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整形外科 外科
リハビリテーション科

ハムストリングス損傷 hamstrings injuries

 太ももの裏にある筋肉群(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)を総称してハムストリングスといいます。いずれも坐骨結節から始まります。(大腿二頭筋のみ短頭は大腿骨粗面、長頭は坐骨結節)。停止部は大腿二頭筋が腓骨頭、半腱様筋は脛骨粗面に鵞足となり付着、半膜様筋は脛骨内側顆〜深鵞足となります。いずれも作用は膝関節を曲げたり股関節を伸ばします。

 ハムストリングスの損傷は、股関節を曲げた状態で膝を進展する動作で起こりやすいです。基本的には肉離れとなり状況により部分断裂、完全断裂となります。

 治療は超早期はRICEを行います。その後、受診して頂いて超音波断層撮影やMRIなどを用いて診断を行い、受傷程度により治療方針を決定します。軽いものでしたら一週間程度の局所安静で治ります。腫れや内出血、強い痛みが伴う場合は、1−3ヶ月程度かかります。さらに完全断裂となると手術が必要なケースもあります。

 保存的治療はケースバイケースで個別の症状程度にあわせて運動開始時期、リハビリメニューを決めていきます。治っていないのに無理をすると更に悪化して時間が余計にかかりますのでご注意ください。

 ハムストリング損傷を起こす人は体が硬く、もともとハムストリングスがタイトになっています。再発予防のためにも適切なストレッチを行うことが重要です。予防のためのストレッチも指導します。
 
  
 奥脇のMRIによるハムストリング肉離れの重症度分

 奥脇の最近の著書(筋損傷の画像診断 MRIによる分類と実践)より、肉離れのMRIによる重症度分類は、「損傷型+損傷度」によって判断する。

JISS分類:損傷型

 T型:出血型(筋線維部損傷型) 筋線維部の出血、浮腫所見のみ。腱・腱膜部に損傷無く、筋肉内または筋間(筋膜)の出血 
       保存治療、競技復帰は1-2週間

 II型:筋腱移行部損傷型 筋腱移行部での損傷もしくは途絶像 
       保存治療、競技復帰は4-12週間(平均6週間)

 III型:筋腱付着部損傷型 付着部付近での腱性部断裂、または腱付着部での裂離損傷 手術も考慮
       12週以上

 頻度はI,IIが同程度で、IIIは数%。

JISS分類:損傷度(MRI冠状断面像での最大損傷部の横断面像で評価)

 1度:僅かな損傷
 2度:部分断裂
 3度:完全断裂

(型の判別には、受傷直後のストレッチ痛が決め手となります。明らかなストレッチ痛があれば、II型以上が疑われます。MRIは確定診断に有効で可及的にMRIを行うようにします。)

 保存的治療はI、II型に対して行われますが、スポーツの復帰期間が大きく異なります。II型でも受傷3週間ほどで痛みやストレッチ痛が改善してきますが、損傷した筋腱移行部の再構築は十分ではなく、この時期に運動復帰すると再断裂を起こし易く、  I型とI型Iの判別はしっかりと行う必要があります。可能であればMRIを行います。MRIは受傷24時間以内に行う方が、受傷程度、範囲を明確にしやすいとされています。
 
 肉離れはハムストリングが40%と多く、下腿三頭筋が次いで多く見られます。若者はハムストリングの損傷が多く、中高年は下腿三頭筋に多いとされます。

 ハムストリングの損傷は、陸上などの疾走時の損傷は遠位に多く、転倒やバレエ、ダンス、チアリーディング、新体操などの筋肉の生理的な限界を超える張力がかかる場合は坐骨結節近傍で起こりやすい。前者をスプリントタイプ、後者をストレッチタイプといい、ストレッチタイプの方が治療に時間がかかるとされています。

■治療

 受傷直後から48時間(急性期)はRICEを行います。(局所の安静、アイシング、圧迫、患部挙上)
 血腫が液状であれば、穿刺し吸引します。穿刺吸引時に生理食塩水を少量注入して吸引しやすくする方法もあります。液状である期間はとても限られています。多くの場合はすでに凝固して寒天状になっています。出血が塊では無く、びまん性に筋肉内に広がるケースでは、骨化性筋炎を起こし易いと言われています。びまん性出血の場合は、吸引は困難ですので保存的に経過をみます。早期に無理な可動域訓練を行うと骨化を促進しますので愛護的な治療が必要です。

