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整形外科 外科
リハビリテーション科

 子供のボールを投げる動作による主な肘障害を野球肘とし、損傷部位により以下のように分類します

野球肘は大きくは内側型、外側型、後方障害に分かれます。
 内側型は年齢によって傷める部位が異なることが多く、10−12歳は内側上顆下端裂離骨折、13−14歳は内側上顆骨端離開、15−16歳は鉤状結節裂離骨折、17歳以上はMCL損傷となることが多いとされます。

・内側型
 ●内側上顆下端障害:下欄参照(野球肘内側型)
 ●内側上顆骨端線障害;投球頻度の高いポジションで多い。野球肘内側型と併発もある。鑑別注意。屈曲回内筋群ストレッチ。一般的には厳密な投球制限は不要。急性発症で転位3mm以上もしくは外反動揺性が強い場合は手術適応あり。
 ●尺骨鉤状結節骨軟骨障害;中高生に多く外反ストレスによる。数ヶ月の保存治療で骨癒合を得られることが多い。尺骨神経傷害起こすことあり。骨癒合が得られず痛みが継続する場合は手術も考慮。
 →内側に痛みが生じる疾患 鑑別診断;肘頭骨端線障害(1−2ヶ月の投球休止)、尺骨神経傷害、胸郭出口症候群(TOS)

・外側型
 ●離断性骨軟骨炎 野球肘(外側型);下欄参照

・後方障害
 ●野球肘後方障害・・・肘頭骨端線障害、肘頭疲労骨折、肘頭先端軟骨障害、上腕骨滑車部軟骨障害


野球肘(外側型、内側型)

 野球をやってる人に多いので野球肘という名前がついています。元々はリトルリーグエルボーといい、少年野球をやっている子供に多い肘の障害です。

 傷める部位(内側、外側)によって治療法も治療期間も異なります。90%が内側型で4-6週間(1-3週投球を中止し、症状消失後、徐々に競技復帰)、局所安静で改善します。
残り10%は外側型で6ヶ月以上、場合によっては2-3年も掛かる上に保存的には治らないことも度々あります。

<内側型>
 内側型はボールを投げるときに内側側副靭帯に引っ張られるように骨端軟骨が剥がれます。一球で起こることもあれば、慢性に経過するケース、また経過中に急速に悪化するケースなどがあります。

 内側型は比較的治りやすく通常は4-6週間(1-3週投球を中止し、症状消失後、徐々に競技復帰)、ボールを投げないようにすれば改善します。
 →急性例、亜急性例、再発例は2-4週間のギプスシーネ固定を行います。(行わないとする意見もある。下記コラム参照)
 外固定した方が骨癒合が得られやすいという報告があります。
 →慢性例は外固定はしません。 
 ・投球の休止期間は急性例・亜急性例で4-8週間、慢性例で4週間を目安とします。(投球休止期間が4週間以上の場合は、更に4週間以上かけて復帰をめざす)

 この間、肩甲胸郭関節の機能異常の改善、不良投球フォームへの介入をし、また全身のリコンディショニングを行うようにします。投球再開の目安は、関節可動域制限の改善、圧痛の解消、外反ストレスでの誘発テストでの痛みの消失を確認して行うようにします。、レントゲンの骨癒合(2-3ヶ月〜数年かかる)は参考程度としますが、将来の内側側副靭帯の機能不全による疼痛を起こしにくくするために骨癒合をめざす方が良いとされています。投球再開時期は積極的保存療法を行う施設では平均1.8週間、一般的には1.7ヶ月後となっています。(施設や担当医によってかなり幅があります。)

 内側上顆の骨端離開が5mm以上もしくは骨片が翻転している場合は手術による内固定が適しています。

 バッティングや守備は痛みが出る間は、控える方が良い。痛みが無ければ可。

<外側型、離断性骨軟骨炎>
 外側型は投げる時に骨同士が衝突するために、上腕骨の軟骨面が損傷して離断性骨軟骨炎を起こします。外側型は内側型の10分の1以下の発症率で、10-12歳に多く、小学校5年がピークとなります。発症初期は無症状のことが多く、痛みや運動制限などの症状が現れるのには発症してから数ヶ月かかります。それ故に治療への対応が遅れることが度々起こります。適切な治療が行われないと変形性関節症となりレントゲンの所見で「透亮期」「分離期」「遊離期」に分けられ治療方法も異なります。早期発見は超音波断層検査の方が優れています。MRIも有効です。

 外側型は、早期(透亮期〜分離前期、治癒率70〜90%)であれば局所の安静(投球などを休止)をしながらストレッチ(体幹、四肢、肩甲骨周り、回内屈筋群)、筋力強化を行い経過をみます。平均6ヶ月ほどかかります。病状の経過は同じような病状、暦年齢でも一年ほどで修復されるもの、2-3年かかるもの、完全修復、不完全修復で終わるもの、治療を開始しても急速に進行し関節症になるものまで幅があります。改善しない場合は症状に応じて手術を考慮します。テニス、器械体操、剣道、卓球、水泳などあらゆるスポーツでみられます。

