーツでのパフォーマンスの低下などの障害が発生します。

■重症度分類(前距腓靱帯の損傷程度により)

 1 度 マイクロレベルの前距腓靱帯の損傷がなく明らかな腫脹や出血を伴わない
 2度 靱帯線維束の部分断裂と軽度の腫脹と皮下出血
 3度 靱帯の完全断裂と高度の腫脹と皮下出血
 
1度は必要に応じてテーピングを中心とした固定を行います。
2度の場合は、ギプスシーネにてU字型に固定します。
固定期間は1-2週間で、その後、程度に応じて装具療法に切り替えます。
極軽症のものは、経過を診るだけの場合もあります。

腫れや痛みの強い3度はギプスシーネでU字固定をして、必要に応じて松葉杖等で免荷します。
痛みは個人差がありますが、歩行時疼痛を訴える場合は松葉杖等で免荷する方が良いでしょう。
ギブスシーネは急性期を除いて入浴時には外して問題ありませんが、夜間外したままだと足関節が底屈して前距腓靱帯が断裂部で解離してしまうので、必ず夜間は装着するようにします。
締まりすぎて痛い場合は、緩めるように指導します。

■3度 重症例の治療方針

前距腓靱帯の完全断裂を伴い高度の腫れと皮下出血を生じたものは3度と判断して治療に当たります。
前距腓靱帯の損傷程度は超音波断層撮影やMRIも補助検査として有効です。
レントゲンでストレス撮影を行う場合は急性期では痛みが強くて実施困難ですので、急性期を過ぎた2週間程度経過したときに、必要に応じて行うようにします。

かつては3度の場合、手術を行うことも多かったのですが、現在ではまず保存的治療を優先します。
(手術をした方が安定性が良かったとする意見や活動性が高いアスリートほど保存的治療では成績が不安定になるとも指摘されています。)

初回では無く、もともと不安定性を自覚していた場合は、再発として扱い、急性期が過ぎれば、速やかに復帰できるように考慮します。

前距腓靱帯損傷のみでは、距腿関節で骨性の安定性が高いため、受傷直後は加重をかけてもあまり痛まない。
初期治療をきちんと行えば、荷重時の痛みは出てこないとされており、荷重時の痛みが強く、歩行困難な場合は、距骨下靱帯(足根洞内靱帯)にも損傷が生じている可能性があります。
また、距骨骨折や脛腓靱帯損傷などにも注意が必要です。

<病期と治療>

受傷~1週間
 急性炎症期
 初期治療 RICE→関節の安静、消炎処置、拘縮予防→U字スプリント固定、初期急性期が過ぎればマイルドに訓練開始。
足関節の可動は大きくしない。アイソメトリックも可。

1~3週間
 増殖期
 早期運動療法 損傷靱帯の安静をはかりながら可動域訓練と筋力強化訓練を徐々に行う。
運動はCKC(Close Kinetic Chain)、中間位で底屈角度は15-20°まで。
内がえし運動は絶対にしない。
最初は座位かかと上げ体操、座位つま先上げ運動を行う。
筋力のあるアスリートは徐々に立位~片脚で行ってもよい。
日中は半硬性ブレースなどを使い、夜間はU字スプリントを使用します。
(費用面で、U字スプリントを継続することも。アスリートの場合、運動復帰に必要なのでブレースを使用)

 *当初、2週間程度は特に靱帯の修復ためのコラーゲンの蓄積が行われる。
この段階で過剰な運動を行うと損傷した靱帯は十分に修復されないことになるので注意したい。

3~6週間
 増殖期 運動療法加速期
正常関節可動域と筋力を正常化 この時期、靱帯損傷や骨折の痛みは軽減します。
痛みが強い場合は、軟骨損傷などを疑ってCT,MRI。
運動は機能回復訓練、底屈範囲も徐々に拡大し、筋力強化も座位から両脚立位、さらには片脚立位へと負荷量を増大させます。
アスリートはバランスボードによる固有知覚トレーニングも行う。

6週間~3ヶ月
 リモデリング期前期 アスレチックリハビリ期
スポーツ動作に即した関節機能訓練と再発予防のために積極的訓練 瘢痕性修復が完成し、リモデリングが開始。
大きな負荷以外は靱帯保護は不要。
運動時のみ装具をつけます。
軽いジョギングを開始。
当院では歩行とジョグを組み合わせたインターバルジョギングを推奨。
足関節周囲の訓練は継続。→この時期に、明らかな疼痛や不安定性を認める場合は、精査要。

