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整形外科 外科
リハビリテーション科
肉離れ  pulled muscle

本日のコラム606 奥脇のMRIによるハムストリング肉離れの重症度分

※注(池田)
 重症度分類はハムストリングが主で、他の部位に関してJISS分類を準用し、なおかつ経験則に頼っている部分がまだまだ多いのが現状です。


奥脇の最近の著書(筋損傷の画像診断 MRIによる分類と実践)より、肉離れのMRIによる重症度分類は、「損傷型+損傷度」によって判断するとしている。受傷時の重症度判定にMRIを行い、経過もMRIでみるといった方法が推奨されていますが、すべての肉ばなれに行うのには医療コスト的に難かしい。超音波検査はMRIより低コストですが、JISS分類のようなものがないので、個々の判断となります。

JISS分類損傷型

T型:出血型(筋線維部損傷型) 筋線維部の出血、浮腫所見のみ。腱・腱膜部に損傷無く、筋肉内または筋間(筋膜)の出血。保存治療、競技復帰は1-2週間
 (1週間)

II型:筋腱移行部損傷型 筋腱移行部での損傷もしくは途絶像。保存治療、競技復帰は4-12週間(平均6週間)
 (JISS分類 1度2.0週、2度6.4週、3度9.8週)

III型:筋腱付着部損傷型 付着部付近での腱性部断裂、または腱付着部での裂離損傷 手術も考慮。復帰は12週以上
 頻度はI,IIが同程度で、IIIは数%。
 (JISS分類2,3度には手術必要なケースが含まれる。保存療法は4ヶ月掛けて復帰を目指す)
JISS分類:損傷度(MRI冠状断面像での最大損傷部の横断面像で評価)

それぞれの損傷型に対して、軟部組織損傷に準じて3段階に重症度(Grade)分類する
1度:僅かな損傷
2度:部分断裂
3度:完全断裂


 MRI分類  部位  1度(僅かな損傷)  2度(部分断裂)  3度(完全断裂)  治療期間への関与
T型  出血型(筋線維部損傷型)  保存1週  保存3-4週  保存4-6週  高信号領域の大きさ
 II型  筋腱移行部損傷型  保存2.0週  保存6.4週  保存9.8週  腱膜の途絶の長さ
 III型  筋腱付着部損傷型  保存  保存4ヶ月・手術検討例あり  保存4ヶ月・手術検討例あり  
 ※型の判別には、受傷直後のストレッチ痛が決め手となります。明らかなストレッチ痛があれば、II型以上が疑われます。MRIは確定診断に有効で可及的にMRIを行うようにします。)

 保存的治療はI、II型に対して行われますが、スポーツの復帰期間が大きく異なります。II型でも受傷3週間ほどで痛みやストレッチ痛が改善してきますが、損傷した筋腱移行部の再構築は十分ではなく、この時期に運動復帰すると再断裂を起こし易く、I型とII型の判別はしっかりと行う必要があります。可能であればMRIを行います。MRIは受傷24時間以内に行う方が、受傷程度、範囲を明確にしやすいとされています。
 
 肉離れはハムストリングが40%と多く、下腿三頭筋が次いで多く見られます。若者はハムストリングの損傷が多く、中高年は下腿三頭筋に多い。

 ハムストリングの損傷は、陸上などの疾走時の損傷は遠位に多く、転倒やバレエ、ダンス、チアリーディング、新体操などの筋肉の生理的な限界を超える張力がかかる場合は坐骨結節近傍で起こりやすい。前者をスプリントタイプ、後者をストレッチタイプといい、ストレッチタイプの方が治療に時間がかかるとされています。

■治療

 受傷直後から48時間(急性期)はRICE(局所の安静、アイシング、圧迫、患部挙上)を行います。(最近はアイシングは推奨されない
 血腫が液状であれば、穿刺し吸引します。液状か塊状かは超音波で判断できます。穿刺吸引時に生理食塩水を少量注入して吸引しやすくする方法もあります。液状である期間は受傷早期に限られ、すぐに寒天のようにj固まってしまいます。従って受診時には多くの場合、すでに凝固していることが多いです。出血がびまん性に筋肉内に広がるケースでは、骨化性筋炎を起こし易いと言われています。びまん性出血の場合は吸引は困難ですので保存的に経過をみます。早期に無理な可動域訓練を行うと骨化を促進しますので愛護的な治療が必要です。早期リハビリを頑張りすぎると返って骨化性筋炎を悪化させることがあります。

