2025-11-12 JST
胸鎖関節疾患 sternoclavicular joint disorders
胸鎖関節痛の鑑別・診断・治療には、(1)原因疾患の幅広い想定、(2)問診・視触診+画像・血液検査による分類、(3)保存的治療を基本とし、明らかな損傷・変性・感染・脱臼などには専門的治療が必要、という流れをとるのが標準的です。
鑑別(原因・考慮すべき疾患)
主な鑑別疾患としては以下があります。
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外傷関連:靭帯損傷(捻挫)、亜脱臼・脱臼(前方・後方)
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変性・関節症:胸鎖関節の変形性関節症(年齢・使用因子)
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炎症性・関節リウマチ系:例えば 強直性脊椎炎 やその他の体軸関節炎における胸鎖関節関与。
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感染性:化膿性胸鎖関節炎(まれですが重大)
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その他:SAPHO症候群(胸鎖関節部位を含みうる)/Tietze症候群(胸壁・肋軟骨領域ですが胸鎖近傍を含むことあり)
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胸郭出口症候群や鎖骨周囲筋・靭帯関連の肩甲帯痛との鑑別も考慮される。
問診・理学所見
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鎖骨胸骨端(胸鎖関節部)の圧痛・腫脹・可動性異常を確認。
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外傷歴・激しいスポーツ・肩・胸部の衝撃の有無。
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発熱・炎症兆候(感染を疑う)・他関節症状(関節リウマチ・体軸関節炎を疑う)・皮膚症状(膿疱/乾癬などSAPHO関連)を確認。
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可動域・肩甲帯・鎖骨・胸骨の動き・神経血管症状(後方脱臼で血管・気道圧迫の危険)を評価。
画像検査
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単純X線:骨端部・関節裂隙の評価。
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CT/3DCT:変性・骨棘・骨融解・脱臼疑い時に有用。
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MRI:靭帯・軟部組織・滑膜・関節内変化の評価。
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骨シンチグラフィー:SAPHO症候群など骨変化を捉えるのに用いられることあり。
血液・その他検査
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炎症マーカー(CRP, ESR)、白血球数:感染または炎症性疾患を疑う場合。
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リウマトイド因子・抗CCP抗体・HLA-B27等:体軸関節炎を疑う場合。
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関節穿刺:感染疑い時、膿・細菌培養を行う。
治療
保存的治療が第一選択
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安静・活動制限・肩掛け・鎖骨支持ベルトやスリング利用。
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NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)・アイシング・温熱療法。
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関節内ステロイド注射:変性・炎症性の場合に選択されうる。
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物理療法・リハビリテーション:可動域回復・肩甲帯筋強化。
専門的/手術的治療
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外傷(特に後方脱臼)では緊急整復+手術的固定が必要。
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変性性関節症で保存的治療無効例:鎖骨末端切除術など手術的介入の報告あり
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感染性胸鎖関節炎:抗生物質治療+外科的ドレナージ・洗浄。
注意点
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後方脱臼では気道・大血管・食道圧迫のリスクがあるため、整形・胸部外科・血管外科などの協力が必要です。
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高齢者の変性関節症では多関節変性を伴うことあり、胸鎖関節単独とは限らない。
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炎症性疾患(SpA, SAPHO等)では全身病変・皮膚症状・他関節症状の確認が必要。
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感染性の場合、進行が早く重大合併症を来すことがあるため、早期診断・治療が重要。
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日本内での「胸鎖関節炎」の報告は少なく、臨床的認知度が低いため、見落としに注意。
【出典】
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長沢謙次.「2.肩関節:胸鎖関節炎の診断と治療」別冊整形外科 Vol 43, Issue 86, 101-104 (2024).
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StatPearls. Sternoclavicular Joint Injury. NBK507894.
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OrthoInfo – AAOS. Sternoclavicular (SC) Joint Disorders.
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化膿性胸鎖関節炎を呈した3例. 西日本整形・災害外科学会誌 74(2) 217-.
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日本皮膚科学会「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」.
