膝蓋下脂肪体炎(Hoffa病) Hoffa disease
膝蓋腱より深層にクッションのような形で脂肪の塊があります。これを膝蓋下脂肪体と言います。
運動などの機械的な刺激で微少な内出血がおこり、それが刺激されて結合組織が増殖し腫大します。その結果、膝の運動時にインピンジメントを起こすとされています。
神経組織に富み、炎症により痛みや圧痛が生じ、時には痛みのため歩行困難となります。
診断は、ひざを屈伸させてみて、屈曲時には痛みはでずに伸展時に痛みが強く出ます。これは膝蓋下脂肪体が膝を曲げると膝関節内へ格納されるようになり圧力が下がるためであり、伸展すると関節の表面に押し出されて圧力が上がるためです。
これに比し、膝蓋腱の炎症では屈曲時の方が牽引されるため痛みが強くなります。
超音波検査では、脂肪体の肥厚、線維化による高輝度化等がみられます。
治療は保存的治療を行います。局所の安静、温熱治療などを試みます。四頭筋が硬化して短縮していることが多いのでストレッチや膝蓋骨の可動性の向上をはかります。
改善しない場合はステロイドの注入を行います。鏡視下に手術を行うこともまれにあるとされています。
鑑別診断としてはJumper膝、Anterior knee pain syndrome (AKPS)があります。
概要と病態
膝蓋腱の深層に存在する膝蓋下脂肪体(infrapatellar fat pad)は、膝関節の衝撃吸収や潤滑、血流調整に関与する重要な軟部組織です。
この脂肪体が繰り返す機械的刺激や外傷、術後変化などにより微小出血や線維化を起こし、炎症性肥厚・疼痛・インピンジメントを生じる状態がHoffa病です。
発症機序と特徴
原因:過度な伸展動作(反張膝)、膝蓋骨不安定性、術後瘢痕、スポーツ外傷など組織変化:脂肪体の線維化・血管新生・神経新生が進行し、疼痛感受性が増大
好発年齢:10〜40代の活動性の高い層に多い
好発背景:ACL再建術後、膝蓋骨脱臼後、ジャンプ動作の多い競技者など
臨床症状と診断
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主症状 | 膝前面の深部痛、伸展時痛、圧痛(膝蓋腱両側) |
| 誘発テスト | Hoffa’s test:膝蓋腱両側を圧迫しながら伸展 → 終末伸展で疼痛誘発 |
| 画像所見 | MRI:脂肪体のT2高信号(浮腫)、線維化、造影効果 超音波:脂肪体の肥厚、線維化による高輝度化、滑走不良 X線:基本的に異常所見なし(除外診断目的) | |
治療(保存療法が基本)
安静・活動制限(特に伸展負荷の回避)温熱療法(慢性期)または冷却(急性期)
大腿四頭筋の柔軟性改善(特に大腿直筋)
膝蓋骨のモビライゼーション
テーピングやインソールによる膝蓋骨アライメント補正
ステロイド+局麻薬の局所注入(超音波ガイド下)
関節鏡下にて線維化脂肪体の部分切除
鑑別診断
| 疾患名 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| ジャンパー膝(膝蓋腱炎) | 屈曲時痛が主体、膝蓋腱中央部の圧痛 |
| AKPS(前膝痛症候群) | 膝蓋骨不安定性、階段昇降時痛、膝蓋大腿関節の軟骨変性 |
| 滑膜ヒダ症候群 | 膝蓋内側部のクリック・ロッキング、MRIで滑膜ヒダ肥厚 |
| 膝蓋下滑液包炎 | 表層の腫脹・熱感、脂肪体より浅層に位置 |
脂肪体は神経・血管に富むため、慢性炎症で疼痛が遷延しやすい
MRIでの造影効果や滑走障害の評価が診断精度を高める
反張膝や膝蓋骨アライメント異常が背景にある場合、根本的な運動連鎖の改善が再発予防に重要
PRPやハイドロリリースの応用も一部で検討されているが、エビデンスは限定的
Hoffa病とAKPSの鑑別比較
| 項目 | Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎) | AKPS(前膝痛症候群) |
|---|---|---|
| 主病変部位 | 膝蓋下脂肪体(滑膜下脂肪組織) | 膝蓋大腿関節(PF関節)周囲 |
| 原因 | 機械的刺激・微小外傷・術後瘢痕 | PF関節のアライメント異常・筋力不均衡 |
| 好発年齢 | 若年〜中年の活動性の高い層 | 思春期〜若年女性に多い |
| 主な症状 | 膝前面深部痛、伸展時に疼痛が増強 | 膝蓋骨周囲の鈍痛、階段昇降や長時間座位で増悪 |
| 誘発テスト | Hoffa’s test(伸展で脂肪体が挟まれて疼痛) | Clarkeテスト、膝蓋骨圧迫テストが陽性 |
| 画像所見 | MRIで脂肪体の浮腫や線維化、超音波で肥厚 | MRIで軟骨変性や滑膜肥厚、または所見なし |
| 治療方針 | 保存療法(安静、温熱、ストレッチ、注射) 難治例は関節鏡下切除 | 姿勢・動作修正、内側広筋の強化、アライメント調整 |
臨床的な鑑別のポイント
Hoffa病は、膝伸展時に痛みが誘発されやすく、膝蓋腱両側の圧痛やMRI上の脂肪体の変性が特徴です。
AKPSは、膝蓋骨周囲の不快感を訴えるケースが多く、階段昇降や長時間座位での増悪が典型的で、画像所見では明確な異常がないことも少なくありません。