3ヶ月後~半年~1年後
リモデリング後期 段階的スポーツ復帰期
再発予防対策を取りながら徐々に活動性を上げていく。
リモデリングの成熟には1年ほどかかるので、完全復帰は遅いほどよい。
再損傷のリスクは通常より高い。

*このように重症の靱帯損傷の修復には、半年~1年ほどかかることになります。
病期に応じた治療を適切に行わないと不安定性残ったり痛みが継続することがあります。

*足根洞内靱帯(距骨下靱帯)損傷では、前距腓靱帯よりやや前下方に痛みが生じます。更に前下方で二分靱帯損傷となります。

外果前方で前距腓靱帯、後方やや下方で後距腓靱帯損傷。

参考:栃木祐樹ら 獨協医科大学 MB Orthop.28:163-172, 2015.


足関節捻挫 現場での判断と治療

 足関節捻挫はスポーツ外傷としてよく起こります。
現場での重症度判断の目安として、捻挫直後に加重して歩行できるのであれば、Grade1としてよい。
不安定性のあるGrade2(靱帯部分断裂)、Grade3(靱帯完全断裂)は捻挫直後に加重できない程度の疼痛が起こります。

 Grade1の治療は、安静、アイシング、包帯固定(またはテーピング)、患肢挙上します。
Grade2以上では、ギプスをせずに機能訓練をすべきとする報告とギブス固定の後に機能訓練を行うとする報告があり意見が分かれています。
更には、10日間のギプス固定をした群が装具、サポーター、弾力包帯をした群より成績がよかったとする報告もあり、10日から2週間程度のギプス固定を行うのがよいとしています。
手術適応もまた意見が分かれており、Grade3の重症例を対象としてメタ解析ではどちらも優位ではなかった。
長期の成績は手術群が優るいう報告もあり、ハイアスリートは復帰を希望する場合は観血的手術の適応としているとあります。(橋本健史ら)

 当院では、Grade1に対してはテーピング固定、Grade2以上にはギプス固定で対応しています。固定期間は2週間を目安として症状を勘案しながら調整しています。

 *注 前脛腓靱帯損傷は荷重をかけると離開するのでギプス固定中は免荷するようにします。



足関節内側靱帯損傷(三角靱帯損傷)

足関節の外側靱帯損傷については、ネットでも詳細に記載されていますが、内側靱帯(三角靱帯)の損傷はあまり書かれていません。
頻度的にも圧倒的に外側が多いです。
内側靱帯(三角靱帯)は足関節が外がえしになることによって損傷します。

三角靱帯は、浅層と深層に分けられます。
深層は、内果から起始し、距骨に至ります。
(前距腓線維と後距腓線維)浅層は内果から起始し舟状骨、踵骨、距骨へと幅広く付着します。
(脛舟線維、脛踵線維、脛距線維)

単独で部分損傷で不安定性が無いものは、保存治療を選択します。
中間位で4週間ギプス固定ののち足関節装具を使います。荷重は疼痛の軽減を待って行います。(通常、二週間頃からギプスのまま荷重)

手術は、深層と浅層をそれぞれ別々に縫合します。
とくに深層の損傷をしっかり確認して修復する必要があります。

三角靭帯損傷の重症度分類

グレード 損傷の程度 主な症状 関節の安定性
Ⅰ度 靭帯の微細損傷・伸張 軽度の腫脹と圧痛、荷重時の違和感 安定している
Ⅱ度 部分断裂 明らかな腫脹、皮下出血、荷重時痛、可動域制限 軽度の不安定性
Ⅲ度 完全断裂 強い腫脹と内出血、荷重不能、関節の不安定性 明らかな不安定性

治療方針(保存療法 vs 手術療法)

急性期(受傷〜3日)

POLICE処置(Protection, Optimal Loading, Ice, Compression, Elevation)
内果周囲の腫脹・圧痛の評価骨折の除外(X線、MRI)

保存療法(主にⅠ〜Ⅱ度)