【現在日付】
2025-11-14 JST
【結論】
胸鎖関節は外傷・変性・炎症性疾患・特殊炎症性骨関節疾患(SAPHO・Tietze など)のいずれも標的となりうる小関節であり、解剖学的に縦隔に近接するため、特に外傷性後方脱臼や感染性関節炎では生命予後にかかわる病態も含まれます。各疾患は、年齢・背景疾患・疼痛の性状・局所腫脹の有無・皮膚症状・他関節病変の有無と、X線/CT/MRI/骨シンチ/超音波といったモダリティ別の画像所見を組み合わせて鑑別する必要があり、画像単独での確定診断が困難なケースも多く、臨床情報と総合した評価が必須です。
1. 外傷関連:靱帯損傷(捻挫)・亜脱臼・脱臼(前方・後方)
1-1 疫学・発生機序
胸鎖関節脱臼は肩周囲外傷の中でも頻度は低いが、発生すれば前方脱臼が大部分であり、後方脱臼は少数ながら縦隔損傷を伴い得る高リスク病態とされています。(MDPI)
機序としては、(1) 肩甲帯への直接外力(肩を後方へ押し付ける力)で前方脱臼、(2) 肩を前上方へ押し込むような外力で後方脱臼、(3) 軽微外傷や反復過使用で関節包・靭帯の部分損傷(いわゆる胸鎖関節捻挫)や亜脱臼が生じます。
1-2 病態・組織学
胸鎖関節は鞍状関節で、関節円板・前後関節包靭帯・肋鎖靭帯・間鎖骨靭帯によって安定化されています。後方関節包と肋鎖靭帯が特に強固で、これが前方脱臼の頻度が高い解剖学的背景とされています。(SpringerOpen)
捻挫ではこれらの靭帯の部分断裂や伸長、亜脱臼・脱臼では靭帯の完全断裂と関節円板の損傷を伴うことが多いとされています。
1-3 典型的症状
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捻挫・亜脱臼
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胸鎖関節部の局所圧痛、腕挙上時や肩帯運動時の疼痛。
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明らかな変形は乏しいが、軽度の腫脹や不安定感を訴える場合がある。
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前方脱臼
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胸鎖関節部前面の明らかな膨隆と圧痛。
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肩の可動域制限と動作時痛。
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後方脱臼
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視診上の膨隆は乏しく、むしろ胸鎖部の陥凹。
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嚥下困難、呼吸困難、嗄声、上肢のしびれなど縦隔・血管・神経圧迫症状が出現しうる。
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1-4 身体所見
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局所圧痛、発赤、腫脹の有無。
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鎖骨内側端の位置異常(前方突出あるいは後方陥凹)。
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上肢挙上・水平内転で疼痛の増悪。
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後方脱臼が疑われる場合は、気道狭窄音、上大静脈症候群様所見、神経学的異常(腕神経叢)を必ず確認する。
1-5 画像所見
X線
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正面像に加え、serendipity view(頭尾方向からの 40° 斜入)など特殊撮影で脱臼方向の把握が試みられるが、縦隔構造との重なりにより診断能は限定的とされる。
CT
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現在、胸鎖関節外傷評価の第一選択モダリティとされ、脱臼方向・骨折の同定、縦隔臓器との位置関係の評価に必須とされています。
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3D 再構成により、前方/後方脱臼、骨片の位置、肋鎖靭帯付着部骨折(bony avulsion)の評価が可能。
MRI
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靭帯・関節包・関節円板の損傷、骨挫傷、骨髄浮腫を描出し、特に亜脱臼や捻挫など X線・CT で目立たない軟部組織損傷の評価に有用です。
超音波
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関節周囲の腫脹・関節包膨隆・関節血腫を bedside で評価可能ですが、脱臼方向や縦隔評価には限界があります。
1-6 治療(概要)
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捻挫・軽度亜脱臼:安静・肩関節固定・鎮痛・リハビリを中心とする保存的治療が検討され、長期予後は概ね良好とする報告が多い。
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前方脱臼:閉鎖整復+固定が一般的に検討されるが、慢性前方脱臼でも機能障害が軽微な場合には保存的に経過観察されることも多いとされています。
