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整形外科 外科
リハビリテーション科

◆ Mondor病(モンドール病 Mondor’s disease)

—— 胸部・腹部・体幹の浅在性静脈炎 ——

【概要】

Mondor病は、**胸壁・腹部・体幹の浅在静脈に生じる血栓性静脈炎(superficial thrombophlebitis)**で、皮下に索状の硬いコード状構造と圧痛を呈する疾患です。
発症部位は胸部に多いとされていますが、腹部・側腹部・鼠径・陰茎を含む体幹全域に生じ得るため、「胸壁に限定される病名」ではありません。


【病態】

  • 浅在静脈壁の炎症と血栓形成

  • 結果として、静脈が索状に硬く触れる

  • 炎症・血栓の範囲は皮下で線状に連続するのが特徴


【誘因・関連要素】

カテゴリ 内容
機械的刺激 きつい下着・スポーツブラ・コルセット・バッグの圧迫
筋活動 大胸筋・腹直筋・腹斜筋などの過負荷、スポーツ
術後・放射線 乳房手術、開腹術、放射線治療後
炎症 乳腺炎、皮膚局所感染
血栓傾向 喫煙、経口避妊薬、凝固異常、妊娠など

【症状・身体所見】

  • 皮下に索状の硬いコード状構造

  • 圧痛は硬結に沿って限局

  • 皮膚に癒着して動きにくい

  • 姿勢・体幹運動で疼痛増悪することがある

  • 発熱や全身症状はほぼ見られない

  • 神経症状(しびれ・放散痛)は伴わない


【発生部位別の代表例】

部位 主な罹患静脈 名称の扱い
胸壁 胸壁浅在静脈 Mondor病(典型)
上〜下腹部 上・下腹壁浅在静脈 Mondor病(腹部型)
側腹〜鼠径 大伏在静脈分枝 Mondor病の亜型
陰茎 背静脈 陰茎 Mondor病(Penile Mondor’s disease)

【鑑別】

Mondor病に最も近い他疾患との違いを中心に整理:

鑑別疾患 判別ポイント
肋間神経痛 索状硬結を触れず、神経走行の疼痛
肋軟骨炎 肋軟骨部の局所圧痛(硬索なし)
筋筋膜性疼痛 索状構造を触れない/圧痛点が点状
腹直筋鞘血腫 結節状の腫瘤、線状ではない
表在リンパ管炎 発赤高度で硬結より皮膚変化が主体

“皮下の線状硬結+圧痛”は Mondor病を最も支持。

【検査】

  • 多くは触診のみで診断可能

  • 必要時は超音波
    → 静脈の管腔狭窄/閉塞・血栓・非圧迫性静脈が描出されれば診断確定


【治療】

原則として自然治癒(4〜8週)
腹部型では6〜12週かかる例もあるが最終的には軽快が期待できる。
ただし、運動などの刺激を繰り返す場合は治らず、長期にわたって再燃を繰り返すこともある。

治療 目的
圧迫原因の除去 衣類・コルセット・スポーツ負荷の調整
NSAIDs/湿布 疼痛・炎症緩和
温罨法 亜急性期に有効なことがある
抗凝固療法 原則不要(多発・再発・血栓傾向がある例のみ考慮)

手術は不要。


【予後】

  • 完全治癒が自然経過

  • 索状硬結も最終的には消失

  • 再発あり(圧迫・スポーツ因子が持続する場合)


【重要な注意点】

胸壁型では一部文献に乳癌との合併例/契機例の報告があるため、

乳房周囲に病変がある場合は乳腺外科で一度精査を行う
(Mondor病=悪性を示すわけではないが、除外のため推奨)

腹部型では悪性腫瘍との関連は基本的に少ないが、以下は追加検査を検討:

  • 多発性・進行性

  • 再発を繰り返す

  • 血栓傾向・深部静脈血栓症の既往


  • Mondor病は胸部だけでなく腹部にも生じる

  • 腹部の索状硬結+局所疼痛は Mondor病の典型所見

  • 自然治癒が基本/抗凝固や手術は原則不要