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整形外科 外科
リハビリテーション科

胸郭出口症候群 thoracic outlet syndrome

 鎖骨の下を通り腕の方に行く神経や血管が圧迫されて起こる病気です。胸郭とは胸の部分の胴体であり、そこに肩甲骨と鎖骨がついて筋肉や靱帯で固定されています。

 頚椎からでた神経は集合して腕神経叢となり再び分岐して主に上肢に行きます。神経に沿って鎖骨下動脈、静脈が併走しています。鎖骨の下を触ってみてください。とても指が通る感じではありません。その部分を縫うようにこれらの神経や血管が走っています。

 症状は、圧迫されるような肢位、例えば、つり革を持つ、上の棚のものを取ろうとする動作でシビレや痛みが肩や上肢に出ます。なで肩の人や逆に上半身の筋肉が発達した人に起こりやすいです。圧迫型と牽引型があります。圧迫型は男性で筋肉質の怒り肩の人に多いです。牽引型は痩せて首が長く見えるなで肩の女性に多いです。80%が牽引型といわれています。

 牽引型の症状は上肢の痛み、しびれ、肩こり様症状がでます。症状は午前より午後の方が悪化しやすいです。荷物を提げたりして上肢を牽引する形になると症状が悪化します。逆に座って肘をついて肩を緩めると緩和します。

 圧迫されて狭窄しやすい部位は三カ所あります。1.前斜角筋と中斜角筋の間、2.鎖骨と第1肋骨の間、3.小胸筋、これらのいずれかで圧迫されると症状が出ます。

 診断は徒手検査とレントゲン撮影を行います。

 症状が軽い場合は、なで肩の人には首から肩にかけての筋肉を鍛える運動をします。また肩をすくめるような肢位をとってもらいます。

 頚助といって本来頚椎には肋骨はありませんが、第7頚椎(時に第6頚椎)に肋骨がある人がいます。この場合は、症状により頚助を切除する手術が必要なことがあります。

 また保存的治療で改善しない場合は、狭窄部位を解除する手術を行います。

 ポイント:頚椎からでてくる神経が圧迫される症状と鎖骨下動脈が圧迫される症状がある。肩関節周囲炎との鑑別が重要。

 胸郭出口症候群

 <分類>

 1.神経原性胸郭出口症候群 姿勢不良で、なで肩の女性に多い。
  ・腕神経叢圧迫型 18%
  ・腕神経叢牽引型 8%
  ・混合型 74%   (片岡ら)

 2.血管原性胸郭出口症候群(静脈性、動脈性)

 血管原性は、虚血と血栓により急激な経過をたどることが多い。

 真の胸郭出口症候群?:Gilloatt症候群:母指球の萎縮を必発とする運動優位性の疾患で、初発症状・主訴も手の巧緻障害や筋萎縮を呈すとする意見がある。

<狭窄部位>

 1.斜角筋三角部
 2.肋鎖間隙
 3.烏口突起および小胸筋間隙

典型例 「電車のつり革につかまっていたら腕が重くなってしびれてきた。」

 *ただし、症状は多彩で症状から頚椎疾患との鑑別は困難。疼痛は胸郭出口部の過敏部を中心に、上肢、手指、僧帽筋、肩甲背部、項頚部、後頭部、側頭部、前胸部などにでます。
 *腕神経叢の過敏性の増強で、肘部管や、手根患部にTinelサインを認めることがあります。ダブルクラッシュとの鑑別を要す。


<胸郭出口症候群における神経過敏性の評価>

 1.腕神経叢の過敏性の評価
  圧迫された神経は過敏性を伴う。
 Morleyテスト:鎖骨上窩の圧迫すると疼痛が生じる。牽引型は斜角筋の上部に、圧迫型では肋鎖間隙に強い傾向がある。
         圧迫による放散痛を指先までなら「3+」、上腕まで「2+」、局所痛「+」とする。
 2.誘発テスト
 Wright test 両肩を90度外旋外転させて、痛みやしびれが出て手指が蒼白となる、手を下ろすと血行が回復して赤身が戻り、痛みやしびれが回復する。*健常者でも10%陽性
 Adson test 座位で橈骨動脈を触知しながら、頭部を患側に回旋し、顎を上げ、深呼吸をして息を止めると、脈拍も止まる
 肩甲帯挙上テストと上肢の下方牽引テスト 腕神経叢の牽引型で牽引負荷をかけると症状が悪化し、挙上保持し腕神経叢を緩めると緩和する
 Roos test 両肩を90度挙上し、外旋、両手を1秒ごとにグーパーを繰り返す。30秒以下で重症な例が多いとされ、保存療法に抵抗性を示唆する。また同時に、手掌蒼白の有無をチェックする。
<鑑別>

1.Gilliatt-Sumner hand 下記参照
2.頚椎疾患 症状での鑑別は困難。誘発テストの有無が重要。
3.末梢神経圧迫(絞扼性末梢神経障害→肘部管症候群、手根管症候群など) 末梢神経圧迫症状ほど明確な知覚分布に沿っていない。
4.腕神経叢損傷 外傷の有無。ホーナー症候群や左右差のある異常な発汗(腕神経叢損傷)。症状が一定。(腕神経叢損傷)
5.肩腱板疾患 不良姿勢、関節不安定性のある牽引型胸郭出口症候群は、肩関節周囲炎をしばしば合併する
6.その他 線維筋痛症、Pancoast腫瘍、Raynaud病、脊髄空洞症、閉塞性動脈硬化症

 Gilliatt-Sumner hand (真の胸郭出口症候群?)

定 義:Gilliatt-Sumner handとは,短母指外転筋の顕著な筋萎縮と,背側骨間筋,小指外転筋の筋萎縮を認め,感覚障害は軽微であるが,もし感覚障害がある場合には手・前腕の尺側に限局している.T1神経根(ときにC8神経根も伴う)または腕神経叢の下神経幹が障害されたときに起きる症候。

*頚助や巨大なC7横突起の長大化を伴って腕神経叢の下神経幹が障害されて起こる神経原性胸郭出口症候群。
 
 胸郭出口症候群(TOS)には
1.動脈性 TOS(aTOS)
2.静脈性 TOS(vTOS)
3.外傷性神経血管性TOS
4.真性神経性TOS(tnTOS)
5.非特異的 TOS
1〜4は疾患概念や検査治療が明確にあり、手術が必要となることが多い。
一般の整形外科外来を訪れる TOS は非特異的 TOSであることが多い。

aTOSは鎖骨下動脈の圧迫を伴う稀な疾患..
上肢のだるさや動脈血流の障害により蒼白となる。血管を圧迫することにより内膜損傷や動脈瘤.、塞栓を起こすことがある。血管外科への紹介が必要。

vTOSは鎖骨下から腋窩静脈の還流障害を起こし、静脈血栓症が起こる。非特異的TOS に次いで多い。長時間労働後などに突然発症しチアノーゼをきたす。
外傷性神経血管性 TOSは鎖骨の外傷による稀な疾患。局所的な圧痛・腫脹に加えて、上肢内側の感覚異常が起こる。手術が必要なことが多い。

tnTOS はKL6または第7頚椎横突起から第1肋骨に伸びる線維性索状物により腕神経叢が下方から圧迫されて生じる。Th1> C8前枝、もしくは Th1有意の腕神経叢のうち、下神幹障害。→母指球優位の筋萎縮筋力低下
神経伝導速度検査で確定診断。しびれや痛みなどの感覚障害は主訴とならない。全例手術適応であるが、手術を希望しないことも多い。