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後方脱臼:縦隔損傷リスクが高いため、CT による評価の上で緊急の整復(閉鎖あるいは観血)を検討する必要があるとされています。
いずれも具体的治療方針は症例ごとに異なり、「専門家による判断・確認が推奨」となります。
2. 変性・関節症:胸鎖関節変形性関節症(OA)
2-1 疫学・発生部位
CT を用いた検討では、胸鎖関節 OA の頻度は加齢とともに増加し、50–60 歳以降で変性変化が高率にみられると報告されています。
利き手側や反復上肢挙上を伴う職業(重量物運搬、スポーツ)で負荷側優位に変化を認める傾向がありますが、左右差の程度については報告によりばらつきがあります。
2-2 病態・組織学
関節軟骨の摩耗、関節裂隙の狭小化、辺縁骨棘形成、骨硬化、時に関節周囲の肥厚と滑膜炎を伴います。肋鎖靭帯付着部の骨化など、エンテソパチー様変化を伴うこともあります。(RSNA Pubs)
2-3 典型的症状
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胸鎖関節部の鈍い痛み・こわばり、特に腕挙上・水平内転・寝返り動作で増悪。
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局所に軽度の膨隆や圧痛を自覚することがある。
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夜間痛よりも日中の使用時痛が目立つことが多い。
2-4 身体所見
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胸鎖関節上の限局した圧痛、軽度の骨性膨隆。
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肩関節や頚椎運動で同部痛が誘発されることが多く、肩関節・頚椎疾患との鑑別が必要。
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炎症性腫脹が乏しく、発赤や発熱を伴わないことが一般的。
2-5 画像所見
X線
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関節裂隙狭小化、辺縁骨棘、皮質骨硬化、時に関節周囲の骨増生。
CT
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X線より高感度に骨棘・骨硬化・嚢胞性変化を描出し、年齢別の変性頻度の評価にも用いられています。
MRI
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軟骨菲薄化、骨髄浮腫様変化(modic 様変化)、関節水腫・滑膜炎を描出し、変性と炎症性関節炎(RA・SpA など)の鑑別に有用とされますが、完全な鑑別は困難な場合もあります。
超音波
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関節裂隙の狭小化、骨棘、関節液貯留や滑膜肥厚を描出しうるとされ、ベッドサイドでの評価に有用です。
2-6 治療(概要)
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まずは活動量調整、鎮痛薬、温熱、理学療法など保存的治療が検討されます。
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難治例ではステロイド関節内注射や、極めて稀に鎖骨内側端切除(resection arthroplasty)が報告されていますが、エビデンスは症例報告レベルにとどまります。
3. 炎症性・関節リウマチ系:強直性脊椎炎・その他体軸性脊椎関節炎・関節リウマチなどの胸鎖関節病変
3-1 疫学・発生頻度
強直性脊椎炎(AS)や乾癬性関節炎などの体軸性脊椎関節炎では、仙腸関節・脊椎に加えて胸鎖関節を含む前胸壁関節がしばしば侵されます。報告により頻度は異なるものの、MRI
研究では AS・体軸性脊椎関節炎の一部で胸鎖関節炎・骨髄浮腫を高頻度に認めています。
若年性特発性関節炎(JIA)や関節リウマチ(RA)でも胸鎖関節関与が報告されており、末梢関節病変とともに認められることが多いとされています。
3-2 病態・組織学
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体軸性脊椎関節炎:主として骨付着部(エンテシス)の炎症(enthesitis)、滑膜炎、骨髄炎症(osteitis)が主体で、進行すると軟骨破壊・骨新生・強直へ至ります。
-
RA・JIA:滑膜炎とパンヌス形成による軟骨破壊・骨びらんが主体であり、典型的な RA の病理像を胸鎖関節に反映します。
3-3 典型的症状
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安静時痛・夜間痛・朝のこわばり。
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前胸部(胸骨柄〜胸鎖部)の深部痛、呼吸や上肢動作で増悪。
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しばしば腰背部痛、仙腸関節痛、末梢関節痛、臀部交代性痛などを伴う。
3-4 身体所見
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胸鎖関節部の圧痛・腫脹。
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胸郭拡張の低下、SpA では Schober テストや occiput-to-wall distance の異常を伴い得る。