 ・一部の医療機関では凝固して吸引が困難と判断されるものに対して、ウロキナーゼを注入し1−数日後に再度穿刺する血腫溶解穿刺吸引法を行っています。一般的な普及はしていません。(保険外治療)・・・当院では行っていません。

 奥脇の分類でTypeIIIは手術も考慮します。ハイレベルアスリートの場合で、併走筋での代償が効かない場合、筋出力の比重が高い腱性部での断裂、付着部損傷(大胸筋遠位付着部損傷、ハムストリング近位付着部の総腱損傷)などは手術を検討します。(半膜様筋腱のみの近位付着部損傷は保存的でも可。半腱様筋と大腿二頭筋長頭腱の共同腱のIII度損傷は手術が必要となることが多い。両者の鑑別は、前者がSLR(straight-leg-raising test)テストで患肢の方が上がりにくく、後者は健側より抵抗なく上がる)
 
*鼡径部痛症候群の一部が腸腰筋の肉離れで生じていることがあります。発症早期にMRIで診断します。2-3週間経つとMRIで発見できないことも多い。

■最新のリハビリ

 受傷数日後の急性期が過ぎて痛みが軽減してきたら、痛みが出ない範囲内でエキセントリック(遠心性収縮)トレーニングを開始します。これにより復帰期間が半分近くになると言われています。エキセントリックとは筋肉に負荷を掛けながら関節を伸ばす訓練です。
 ハムストリング肉離れの場合
 ・the extender 臥位にて患肢を90度まで屈曲し膝を伸展する
 ・the diver 患肢で片足立ちをして上半身を前に倒し股関節を屈曲する
 ・the glider 健側の足を後ろに滑らせるように開いていく
 いずれも痛みが出ない範囲内で徐々に行う

→遠心性筋力の低下が再発を起こしやすいとされており、こういった運動は予防にもつながる。

■MRIにおける治癒課程の変化

 TypeI,IIは保存的に治療。

 Phase1:受傷〜血腫の吸収、消退→損傷筋の安静
 Phase2:線維性瘢痕組織形成と腱性組織の再生→自動でのストレッチと無負荷もしくは自重までの求心性収縮
 Phase3:力学的強度の回復:他動のストレッチング〜求心性収縮負荷〜遠心性収縮負荷
 〜治癒

 中嶋によると、上記Phase1,2,3はほぼ等間隔で一週間程度で血腫が消失していれば、Phase2=1週間、Phase3=1週間の計3週間、Phase1が三週間要した場合、計9週間の治療期間を見込むとしています。

■復帰の目安
 アスリートでII型2度以上の損傷の場合、理学所見に応じて段階的に進め、スプリントや強いキックなど高負荷の運動はMRI評価で腱修復確認後に検討します。
 Askling -test 臥位で患肢を急速に挙上させるテスト


<下腿三頭筋の肉ばなれ>
 ハムストリング損傷のJISS分類に加えて、Olympic Park分類を推奨する報告もあります。(普及していない)

下腿三頭筋肉ばなれの Olympic Park分類(MRI)と復帰までの期間
   腱膜周囲の浮腫
または液状変化像
 筋原繊維の剥離像  腱膜の高輝度変化
剥離、途絶像
 腱膜の引き込まれ
破綻像
 プレー復帰
までの平均期間
 Grade0  あり  なし  なし  なし  8日
 Grade1  あり  あり  なし  なし  17日
 Grade2  あり  あり  あり  なし  25日
 Grade3  あり  あり  あり  あり  48日

 治療は原則として保存療法。早期診断、早期治療が重要。

・2023年3月時点でのまとめ

 肉ばなれは、日常生活や運動で過剰な負荷が掛かったときに起こり、よくみられる外傷です。部位ももさまざまで、また同じ筋肉でも損傷部位、すなわち腱部、筋腱移行部、筋部なのかによって治療期間も異なります。更には横断面での損傷の広がりによっても左右されます。スポーツ特有の部位の肉ばなれがみられます。
 
本日のコラム573 肉離れ

 肉離れもきちんと調べると以下のような画像となります。左側MRI、右側:超音波
MRIは重症度が高い場合や他の疾患との鑑別に使います。超音波は動的に診ることができ、また経時的な変化も追えますので有り難いです。
圧痛がなくなり超音波で元通りの画像になれば、もとの運動も再開できます。