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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科


平成27年4月18日(土) 10年ぶりに日記を再開しました。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症

 整形外科をやっていると時々脳疾患の患者さんが来られるます。ここへは歩行できないとかふらつきなどの症状を訴えられるが多い。麻痺があれば脳梗塞や脳出血が疑わしい。また頭部外傷後に数週間を経て脳の静脈から出血が徐々に起こりふらつき、めまい、失見当識などの症状が出る慢性硬膜下血腫というものもあります。これはじわじわ症状が進行するので見逃しやすいです。慢性硬膜下血腫は高齢者に多いのですが、最近では若い年齢層にも起こるので要注意と言えます。

 先日、ふらつきで来院された高齢女性Aさん、閉眼で立位保持がほとんどできませんでした。一昨日に転倒したとのこと。よく聞くと数週間前に転倒し頭部を打っています。その他、意識レベルは正常。しかしながら慢性硬膜下血腫を疑ってMRIを撮ったところやはり出血してました。慢性硬膜下血腫は血腫除去を行えば症状も劇的に改善します。認知症の患者さんに紛れ込んでいることも時としてあります。(認知症状を出す疾患として正常圧水頭症も有名です。)

 余談になりますが、強い歩行障害を訴えて来られたBさん、持参された他院の頭部CTでは明らかに脳室が拡大していた。前医(脳神経外科Drと言うことだがそれは流石にあり得ないと思う。)ではなにもない?と説明を受けていたそうだ。大学病院へ紹介したところ正常圧水頭症と診断され治療を受けて歩行障害はほぼ改善しました。


平成27年4月19日(日) 腰部脊柱管狭窄症

 世の中こんなこともあるのだなという経験をしたので紹介しておきます。某大学病院で腰部脊柱管狭窄症+神経因性膀胱による尿閉という診断をそれぞれ整形外科、泌尿器科で受けた男性Aさん、自己導尿を指導され8ヶ月ほど経ったある日、本当にそうなのかと意を決して当院を受診されました。持ってこられた腰部MRIは確かに脊柱管狭窄を少し認めまましたがとても膀胱直腸障害を起こすレベルではありません。少なくとも腰から尿閉が出ているとは考えにくい。

 そこで友人の泌尿器科医を紹介して尿閉の原因を探ってもらいました。その診断結果は、なんとただの前立腺肥大による尿閉でした。前立腺は三倍ぐらいに腫大していたそうです。某市立病院泌尿器科で手術を受けたところ尿閉は完全に改善し、当然ながら自己導尿は不要となりました。Aさんより大変感謝されたのは言うまでもありません。


平成27年4月20日(月) 咬傷、破傷風

 よく犬や猫、たまに人間に咬まれて来院されます。サルやトカゲというケースもありました。米国の最近の研究結果では、咬まれて24時間以内、とりわけ出来るだけ早く処置や抗生物質を開始しないと治癒が遷延すると発表されています。出来れば、受傷直後に受診すると良いでしょう。当院が閉まっている時間帯なら最寄りの救急病院に急行してください。

 受傷時の応急処置ですが、まず咬まれたら流水でしっかり洗います。これが大事。とにかく洗う。手を洗う時の10倍以上の手間と暇を掛けて出来れば少しこするようにしましょう。どれぐらい洗ったかで経過も異なってきます。

 化膿しやすいのは大きく開いた傷では無く、犬歯などで小さいけれど深く食い込んだ傷です。歯に付いている細菌が植え込まれるように内部に入ってしまいます。こうなるとそこから感染が広がり蜂窩織炎となってしまいます。

 初期に投与する抗生物質のデファクトスタンダードは、ペニシリン系です。ペニシリンは実に良く効きます。そして昔からあるので薬価も安いメリットもあります。ペニシリンの分解を妨げるクラブ酸というβ−ラクタマーゼ阻害剤を添加したオーグメンチン(ペニシリンとしてアモキシシリンを含有)とペニシリンを増量する目的でサワシリン(アモキシシリン含有)を併用します。

 このペニシリンを増量した処方は外傷を取り扱う医師には結構有名なのですが、知らない調剤薬局さんも多く「同じペニシリン系が出てます。」とわざわざ忠告のお電話を頂くこともあります。うちの近所の調剤では知ってくれているので問題ありません。

 ペニシリンアレルギーのある方は別の系統のお薬を使用します。

 ポイント 『咬まれたら流水で洗いまくる。そして直ちに医療機関を受診する。』

 さて、外傷につきものの破傷風について少し触れておきます。破傷風は古釘や切り株を踏むと起こることで有名ですが、実は動物に咬まれても木の枝などが刺さっても起こります。それ以外にも熱傷、人工中絶、ピアス、覚醒剤注射などでの報告があります。 米国ではニワトリにつつかれて発症した例もあります。日本では年間110名ほど発症し7名ほど死亡します。適切な治療を行わなければ死亡率は80%を越えるとされています。