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乾癬、指趾炎、ブドウ膜炎、炎症性腸疾患などの全身所見の検索が重要。
3-5 画像所見
X線
-
関節裂隙狭小化、辺縁骨びらん、骨硬化、進行例では関節の強直。
CT
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骨びらん・硬化・骨橋形成を高分解能で描出し、SAPHO や変形性関節症との鑑別に有用。
MRI
-
T1 強調像で骨髄の低信号、STIR/T2 fat-sat で骨髄浮腫、滑膜肥厚・造影効果を認め、炎症性変化の描出に最も優れるとされています。JIA における MRI と臨床所見の比較研究でも、MRI が臨床検査よりも高感度であることが示されています。
超音波
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関節液貯留、滑膜肥厚、エンテシスの血流増加(power Doppler)などを描出し、関節炎評価に有用とする報告があります。
3-6 治療(概要)
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体軸性脊椎関節炎・RA としての全身管理(NSAIDs、生物学的製剤〔TNF 阻害薬・IL-17 阻害薬など〕、csDMARD)が基本となり、胸鎖関節単独を対象とする介入は限定的です。
-
局所症状が強い場合の関節内注射などは報告されていますが、個別症例に応じた慎重な判断が必要であり、「専門家による判断・確認が推奨」です。
4. その他の疾患
4-1 SAPHO 症候群(Synovitis, Acne, Pustulosis, Hyperostosis, Osteitis)
(1) 疫学・発生部位
SAPHO 症候群は、無菌性骨病変と特徴的皮膚病変(重症痤瘡・掌蹠膿疱症など)を特徴とする炎症性疾患であり、前胸壁、とくに胸鎖・胸肋・胸骨柄周囲の病変が非常に高頻度とされています。前胸部骨関節病変は SAPHO の 60–90% に認められるとの報告があります。
(2) 病態・組織学
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無菌性骨髄炎様の骨炎(osteitis)、皮質肥厚(hyperostosis)、エンテシスおよび滑膜の炎症(enthesitis, synovitis)が複合して存在します。
(3) 典型的症状
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前胸壁(胸鎖関節〜第 1–2 肋骨付近)の慢性疼痛・腫脹。
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再燃・寛解を繰り返す経過。
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掌蹠膿疱症・重症痤瘡などの皮膚病変を高率に合併。
(4) 身体所見
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胸鎖関節〜胸骨柄の骨性膨隆・圧痛。
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皮膚病変(掌蹠膿疱・ざ瘡様皮疹)の確認が診断上極めて重要。
(5) 画像所見
X線
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胸骨柄・鎖骨内側端・第 1 肋骨近位部の骨肥厚・硬化、時に骨びらん。
CT
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皮質肥厚、骨硬化、骨びらんと関節周囲の hyperostosis を明瞭に描出し、SAPHO の前胸部病変の評価に最も感度が高いとされています。
骨シンチ
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胸骨柄と両側胸鎖関節部の集積が牛の頭に類似する “bull’s head sign” は SAPHO に特徴的な所見とされています。
MRI
-
T1 低信号/T2・STIR 高信号の骨髄浮腫、骨皮質の不整、周囲軟部組織の炎症を描出し、活動性評価に有用です。
(6) 治療(概要)
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NSAIDs、ビスホスホネート、一部で生物学的製剤(TNF 阻害薬など)が検討されており、無作為比較試験は乏しいものの、症例シリーズで一定の効果が報告されています。
4-2 Tietze 症候群(Tietze syndrome)
(1) 疫学・発生部位
Tietze 症候群は、胸壁の限局性腫脹と疼痛を特徴とする良性・非化膿性炎症であり、多くは第 2・3 肋軟骨の胸肋・肋軟骨接合部に単発性に生じますが、胸鎖関節も病変部位となりうることが報告されています。
(2) 病態・組織学
軟骨および周囲軟部組織の非特異的炎症であり、組織学的には軟骨基質の変性と軟骨下骨の反応性変化が報告されていますが、特異的な病理所見は乏しいとされています。
(3) 典型的症状
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急性〜亜急性発症の胸壁痛。
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痛みの部位に一致した明瞭な腫脹があり、触診で強い圧痛。
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多くは単関節性で、安静で軽快し、数週間〜数ヶ月で自然寛解することが多いとされています。
(4) 身体所見
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胸肋・肋軟骨・胸鎖部の限局性腫脹と圧痛。