 年齢が12歳以下で骨年令が低年齢(小頭・外側上顆の骨端線が遺残している)、病期が透亮像から分離前期は自然治癒が見込めるので、投球を休止して経過を観察します。内側型と異なりレントゲンでの治癒を確認します(6-12ヶ月)。投球・打撃、その他のスポーツでもバレーボール、ラケットスポーツは禁止となります。一ヶ月毎の診察、レントゲン、超音波で経過をみて3ヶ月毎にMRIを行うようにします。(必要に応じてCT)画像上の完全修復には1-2年を要します。岩堀らは「外側壁が再構築されれば慎重に投球を再開。初診後6ヶ月時点で期待通りに修復が進まないときは、さらに保存的に経過をみるか、いったん投球を再開させてみるか、手術療法に踏み切るかを判断する」としています。

 年齢が15才以上で骨年令が高い(外側上顆・小頭の骨端線が閉鎖)、病期が分離後期〜遊離期の場合には、自然治癒する可能性は低く、競技の継続を希望する場合は手術を行います。手術法にはドリリング、骨釘固定、骨軟骨柱移植などがあります。術後の投球再開はドリリングで3ヶ月、骨釘固定、骨軟骨柱移植で5ヶ月ほどかかります。

 「内側障害でも経過中に無症候性の外側型(小頭OCD)が見つかることがある」ので注意を要します。使いすぎ、姿勢不良、身体のタイトネス、投球動作不良などが遠因になっています。

 レントゲン撮影は通常の正側面に加えて肘関節正面45°屈曲位を追加します。

 *小学校高学年〜中学生の growth spurt 期(身長が急速に伸びる時期)の男子は下肢・体幹の筋肉、腱の伸びが追いつかずタイトネスが増強します。

 <野球肘 外側型 離断性骨軟骨炎に対する積極的保存療法>
 立原らが提唱する運動制限を最小限度とする保存療法のこと。病期に関わらず局所の疼痛、圧痛のある時期のみ投球を禁止し、この間に肩甲胸郭関節と股関節の柔軟性と機能改善を行う。安静期間はおよそ1ヶ月とし、局所症状が改善した時点で投球動作を許可する。復帰後も定期的に経過を診て、疼痛や引っかかり感、病巣の拡大などが診られる場合は手術を併用。

 野球への早期復帰が目標であり、レントゲン上の完全修復をめざすものではない。61%の症例で手術を要していることから、手術を前提とした保存療法と言えます。

 
 本日のコラム579 野球肘

 野球肘には上腕骨内側上顆障害と上腕骨小頭障害がある。(それぞれ内側型、外側型ともいう)、また滑車障害、橈骨頭障害、肘頭障害がある。
 内側型の方が予後が良く復帰も早い。外側型は厄介でなかなか治りにくく、治療は長期間を要し、また手術が必要なケースも多い。
 いずれも投球時や投球後の疼痛が出る。可動域制限は10度以内のことが多く、左右を比較することが重要。小頭障害では自覚症状を初期に認めることが少ない。
 患部の圧痛やストレステストで痛みが誘発される。
 予防;投球制限が有効。例;全力投球は一日50球、週200球以内

<上腕骨内側上顆障害:内側型>

・レントゲン撮影:45度屈曲位正面像、伸展位正面、側面
・超音波検査
・CT、MRI

・内側上顆下端障害の分類(岩瀬、渡邉)
 単純X線  透亮  肥大  分離・分節
 超音波  不整  肥大(突出)  分離・分節
   初期の骨吸収像・部分骨化  骨性治癒像  離断した骨端軟骨内の骨化
または急性の裂離骨片

・レントゲン像:透亮像(初期)、分離・分節像(進行期)、遊離骨片(終末期、ossicle)・・・岩瀬らの分類とは異なる

・骨性治癒が最優先
・投球制限を中心とした保存療法が基本。自覚症状、他覚症状が改善するまで投球は禁止する。ギプスや装具は使用しない。
・練習は痛みが無ければバッティングや捕球のみの守備練習、ランニングは許可。ただしバッティングで痛む場合もよくあるので注意が必要。
・全身のストレッチに加えて投球法に問題が無いかチェック。投球フォームに問題があるケースが多い。
・2−3週間でまず可動域制限が改善し、次いで圧痛、最後に外反ストレス痛が消失する。→この状態まで戻ればレントゲンの修復に関わらず投球練習を再開する。
・投球再開時のメニュー:塁間の半分の距離で山なり(50%程度の力)、20球程度のキャッチボールから開始する。休養を入れながら投球強度を増やす。投球練習開始後2−3週間でチーム復帰。
・投球中止期間が1ヶ月以上の場合は復帰まで4週間以上かけてから復帰。
・レントゲン像の修復には1年以上要すことも多く、競技復帰後も2−3ヶ月ごとに定期的な確認を行う。
・手術は、遊離骨片があり保存療法で疼痛が改善しない場合に適応がある。遊離骨片摘出術+靱帯修復術や再建術