 破傷風ワクチンは3種混合ワクチンに含まれており大抵の子供は打っており発症しにくくなっていますが、なかには何らかの理由で打っていないこともあり注意が必要です。破傷風は何度も掛かりますのでワクチン投与は必須と考えたほうがよいと思います。

 破傷風ワクチンを三度以上接種して最終接種日から10年以内は免疫は残っているとされています。それ以外は免疫が無いもしくは弱いと考え外傷時にはワクチンを打ちます。特に60才以上は一度も破傷風ワクチンを打っていない世代ですので注意深く接種歴を聴取すべきです。


 3種混合ワクチン(破傷風ワクチンを含む)は12−3才で打ち終わりますのでちょうど大学を卒業する頃には免疫が弱くなっていますので、外傷時は免疫力をブーストするために打ったほうが良いとされています。

平成27年4月21日(火)
 サワディーカップとサワディーカー

 京大には多くの留学生がいて当院にもたくさん来られます。先日、診療のついでにタイ人の方に挨拶の仕方を教えてもらいました。タイ語でこんにちは、こんばんは、さようならなどの挨拶はすべて『サワディーカップ』で良いそうです。ただ女性が言うときは『サワディーカー』となり最後の『プ』はないとのこと。

 もし男性が『サワディーカー』と言うといわゆるお姉言葉となるそうだ。したがって診療の最後の挨拶は『サワディーカップ」と『プ』をしっかり強調しておきました。


平成27年4月22日(水) 秋田 骨粗しょう症

 大学の近所にあるので学生さんが多く来られます。今日は珍しく秋田出身の方が来てました。彼自身も大学に入ってから秋田出身の学生と会ったことが無いと言ってましたので京大でもかなり珍しいのでしょう。秋田の名物や名所を教えてもらいました。行くなら世界遺産に指定された白神山地が良いとのこと。一度行ってみたいものです。


 ところで骨粗しょう症は女性に多く見られます。男性はきわめて少ないです。男女ともに2次性徴が完了するころが骨量のピークであとは徐々に減っていきます。これをいかに減らさないかがポイントです。カルシウムの摂取、ビタミンDを摂る、運動、日光浴が重要です。

 女性は閉経すると男性よりかなり早く骨量が減少していきます。ある程度減ると骨を増やすお薬を使います。もちろんお薬だけは駄目でしっかりカルシウムを摂取して運動するのがいいですね。運動はきわめて重要です。ただし残念ながら水泳は骨粗しょう症に効果がありません。足に振動が伝わる運動、高齢の方は散歩が良いです。


平成27年4月23日(木) 左右対称のものは両側で比べること

 骨や関節は左右対称に出来ているので外傷時の変化は必ず比較することが大切です。これを怠ると見逃して誤診することになります。特に子供さんは成長のための軟骨が骨にありますのでレントゲン撮影で左右を比較することはきわめて重要です。

 もちろん不要なレントゲン被曝は避けるべきで何でもかんでも両側を撮影するというのも問題ですね。その辺のさじ加減は経験がものをいいます。


平成27年4月24日(金) 足の指の骨折(指骨骨折)

 足の指は医学用語では「指」ではなく「趾」と書きます。足を止めるから「趾」なのでしょうか?足の指は親指は二個、ほかの指はおよそ三個の骨で出来ています。(基節骨、中節骨、末節骨)およそとしたのはなかには二個しかない人もあるからです。

 この足の指ですが、意外と簡単に折れちゃいます。多いのはテーブルの足に当たるケースです。ほかにも壁を蹴飛ばしたとかそういう果敢な人もあります。あとクラブ活動でもクロスプレーなどで見られます。骨折の転位(ずれ)が大きい場合は整復します。整復後も不安定な場合は経皮ピンニングと言って針金状のもので骨折部を固定します。それ以外のものは保存的に治療します。

 折れているのに折れてないと放置している人も多いように思われます。一ヶ月しても痛みが続くからと遅ればせながら来院される人もたまにあります。放置していても治るもの当然あるのでしょうが、骨折部がついていないものも見受けられます。そのまま放置しておくと偽関節になることもあります。

 『歩けるから大丈夫と思っていた。』 そのように仰る方も多いです。骨折しても歩ける人はいっぱいいますので安心というわけではありません。


平成27年4月25日(土) 後医は名医?

 大学病院の近所(*)なので将来医師になる医学部学生さんもよく来られます。将来立派な医師になってもらうために少しばかり教科書には書いていない経験や体験をいつもお話しするようにしています。いわゆるワンポイントレッスンです。
 *近所に京都大学附属病院と鴨川を挟んで京都府立医科大学附属病院があります。

 先日来た学生さんには「前医の診断を信用してはいけない。」とレクチャーしました。昔、高名な医師が私の誤診率は30%だと公に発言されたのですが、それを聞いたほかの先生が流石は高名な先生だけあって誤診率が低いと感心したそうです。まあそれだけ病気を診断することは難しいということです。今は診断学や機器が進んだのでそれほど高いことは無いはずですが。