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発赤・熱感は軽度〜中等度で、全身状態は良好なことが多い。
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心血管・肺疾患との鑑別のため、心音・呼吸音・バイタルサインの確認が重要。
(5) 画像所見
X線
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多くは明らかな異常を示さない。
超音波
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軟骨の肥厚、周囲の軟部組織腫脹、血流増加を描出しうる。
MRI
-
肋軟骨・胸肋関節・胸鎖関節の T2/STIR 高信号、造影により軟骨および周囲軟部組織の増強がみられ、炎症の局在同定に有用です。
PET-CT
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認められれば軽度〜中等度の FDG 集積を示し、時に悪性腫瘍との鑑別が問題となることが報告されています。
(6) 治療(概要)
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多くは保存的治療(安静、NSAIDs 等)で自然寛解を期待できる良性疾患です。
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持続的・再発性の症例では局所注射やその他の介入が検討されることがありますが、エビデンスは症例報告レベル。
5. 化膿性胸鎖関節炎(Septic Sternoclavicular Arthritis)
5-1 疫学・危険因子
胸鎖関節は全身の化膿性関節炎の 1% 未満だが、免疫抑制・糖尿病・透析・静注薬物使用(IVDU)・中心ライン感染などで発症率が上昇する。
40–60 歳代に多く、病歴に明らかな外傷がないこともしばしばある。
典型的菌種:Staphylococcus aureus(MRSA を含む) が最多、次いで Streptococcus、Pseudomonas(特に IVDU)など。
5-2 病態・組織
血行性感染が主体で、胸鎖関節の滑膜炎 → 関節破壊 → 骨髄炎 → 前胸壁膿瘍、さらに縦隔炎(mediastinitis)へ波及する危険がある。
5-3 典型的症状
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胸鎖関節部の急性発赤・腫脹・熱感・強い圧痛
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発熱・全身倦怠感
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上肢挙上・胸郭運動で疼痛増悪
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進行例では嚥下痛、呼吸困難、縦隔炎症状(胸痛・発熱の増悪)
5-4 身体所見
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明瞭な関節腫脹と発赤
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膿瘍形成時は波動
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皮膚の菲薄化、蜂窩織炎の広がり
-
バイタル悪化(敗血症徴候)が重要
5-5 画像所見(modality 別)
● X線
初期は正常であることが多い。進行例では関節裂隙の破壊、骨びらん、骨欠損。
● CT(第一選択)
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関節破壊、骨びらん、骨皮質の欠損
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前胸壁膿瘍・液体貯留
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縦隔に及ぶ感染の広がり(mediastinitis)
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胸骨柄・鎖骨内側端の骨髄炎像
→ もっとも有用なモダリティ。
● MRI
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T2/STIR 高信号の骨髄浮腫(骨髄炎)
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関節内膿の高信号
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滑膜炎、周囲軟部組織炎症
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造影で膿瘍壁のリング状増強
→ 早期診断に最も鋭敏。
● 超音波
関節液貯留・膿瘍の局在描出に有用だが、縦隔評価は困難。
5-6 治療(概要)
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抗菌薬(菌種に応じた適切な抗菌薬投与)
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膿瘍形成・縦隔炎を伴う場合は外科的ドレナージ
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骨破壊・持続感染では胸鎖関節切除(resection arthroplasty)も報告あり
※いずれも症例特異性が高く、感染症科・整形外科の専門家による判断が強く推奨。
6. 腫瘍性病変(原発・転移)
