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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科

過去ログ 2015.4 2015.5 2015.6 2015.7 2015.8
 
平成27年9月1日(火) 臀部の神経障害

 お尻が痛くなる原因として根性坐骨神経痛、上殿皮神経障害、仙腸関節障害、梨状筋症候群があります。

 根性坐骨神経痛は、腰椎の椎間板ヘルニアや椎間孔の狭窄等により起こります。上殿皮神経痛は腰の横で胸腰筋膜を貫くところでの神経絞扼です。仙腸関節障害は文字通り仙腸関節に何らかの異常があって起こる痛みです。梨状筋症候群はお尻にある梨状筋によって坐骨神経が絞扼されることによる神経障害で坐骨神経痛が症状として出ます。

 梨状筋症候群も含めて坐骨神経痛が起こるとお尻だけではなく太ももの後面、下腿の外側、後ろ側に痛みやしびれが放散することも多いです。
 
 
平成27年9月2日(水) 前縦靱帯骨化症と喉のつかえ感

 前縦靱帯は脊椎椎体の前方を縦走する強靱な靱帯です。これが骨化する病気を前縦靱帯骨化症(OALL)といいます。椎体の裏側を縦走する靱帯を後縦靱帯といい、これが骨化する病気を後縦靭帯骨化症(OPLL)といいます。

 後縦靭帯骨化症はすぐ後ろに神経が走っていますので大きくなると神経を圧迫して手足のしびれや歩行障害、手指の巧緻障害を起こします。

 前縦靱帯骨化症はその前方は喉の奥にあたりますので大きくなると物が飲み込みにくくなることがあります。いずれも症状が強くなると手術が必要なことがあります。

 喉がつかえたら通常は耳鼻科もしくは消化器内科を受診されますので、整形外科の初診では、レントゲン撮影を行って偶然見つかることが多いです。喉のつかえ感はそう言えばあるという感じです。

 咽頭や食道の癌などがあっても喉のつかえ感が出ます。むしろそちらの方が多いので、耳鼻科、消化器科で精査する必要があると考えます。
 
 
平成27年9月3日(木) 喉の痛みを起こす整形疾患

 一般に喉が痛くなるのは咽頭炎ですが、整形疾患でも起こることがあります。クラウン・デンス・シンドローム石灰沈着性頚長筋炎が有名です。と言ってもまれな病気ですのでほとんどの人は知らないでしょう。いずれも頸部痛や咽頭痛を起こすことがあります。最も重要なことは、咽後膿瘍を見逃さないことです。咽後膿瘍は腫れて窒息を起こすことがあります。従ってただちに治療が必要であり耳鼻科での加療を要します。

 クラウンデンスシンドロームと石灰沈着性頚長筋炎は比較的予後が良く、抗炎症剤による治療で治ります。咽後膿瘍を含めた鑑別には頸部MRIを行います。
 
 
平成27年9月4日(金) 知覚神経とデルマトームそして神経障害レベルの診断

 デルマトームとは皮膚割線という意味ですが、身体の各部位においてどの知覚神経が分布しているかを示します。後頭部C2、頸部C3、C4、肩、鎖骨C5、乳頭T4、へそT10、そけい部L1というふうにC1〜8,T1〜12、S1〜5まで25本、左右で50本に神経が脊椎から出ています。(C:頚椎、T:胸椎、L:腰椎、S:仙骨)

 この分布図からどの神経が障害されているか調べます。もちろんMRIなどの画像診断も形態上の変化を参考にします。例えば右手の親指にしびれがある場合、支配神経はC6です。C6は頚椎のC4/5レベルで脊髄から分岐し、C5/6の椎間孔を通って腕神経叢を経て正中神経の一部として親指と人差し指に分布します。C4/5レベルで椎間板ヘルニアが起こるとC5の神経根症状とC6の髄節障害が起こります。

