肋間神経痛(Intercostal Neuralgia)
【2025-11-29 JST】
肋間神経痛とは、胸の横から背中にかけて神経の通り道に沿って“刺す・電気が走る・焼けるような痛みが帯状に出現し、咳や深呼吸・体をひねる動作で増悪する神経痛です。重篤疾患の除外が最優先
緊急促迫性のない痛みの場合は帯状疱疹や胸椎椎間板ヘルニアによることが多い。 帯状疱疹は、1-5日ほど痛みが先行して皮疹が遅れて出てくることがよくあるので注意が必要です。肋間神経痛は症状の名前であり、原因疾患の診断名ではない。
胸痛を訴える患者では、整形外科的疼痛であったとしても、心血管疾患・大血管疾患・肺疾患・消化器疾患・帯状疱疹を必ず考慮し、早期の見逃しが致命的になり得る疾患を優先的に除外することが臨床上の鉄則です。
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心筋梗塞/不安定狭心症
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大動脈解離
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肺塞栓症/胸膜炎/気胸
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胆のう炎・胆石症・胃潰瘍/十二指腸潰瘍
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帯状疱疹(※皮疹出現前の「前駆痛」の段階の鑑別が重要)
整形外科的病態が疑われる場合でも、内科的評価を“並行”して行うことが安全であり、肋間神経痛は**除外診断(Diagnosis of exclusion)**として確定するのが正しいアプローチです。
1.疾患概要
肋間神経痛は胸郭を走行する肋間神経の障害/刺激によって生じる神経障害性疼痛(neuropathic pain)である。
疼痛は片側性・帯状・電撃的/刺すような痛み・灼熱痛として表現され、胸壁 → 側胸部 → 背部 → 上腹部へ連続性をもつ。
神経学的には**感覚異常(アロディニア・異常感覚・感覚低下)**を伴うことがあり、皮質感覚過敏・中枢感作が遷延性疼痛の背景に関与する可能性が推測されています。
疼痛の誘発は胸郭運動に一致し、
咳/深呼吸/体幹回旋/笑い/くしゃみ/歩行時の腕振り/肩甲帯の緊張で悪化しやすい点が典型的です。
2.病態生理
肋間神経は胸髄神経前枝(T1〜T12)の連続した神経であり、脊柱管 → 椎間孔 → 肋骨下縁 → 側胸部皮膚 → 前胸部皮膚へと広い感覚支配を持つ。
発症機序は以下の4つに大別できる:
A.機械的圧迫
椎間孔周囲での骨棘・椎体変形・椎間板ヘルニア・仮骨形成・瘢痕拘束などにより、神経の局所虚血・ミエリン障害・軸索伝導異常が生じ、**異常発火(ectopic discharge)**が持続する。
B.炎症性変化
椎体骨折・肋軟骨炎など周囲組織の炎症により、サイトカイン・プロスタグランジン・ブラジキニンが上昇、神経膜のNaチャネル・Caチャネル感受性亢進 → 神経過興奮状態へ移行。
C.感染性神経炎
帯状疱疹ウイルスにより、後根神経節のウイルス再活性化 → 神経変性 + 脱髄 → 長期疼痛(PHN)。
D.中枢感作(慢性化後)
脊髄後角ニューロンの長期増強(LTP)、抑制性介在ニューロンの機能低下、脳の疼痛制御系異常が絡み、
軽い刺激でも強い痛み(アロディニア)として知覚される。
3.原因別詳細分類
| カテゴリ | 典型例 | 臨床的特徴 |
|---|---|---|
| 胸椎・脊椎性 | 胸椎椎間板ヘルニア、圧迫骨折後変形、変性すべり症、側弯症 | 体動・咳・深呼吸で痛みが誘発/デルマトーム一致/MRIで診断 |
| 胸郭・肋骨性 | 肋骨骨折、陳旧骨折の仮骨、肋軟骨炎、Tietze症候群 | 局所圧痛が顕著。Tietzeは腫脹が鑑別点 |
| 感染性 | 帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛 | 皮疹前疼痛が多い=見逃しやすい。重症化・慢性化しやすい |
| 代謝性・全身性 | 糖尿病性神経障害、栄養障害性末梢神経障害 | 両側性・慢性・他部位の神経症状を伴いがち |
| 腫瘍・胸腔内 | 肺腫瘍、胸膜腫瘍、肋骨腫瘍 | 夜間痛・体重減少・神経ブロック無効 → 要注意 |
4.診察
➤ 問診
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発症様式:突然/受傷後/感染後/時間経過で悪化か
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誘発要因:咳・姿勢・回旋・深呼吸
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疼痛表現:刺す・焼ける・しびれる・電撃・締め付け
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皮膚感覚:過敏/麻痺/冷感/熱感
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胸部症状:呼吸困難・動悸・悪心の有無
➤ 身体診察
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肋骨間圧痛 → 肋間神経
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仮骨の圧痛 → 陳旧骨折
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傍脊柱筋圧痛 → 胸椎椎間板・椎間孔狭窄
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棘突起叩打による放散痛 → 神経根症
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皮膚の軽擦で激痛(brush allodynia) → PHNの特徴
5.画像・検査
| 検査 | 目的 | コメント |
|---|---|---|