6-1 疫学・分類
胸鎖関節〜胸骨柄・鎖骨内側端は腫瘍の原発も転移も起こりうる。
特に以下を鑑別に置く必要がある:
● 原発性腫瘍
-
軟骨系腫瘍:軟骨肉腫(chondrosarcoma)
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骨系腫瘍:骨肉腫、Ewing 肉腫(稀)
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良性腫瘍:骨軟骨腫、内軟骨腫など(胸鎖部位では稀)
● 転移性腫瘍(胸骨・鎖骨転移が胸鎖関節に及ぶ)
乳癌、肺癌、甲状腺癌、腎癌、前立腺癌などの骨転移が胸骨柄〜鎖骨内側端に発生しうる。
6-2 病態・組織
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軟骨肉腫:軟骨基質産生、軟骨細胞の異型増生
-
転移性腫瘍:溶骨性(多くの固形癌)、造骨性(前立腺癌)
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いずれも関節破壊を伴い、胸鎖関節腫脹の原因となる
6-3 典型的症状
-
胸鎖部の持続痛(安静時痛/夜間痛を含む)
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徐々に増大する腫瘤
-
炎症所見が乏しいことが多い
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全身症状(体重減少、寝汗、原発がんの症状)が手掛かりとなる
6-4 身体所見
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骨性硬結、圧痛
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皮膚浸潤・局所熱感は腫瘍では比較的乏しい
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リンパ節腫大(特に鎖骨上窩)
6-5 画像所見(modality 別)
● X線
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溶骨性または造骨性変化
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骨皮質の破壊
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関節輪郭の不整
● CT
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腫瘍の石灰化(軟骨肉腫の ring-and-arc calcification)
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骨皮質破壊の評価
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胸骨・鎖骨内側端への浸潤範囲の同定
● MRI
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T1 低信号、T2 高信号腫瘤(多くの腫瘍に共通)
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造影で不均一な増強
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軟部組織浸潤の範囲評価に最も優れる
● PET-CT
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高集積(SUV 高値)が多い
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原発不明がんの同定に有用
6-6 治療(概要)
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軟骨肉腫:広範切除が標準
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転移性腫瘍:原発癌の治療方針に準じる(放射線治療の適応が多い)
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病的骨折・脆弱性がある場合の固定術も検討対象
→ すべて腫瘍整形外科・腫瘍内科の専門家判断が必須。
5. 主な胸鎖関節疾患の比較表(概要)
| 疾患群 | 発症様式 | 疼痛 | 局所腫脹 | 発熱 | 全身症状 | X線 | CT/MRI の特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 外傷(捻挫・脱臼) | 急性外傷 | 運動時痛 | 前方膨隆/後方陥凹 | なし | なし | 脱臼方向不明瞭なことあり | CT で方向判定、MRI で靱帯損傷 |
| OA | 慢性 | 使用時痛 | 骨性膨隆 | なし | なし | 骨棘・狭小化 | CT で変性評価、MRI で骨髄浮腫 |
| RA/SpA | 亜急性〜慢性 | 安静時痛・朝のこわばり | 関節腫脹 | 時にあり | 乾癬・ぶどう膜炎など | びらん・強直 | MRI で骨髄浮腫・滑膜炎 |
| SAPHO | 慢性再燃 | 前胸壁痛 | 骨性膨隆 | 軽度 | 皮膚症状 | 骨硬化・肥厚 | CT:hyperostosis、骨シンチ:bull’s head sign |
| Tietze | 急性〜亜急性 | 局所痛 | 明瞭な軟部腫脹 | 軽度 | なし | 多くは正常 | MRI:軟骨・軟部炎症 |
| 化膿性関節炎 | 急性 | 強い圧痛・自発痛 | 発赤・腫脹・熱感 | 高頻度 | 倦怠感 | 初期は正常 | CT:破壊/膿瘍、MRI:骨髄炎 |
