表紙に戻る
池田医院へようこそ
信頼とまごころの医療
からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科
リハビリテーション科

 タナ障害(膝滑膜ひだ障害) symptomatic synovial plica of the knee joint

胎生期に膝は三つの隔壁にて形成され、胎生10週ぐらいで退縮します。なかには「ひだ」として遺残、膝関節の障害を引き起こすことがあります。

1.膝蓋内側滑膜ひだ
2.膝蓋上滑膜ひだ
3.膝蓋下滑膜ひだ
4.膝蓋外側滑膜ひだ

臨床的には膝蓋内側滑膜ひだが問題となります。症状は膝蓋骨内側の痛みで、外傷後や運動負荷で症状が出てくることが多い。

ひだとしての遺残は内側18.5~80%であり、画像上認めても必ずしも症状が出ているとは限らないことに注意します。

症状は、膝蓋内側滑膜ひだなら膝蓋骨内側の疼痛、引っかかり感が多いが、不安定性が主訴となることもあります。

治療は保存療法として消炎鎮痛剤などの対症療法に加えて、膝周辺の筋トレ、理学療法、滑膜ひだへのステロイド注射などを行います。

これらで改善しない場合は、鏡視下にてタナを切除します。

現在ではタナ障害であるからすぐに手術するのではなく、症状がどうしても改善せずに日常生活やスポーツで支障がある場合にのみ行います。

かつてのようにタナ障害=手術ではありません。


20206,6 追記

膝滑膜ひだ障害(いわゆる「タナ障害」)に関しては、近年その分類や診断、治療方法において新しい視点が加わっています。

まず、形態の違いによってタナの重症度を分類する「榊原分類」という指標があります。これは滑膜ひだを4つのタイプ(A〜D)に分ける方法です。タイプAとBは滑膜のふくらみが小さく、症状が出ないことが多いため、保存的な治療で十分に改善が期待できます。タイプCは、滑膜ひだが大腿骨の内側顆に接触するように大きくなっており、膝の痛みや引っかかり感を生じやすくなります。さらにタイプDでは、ひだが中央で裂けて一部が遊離した状態になっており、関節の動きに引っかかることで症状が強くなるケースが多く、手術が選択されることもあります。このように、分類によって治療方針を検討する材料が得られるようになってきました。

<膝内側滑膜ひだの榊原分類(Type A~D)>

分類タイプ 滑膜ひだの特徴 臨床的意義・症状の出やすさ 治療への反応性
Type A 小さな隆起。薄く、柔らかい形態 無症候性が多い 保存療法で十分改善が期待できる
Type B やや厚く、隆起は中等度 一部症状を出すことがある 多くは保存療法で対応可能
Type C 大腿骨内顆に接触する棚状構造を形成 引っかかり感や疼痛が出やすい 保存療法が無効な場合は手術を考慮
Type D 中央に裂け目があり、一部が遊離しやすい状態 インピンジメントにより強い症状を呈する 手術適応となることが多い

治療方法についても、近年は患者一人ひとりの状態に合わせてアプローチを変える「個別化」が進んでいます。従来から使われている消炎鎮痛薬や筋トレに加え、超音波やレーザー、温熱療法などの物理療法が痛みの軽減や滑膜の線維化の抑制に役立つとされています。また、内側広筋などの膝周囲筋を正しく働かせる運動療法も重要です。さらに、膝蓋骨の動きを整えるための膝装具の使用が、滑膜ひだへの負担を和らげる目的で導入されることがあります。

診断においても、画像検査と動きの評価を組み合わせることで、より正確な判断が可能になっています。MRIでは滑膜ひだの厚みや位置関係を把握できますし、最近では超音波を使って膝を動かしながらリアルタイムでひだの挙動を観察する方法も用いられています。これにより、症状と画像の所見を照らし合わせることが容易になります。また、膝蓋骨の内側を押さえながら膝を動かす「Medial Plica Test」などの徒手検査も、診断の助けとして使われています。

最後に、病気の原因と考えられているメカニズムにも再検討の動きがあります。膝蓋骨と大腿骨の間で繰り返されるこすれや衝突が、滑膜ひだに慢性的な刺激を与え、次第に線維化や肥厚を引き起こして症状につながると考えられています。また、太ももの筋力低下や脚の形(たとえばO脚)といった体の使い方のクセも、タナ障害の発症に関与している可能性があるとされています。