 これは脊椎に比べて神経である脊髄の方が伸び少なくずれが生じるためです。1.5椎体上方にずれています。ややこしい話ですが、骨と椎間板で構成される脊椎は例えばC4/5レベルで椎間板ヘルニアが起こりますと、真後ろにある脊髄はC6髄節でありC4/5の椎間孔を通る神経はC5となりますのでこの押さえられた部位によって症状が変化します。

 頚椎は7個で頚椎から出る神経は8本ですので胸椎からは一つ番号がずれます。また脊髄はL2レベルで脊髄円錐となって終了し以下は神経根が集まって馬尾神経を構成します。馬尾の圧迫は神経根の圧迫症状を起こします。(馬尾には髄節はないので当然、髄節の圧迫症状はありません。)

 馬尾は馬のしっぽが開いたように斜め下方に伸びて椎間孔を通過します。このとき同じレベルの椎間板ヘルニアであっても脊柱管内と椎間孔から椎間孔外部では圧迫する神経根が異なります。腰椎L3/4レベルでは、脊柱管内ではL4の神経根症状が、椎間孔から椎間孔外部ではL3の神経根症状が出ます。
 
 頭がこんがらがりそうな話ですが、分かりましたでしょうか?

(まとめ)
 頚椎は椎体の上から同じ番号の神経根が出る。頚髄は椎体より1.5髄節上にある。C4/5で髄節はC6、神経根はC5の症状が出る。
 腰椎はL2で脊髄円錐、神経根で出来た馬尾に変わる。L3/4でL4神経根、椎間孔〜外側で一つ上のL3神経根の症状が出る。 
 
                       
 
平成27年9月5日(土) 頚髄の圧迫症状

 頚髄の構造はH型の灰白質がありその周囲を白質があります。灰白質は神経細胞が集まっており、白質は縦走する神経線維で構成されています。H型の灰白質は前にある前角と後ろにある後核に分けられます。前角は運動神経、後角は知覚神経が分布しています。

 頚髄が圧迫されると神経細胞のある灰白質が最初に障害されるので、該当する髄節の感覚障害(後角)、筋肉の運動障害(前角)が出ます。更に進行すると神経束である白質(錐体路、脊髄視床路、後索)の障害が出てます。

 錐体路障害:下肢腱反射亢進、痙性麻痺、歩行障害
 脊髄視床路障害:温度覚、痛覚障害
 後索障害:深部感覚障害
 また排尿障害を起こします。

 当初は上肢の痛み、しびれ、筋力低下で始まり、更に進行すると足の腱反射が亢進し歩行障害が出てきます。

 平山らの報告では、運動障害主体22.2%、感覚障害主体30.6%、運動+感覚障害45.4%、特殊型1.9%としています。(平山恵造ら 変形性頚椎症の神経障害と臨床病型、108例の分析、神経進歩 1993;37;213-225)
 
平成27年9月6日(日)
 
平成27年9月7日(月) 前十字靱帯断裂と損傷

 膝関節のなかには膝を前後に制動するための前十字靭帯と後十字靭帯があります。関節の両サイドには内側側副靭帯と外側側副靭帯があります。膝をひねったりして前十字靭帯が完全断裂すると脛骨が前方に不安定となり運動すると亜脱臼を繰り返すことになります。

 断裂直後は痛みも強く歩行困難であり、また関節内に出血(油滴なし、骨傷があると油滴あり)しますので腫れてきて曲げにくくなります。単独損傷の場合、2−3週間すると腫れも痛みも引いてきて歩行も出来るようになります。ただしそのまま完全断裂を放置しておくと1年以内に90%の症例で内側半月板の断裂が起こることが分かっています。完全断裂は保存的に経過を見てもくっつくことはなく治りません。

 MRIでの画像診断では、前十字靭帯は膨化して走行が異常となります。明らかに断裂して下方に移動していれば完全断裂と言えますが、そうではなく部分的に断裂をしていてある程度繋がっている場合もあります。(部分断裂もしくは不全断裂といいます。)

