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| 整形外科 外科 リハビリテーション科 |
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【現在日付】2025-12-02 JST 糖尿病性神経根症
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| 特徴 | 糖尿病性神経根症 (Diabetic Radiculopathy) | 通常の神経根症 (Radiculopathy) |
| 主要な病態生理 | **神経根の微小血管障害(虚血)**や高血糖による代謝障害。 | 神経根の機械的圧迫(椎間板ヘルニア、椎間孔狭窄による骨棘など)。 |
| 発症様式 | 比較的突然(急性〜亜急性)発症し、強い疼痛を伴うことが多い。 | 比較的緩徐に発症(慢性経過)することが多い。 |
| 症状の分布 | 非対称性に生じることがある。複数の神経根が障害される多発性単神経炎の形をとる場合がある。胸部神経根や上肢/大腿の神経根など、一般的な椎間板ヘルニアの好発部位(L5, S1, C6, C7)以外も侵し得る。 | 単一の神経根の支配領域(デルマトーム)に沿った、分節的な放散痛やしびれ。通常は片側性。 |
| 主訴 | 強い灼熱感や刺すような痛み(有痛性)。筋力低下(筋萎縮)も起こり得る。 | 電気ショック様または重い痛みを伴う放散痛、しびれ、感覚鈍麻。 |
| 画像所見 (X線/MRI) | 脊椎の機械的圧迫所見(椎間板病変、狭窄)は軽度または認められないことが多い。MRIで神経根の浮腫や造影効果を認めることがある。 | 椎間板ヘルニア、骨棘、靭帯肥厚などによる神経根の圧迫所見がMRIやCTで明確に認められることが典型的。 |
| 自然経過 | 血糖コントロールにより、数ヶ月で自然に軽快する傾向がある(ただし完全ではない)。 | 原因疾患(椎間板ヘルニアなど)の自然経過による軽快を待つか、保存治療や手術治療が必要となる。 |
糖尿病性神経根症は、広範な糖尿病性神経障害(Diabetic Neuropathy)の特殊な病型の一つであり、**糖尿病性筋萎縮症(Diabetic Amyotrophy)や糖尿病性多発性単神経炎(Diabetic Multiple Mononeuropathy)**とも関連付けられる。
病態: 高血糖状態が持続することで、神経根への血液を供給する**栄養血管(Vasa Nervorum)**に障害(内膜肥厚、閉塞)が生じ、虚血を引き起こすことが主要な機序と考えられている。これにより、神経根に炎症性変化や浮腫が生じ、強い疼痛の原因となる。
症状: 突然の**大腿部(L2-L4神経根)や胸腹部(胸部神経根)**の激しい疼痛、筋力低下、筋萎縮などを呈することが特徴的である。症状は非対称性であり、通常の腰椎椎間板ヘルニアなどでよく見られるL5やS1の典型的な症状パターンとは異なる場合がある。
整形外科領域で「神経根症」と呼ぶ場合、多くは機械的な圧迫に起因するものを指す。
病態:
椎間板ヘルニア: 髄核が線維輪を破って突出・膨隆し、神経根を直接圧迫・炎症を引き起こす。
脊椎症性変化: 加齢による椎間板の変性、椎体からの骨棘(osteophyte)形成、椎間孔の狭窄などにより、神経根が慢性的に刺激・圧迫される。
症状: 障害された神経根の厳密な分節支配域(デルマトーム)に一致した放散痛、しびれ、感覚鈍麻、対応する深部腱反射の減弱・消失、筋力低下などが生じる。典型的には、咳やくしゃみ、脊柱を動かす特定の動作で症状が増強する(Valsalva効果の増悪)。
画像診断の限界: 糖尿病患者が通常の神経根症(椎間板ヘルニアなど)を合併している可能性も常に考慮する必要があり、単純に「糖尿病があるから糖尿病性神経根症」と診断することは避けるべきである。画像所見(MRIなど)で強い機械的圧迫所見を認める場合は、後者の可能性が高い。
鑑別診断: 糖尿病性神経根症の症状は、帯状疱疹(発疹出現前)、脊髄腫瘍、硬膜外膿瘍など、他の重篤な疾患とも鑑別を要する。特に発熱や広範な筋力低下を伴う場合は、感染症(例:化膿性脊椎炎、膿瘍)などのレッドフラッグに注意し、専門家による確認が推奨される。
治療: 糖尿病性神経根症は血糖コントロールの改善が最も重要である。通常の神経根症に対する外科的除圧術は、機械的圧迫の所見が乏しい本疾患には通常推奨されない。