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整形外科 外科 リハビリテーション科

下腿骨疲労骨折 stress fracture of lower leg bone

下腿骨は膝から足関節までにある2本の骨を表します。内側の太い方を脛骨、外側の細い方を腓骨といいます。長い骨で長幹骨のひとつです。

疲労骨折は運動による力学的ストレスの繰り返しで起こります。全身のどこの骨でも起こりえます。下腿骨の場合、疾走型と跳躍型に分かれます。

疾走型は走ることを繰り返すことによって脛骨や腓骨に起こります。比較的経過が良いもので、運動負荷を調整することに治ります。ギブス固定は必要ありませんが、痛みが強い場合は松葉杖等で免荷します。局所の安静のため1-2ヶ月のランニングやジャンプは中止します

運動開始時期は、疲労骨折部位を押さえても痛みが無い、レントゲン像の改善、ホップテストで痛み無く出来ることを目安にしています。

まずはジョギングから開始し徐々に運動負荷を行います。

跳躍型は幅跳びや高跳びなどのジャンプを繰り返す競技で起こります。脛骨中央あたりで生じます。これはなかなか治りにくく偽関節になってしまうことが多く保存的治療には3-4ヶ月かかります。そのうち50%が手術に移行します。早期に手術することを推奨する施設もあります。

脛骨内果の疲労骨折はまれですが、フィギア-スケートや中高年の長距離走で見られることがあります。治療は疾走型と同様に1-2ヶ月ランニングやジャンプを休止します。
 
 
脛骨跳躍型疲労骨折

 脛骨の跳躍型疲労骨折は、難治性の吸収型疲労骨折であり、仮骨形成に乏しく、治療には長期間を要します。

 骨形成型の疾走型疲労骨折とは異なり、6週間程度の運動制限では治癒しません。短期間の局所安静で痛みは改善し、レントゲン所見にも大きな変化が出てこず、安易に運動を再開すると更に悪化します。

 慢性化した例や早期復帰をめざす場合は、髄内釘挿入を行います。一般の脛骨骨折と異なり骨折部の固定性、髄内血流よりも、伸張ストレスを回避するために髄内釘を骨皮質に密着させます。横止スクリューは不要です。

 症状はランニングのストップ時やジャンプの着地時の痛みが中心で運動強度が上がれば痛みも増強します。症状が悪化すると階段昇降や起床時、動き始めの痛みが強くなります。

 初期は2週間程度の安静で症状が改善するため、受診すること無くそのまま運動を自己判断で再開してしまうケースが多いとされています。

 慢性化してしまうと保存療法には抵抗性で4ヶ月の運動休止を行っても治癒率は50%以下とされています。また経過中に完全骨折となることがあります。

 慢性例では脛骨骨幹部前方の痛み、腫れ、圧痛があり、レントゲンで嘴状の仮骨形成とBlack-lineと呼ばれる骨吸収像もしくは明瞭な骨折線を認めるようになります。初期にはレントゲンの変化がみられないので注意が必要です。

 スポーツの種類としては、バレーボール、バスケットボール、クラッシック・バレエに多くみられ、その他、陸上、体操、ハンドボール、野球、テニス、チアリーディング、バトミントン、アメフト、卓球でみられた。(関東労災病院における報告)


<治療方針>

 保存的治療は完治が困難なことが多い。

 初期例:発症1ヶ月程度の初期であれば、保存療法が有効。ランニングなどの下肢に負荷のかかる運動は6週間休止します。ハムストリングや殿筋の筋力強化は行います。徐々にランニングを開始しますが、ジャンプ動作や急激な力がかかる動作は控えます。3ヶ月程度、運動強度の制限を行います。

 慢性化例:二か月程度の運動制限を行い、殿筋とハムストリングの強化で治癒例もあるとされています。骨折部が深部に進行することあり。

 手術:運動中止が困難で確実にスポーツ復帰を期待する場合や完全骨折の危険性が高いもの、長期罹患例は手術の対象となります。髄内釘はリーミング径より0.5mm細い髄内釘を挿入し、骨皮質との密着をはかります。横止スクリューは使用しない。

 後療法:手術翌日より荷重歩行可能。一週間程度で松葉杖は不要となります。術後一週間から自転車エルゴメーターを開始。3-6週間して挿入部の刺激が緩和すれば、レッグエクステンションやハーフスクワットなどの筋トレを行います。6週間以降、創通が軽度となれば、ランニングの許可。術後10週後に筋力測定実施し、健常比比80%以上の筋力であれば、徐々にスポーツ復帰を行います。3ヶ月より競技復帰に向けてトレーニングを高め、4-6ヶ月で復帰をめざします。