 部分断裂の場合、完全断裂であると出る前方引き出しテスト、Lachman test、pivot shift testは出にくくなりますが、陽性のものもあります。この部分断裂の状態はどうなっていくかというと、伸展制限付きの膝装具を装着しMRIで経過をみると70〜90%で半年ぐらいかけて治っていきます。残りは治らず不安定性が悪化し完全断裂に移行していきます。

 外傷直後のMRIで前十字靭帯が完全断裂ではなく部分断裂であれば、あまり運動する必要性のない方では伸展制限付き膝装具をつけて運動制限をしながら保存的に経過を診ることも可能です。ただしアスリートの場合は保存治療6ヶ月で治らず、そのあと手術をして更に復帰まで8ヶ月かけるのはかなり厳しいと思います。早期回復を望まれる場合は手術を選択することもあります。

 部分断裂は意外と多く、完全断裂より実際は多く見かけます。前方引き出しテスト、Lachmanテスト、pivot shift testが陽性で、なおかつ不安定性が高い部分断裂は完全断裂に移行する可能性が高いとされています。最近では手術を行う場合でも断裂せずに残存した前十字靭帯を生かして自家腱移植を追加する方法もあります。
 
 
平成27年9月8日(火) 頸椎症(神経根症、頚髄症)の保存的治療、手術療法の選択

 頸椎症の手術適応は一ヶ月以上の保存的治療を行っても改善せず日常生活にかなり支障がある、上肢の筋萎縮や麻痺、歩行障害、膀胱直腸障害などが認められるなどに加えて画像診断上痛みと異常所見が合致し手術により改善が見込めることが重要です。頸椎症の神経障害のレベルは慢性に徐々に進行するのではなく、転倒などの頚部の外傷、頚部の運動、頚部の不良な姿勢をとったときなどに悪化し、しばらくすると緩解するといった再発と緩解を繰り返すことが多いとされています。

 一般的に初診時に軽症である人はそれほど進行せずに症状も改善して再度悪化することもなく過ごせることもよくあります。悪化を繰り返す場合は頚椎の後方へのすべり症などの不安定性や後屈などの不良な姿勢を取る人に多いと考えられます。

 症状にもよりますがまずは医療機関での保存的な治療と局所への負荷を減らすよう生活習慣を改善などをしっかり心がけるべきと思います。
 
 
平成27年9月9日(水)
 姿勢による腰への負担の変化 

 (台風18号の影響で大雨となっています。どなたさまもお気をつけください。)

 ・腰部脊柱管狭窄症(黄色靱帯肥厚)の狭窄部における硬膜嚢にかかる圧
 臥位を1として、座位2、立位3、立位前屈位1、立位後屈位6 黄色靱帯がたわむことにより圧が上昇

 ・椎間板にかかる圧
 臥位を1として、座位5.6、立位4、立位前屈位6、立位前屈位で物を持つ8.8 
 (井須豊彦 しびれ、痛みの外来Q&Aより引用)

 このように腰部脊柱管狭窄症では臥位か立位前屈位が一番楽な姿勢といえます。ちょっと歩くと足が怠くて休まないと歩けない症状が出ていても前傾姿勢を取ると症状は改善しますし、同様に買い物カートを押す、自転車で前傾姿勢を取ると症状が出なくなります。

 腰椎椎間板ヘルニアでは臥位が楽で、立位前屈位で物を持つのが悪化要因となります。前方に物を持つと下向きの力のモーメントが働き腰椎をてこの原理で強く圧迫します。従って椎間板ヘルニアの症状予防には前屈した姿勢で重いものを持たないことも大切です。
 
 
平成27年9月10日(木) オーバーユース

 オーバーユースは文字通り使いすぎによる障害です。過負荷であったりアライメントの異常、筋力のアンバランス、関節可動域の低下などが原因となります。外的要因として間違ったトレーニング、テクニカルな未熟さ、使用器具の不良などがあります。