 それでも実際、後医として診療すると前医の診断が違っていたり、見逃しを発見したりすることはあります。

 医療界の格言に『後医は名医』という言葉があります。後で診る医者ほど名医という意味です。確かに後医は、ある程度、病状が経過してから診るので的を絞りやすいですし、前医が行った診断・治療の良否も判断できることはかなりのアドバンテージです。

 このように後医は有利な点があるのも事実ですが、前医の診断に首をかしげることもそれなりにあります。いやこんなことを書くとお叱りを受けそうですので、今日のところはこの辺で・・・。


平成27年4月26日(日) 痛みはアナログ〜測定不能 痛みスコア

 外傷や炎症により痛むことは誰にでもあることですが、痛みそのものの程度を計ることは出来ません。同じような受傷でも痛みの強さは個人差が大きいように思います。痛みを強く感じる人もあればそれほど感じない人がいます。

 診療においては、痛みスコアというものを使います。想像できる一番の痛さを数字の10として今はどれぐらいの値かを聞きます。経過中は最初の痛みを10として今はいくつかと尋ねることも多いです。これが1以下になるとかなり改善したと言えますし、5−6だと道半ば、8−9だとあまり改善していないと判断します。もちろん翌日ぐらいだとそれほど痛みは変わらないです。


 受診翌日に痛みスコアが12とかになっていると悪化しているわけで、治療方針が正しいかどうか再考する必要があります。
平成27年4月27日(月) 変形性膝関節症 筋トレと散歩

 膝の軟骨がすり減って痛みが出てくる病気です。中高年の女性に多いです。軟骨がすり減るときに軟骨のかけらが関節内に遊離すると関節を覆っている滑膜が炎症を起こして水がたまります。

 こうなると変形性関節症としては初期ではなく中等度以上の悪化と判断します。

 水は関節の炎症によるものですから闇雲に抜いてもすぐに貯まります。炎症を治療しながら関節を安定させるための筋トレなどを並行して行います。

 膝が痛くて歩くのが億劫なときは無理に歩く必要はありませんが、ある程度落ち着いてきたら筋トレを行いつつ歩行も行うようにします。

 テレビでよくみるグルコサミンやヒアルロン酸(経口)、サメの軟骨などは効果があると立証されたものではありません。ほとんど効かないと考えて良いでしょう。ただプラセボ効果でいくらかの人は効いたような気がするかも知れません。

 痛みは改善してきたけれどまだ少し歩くのが痛いときは、まず足をぷらぷらと動かすようにすると炎症の改善に効果があります。

平成27年4月28日(火) 部位別疾患

 先日来、ホームページに部位別疾患について記載していますが、結構時間がかかります。ようやく末梢神経障害を残すのみとなりましたが一巡したらそれぞれの項目に写真やシェーマを追加していく予定です。

 数年ぐらいかかりそうな気もしますが、地道に作成していくつもりです。

 長いこと臨床に携わって勉強もし経験を積んできましたが、新しいこともどんどん増えてきてキャッチアップするのが大変です。膨大な量の医学書や論文を読みあさってますが、読めば読むほど奥が深いのが分かってまだまだだなと思う次第です。

 永遠に勉強して経験を積み上げていくしかないのでしょう。


 さてこの日記には診療を通じて日常で起こった事柄について医学的なものをピックアップして書くようにしています。系統だってませんので断片的な話になってしまいますが、何年か書き続けて読んでもらえたら少しは役に立つと思います。
平成27年4月29日(水) 祝日 自転車競技とハイヒール 腰痛

 今年のゴールデンウィークも例年同様に暦どおりの診療となります。自転車のフロントディレイラーの調整を行った後、鴨川を走ってきました。
 先日、京都新聞サイトに「競輪選手の腰痛、ヒールの女性と同じ 京大が原因解明』という記事がありました。これはトレーニングで大腿四頭筋の酷使により硬くなり骨盤が下向けに引っ張られて前傾という状態になります。

 この前傾した状態で立つとバランスを取るためには腰を後ろに曲げる必要がありこの結果、腰の筋肉が緊張を強いられて腰痛となると解明しました。

 同様にハイヒールを履いても大腿四頭筋が硬くなり腰痛が起こります。治療は温熱治療に加えてストレッチが有効です。

 
平成27年4月30日(木) スポーツ障害と体の固さ

 体の柔軟性が低い原因は筋や腱が硬く伸びにくくなったために起こります。(それ以外に関節自体の障害でも起こります)

 スポーツ障害で起こるものはほとんどが筋腱が硬くなって伸びにくくなっているために体の柔軟性も失われて故障しやすくなります。

 ハイレベルのアスリートはそういった障害に対してコーチやメディカルスタッフがチームにおり、適切なアドバイスが行われ故障しにくいです。

 万が一故障しても対応も早いのが特徴です。

 多くの大学も含めた一般的なクラブ活動では、プロのメディカルスタッフは通常おらず、リハビリ関係の学生さんが勉強しながら対応している程度です。サークルだとほぼ自分自身で管理することになります。

 有意義な競技生活を送るためには、入念なストレッチは欠かせません。