固定:弾性包帯または足関節ブレース(2〜4週間)
早期荷重:痛みの許す範囲で段階的に
可動域訓練:背屈・底屈から開始し、内反・外反は慎重に
筋力強化:腓骨筋群、後脛骨筋、足底筋群
バランストレーニング:固有感覚の再教育

手術療法(主にⅢ度、または骨折合併例)

適応
関節の明らかな不安定性
内果骨折や距骨脱臼を伴う複合損傷
保存療法で改善しない慢性不安定性
術式:靭帯縫合または再建術(自家腱移植など)

術後リハビリ
2週間ギプス固定 → ウォーカーブーツ移行
4〜6週でROM訓練開始
8〜12週で筋力・バランス訓練
3〜4ヶ月でスポーツ復帰を目指す


足関節外側靱帯損傷

日常茶飯事に起こるケガですが、現状のゴールデンスタンダードである保存療法+早期運動療法が必ずしも満足度が高い訳では無く、3分の1が経過不良であるという報告もあります。
しかしそれでは手術療法が優れているのかというと重度の靱帯損傷、すなわち完全断裂の場合でも手術の可否は意見が分かれています。

日常生活や目標とするスポーツレベルに大きな支障がある場合は、手術も選択枝になり得ます。
しかしながら手術をしたから満足できるパフォーマンスが得られるかというと、これまた別の話で、多くがトップアスリートとしての従前の活躍は難しいとされています。

*ストレス撮影(レントゲン)
内がえしストレス 距骨傾斜角が10°以上、もしくは左右差が3°以上で前距腓靱帯損傷ありとします。

急性期にストレス撮影は痛みが強いため最近では行わないようになっています。病状が落ちついてから必要に応じて評価するようにします。

前方引き出しテスト 距骨前方移動距離が6mm以上、もしくは左右差3mm以上で前距腓靱帯損傷ありとします。

保存療法 vs 手術療法:最新の知見と課題

項目 保存療法 手術療法
適応 急性期のGrade I〜III(特に初回損傷) 慢性不安定性、再発例、競技復帰困難例
治療内容 RICE処置+短期固定+早期荷重+運動療法 靱帯縫合または再建術+術後リハビリ
利点 非侵襲的、低コスト、合併症少 解剖学的修復、再発率低下の可能性
欠点 約30%が慢性不安定性に移行 可動域制限、神経障害、再建靱帯の強度問題
スポーツ復帰 早期復帰可能だが再発リスクあり 高強度競技では復帰率が必ずしも高くない

ストレス撮影と徒手検査の意義

距骨傾斜角(TTA):10°以上または左右差3°以上 → ATFL損傷を示唆

前方引き出しテスト:距骨前方移動距離6mm以上 → 靱帯弛緩性の指標

急性期のストレス撮影は疼痛増悪のため避けられ、慢性期にTelos装置等で評価されることが多いです。


最新の知見

Grade III損傷でも短期キャスト(平均2.4週)+早期荷重+段階的リハビリで良好な距骨傾斜角の改善が報告されています(治療前15.5°→治療後1.5°)。

ただし、約10〜30%は保存療法で不良経過をたどるため、予後予測因子の抽出が今後の課題です。


フェーズ別リハビリテーション構成

フェーズ 期間の目安 主な目標 介入内容
急性期 受傷〜10日 炎症・腫脹の抑制、安静 - RICE処置
- 短期キャストまたはセミリジッドブレース
- 微弱電流・超音波などの物理療法
- 荷重は疼痛許容内で調整
亜急性期 10日〜3週 可動域回復、荷重再開 - キャスト除去後、足関節サポーター装着
- 足関節の背屈・底屈運動
- チューブを用いた腓骨筋トレーニング
- 体重支持下での歩行訓練
回復期 3〜6週 筋力・バランス回復 - 片脚立位・バランスボード訓練
- スクワット・ランジなどのCKC運動
- アジリティドリル(ラダー、サイドステップ)
復帰期 6週以降 スポーツ動作の再獲得 - ジョギング→ダッシュ→方向転換
- 競技特異的動作の再現
- サポーター併用下での段階的復帰

セミリジッドブレースは弾性包帯よりも早期復帰と不安定性軽減に有効とされます。

再発予防には腓骨筋の筋力強化とバランストレーニングが不可欠です。