 一般的には持久力を要するものや反復して動作を繰り返すスポーツで起こります。まず起こるのが、局所の炎症です。これは痛みや発赤、腫れとして自覚しやすい症状です。このときに原因を明らかにして対応すれば、少しの休養期間もしくは練習メニューの軽減、変更で治ります。

 これらの症状を無視して我慢しながら行うと更に悪化して動かすことが出来なくなり、下肢ですと歩けなくなります。こうなると治るためにはかなりの期間を要します。初期の段階で思い切って休めることが大切です。

 オーバーユースとして腱や腱の付着部炎、滑液包炎、骨膜炎、筋筋膜炎、腱炎、腱鞘炎、疲労骨折などが起こります。

 治療の原則は局所の安静です。まず必要な分だけ安静を保ちます。急性期は局所安静とアイシングを、慢性期にはストレッチや温熱治療が有効です。

 身体が硬い人は筋や腱に余分な負担がかかりますので障害部位のストレッチを入念に行います。

 オーバートレーニング症候群とは異なる疾患ですので混同しないようにしてください。
 
 
平成27年9月11日(金) 骨盤の脆弱性骨折

 中高年の方が尻もちをついて転けたりするとお尻や太ももの内側、そけい部などに痛みが出ることがあります。転倒直後より痛む場合としばらく日が経ってから徐々に痛むようになることがあります。また受傷時のレントゲン撮影では何の変化もないこともよくあります。痛みが強い場合はCTやMRIをすぐに行いますが、それほどでもない場合は経過を見ながら判断します。大腿骨近位骨折や骨盤骨折が隠れていることが時にありますので注意が必要です。

 診察では、通常の骨折を伴わない打撲だけでは説明がつかない痛みが続きます。ここでおかしいなと思えなければ見逃すことになります。一般に患者さんは骨折すると歩けないと思っていることが多いのですが実際に骨折があっても歩けるケースはよくあります。もちろんその逆で歩けないほど痛みがあっても骨折はないこともあります。ただし歩けないほど痛い場合は何らかの痛む原因があるものです。

 受傷から1週間経っても痛みがある程度強ければ、MRIなどの精査を行う方が良いと考えています。多くの脆弱性骨折は転位も少なく保存的治療によく反応します。痛みが強ければ、松葉杖等で免荷するとよいでしょう。
 
 
平成27年9月12日(土) 骨折の固定

 骨折は骨折部位がきちんと固定されているほどうまく治るとされており、ギブスなどの外固定に比べて手術をしてプレートなどで内固定をした方が治りがよいと言われています。とは言え、何でもかんでも手術するわけではなく、ずれが大きくなく外固定で安定性を保てると想定できる場合はギブスやシーネで固定します。

 いったん外固定をしてもすぐにずれてしまう場合や安定した固定が難しいと考えられる場合は、手術で内固定を行います。これらは骨折の状態、患者さんの全身状態を総合的に判断して治療法を選択します。

 骨折の治癒期間は大きな力がかからない場所は4週間、大きな力がかかるところは8週間ほど必要です。そこからスポーツ復帰するには更に時間がかかります。

 外固定を行う場合、今後の強い腫れが予想される場合は全周性に巻くギブスではなく隙間のあるシーネ固定を行います。ギブスを巻いてギブスカッターで切って除圧しておく方法もあります。いずれにせよ急性期は想像以上に腫れることがありますので注意が必要です。

 急性期の腫れを乗り切ったら必要に応じてしっかりしたギブス固定に巻き替えます。きわめて安定性の高い骨折ではシーネのままでも治ります。
 
平成27年9月13日(日)
 
