滑液包炎 Bursitis
滑液包炎(bursitis)は、関節周囲に存在する滑液包が炎症を起こす疾患で、摩擦や圧迫、感染、結晶沈着などが原因となります。滑液包は筋肉や腱、骨の間に存在し、摩擦を軽減するクッションのような役割を果たしています。
滑液包炎の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因 | 繰り返しの摩擦・圧迫、外傷、感染(化膿性)、痛風や偽痛風(結晶性) |
| 好発部位 | 肩(肩峰下滑液包)、肘(肘頭滑液包)、膝(膝蓋前滑液包、鵞足滑液包)、股関節(腸恥滑液包、転子部滑液包)、足首 |
| 症状 | 局所の腫脹、熱感、圧痛、可動域制限、時に発赤や発熱 |
| 診断 | 視診・触診、超音波、MRI、穿刺による滑液検査(感染・結晶の有無) |
| 治療 | 安静、NSAIDs、アイシング、穿刺排液、ステロイド注射、感染時は抗菌薬、難治例では滑液包切除術 |
滑液包炎の分類
急性滑液包炎:外傷や過負荷による炎症。腫脹・熱感が強く、可動域制限を伴う。慢性滑液包炎:繰り返す刺激により滑液包が肥厚・線維化。腫瘤感が主体で痛みは軽度。
化膿性滑液包炎:細菌感染による。発赤・発熱・強い圧痛を伴い、緊急対応が必要。
結晶性滑液包炎:痛風(尿酸)や偽痛風(ピロリン酸カルシウム)による炎症。
関節包と交通する滑液包の代表例
| 関節 | 滑液包 | 関節包との交通 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 肩関節 | 肩甲下滑液包(subscapular bursa) | あり | 肩甲下筋腱と関節包の間に位置し、関節腔と交通することが多い |
| 〃 | 結節間溝部の上腕二頭筋長頭腱周囲滑液包 | あり | 関節腔と連続しており、滑液が流入する |
| 〃 | 肩峰下滑液包(subacromial bursa) | 通常は交通しないが、腱板断裂などで交通することがある | 三角筋下滑液包と交通することが多い |
| 股関節 | 腸恥滑液包(iliopectineal bursa) | 約15%で関節包と交通 | 股関節前面の滑液包で、腸腰筋下に位置 |
| 膝関節 | 半膜様筋滑液包 | 一部で関節腔と交通 | Baker嚢胞の形成に関与することもある |
| 〃 | 膝蓋下滑液包(深部) | 通常は交通しないが、炎症時に交通することがある | 滑膜炎や関節液貯留で拡張することがある |
肩甲下滑液包は、関節包の前方に位置し、関節液が滑液包に流入することで腫脹が見られることがあります。これは腱板損傷や滑膜炎の指標にもなります。
Baker嚢胞(膝窩嚢胞)は、膝関節腔と半膜様筋滑液包の交通によって形成される代表的な例です。
交通の有無はMRIや超音波での描出が有用で、滑液の貯留パターンや関節内病変の評価に役立ちます。
関節包と滑液包が交通することによる主な問題点
1.関節内炎症の波及 関節炎(例:関節リウマチ、感染性関節炎)により関節液が増加すると、交通している滑液包にも炎症性滑液が流入し、滑液包炎を併発することがあります。 例:腸恥滑液包炎、肩甲下滑液包炎など。 2.滑液包の腫脹・嚢胞化 関節液の圧力が高まると、滑液包が二次的に腫大し、**嚢胞(滑膜嚢胞)**として触知されることがあります。例:Baker嚢腫(膝関節と半膜様筋滑液包の交通による) 3.感染の拡大 関節内感染が滑液包に波及する、あるいはその逆もあり得るため、感染性滑液包炎では関節内感染のリスクも考慮する必要があります。 4.診断の混乱 MRIや超音波で滑液包の腫脹が見られた場合、それが関節由来か滑液包原発かの鑑別が難しいことがあります。特に腱板断裂後の肩峰下滑液包の腫脹などでは、関節腔との交通が診断の鍵になります。 5.治療方針への影響 滑液包が関節包と交通している場合、滑液包単独の治療では不十分で、関節内の病態への対応が必要になることがあります。
Baker嚢胞(膝窩嚢胞)は、約50〜70%の症例で膝関節包と交通していると報告されています。この交通は通常、半膜様筋と腓腹筋内側頭の間にある滑液包を介して行われ、関節液が一方向に流れ込む「チェックバルブ機構(valve-like effect)」を形成します。
この構造により、関節内圧が高まると滑液が嚢胞内に流入しやすくなり、嚢胞の腫大や再発の原因となります。逆に、嚢胞内圧が高くなっても関節腔へは戻りにくいため、自然消退しにくいという臨床的な問題点があります。
参考:『リウマチ病学テキスト 改訂第3版』 / 『関節のMRI 第3版』 / 『関節エコー』 / 『整形外科医のための股関節のスポーツ診療のすべて』 / 『変形性股関節症 診療ガイドライン2024』