 ・一部の医療機関では凝固して吸引が困難と判断されるものに対して、ウロキナーゼを注入し1−数日後に再度穿刺する血腫溶解穿刺吸引法を行っています。一般的な普及はしていません。(保険外治療)・・・当院では行っていません。

 奥脇の分類でTypeIIIは手術も考慮します。ハイアスリートの場合で、併走筋での代償が効かない場合、筋出力の比重が高い腱性部での断裂、付着部損傷(大胸筋遠位付着部損傷、ハムストリング近位付着部の総腱損傷)などは手術を検討します。(半膜様筋腱のみの近位付着部損傷は保存的でも可。半腱様筋と大腿二頭筋長頭腱の共同腱のIII度損傷は手術が必要となることが多い。両者の鑑別は、前者がSLR(straight-leg-raising test)テストで患肢の方が上がりにくく、後者は健側より抵抗なく上がる)
 
*鼡径部痛症候群の一部が腸腰筋の肉離れで生じていることがあります。発症早期にMRIで診断します。2-3週間経つとMRIで発見できないことも多い。

■最新のリハビリ

 受傷数日後の急性期が過ぎて痛みが軽減してきたら、痛くない範囲でエキセントリック(遠心性収縮)トレーニングを開始します。これにより復帰期間が半分近くになると言われています。エキセントリックとは筋肉に負荷を掛けながら関節を伸ばす訓練です。
 ハムストリング肉離れの場合
 ・the extender 臥位にて患肢を90度まで屈曲し膝を伸展する
 ・the diver 患肢で片足立ちをして上半身を前に倒し股関節を屈曲する

 
・the glider 健側の足を後ろに滑らせるように開いていく
 いずれも痛みが出ない範囲内で徐々に行う


→遠心性筋力の低下が再発を起こしやすいとされており、こういった運動は予防にもつながる。

■MRIにおける治癒課程の変化

 TypeI,IIは保存的に治療。

 Phase1:受傷〜血腫の吸収、消退→損傷筋の安静
 Phase2:線維性瘢痕組織形成と腱性組織の再生→自動でのストレッチと無負荷もしくは自重までの求心性収縮
 Phase3:力学的強度の回復:他動のストレッチング〜求心性収縮負荷〜遠心性収縮負荷
 〜治癒

 中嶋によると、上記Phase1,2,3はほぼ等間隔で一週間程度で血腫が消失していれば、Phase2=1週間、Phase3=1週間の計3週間、Phase1が三週間要した場合、計9週間の治療期間を見込むとしています。

■復帰の目安

 Askling -test 臥位で患肢を急速に挙上させるテスト

 
本日のコラム183 ハムストリングス損傷

 ハムストリングスは、膝窩部に停止する5つの筋を意味します。

 内側ハムストリングス:薄筋、縫工筋、半腱様筋、半膜様筋
 外側ハムストリングス:大腿二頭筋

 大腿二頭筋:起始は長頭が坐骨結節、短頭は大腿骨粗線外側唇、停止は腓骨頭
 半腱様筋:起始は坐骨結節、停止は脛骨鵞足
 半膜様筋:起始は坐骨結節、停止は脛骨内側顆

 損傷には二種類。
  1.sprinting type:高速ランニング、過度の求心性収縮:大腿二頭筋損傷

  2.slow stretch type:キック、スライディング、ハードルなど 過度の遠心性収縮:半腱様筋の近位部損傷

 その他の要因:左右のアンバランス、大腿四頭筋とのバランスの崩れ(四頭筋6、ハムストリングス4が正常)

 重症度判定:streight leg raising test (SLT)で重症ほど、挙上角度が小さい。
  *スポーツ復帰に関して、急性損傷での初期の血腫の大きさ(MRI、エコ−)は関係が無いとされる。
  *血腫が坐骨結節に近いほどスポーツ復帰は遅らせるべき。
  
 スポーツ復帰の目安:SLTで左右差なし。エコーで血腫が十分吸収している。通常1-6ヶ月。