平成27年9月14日(月) Volkmann拘縮

 Volkmann拘縮は前腕のコンパートメント症候群のことです。小児の肘周辺の外傷に伴うことが多いです。コンパートメント症候群のなかで一番多く、肘周辺〜前腕の骨折や打撲等により強い腫れや内出血が生じ筋肉内の微小循環障害が生じ筋肉や神経の壊死が起こります。古典的な所見としては、5P、すなわち疼痛Pain、蒼白Palior、麻痺Paralysis、知覚異常Paresthesia、脈拍消失Pulslessnessですが、麻痺は末期症状であり、脈拍消失は必ずしも伴わず、遠位の脈拍は正常であることが多く診断を誤らないようにしなければなりません。

 疼痛は強く痛みで指が動かせないほどであり、消炎鎮痛剤もほとんど効かないと言われています。阻血時間が6時間を越えると手術を行っても後遺症が強く残ることがありますので迅速な対応が必要です。従って夜中に著しく痛くなってきたら朝まで待つのではなくただちに主治医や救急病院を受診するようにしてください。


 骨折等の外固定後に内部が腫れて相対的に締まってしまった場合は、ただちにギブスや包帯等を除去してみます。それで諸症状が改善すれば経過を見るようにします。外的なものを除去しても症状が変わらないもしくは芳しくないと判断される場合は筋肉内の圧を測定します。内圧測定で40mmHgを越える場合は筋膜切開などの減張切開が必要となります。

 教科書に載っている測定法はかなり難しく、圧トランスデューサーを用いると正確に出るとされています。
 
 
平成27年9月15日(火) Sinding-Larsen-Johansson病

 10-14歳の男子でスポーツ障害として膝蓋骨の下極に痛みや腫れが出ます。ジャンパー膝の一形態と考えられています。スポーツによりジャンプ、ダッシュ、ストップなどの大きな力を加えると痛みますが安静時痛はありません。

 レントゲンでは膝蓋骨下極に不整像や骨萎縮、骨片を認めることがあります。超音波では膝蓋腱の肥厚、周辺血量の増加などが描出されます。

 膝蓋腱付着部痛が生じるオスグッド・シュラッター病に比べ頻度はかなり低いです。治療は局所の安静で痛みやレントゲン所見は改善します。

 安静の程度ですが、歩行時に痛みがあるもしくは軽い負荷で痛む場合はしばらく下肢を使った運動負荷は控えるようにします。強い痛みが治まってくればストレッチを開始します。圧痛がなくなり、ホップテストを行って痛みが出ないようなら、少しずつ運動負荷をかけるようにします。
 
 
平成27年9月16日(水) 外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)

 かつて1960年代初頭には不治の病の如く「むち打ち損傷」としてマスコミがセンセーショナルに取り上げて社会問題化しました。1968年、この名称が社会および患者に様々な誤解が生じるとして「頚椎捻挫」と呼ばれるになりました。現在では外傷性頚部症候群、頚椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頭頚部症候群などと呼ばれています。

 外傷性頚部症候群(頚椎捻挫)には様々な分類がありますが、症状から5つに分けた土屋の分類がよく用いられます。

<土屋の分類>

 1.頚椎捻挫型(頸部周辺の筋・腱の痛み)
 2.根症状型(捻挫型の症状に加えて頚椎の神経根を刺激する症状→しびれ、いたみ)
 3.Baree'症状型(頭痛、めまい、耳鳴り、聴力障害、眼の疲労、視力障害、咽頭異常感などの自覚症状、主観的症状。後頚部交感神経の刺激症状とされるが原因は不明、慢性化しやすい)
 4.根症状・Baree症状混合型'
 5.脊髄症状型(脊髄症状+)・・・現在「非骨傷性の頚髄損傷」として頚椎捻挫の範疇には入らない。