 
 
シンスプリントと疲労骨折

 シンスプリントはランニング障害のひとつで下腿下部に痛みが生じる疾患です。疲労骨折でも同様に痛みが生じますので、運動障害で下腿の痛みが生じる場合は、両者の鑑別が必要となります。

 シンスプリントの場合、初期の段階で治療すると一週間程度で治りますが、疲労骨折の場合は、初期でも6-8週間治療に要しますので両者の鑑別が重要となります。

 シンスプリントは骨に付着した筋腱が牽引することにより痛みが出ます。付着部は骨折に比べて面積が広いので疲労骨折と比較して幅広く痛みが出ます。疲労骨折は、骨の骨折ですからある特定の限局した部分に痛みを覚えます。

 診察でおよそのあたりをつけてから、レントゲン撮影を行います。発症から3-4週間経った疲労骨折では、骨皮質の肥厚や骨折線を認めることがあります。シンスプリントや初期の疲労骨折は、レントゲンでは所見を認めません。

 次ぎに、超音波検査(エコー)を行います。疲労骨折では、レントゲンに変化がない段階でも骨膜周囲の肥厚、腫脹、を認めることがあります。シンスプリントでは疲労骨折に比較して所見に乏しいことが多いです。

 レントゲン、エコーで診断が付かない場合は、MRIを行うようにします。疲労骨折はT2強調画像で骨髄に高信号を、シンスプリントでは内部に異常信号はなく骨外の軟部組織に高信号を認めます。
 

■T2強調像で骨内(骨髄)と骨膜周辺の両方に高信号が認められる場合、疲労骨折の可能性が高いと考えられます。

シンスプリントと疲労骨折のMRI所見の違い

所見 シンスプリント(一般型) 疲労骨折
骨髄内信号 通常は異常なし T2強調像で高信号(浮腫)
骨膜周囲信号 高信号あり(骨膜炎) 高信号あり(骨膜反応)
骨折線 通常なし T1低信号・T2低信号の線状変化があれば確定的
痛みの部位 広範囲 限局性(ピンポイント)
臨床経過 比較的短期で改善 安静期間が長く必要(6〜8週以上)

解釈のポイント

骨髄内のT2高信号は、骨内浮腫や微細損傷を示唆し、骨の構造的損傷=疲労骨折の前駆または進行期を意味します。骨膜周囲の高信号は、骨膜炎や骨膜反応を示し、シンスプリントや疲労骨折のいずれにも見られます。
両者が同時に存在する場合、シンスプリントの重症型疲労骨折の初期〜進行期と考えるのが妥当です。

臨床的対応

運動中止:骨髄浮腫がある場合は、最低でも4〜6週間のジャンプ・ランニングの中止が推奨されます。
再評価:2〜3週間後に症状と画像の再評価を行い、仮骨形成や骨硬化像の出現を確認。
鑑別が難しい場合:悪性骨腫瘍との鑑別が必要なこともあり、骨膜反応の連続性や骨髄変化の境界不明瞭性が疲労骨折を支持する所見とされています。

■骨膜反応の「連続性」とは

定義:骨膜反応が均一で滑らかに連続していることを指します。

疲労骨折における特徴

骨膜反応は線状または層状に連続し、均一な厚みを持つ。
骨折部位に沿って滑らかに広がる
仮骨形成の前段階として現れることが多い。

対比:悪性骨腫瘍では?

骨膜反応は不整・断裂・スパイク状(Codman三角やsunburst pattern)など、非連続的で不均一なことが多い。


■骨髄変化の「境界不明瞭性」とは

定義:骨髄内の浮腫や信号変化が周囲の正常骨髄との境界が曖昧で、ぼんやりと広がっている状態。

疲労骨折における特徴

T2強調像やSTIRで高信号域が広がるが、明確な輪郭を持たない
骨髄浮腫が骨折部位を中心に広がる
骨折線が明瞭でないこともあるが、周囲の浮腫性変化が先行する。

対比:悪性骨腫瘍では?

骨髄変化は腫瘍浸潤による明瞭な境界を持つことが多く、腫瘍塊としての構造を示す。
境界が比較的シャープで、造影効果が強いことも特徴。

まとめ:両所見が示唆するもの

所見 疲労骨折 悪性骨腫瘍
骨膜反応 均一・連続性あり 不整・断裂・スパイク状
骨髄変化 境界不明瞭(浮腫性) 境界明瞭(腫瘍性)
造影効果 通常なし 明瞭な造影効果あり