| XP | 骨折・変形の確認 | 新旧骨折鑑別、仮骨過剰形成の評価 |
| CT | 微細骨折・石灰化・腫瘍 | 肋骨・肋軟骨・胸椎椎間孔の評価に優れる |
| MRI(最重要) | 神経根・椎間板・脊髄病変 | 神経性疼痛の原因検索の決定検査 |
| 神経ブロック診断 | 原因部位同定 | 痛み消失 → 責任神経の確定に極めて有用 |
6.治療
保存療法
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NSAIDs・アセトアミノフェン
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神経障害性疼痛治療薬
プレガバリン/ミロガバリン/ガバペンチン/アミトリプチリン/デュロキセチン -
筋緊張対策
姿勢異常・胸郭可動域制限・呼吸筋の二次性緊張の改善 -
帯状疱疹 → 抗ウイルス薬を早期投与することでPHNへの移行を抑制
神経ブロック
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肋間神経ブロック
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傍脊椎ブロック
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胸椎硬膜外ブロック
→ 疼痛緩和・診断的意義・慢性化予防の三役を担う。
難治例(専門領域)
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パルスRFA(神経変性を起こさない低侵襲焼灼)
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帯状疱疹後神経痛に対する脊髄刺激療法(SCS)
7.予後の特徴
| 原因 | 予後 |
|---|---|
| 肋骨骨折・肋軟骨炎 | 数週〜数か月で改善 |
| 胸椎椎間板ヘルニア | 変形・配列異常残存で再燃しやすい |
| 帯状疱疹 | 高齢者・糖尿病・皮疹前疼痛例で慢性化リスク増 |
| 圧迫骨折後変形 | 姿勢異常・荷重伝達異常により遷延しやすい |
8.例外と落とし穴
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皮疹のない帯状疱疹(zoster sine herpete) → 典型的皮疹がないまま神経痛のみ
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神経ブロックで無効 → “原因が神経以外”を考慮
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夜間痛・逐次悪化・体重減少 → 腫瘍性疾患の警告所見
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急激発症と冷汗 → ACSを最優先で除外
胸痛時に最優先で鑑別すべき5疾患の詳細
肋間神経痛を疑う状況であっても、以下の疾患は見逃しが生命予後に直結するため、除外が最優先となる。
① 心筋梗塞/不安定狭心症(ACS)
● 疼痛の性状・部位
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圧迫される/締め付けられる痛み
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胸骨後部〜左胸部中心
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左肩・上腕・顎・歯・背部への放散あり
● 肋間神経痛との対比
| 項目 | ACS | 肋間神経痛 |
|---|---|---|
| 痛みの誘発 | 労作・寒冷・精神ストレス | 咳・深呼吸・回旋・姿勢 |
| 体位変化での変動 | 乏しい | 大きく変動 |
| 圧痛 | 原則なし | 神経走行に一致して陽性 |
● 陽性兆候(Red Flags)
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冷汗・悪心・呼吸困難・倦怠感
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バイタル不安定
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高齢者・糖尿病では典型的胸痛を欠くことがある
● 検査
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心電図(ST変化・陰性T・異常Q)
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心筋トロポニン
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胸部X線で陰性でも除外不可
※疑えば救急対応
② 大動脈解離
● 疼痛の性状・部位
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突然発症の激烈な裂ける痛み(tearing pain)
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胸部 → 背部 → 腰へ移動することあり
(解離の進展を反映)
● 除外の重要所見
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片側上肢の血圧差
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意識障害・失神・脳虚血症状
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下肢虚血(ABI低下)
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大動脈雑音
● 背部痛=肋間神経痛と誤診されやすい理由
背部への放散痛が強いため、しばしば整形外科初診となる。
痛みの強さ・急激性・全身不調が鍵。