 最近ではケベック分類もよく使われるようになってきています。

<ケベック分類> 外傷性頚部症候群の重症度分類

 1.Grade0 頸部に訴えがない、徴候がない
 2.GradeI  頸部の痛み、こわばり、圧痛のみの主訴、客観的所見なし
 3.GradeII 筋・骨格徴候を伴う頸部主訴
 4.GradeIII 神経学的徴候を伴う頸部主訴
 5.GradeIV 骨折・脱臼を伴う頸部主訴

*注 筋・骨格的徴候には可動域制限と圧痛を含む
   神経学的徴候にか腱反射低下や消失と感覚障害を含む
   症状や傷害は、耳が聞こえない、めまい、耳鳴り、頭痛、記憶消失、嚥下障害、側頭上顎関節痛などを含み、どのような程度に発現しても良い。
  
 
平成27年9月17日(木) リハビリは毎日するのが効果的、ただし・・・。

 リハビリを勉強に置き換えて考えると分かりやすいです。勉強は毎日した方が効果的なのは言うまでもありません。しかし毎日、睡眠を惜しんで長時間勉強しても疲れがたまり続けることは難しいです。従って毎日適度(疲れを翌日に持ち越さない程度)に行うのが最も効果的です。

 リハビリも同じことで、運動強度の低いストレッチや理学療法は毎日行う方が効果的です。運動強度のきわめて強いもの、例えば復帰に備えて負荷の強いランニングを織り交ぜるときや最大筋力を上げるための強負荷のトレーニング等は、毎日の軽いリハビリに加えて隔日に追加します。また週一回程度の休息日を設けると良いでしょう。

 リハビリは器械や徒手的に関節可動域の改善をしたり筋肉や腱を柔軟にするストレッチなどを組み合わせて元の機能を取り戻すよう行います。また筋力やバランス力の改善を図る運動療法を必要に応じて加えます。

 スポーツでの最大筋力を上げるために行う筋トレは隔日で週三回行いますが可動域を改善させるストレッチや理学療法は負荷が小さいので毎日行う方が効果的です。(最大筋力を上げる練習は毎日すると筋肉が疲労してしまい効果が出ません。)

 外傷やスポーツ障害からの復帰は、病状の経過を観察しながらリハビリと並行して運動強度を上げていきます。いつからどの程度の運動やリハビリが可能かはケースバイケースですのでそのあたりはプロの判断にお任せください。
 
 
平成27年9月18日(金) 大文字駅伝

 毎年2月に行われる京都小学校大文字駅伝での故障率は意外と高く、2009年の調査では参加者700名のうち211名に何らかの障害が認められました。(30.1%)下肢のランニング障害がほとんどで、とりわけ膝以下の障害が大部分を占めていました。大腿は筋肉痛、膝はジャンパー膝、オズグッド病、下腿は腓腹筋痛、シンスプリント、足関節・足ではアキレス腱炎、足関節、踵骨部、足底筋の障害、外脛骨、種子骨障害、外反母趾、三角靭帯炎、扁平足、疲労骨折、その他、腰痛、胸部痛がありました。

 当院でも毎年秋以降、大文字駅伝の練習をして何らかの痛みが生じた子供さんがよく来られます。やはり下肢を中心とした障害がほとんどです。出場する選手だけでなく、駅伝には出ないけれど一緒に練習する子供さんも同じように障害を起こします。

 駅伝に出る出ないに関わらず障害が起こるのは基本的には使いすぎ(オーバーユース)ですから、障害の程度により運動量を落とす必要があります。また身体の硬い子供さんほど障害が出やすいので日頃のストレッチが大切です。

 運動障害は練習を重ねて駅伝が近づいてくるほど起こりやすく、直前に痛みで走れないとなるとやはり出場は難しい状況となります。このときはドクターストップをかけざるを得ないのですが、目の前で大粒の涙を流す子供を見るのはとても心苦しいです。