<上腕骨小頭障害:外側型 離断性骨軟骨炎>

 初期と進行期は保存療法、終末期は手術療法。(レントゲン像:透亮像(初期)、分離・分節像(進行期)、遊離骨片(終末期、ossicle))
・進行期でも保存療法で回復傾向が見られない場合は手術を考慮。逆に終末期でも症状が無い場合は経過観察にとどめることがある。
・保存療法:投球だけで無く、バッティング、腕立て伏せ等の上肢の運動は禁止。用具の片付けやグランド整備も禁止。患肢での鞄の保持も行わない。書字と食事の使用のみに限る。ランナーコーチャーは可。
・ギプスや装具などの外固定は使用しない。
投球などの運動を休止することによって1−2ヶ月で疼痛は改善することが多いが、レントゲン等の画像所見が改善するまで保存療法を継続する。
・初期(透亮像)の治癒過程:透亮像の中に骨新生(HAIR LINE)ができ、徐々に厚みを増し、同時に母床からも修復が進み癒合に至る。
・この修復は外側から内側にかけて進行することが多い。修復の最終判断はCTで行う。
・CTで骨梁の連続性が確認できた段階で投球を再開する。
・投球再開時のメニュー:塁間の半分の距離で山なり(50%程度の力)、20球程度のキャッチボールから開始する。休養を入れながら投球強度を増やす。投球練習開始後、約一ヶ月でチームに完全復帰。
・小頭や外側上顆の骨端線が閉鎖するまでは定期的な画像の確認が必要。
・手術療法:終末期で症状あり。初期、進行期の保存加療例で修復が停止している場合。(停止の判断:小頭・外側上顆の骨端線が閉鎖。母床に骨硬化像。3ヶ月以上修復が進行していない。)
・病巣範囲が狭い場合は郭清術。広範囲の場合は骨軟骨柱移植術が多い。広範囲でも高校レベルで競技を終わる場合は郭清術が選択されることがある。
 
 
 尺骨鉤状結節裂離骨折 肘関節内側側副靭帯に牽引されて起こるまれな骨折です。2-4週間のシーネ固定。慢性例は固定しない。

 肘頭骨端離開 通常1-2ヶ月の投球休止で治癒します。遷延例では手術を考慮。 

 参考:子供のスポーツ外来
 <鑑別診断> Panner病とHegemann病

 Panner病 上腕骨小頭の骨端核全体の骨壊死(野球肘外側型との鑑別必要)

 Hegemann病 上腕骨滑車の骨端核全体の骨壊死(野球肘内側型との鑑別必要)(上腕骨内側上顆付近に圧痛、屈曲・伸展の軽度の制限、レントゲンで上腕骨滑車骨端核の不整・分節化・部分的な透亮像)

 肘に発生する骨端症で小児〜若年者にみられる。

 鑑別:骨折、化膿性関節炎、離断性骨軟骨炎、骨髄炎

 早期診断はMRIが有効、レントゲン像は多彩で、壊死部の透亮像→硬化像の混在→均一化(1-3年の経過で変化する)

 上腕骨小頭の骨端核は1歳頃に出現、徐々に骨化し10年ほどかけて完成します。一方、上腕骨滑車骨端核は10歳ぐらいで出現し2-3年で完成します。

 局所の循環障害によると言われてます。離断性骨軟骨炎と同じカテゴリーの疾患として扱われることが多い。症状は関節痛、腫脹です。

 内反肘や局所の成長障害を起こすことがある。

 治療は局所の運動を休止して経過観察します。変形等は手術が必要な場合があります。

 本日のコラム602 Panner病

 上腕骨小頭骨端核の無腐性骨壊死で、同部の離断性骨軟骨炎(OCD;osteochondritis dissecans)との鑑別が難しい。発症年齢が4−10歳と若く、レントゲン所見も上腕骨外側顆骨端核全体の不整像とまだらな透亮像を認める。(離断性骨軟骨炎は10歳以上で、レントゲンでは上腕骨小頭前外側部に限局した病変を認めることが多い)

 原因ははっきりしておらず、上腕骨小頭の循環障害の説がある。比較的稀とされるが、学会報告も少なく、千葉こども病院が4例の経験を報告しているが、2001年から2015までの15年で比較的大きな小児病院でもこの数字であるので、実際にはなかなか出くわさないと言えよう。

 オーバーヘッドの運動を繰り返す子供の利き腕に起こることが多い。また外傷後に生じる例も報告されている。通常は、肘の痛みや可動域制限を訴えて来院する。レントゲン像は多彩であるとされる。経過中に、萎縮して分節化し、その後、再生していく経過をたどることが多いとされる。通常、保存治療が行われて、痛みの程度により当初のみ外固定を追加する。オーバーヘッドの運動は控える。治療には、平均15ヶ月を要し、長期間、離脱せずに経過を見ていく必要がある。治療に時間が掛かること、生活制限があることなど、患者、家族に理解して貰うことが重要。