肛門挙筋症候群 Levator Ani Syndrome
外国の成書にはよくあると記載されています。肛門を絞める筋肉である肛門挙筋の筋筋膜性疼痛を意味します。
マウンテンバイクや乗馬で微少な外傷を繰り返すと起こるとされていますが、はっきりした原因がなくとも発症することもあります。症状は肛門周辺の痛みで、所見としては肛門周囲の肛門挙筋に圧痛を認めます。この痛みは結構強く、ひどくなるとサドルに体重を掛けることが困難となります。
鑑別診断としては痔疾、直腸の炎症性疾患・腫瘍などがあります。
ストレスや排便でも悪化しますので注意が必要です。治療は対症療法になりますが、痛みを起こす運動や動作を控えることが大切で、それ以外に排便の習慣を規則正しくする、ストレスを控えるなどがあります。
エビデンス:病態・診断
肛門挙筋症候群は、直腸や肛門の奥に感じる慢性・反復性の痛みや鈍い圧迫感を特徴とする「機能性肛門直腸痛」の一つに位置づけられています。国際的な診断基準(Rome IV)では、30分以上続く痛みがあり、肛門診で肛門挙筋(恥骨直腸筋)を後方に引くと圧痛・違和感が誘発されることが目安とされ、痔核や直腸の炎症・腫瘍など他の原因を除外したうえで診断されます。骨盤底の筋肉が過度に緊張・けいれんすることが痛みの背景にあると考えられています(Carrington ら. Curr Gastroenterol Rep. 2020)[1]。
エビデンス:治療
治療の中心は骨盤底の緊張をやわらげる保存的な対処で、痛みを誘発する動作を控えることや排便習慣を整えることに加え、骨盤底筋を意識してゆるめる練習を助けるバイオフィードバック療法が有用とされています(Carrington ら. Curr Gastroenterol Rep. 2020)[1]。機能性肛門直腸痛を対象とした比較試験でも、バイオフィードバックと鍼治療はいずれも痛みを有意に軽減し、とくに骨盤底の協調不全を伴う場合にはバイオフィードバックがより効果的であったと報告されています(Xue ら. Turk J Gastroenterol. 2024)[2]。通常の治療で改善しにくい難治例に対しては、ボツリヌス毒素注射や電気刺激療法が試みられますが、一定の短期的な改善は得られるものの、その効果は必ずしも長期には持続しないと報告されており、慎重な検討が必要です(Nugent ら. Tech Coloproctol. 2020)[3]。
エビデンス出典(全3件)を見る
- Carrington EV, Popa SL, Chiarioni G. Proctalgia Syndromes: Update in Diagnosis and Management. Curr Gastroenterol Rep. 2020;22(7):35. PMID: 32519087.
- Xue Y, Ding S, Zhou H, Li M, Cao J, Chen Q, Ding Y. Acupuncture Versus Biofeedback for Treatment of Functional Anorectal Pain. Turk J Gastroenterol. 2024;35(2):83-91. PMID: 38454239.
- Nugent E, Beal M, Sun G, Zutshi M. Botulinum toxin A versus electrogalvanic stimulation for levator ani syndrome: is one a more effective therapy? Tech Coloproctol. 2020;24(6):545-551. PMID: 31673883.