 そうならないためにも日頃から、トレーニング量や内容を調整して初期に出る小さな痛みを無視せずに早めに医療機関を受診することだと思います。
 
 
平成27年9月19日(土) Panner病とHegemann病

 Panner病 上腕骨小頭の骨端核全体の骨壊死
 Hegemann病 上腕骨滑車の骨端核全体の骨壊死

 肘に発生する骨端症で小児〜若年者にみられるが頻度はまれ。鑑別:骨折、化膿性関節炎、離断性骨軟骨炎、骨髄炎

 早期診断はMRIが有効、レントゲン像は多彩で、壊死部の透亮像→硬化像の混在→均一化(1-3年の経過で変化する)

 上腕骨小頭の骨端核は1歳頃に出現、徐々に骨化し10年ほどかけて完成する。一方、上腕骨滑車骨端核は10歳ぐらいで出現し2-3年で完成する。


 局所の循環障害によると言われている。離断性骨軟骨炎と同じカテゴリーの疾患として扱われることが多い。症状は関節痛、腫脹。

 内反肘や局所の成長障害を起こすことがある。
 
平成27年9月20日(日) シルバーウイークのためお休みします。
平成27年9月21日(月) 敬老の日
平成27年9月22日(火) 国民の休日
平成27年9月23日(水) 秋分の日
 
平成27年9月24日(木) 整形外科と漢方薬 (今回のように4連休以上となるのは十数年に一度だそうです。ひさしぶりにゆっくりしました。)

 整形外科の分野でも漢方薬をよく使い分けます。腰痛には牛車腎気丸、膝の痛みには防巳黄耆湯、こむら返りには芍薬甘草湯などが有名です。また打撲には桂枝茯苓丸、治打撲一方などを使います。いずれの疾患や症状でもいくつか使い分けることが出来ますし、漢方は患者さんによって合う合わないがありますのである程度の期間(2〜4週間)服用して改善しない場合は、別の物を試してもらうようにします。

 また西洋薬との組み合わせで効果を増強したり、西洋薬の減量が出来たりしますので併用というのも良いでしょう。
 
 
平成27年9月25日(金) 膝の水を抜くと癖になる?

 なんとなく膝が腫れているのに気づいて来院されることがよくあります。この腫れは多くの場合、膝関節内の炎症により水分が誘導されて起こります。正常な膝でも少量の水分はあり、ヒアルロン酸などにより氷の10倍ぐらい滑りやすくなっています。そのおかげでスムーズに動き歩けます。

 長年使っている膝では、軟骨や半月板が傷つきはげ落ちます。関節内に小さなゴミのような浮遊物となりこれが滑膜と炎症を起こして水分を誘導します。水は炎症により生じたものであり、抜いただけでは再び溜まってくることがあります。これは炎症の原因が治っていないために起こるのであり癖になっているわけではありません。

 20mlほど溜まると大腿四頭筋の内側頭が萎縮してきます。更に溜まると外側頭→大腿直筋と萎縮が進みます。こうなると膝を支える一番大きな筋肉が弱るために膝の安定性が落ち、また歩行しにくくなります。

 しかしながら何でもかんでも水を抜いたら良いのかというとそうでもないと考えています。膝の水は川の流れと同じように正常でも作られて再吸収されています。これが炎症として増水してダムに溜まったようになるのが膝の水と言えます。従って炎症を抑えれば、自然と水は吸収されて無くなっていきます。なんでもかんでも抜くのは感染症を起こすリスクを勘案するとよろしくないですね。

 当院では水が強く溜まって日常生活にかなり支障がある場合は、相談の上で抜くようにします。なかには絶対抜きたくないという人もあります。そういう方は注射(穿刺)以外の方法で治療するわけですが、それでも結構、落ち着いて治ってしまいます。

 いずれにせよ初回で『さあ抜きましょう』と必要があるのは極少ないケースでしかなく、まず穿刺以外の方法で行うのが理にかなっていると思います。
 
 
平成27年9月26日(土) 半月板断裂は自然に治るのか?

