【2025-11-20 JST】
Tietze(ティーツェ)症候群:「孤発性軟骨炎」か、「炎症性疾患スペクトラムの一表現型」か
【結論】
Tietze(ティーツェ)症候群は、従来 「第2〜3肋軟骨接合部の孤発性・良性の非感染性軟骨炎」 として理解され、胸壁痛の鑑別における独立した疾患単位とされてきました。しかし近年のリウマチ・骨関節炎領域の一次文献(特に日本の総説や、掌蹠膿疱症性骨関節炎・SAPHO症候群の成因検討)では、
Tietze症候群として現れる前胸壁腫脹の一部が、実は SAPHO症候群・脊椎関節炎(SpA)・掌蹠膿疱症関連骨関節炎(PAO)の局所表現型である可能性
が指摘されています。
特に 「Tietze様前胸壁病変(Tietze-like lesions)」 が、
・SAPHO症候群
・掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)
・乾癬性関節炎
などの初発症状として出現する可能性があり、孤立した肋軟骨腫脹として観察されたものが、後から全身性炎症性疾患と判明する例が報告されています。
一方で、典型的な Tietze症候群(単発・自然軽快・画像で骨硬化なし)は、SAPHO の構成要素ではないことも一次文献で明確であり、“Tietze=SAPHO の一部” とする国際的コンセンサスは存在しません。
したがって現代的な理解では、
① 真の「孤発性 Tietze症候群」
② SAPHO/SpA/PAO に由来する「Tietze様胸壁病変」
の二つを慎重に区別しつつ、両者が臨床的に重なりうるという二層構造で記述するのが最も正確です。
【根拠】
① 疫学・発生部位
しかし、同部位は SAPHO・SpA など全身性炎症性疾患の好発部位でもあり、胸壁局所炎症が鑑別上常に問題となる。
② 病態生理
従来:
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外傷・微小ストレスに伴う 非感染性軟骨炎。
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限局性の浮腫・血管増生を呈するが進行性でない。
最新の観点:
③ 臨床症状
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胸肋関節部の 限局性腫脹(特徴的)
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局所の鋭い痛み
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咳・深呼吸・体幹回旋で増悪
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熱感・発赤は通常なし
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自然軽快することが多い
一方で、SAPHO由来の胸壁炎は:
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慢性再燃性
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腫脹+骨硬化を呈する
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皮膚症状(掌蹠膿疱症・ざ瘡)を伴うことあり
→ この 時間経過 と 皮膚病変の有無 が鑑別の鍵。
④ 身体所見
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明瞭な腫脹
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圧痛は強いが、皮膚症状は通常伴わない
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全身炎症反応は正常範囲にあることが多い
SAPHOでは:
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胸鎖関節・胸肋関節の圧痛+腫脹
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皮膚症状が併存
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進行とともに骨硬化・骨膜反応が加わる
⑤ 画像所見(modality 別)
● X線
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Tietze:異常所見なし
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SAPHO:胸鎖関節の硬化・肥厚・関節裂隙狭小化
● CT
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Tietze:軟部腫脹のみ
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SAPHO:硬化像・皮質肥厚・過骨症
● MRI
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Tietze:T2高信号の軽度軟部腫脹
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SAPHO:骨髄浮腫・広範な関節周囲炎・骨膜反応
● 骨シンチ(SAPHO特有)
【SAPHOとTietzeの関係の「医学的ポジション」】
| 位置づけ |
内容 |
| 一致点 |
前胸壁の腫脹・痛みが似ている |
| 相違点 |
SAPHO は全身性・慢性再燃性・骨硬化を呈する |
| 共通の議論 |
Tietze様病変が SAPHO/SpA/PAO の初期病変として出現する可能性 |
| 重要 |
Tietze=SAPHO の一部 と定義する一次文献は存在しない |
| 最新の理解 |
「Tietze様前胸壁病変」を SAPHO スペクトラムとして扱う総説が存在 |
【注意点・例外】
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典型的な単発 Tietze(急性発症・限局腫脹・自然軽快・画像正常)は、SAPHO とは異なる。
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しかし、慢性化/再燃/多発化/皮膚症状の併存 がある場合、
→ SAPHO・SpA・掌蹠膿疱症性骨関節炎 を除外する必要がある。
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高齢者・糖尿病・免疫抑制では 化膿性肋軟骨炎 が重要鑑別。
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胸痛では常に ACS(心筋虚血)・肺塞栓・解離 を先に除外。
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