救急外来を訪れる他科疾患
腰や背中の痛みを訴えて受診される方の多くは、筋肉や骨、神経の問題ですが、なかには内臓の病気が原因になっていることがあります。ふだんの痛みと違って急に強い痛みが出た、じっとしていても良くならない、熱やだるさを伴うといった場合は、少し慎重に考えるようにしています。
腰痛の背景にある内臓の病気としては、まず胃や十二指腸の潰瘍が挙げられます。とくに十二指腸潰瘍が背中側まで達すると、腰や背中に痛みが響くことがあります。胆のうや胆管のトラブルも見逃せません。急な発熱と黄疸を伴う場合は胆管炎を、右の脇腹あたりの痛みなら胆のう炎を疑います。膵炎も、お腹の奥から背中にかけて帯のように痛みが広がるのが特徴で、お酒を飲んだ後や胆石発作の後に起こりやすい病気です。
腎臓が原因のこともよくあります。高熱と悪寒を伴えば腎盂腎炎、じっとしていられないほどの側腹部から背中への激痛なら尿路結石を考えます。女性では子宮筋腫や卵巣のう腫、まれに子宮外妊娠が腰痛として現れることもあり、無月経に不正出血や下腹部痛が重なる場合は注意が必要です。
もっとも急を要するのは大動脈の病気です。大動脈解離は、引き裂かれるような激しい痛みが突然起こり、時間とともに痛む場所が移動していくのが特徴です。腹部大動脈瘤の破裂も、拍動する腫れを触れることがあり、いずれも一刻を争います。少しでも疑えば、ためらわず高次医療機関へ紹介するようにしています。
背中の痛みでは、肺や心臓の病気も鑑別に入ります。呼吸のたびに痛みが強くなる胸膜炎、突然の呼吸困難を伴う肺血栓塞栓症、若くて痩せ型の方に多い自然気胸などです。心臓では狭心症や心筋梗塞も背中への放散痛として出ることがあり、とくに心筋梗塞は背中の痛みだけで来院されることもあるので油断できません。ほかにも腸閉塞や腸捻転、皮疹が出る前の帯状疱疹の痛みなど、腰痛の項で挙げた内臓疾患の多くが背部痛としても現れます。
見逃したくない疾患だけ、あらためて表にまとめておきます。
| 疾患 | 痛みの特徴 |
|---|---|
| 大動脈解離 | 引き裂かれるような激痛、時間とともに部位が移動 |
| 腹部大動脈瘤破裂 | 拍動性の腹部腫瘤、突然の激痛とショック |
| 急性膵炎 | 心窩部から背部への帯状の放散痛 |
| 尿路結石 | 側腹部~背部の疝痛、じっとしていられない |
| 子宮外妊娠 | 無月経+不正出血+下腹部痛、破裂でショック |
| 肺血栓塞栓症 | 突然の呼吸困難を伴う胸背部痛 |
| 自然気胸 | 若年やせ型男性、突然の胸背部痛と呼吸困難 |
| 心筋梗塞(下壁) | 背部痛のみが主訴のことがある |
参考文献:Orthopedics 整形外科外来における他科疾患を見逃さないコツ 3.2017
エビデンス:大動脈解離の痛みの特徴
大動脈解離の国際登録(IRAD)では、痛みの部位が経過とともに移動する症例が一定数報告されており、突然発症の裂けるような痛みが典型的とされています。(Hagan PG ら. JAMA. 2000)[1]。
エビデンス:自然気胸の好発層
原発性自然気胸は、基礎疾患のない若く痩せた背の高い男性に多く発症することが疫学的にまとめられています。(Noppen M. Eur Respir Rev. 2010)[2]。
エビデンス出典(全2件)を見る
- Hagan PG, Nienaber CA, Isselbacher EM, et al. The International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD): new insights into an old disease. JAMA. 2000;283(7):897-903. PMID: 10685714.
- Noppen M. Spontaneous pneumothorax: epidemiology, pathophysiology and cause. Eur Respir Rev. 2010;19(117):217-219. PMID: 20956196.