 膝関節にはクッションとして働く半月板が内側と外側に2つあります。外傷で亀裂が入る場合と長年使っていて変性が起こり断裂していく場合があります。外傷で生じた断裂は治ることがあります。ただしいささか条件があります。半月板は血流が乏しく外周の1/3以外は血流がなく関節液の還流のみに頼っています。外周1/3の血流のあるところの損傷は修復されやすいですがそこより内側で血流が乏しい部分は治りにくいとされています。

 文献によると前十字靭帯(ACL)断裂に伴った半月板断裂は外側で80%、内側で60%が自然治癒します。また半月板の周辺滑膜と接している亀裂は修復されやすく接していない亀裂は治りにくいことが分かっています。半月板単独損傷の場合の治癒率ははっきりとは分かっていませんが、外側1/3での亀裂は治る可能性があります。

 基本的には愁訴のない半月板損傷は経過をみればよいですし、痛みがあって保存的な治療を行っても日常生活や部活に支障が出る場合は手術を考慮します。
 
平成27年9月27日(日)
 
平成27年9月28日(月) 筋膜性疼痛症候群(MPS)と筋膜リリース(生理食塩水、局所麻酔薬、)&トリガーポイント

 NHKの「ためしてガッテン」で肩こりの治療として超音波断層法を行いながら生理食塩水を癒着した筋膜に注入して剥離させ症状を緩和する治療法を紹介していました。これはなかなか興味深い話で少し調べてみましたら、半世紀以上前に生理食塩水を注入すると局所麻酔薬以上に効果的であったなんていう論文もあるそうです。

 超音波下のトリガーポイントという感じですね。当院では両方とも得意とするところですので筋膜リリースも問題なく出来ると考えています。

 注:トリガーポイント注射は局所麻酔薬を疼痛のある局所に行うものです。生理食塩水のみでは健康保険の適応がありません。TVで紹介された先生は局麻剤を使ったトリガーポイントを他の部位に行い筋膜リリースに使う生理食塩水は無料にしているみたいでした。
 
 
平成27年9月29日(火) 骨盤の裂離骨折

 骨盤にはいろんな筋肉がついており強い力が加わると裂離骨折、骨端軟骨損傷、腱炎を起こします。比較的よく見られる部位は上前腸骨棘、下前腸骨棘、坐骨結節です。いずれもスポーツ中に無理な力が加わって起こります。特に小中学生に多く見られます。

 基本的には運動を休止して保存的に加療します。骨片が大きく離れている場合は手術が必要なことがあります。通常は2-3ヶ月の局所安静で問題なく治ります。痛みをこらえて無理をして運動を続けると更に症状は悪化しますので休む勇気も大切です。

 人生は長いですし、じっくり治して再び羽ばたいて欲しいと思います。
 
 
平成27年9月30日(水) 明らかな骨折が見当たらないときは大丈夫?

 レントゲンではっきりした骨折は見当たらないと説明するとホッとする方も多いのですが、実際はそうそう簡単な話ではありません。

 レントゲンで誰の目で見ても分かる骨折は診断に苦労しませんし患者さんも理解しやすいです。問題は、痛みや腫れがあるにも関わらずレントゲンでははっきりした所見が無いケースです。この場合、骨折が隠れていることを想定して治療(固定や安静)しながら更に必要な検査(超音波断層、MRI,CT)を初診時もしくは経過を見ながら追加します。またこれらの検査をするほどの所見が無くとも一週間ほど経過しても痛みが続くなら再度レントゲン撮影を行います。

 いずれの検査ではっきりしなくても症状が骨折を疑わせる状況でしたら、あくまでも骨折を想定して治療を続けます。3-4週間後にレントゲンで化骨が出て初めて骨折が確定することもありますので、注意深い経過観察と治療が必要です。

 骨折が内在していて分からなくとも患者さんが不利益を被らないように対応することが大切です。