● 必須検査
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造影CT(ゴールドスタンダード)
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経食道心エコー(緊急時)
③ 肺塞栓症/胸膜炎/気胸
整形外科的胸痛と最も頻繁に鑑別が必要。
● 肺塞栓症(PE)
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急激な呼吸困難・頻呼吸・胸痛・動悸
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片側下肢腫脹・長時間座位・手術歴・妊娠が危険因子
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S1Q3T3・Dダイマー上昇(※正常でも除外不可)
● 胸膜炎
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呼吸性胸痛(吸気で悪化)
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発熱・咳・炎症反応陽性
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聴診:胸膜摩擦音
● 自然気胸
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若年・長身痩型男性に多い
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突然の片側胸痛+呼吸苦
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打診で過共鳴、呼吸音減弱
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胸部XPで診断
● 肋間神経痛との差異
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深呼吸で悪化は共通だが
→ 肺疾患は呼吸困難・SpO₂低下・発熱・不整脈を伴いやすい -
神経走行に一致した圧痛がある場合はむしろ肋間神経痛
④ 胆のう炎・胆石症・胃潰瘍/十二指腸潰瘍(消化器性胸痛)
しばしば右前胸部痛・心窩部痛 → 胸痛として受診する。
● 胆のう炎・胆石症
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右季肋部痛〜右肩への関連痛
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発熱・悪心・食後悪化・脂質摂取で誘発
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Murphy徴候陽性
● 胃・十二指腸潰瘍
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心窩部〜前胸部の鈍痛・焼ける痛み
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食事・空腹・夜間で変動
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胃酸抑制薬で軽快傾向
● 肋間神経痛との対比
| 所見 | 消化器病変 | 肋間神経痛 |
|---|---|---|
| 姿勢で変化 | 少ない | 明確に変動 |
| 皮膚感覚異常 | なし | しびれ・アロディニアあり |
| 体幹回旋で誘発 | まれ | 典型 |
⑤ 帯状疱疹(Herpes Zoster)
※鑑別の最重要ポイント:皮疹前疼痛(前駆痛)
● 臨床像
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皮膚症状が出る数日〜1週間前に、激しい肋間神経痛が出現
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神経走行に沿った灼熱痛・電撃痛・表在過敏
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微細な擦過刺激でも強い痛み(brush allodynia)
● 皮疹が確認できない段階での見抜き方
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痛みが夜間増悪/非姿勢依存
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感覚過敏>圧痛
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NSAIDsが効きにくい
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高齢者・糖尿病・免疫低下はリスク増
● 皮疹出現後
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小水疱 → 膿疱 → 痂皮
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皮疹はデルマトームに一致(正中を越えないことが多い)
● 帯状疱疹後神経痛(PHN)
皮疹治癒後も数か月〜数年の神経痛が残存する可能性
→ 抗ウイルス薬の早期治療が最も重要
肋間神経痛 vs 致死的疾患の判別まとめ(臨床で最重要)
| 所見 | 肋間神経痛らしい | 重篤疾患を強く疑う |
|---|---|---|
| 体幹回旋で増悪 | ○ | △ |
| 神経走行の圧痛 | ○ | ✕ |
| 皮膚感覚異常(アロディニア) | ○ | ✕ |
| 冷汗/息苦しさ/頻脈 | ✕ | ◎ |
| 夜間突然の激痛 | △ | ◎(大動脈解離・ACS) |
| 皮疹前の灼熱痛 | △ | ◎(帯状疱疹) |
| 発熱・咳・SpO₂低下 | ✕ | ◎(肺疾患) |
| 右季肋部痛・食後悪化 | ✕ | ◎(胆嚢・消化器) |