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新しい創傷治療~治療方針について

~傷を乾かすのではなく、潤して治す ~


従来、「傷は乾かしたほうが治る」と言われることがありますが、これは医学的には誤解です。傷が治る過程では、血液中の修復物質が患部に集まり、皮膚の再生が始まります。乾燥してしまうと、これらの物質の働きが止まり、治癒が遅れることになります。

実際には、「乾かすと治る」ではなく、「治ってくると乾いてくる」が正しい理解です。

そこで注目されているのが、「湿潤治療(モイストヒーリング)」です。創傷被覆材という特殊な素材を用いて傷の表面を適度に湿った状態に保つことで、皮膚の再生が促されます。

ただし過度な湿潤は皮膚のふやけやかぶれを引き起こすため、適度な湿度管理が重要です。

この治療法は形成外科医・夏井睦先生が提唱され、多くの施設で導入が進んでいます。当院でも、できるだけ目立たず早く治癒できるよう、こうした考えに基づいた治療を行っています。

湿潤治療の注意点

湿潤療法はあくまでも、身体が本来持つ治癒力を支える方法です。年齢や部位によって治り方は異なり、心臓から遠い部位や血流が乏しいところでは治癒に時間がかかる傾向があります。例えば、顔や頭部は血流が豊富で比較的治りやすいのに対し、足先や指先は慎重な管理が必要です。

擦過創や皮膚欠損創の治癒には時間を要することがあり、創面の幅1センチ程度でも1ヶ月ほどかかる場合があります。

テーピング vs 縫合について

傷の深さや性質によって、テーピングと縫合のどちらが適しているかを判断します。

テーピングの利点:局所麻酔を使用せずに済み、縫合痕が残らない。特に顔面や露出部では仕上がりが目立ちにくくなります。

縫合が必要な場合:死腔(皮下に空洞ができる状態)がある深い創傷では、埋没縫合を併用します。

当院ではまずテーピングを試み、固定が困難な場合は縫合へ切り替える方針をとっています。

なお、どちらの方法でも治癒に要する期間はほぼ同じです。

創傷被覆材の種類と使い分け

創傷被覆材は、切り傷ではなく擦過創や皮膚の欠損など、「面」で損傷した傷に有効です。

被覆材の種類 適応の目安
ハイドロコロイド系 薄く、感染リスクが少なく浸出液が少ない傷に適応
高吸水性タイプ 浸出液が多い深い傷に適応

ほどよい湿潤状態を保つことが何より大切です。

なお、ラップ療法はネット上で紹介されることがありますが、成人の浅く清潔な傷にのみ限定的に有効とされます。子供の傷や不衛生な環境下では、細菌が増殖するリスクがあり推奨されません。

傷を悪化させないために大切なこと

外傷直後は水道水での十分な洗浄が最も重要です。
消毒剤は不要です(正常細胞も傷つける可能性があるため)。

植物(アロエなど)を直接貼ると細菌感染のリスクがあるため、絶対に避けてください。

初期は見た目の変化が少なくても、1週間を過ぎてから徐々に再生が進むことが多いため、焦らず治療を続けることが大切です。

感染症リスクへの注意

創傷が深く、十分な管理がなされていない場合、蜂窩織炎や破傷風など重篤な感染症に発展する可能性があります。破傷風の発症率は低いものの、発症した場合の死亡率は非常に高いため、傷の処置は軽視せず、早期対応を心がけましょう。