池田医院
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整形外科 外科 リハビリテーション

腰痛に運動療法は効くのか、何を選べばいいのか

腰が痛いとき、「動くとさらに悪化しそうで怖いから、まず安静にしよう」と考える方は少なくありません。実際のところ、安静と運動、どちらが良いのでしょうか。腰痛の原因についてはこちらの記事で触れていますが、ここでは「動かす治療=運動療法」に絞って、その効果の中身を整理します。気になる方は、各見出しの下にある「+この根拠をもう少し詳しく見る」から、医学的な根拠も確認いただけます。

安静と活動継続、どちらが良いのか

急に腰が痛くなったとき、「痛いうちは寝ていた方がよい」というイメージを持たれる方は多いのですが、これは現在の医学的知見とは逆です。普段通りの活動をできる範囲で続けるよう指導された方が、ベッド上安静を指導された方より、痛みの軽さも日常動作のしやすさも上回るという報告が積み重なっています。

安静と活動継続を比較した研究

急性腰痛(発症から6週間以内)を対象に、ベッド上安静の指導と活動継続の指導を比較した複数の研究をまとめたコクランレビューでは、活動継続の指導を受けた群の方が、痛みの軽減(標準化平均差0.22、95%信頼区間0.02〜0.41)と日常動作のしやすさ(標準化平均差0.29、95%信頼区間0.09〜0.49)の両方で、安静指導群よりわずかに優れていました。一方、坐骨神経痛(下肢に放散する痛み)を伴う場合は、安静と活動継続のあいだに明確な差は見られませんでした(Dahm KT, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(6):CD007612)。

差の大きさ自体は「わずか」というのが正直なところですが、少なくとも活動を続けることが症状を悪化させるという根拠はなく、長期のベッド上安静にはむしろ筋力低下や血栓症などの弊害が知られています。「痛くても、できる範囲で普段通りに動く」というのが、現在の標準的な考え方です。

運動療法そのものの効果は、どれくらい確かなのか

慢性的な腰痛(3ヶ月以上続く腰痛)に対して、運動療法にはどの程度の効果があるのでしょうか。「効果がある」という報告は数多くありますが、その効果の大きさについては、期待しすぎない正直な評価が必要だと考えています。

効果の大きさを、数字で見てみると

2021年に更新されたコクランレビュー(249件の研究、対象者数は延べ2万人以上)では、運動療法を、無治療・通常ケア・プラセボ・他の保存療法とまとめて比較したところ、運動療法群の方が痛み(平均差-9.1、95%信頼区間-12.6〜-5.6、0〜100のスケール)と機能制限(平均差-4.1、95%信頼区間-6.0〜-2.2)の両方で統計的に有意に優れていました。ただし、この差はレビューがあらかじめ設定していた「臨床的に意味のある改善」の基準には届かない、というのが正直な評価です(Hayden JA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;9:CD009790)。

比較対象を分けて見ると、教育のみと比べた場合(平均差-12.2)や、運動を含まない理学療法と比べた場合(平均差-10.4)は運動療法がより効果的である可能性が高い一方、徒手療法と比べた場合には明確な差は見られませんでした(平均差1.0、95%信頼区間-3.1〜5.1)。また、有害事象を報告した86件の研究では、運動療法群の33%、比較対象群の29%で何らかの有害事象(多くは一時的な痛みの増強など軽微なもの)が報告されており、両群でほぼ同程度でした。つまり運動療法は「劇的に効く魔法の治療」ではありませんが、「何もしないよりは確実に良く、危険性が高いわけでもない」というのが、現時点での最も正直な位置づけです。

どんな運動を選べばよいのか

運動療法にもさまざまな種類があり、「結局どれが一番良いのか」という質問をよくいただきます。特定の種類が他よりやや優れているとする報告がある一方で、「続けられる運動を選ぶこと」自体が、種類の違い以上に重要だとも言われています。

運動の種類ごとの効果比較

先述のコクランレビューと同じ研究グループが行ったネットワークメタ解析(複数の運動療法を同時に比較する統計手法)では、ピラティス、マッケンジー法(腰椎の伸展運動を中心とした方法)、機能回復訓練(functional restoration、心理社会的側面も含めた集中的リハビリ)、体幹強化運動が、他の種類の運動療法と比べて、痛みと機能制限の改善においてやや優れているという結果が示されました(Hayden JA, et al. J Physiother. 2021;67(4):252-262)。

ただしこの論文自体が強調しているのは、「効果に差があるからといって、それだけで運動の種類を決めるべきではない」という点です。運動療法の効果は継続してこそ得られるものであり、本人が「これなら続けられる」と感じる運動を選ぶことが、種類の優劣以上にアドヒアランス(継続率)を左右し、結果的に効果にもつながると考えられています。

動くと悪化しそうで怖い、という方へ

腰痛が長引くと、「動く=また痛くなる」という不安から、動作そのものを避けるようになる方がいます。この「痛みへの恐れから活動を避け、それがかえって症状の慢性化につながる」という悪循環は、腰痛の臨床で古くから知られているパターンです。

「恐れ・回避」の悪循環について(やや古典的な知見)

痛みをきっかけに動作を過度に恐れて避けるようになると、筋力低下や関節の柔軟性低下が進み、実際の身体機能がさらに落ちることで、かえって痛みが長引きやすくなるという悪循環のモデルが、2000年に提唱されました(Vlaeyen JW, Linton SJ. Pain. 2000;85(3):317-332)。やや古い知見ではありますが、腰痛の臨床では今も広く参照されている考え方です。「朝の膝の痛み」の記事で触れた、痛みの感じ方そのものが敏感になる「中枢性感作」とも関連が深く、構造的な問題だけでなく、痛みへの向き合い方そのものが症状の経過に影響することが分かってきています。

「動くと悪化するのではないか」という不安が強い方ほど、少しずつ、できる範囲で活動量を増やしていく段階的なアプローチが助けになることがあります。自己判断で無理をする必要はありませんので、不安が強い場合は診察でご相談ください。

受診の目安

  • 下肢の力が入りにくい、しびれが強くなっている → 神経の圧迫が進んでいる可能性があり、早めのご相談をお勧めします
  • 排尿・排便のコントロールがしにくい、股のあたりの感覚が鈍い → 緊急性の高いサインです、速やかに受診してください
  • 安静にしていても痛みが軽くならない、夜間に痛みで目が覚める → 通常の腰痛とは異なる原因が隠れていることがあります
  • 発熱を伴う、理由のわからない体重減少がある、転倒や事故のあとに発症した → 感染症や骨折など他の原因の除外が必要です
参考文献一覧を見る(全4件)
  1. Dahm KT, Brurberg KG, Jamtvedt G, Hagen KB. Advice to rest in bed versus advice to stay active for acute low-back pain and sciatica. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(6):CD007612.
  2. Hayden JA, Ellis J, Ogilvie R, Malmivaara A, van Tulder MW. Exercise therapy for chronic low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2021;9:CD009790.
  3. Hayden JA, Wilson MN, Stewart S, et al. Some types of exercise are more effective than others in people with chronic low back pain: a network meta-analysis. J Physiother. 2021;67(4):252-262.
  4. Vlaeyen JW, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain. 2000;85(3):317-332.