| 腫瘍(原発/転移) | 進行性 | 夜間痛・持続痛 | 硬い腫瘤 | まれ | 体重減少等 | 溶骨/造骨性変化 | MRI:腫瘍浸潤、PET:高集積 |
【注意点・例外】
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胸鎖関節は縦隔に極めて近接しており、後方脱臼・化膿性関節炎・腫瘍性病変では大血管・気道・食道・縦隔臓器への波及リスクがあるため、呼吸困難・嚥下障害・上肢の血流異常・神経症状を伴う場合は緊急評価が必要とされています。
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高齢者、糖尿病・免疫抑制状態・ステロイド長期内服患者では、変形性関節症と見える病変の背後に感染や転移性腫瘍が潜むことがあり、red flag 所見(発熱、炎症反応高値、体重減少など)の有無を必ず確認すべきです。
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画像所見単独では変形性関節症と炎症性関節炎(RA・SpA)、SAPHO の鑑別が困難なことが多く、**「画像所見単独では確定診断できない」**と考えるのが妥当です。臨床所見・血液検査・皮膚所見・他関節病変の情報と総合判断が必要です。
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SAPHO・Tietze 症候群はいずれも比較的稀な疾患であり、診断基準や治療方針は主として症例シリーズや観察研究に基づくもので、無作為比較試験などの高レベルエビデンスは限られています。
化膿性胸鎖関節炎
化膿性胸鎖関節炎は、胸鎖関節(sternoclavicular joint)に細菌感染が生じる稀な化膿性関節炎であり、全化膿性関節炎の1%未満と稀ですが、早期診断・治療が遅れると縦隔炎・骨髄炎・敗血症など重篤な合併症を起こします。高齢者、糖尿病、透析患者、静注薬物使用者(IVDU) で発症リスクが高く、起炎菌は 黄色ブドウ球菌(S. aureus) が最多です。
治療は原則として 抗菌薬投与(初期は静注)+必要時に外科的ドレナージまたは関節切除 が行われます。
化膿性胸鎖関節炎の主症状は、前胸部・鎖骨根部の痛み・腫脹・発赤・発熱 が主体です。
進行すると 肩の動きで痛みが増強 し、嚥下時痛や頸部運動時痛、呼吸時痛 を訴えることがあります。
炎症が縦隔や胸壁に波及すると、膿瘍形成・縦隔炎・全身発熱・悪寒戦慄・倦怠感・敗血症性ショック に至ることもあります。
-
初期は非特異的な前胸部痛のみで始まることがあり、肋間神経痛や頚椎症性放散痛と誤診されやすい。
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皮膚発赤や腫脹が明確に出るのは進行期。早期は局所熱感・圧痛だけのことも多い。
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免疫低下例・糖尿病・腎不全患者では発熱が軽微で、局所症状が主体となる場合がある。
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縦隔炎合併時には呼吸苦・胸痛・発熱・白血球増多・CRP高値が著明。
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慢性経過型(特に結核性・非定型菌性)は発熱が乏しく、骨破壊や膿瘍形成が先行する場合もある。
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Ross JJ et al. N Engl J Med. 2003;348:164–171.
→ 胸鎖関節感染の臨床像:発熱、前胸部痛、局所発赤腫脹。約75%でS. aureusが検出。 -
Bar-Natan M et al. Medicine (Baltimore). 2002;81(6):411–428.
→ 感染の経路は血行性感染が主体。糖尿病・腎不全・免疫低下・IVDUが主要リスク。 -
Ross JJ, Shamsuddin H. Medicine (Baltimore). 2004;83(2):115–125.
→ 治療は初期静注抗菌薬(ナフシリン/セファゾリン/バンコマイシン)で開始し、CTまたはMRIで膿瘍形成があれば手術的ドレナージを推奨。 -
日本感染症学会ガイドライン(2020)
→ 黄色ブドウ球菌に対してはセファゾリンまたはバンコマイシン静注、治療期間は4〜6週が一般的。
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画像診断:造影CTまたはMRIが有用で、関節内液体貯留・骨破壊・縦隔進展を評価。
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鑑別診断:胸鎖関節炎は腫瘍(転移性・滑膜性腫瘍)やSAPHO症候群(化膿性非細菌性骨関節炎)と類似するため注意。
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非典型菌(緑膿菌、結核菌など)も免疫低下例で稀に報告。
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関節穿刺または膿瘍培養で起炎菌同定が原則。培養陰性例では抗菌薬前投与の影響を考慮。
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治療方針:
・限局性・軽症 → 抗菌薬単独(4〜6週)
・膿瘍形成または骨髄炎合併 → 手術的ドレナージまたは部分切除+洗浄
・縦隔炎併発 → 胸骨部分切除+陰圧閉鎖療法(VAC)などの集学的治療が必要
出典
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